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ソリテア国南部に行こう

◆ ソリテア国 南部の関所前 ◆


「アウトッ! セェフ! よよいのよぉいッ!」

「はい、また私の勝ちですね」


 変な音頭を取りながらジャンケンをして負けたほうが脱ぐ。アズマという国発祥の踊りらしいけど、これは本来とは逸脱した遊び方らしい。

 要するにアスセーナちゃんを負かせて脱がしたかったけど、現実は兵士総当たりでも一回も勝てずに終了。あまりに絶望したのか、全裸で尻を向けて倒れている兵士がそこら中にいる。いい加減にしろ。


「何故だ……私はこれで30年もの間、脱がし続けてきたというのに……」

「筋肉の動きや初動で大体、何を出すか読めてしまうんですよね」

「チクショウッ!」

「懲戒免職処分されてほしい」


 変態だらけの関所でアスセーナちゃんだけが優雅に微笑んでた。しかも変態の鎧に指先で触ってみれば、男は素通りさせて女の人にだけこの勝負を挑むとか。これが30年も処罰されなかったのか。いや、こんなのだから僻地に送られたといったほうが正しいかも。


「さ、行きましょうか。お二人とも、何してるんですか?」

「一人ずつ、頭を潰すべきじゃないの?」

「それやったら私達の居場所がなくなるからやめろ」

「ちぇー」


 全裸の兵士の頭を鷲掴みにして砕くつもりだったのか。この種族、洒落にならない。どうでもいいけど、あまりこっちに向けないでほしい。汚らわしい。


◆ ソリテア国 南部 ◆


 南部の風景は関所を隔てれば、そこは荒野一色だった。草木はそこそこで、やや強い風が吹きつける。丘や崖の隆起で阻まれて、徒歩だとかなり苦労しそうだ。


「どうしてああまでして裸なんか見たがるのか」

「男の人は大体、あんな感じですよ。モノネさんは私の裸を見たいと思わないんですか?」

「前後の脈絡がなさすぎる。お風呂でいつも見てるでしょ」

「そうではなくて……いつも見たいとかそういうのです」

「ごめん、この話題はやめよう。意味がわからない」


 ほのかに危険な香りがしたのは気のせいかな。拗ねるアスセーナちゃんをよそに、ひたすら街を目指す。地図によると、ここから近いところにジャックの街がある。半ばスラム化していて、治安は最悪。

 そこを支配するギャング達がいるから、ひとまずそいつらをとっちめてマッハキングの居場所を吐かせようというのがアスセーナちゃんの案だ。


「ちょっと強引すぎない?」

「本当はもう少し慎重に行くべきなのですが、スズメちゃんが心配ですからね。それにこのメンバーならまず心配はないでしょう」

「あのジェラルドとかいう奴なら知ってそうだったわね」


 ヒヨクちゃんの言う通りだけど、あれとは一緒に行動したくない。そもそも勝手に一人で行っちゃった。あそこに見えてきたジャックの街にいるのかな。

 空から見る限りは道が入り組んでいて、建物の配置がユクリッド王都みたいな計画性がない。やたらと階段や袋小路が目立つし、建物も質素な石や木作りでだいぶガタがきているものが多かった。見るからにやばそうな街だ。


◆ ソリテア国 南部 ジャックの街 ◆


「止まれ」


 物騒な連中にいきなり囲まれた。それぞれが刃物を向けてくるし、これが入って数秒の出来事です。自己紹介されなくてもギャングだとわかる。4人とも、人相からして悪人面だ。


「あの」

「今日は冒険者の来客が多いな。大方、目的は俺達"サタンヘッド"の壊滅だろう?」

「それがこの街を支配しているギャングですか?」

「……何も知らないのか? 何にせよ、ここに来ちまったならどうしようもないな。いいか、二つに一つ。街への入場料を払うか、ここで死ぬか。選べ」

「嫌ですね」

 





「いでぇ……勘弁してくれぇ……」


 アスセーナちゃんに頭を踏みつけられてるギャングの一人。こいつの時点で戦闘Lv3だ。他も大体同じくらい。感触としてはゴブリンに毛が生えた程度だし、アスセーナちゃんに言わせれば戦闘慣れていない。

 街の一般人相手に武器を振り回してるだけの集団。それがギャングか。だけどこの武器も真新しいし、そういう物の流通だけはしっかりしてる。そんな物騒な武器を取り上げて、ひとまず全員を丸腰にした。


「サタンヘッドのボスに会いたいんですよね」

「バカが……サタンヘッドは4大ギャングの一つ、お前みたいな小娘がいてててていてぇぇ!」


 頭を強く踏みつけられたギャングが絶叫してる。他のギャングはハーピィ二人がそれぞれ二人ずつ、鷲掴みにして空高く飛んでた。あっちではあそこから落とすかどうかの脅し、こっちは万力の拷問機械のような責め苦だ。か弱いウサギファイターじゃ到底できない非道な行いだと思う。


「サタンヘッドの構成員は500名程度ですか、多いですね。それで入場料はいくらだったんですか?」

「ひ、一人5000ゼル……いぎゃぁあああ!」

「高すぎますよね?」

「聞いておいてそれはひどい」


 この拷問で得られた情報はサタンヘッドというギャングの情報だ。南部を支配している大きな組織の一つで"バッドガイズ"に"アモン"、"バグ・ドレッド"を含めて4大ギャングと呼ばれている。

 街に常駐していた警備兵はもはやサタンヘッドの賄賂で役に立ってない。文字通りの無法地帯だった。そしてボスの名前はバトゥスとわかったけど、それ以上のことはいくら踏まれても答えてくれない。

 こんな膠着状態の中、民家の入口から誰かが顔を覗かせていた。おばあさんか。ギャングを倒してくれる救世主に感謝でもしたいのかな。照れる。


「おばあさん、危ないので」

「あ、あんたら、とんでもないことをしてくれおったな!」

「はい?」

「この街のギャングに手を出しおって!」


「そういう事だ」


 なんかゾロゾロとギャングが集まってきた。育ちも頭も悪そうな連中が、私達を殺しにきてる。そんな奴らが手にしている武器の中に魔導銃が見えた。あんなものまで持ってるのか。確か国によっては流通も所持も制限されているらしいけど、無法集団には関係ないか。なるほど、飛び道具とくれば戦闘Lvの差も縮まる。これは甘く見ていた。


「オレ達に手を出すってことはな。こういう事なんだよ。一人やられたら二人で、二人やられりゃ三人で。四人やられたなら数十人ってな」

「確かに数はすごいね」

「でもな、この街にもルールがあってな。オレ達の機嫌さえ取れば安全に暮らせるんだよ。今からでも遅くはないぜ?」

「いくら?」

「毎月10万ゼル、きっちり収めてもらえりゃいい。あのばあさんだって、そうしてるぜ」


「う、うぅぅッ……」


 そうしてるおばあさんが、悲痛な表情で呻いてる。これは何かあったな。首から下げてるロケットを握りしめて、かすかに涙を浮かべていた。

 誰が好き好んで、汗水たらして稼いだ金を無職どもに渡すか。そんな事をしていいのは親だけだ。おっと。


「まぁ別に機嫌なんざ取らなくてもいいんだけどな? でもなぁ……おい、ばあさん。ギャング追放運動に精を出していたあんたの息子夫婦はどうなったんだっけ?」

「あ、あんたらが」

「……は?」

「い、いや、崖から落ちて……」

「そうなんだよなぁ! ルールを守らないと、ここじゃそういう事件が起こっちまうんだよ! いやぁ、怖いなぁ!」

「ハハハハハハ!」

「ヒャハハハハハハハッ!」


 頭の中が驚くほどクリアになってる。元敗残兵の盗賊やクズ貴族にクズ商人、大物を騙る偽物、クズ魔術師。今までそれなりにろくでもない連中を見てきたけど、こいつらはなんか違う。

 人を貶めても、その不幸を心から楽しんでるのは初だ。ここにきて改めて自分の感情と向き合うとは。ストレスなんかいらない。それなのにあのクズどもが、心にとてつもない負荷をかけてくる。これはいけない。


「強い奴が弱い奴を支配する! 歴史がやってきたことだ! オレ達がやっても問題ねぇよなぁ?」

「法やルールなんざ、オレ達には関係ねぇ!」


 気がつけば私はおばあさんの元へ歩いていた。布団君での移動じゃない。これに何の意味があるのか、私にもわからない。


「おいおい、今更ばあさんを懐柔しようってのかぁ?」


「おばあさん、そのロケットは大切なもの?」


 クソの発言もスルーして、怯えるおばあさんにのみ視線を合わせる。おばあさんは無言で頷き、握っていたロケットを手の平に乗せた。それに触れると、ほのかな温かさが伝わってくる。


――母さんは俺を生んでくれた恩人だ、一生かけて恩返しをしたい


「母さんは俺を生んでくれた恩人だ、一生かけて恩返しをしたい」

「えッ……! な、なんでそれを」

「ご家族のことはよくわかりませんけど、大切な人の事にすら嘘をつくのはよくないですよ」

「うぅ……しかし」

「一言でいいんで本音を喋って下さい。私はストレス溜めるの嫌なんで、何でも思ったことはいいます。あそこを見れば、元気も出るんじゃないですか?」


「ひ、ひぃッ……! なんだよ、どうなってやがんだ!」


 二人のギャングが血まみれになって倒れていた。いつ攻撃したのかもわからないけど、アスセーナちゃんが悪戯っぽく笑ってる。


「モノネさん、残酷なようですが彼らは殺すしかありません。国に連行したところで、釈放されるでしょう。国の一部の重鎮とギャングの癒着すら噂されてますからね」

「関所の兵士からしてアレなわけだね」

「冒険者が討伐すればそれでよし。されなくても収入源、何一つ国の懐は痛みません。もちろん私の妄想ですけどね」

「アスセーナちゃんの妄想なら仕方ない」


「クソォッ!」


 すかさず魔導銃を構えたギャングが発砲しようとしたけど、その前にぐらりと倒れた。ティカがしっかり眉間を撃ち抜いてる。


「マスター、ご命令を無視して申し訳ありませン。殺害を許可されないのであれば自粛しまス」

「いいよ。ゴブリン討伐だってちゃんと殺すでしょ」

「モノネさん、これでいいんですよね? 私、友達の前で遠慮しませんから」

「うん、ありがと」

「あ、あんたら……」

「おばあさん、一言でいいんでどうぞ」


 おばあさんが息を呑んだ後、皺が寄った口を震わせながら開く。


「息子達は……あいつらに、あいつらに殺されたんじゃ! あいつらが憎い! 冥府に落ちて、その魂を業火に焼かれてしまえばいいんじゃ!」

「はい、スッキリしたね」


 思ったよりアグレッシブな発言が飛び出した。獰猛なハーピィ二人がギャングの頭を潰したところで、ふと思った。死体処理とかどうしよう。そしてそろそろはーたんが怖くなってきた。


◆ ティカ 記録 ◆


怒り それは 己を見失わせる 恐ろしい感情の一つ

僕も ついに 支配されてしまっタ

マスターの意思に背き 己の中の何かが 抑えられなかっタ

あのような輩は 時として もっと大きな災厄を 引き起こス

僕は 絶対に 許せなイ

僕を そのようなものに 利用した 輩ヲ


引き続き 記録を 継続

「ギャングといえば、モノネさん。もっとも有名な無法者集団を知ってますか?」

「彗狼旅団、王権制倒壊を理念とした大盗賊団だね。大昔に滅んじゃったみたいだけど、未だに崇拝する悪党も少なくないとか」

「な、なんで知ってるんですか……」

「そんなにショック受けなくても」

「だってここは私が解説した後、モノネさんが落とすのが当たり前でしょう……」

「いや、知らないし」

「そんな……」

「なんかわからないけど、こっちもショックだよ」

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