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拳帝と戦おう

◆ フィータル大森林 ◆


 サンダーナックルをバチバチと鳴らして、威嚇してくるブルナーグ。その他、弟子達の強襲が始まった。だけどこんなもんに時間をかけるつもりはない。

 一斉にかかってきたところで後退。引きの姿勢を見せれば、敵は私の前方に密集する。そこでティカのサンダーブラストを炸裂。電撃で奇襲された弟子達は当然、一網打尽という疎き目にあう。人間、痺れると本当に骨が見えるものだなと感心してしまった。


「ぐぁ……」

「げ……」


「貴様らごときがマスターに挑むなど、1000年早いのダ」


 1000年は長すぎる。黒コゲになって倒れた弟子達の前でブルナーグが冷や汗を垂らしていた。予め弟子達を先行させて様子見をさせたせいか、射程外にいて助かったか。


「て、てめぇ……なんだそいつは!」

「ゴーレムだってさ」

「ふざけるな! ゴーレムなら完全にモンスターだろうが!」

「ゴーレムがモンスター?」

「当たり前だろう! 寝ぼけてるのか!」


 まさか自分のサンダーナックルのお家芸を奪われるとは思ってなかったんだと思う。発言や態度に余裕がない。早くそのサンダーナックルの威力を見せてほしい。


「化け物を従えやがって……!」

「あんたのゴーレムに対する認識はどうでもいいけどさ。それ以上、化け物呼ばわりしたら殺すよ」

「うるせぇッ!」


 たまらず攻撃に移ったブルナーグの拳をいなして腹に膝蹴り。激痛に悶えさせる間もなく、サンダーナックルに触れて地面に落とした。

 よろめいて倒れそうになったところに蹴りの連打だ。名付けてバニー連脚。全身を滅多打ちにして、顔の原型もままならなくなったところで止めた。


「ぶげ……らめてくでぇ」

「カンカン兄にやったのはこのくらいだっけ? 同じ顔になっちゃったけど」

「あや、まる、から」

「うっさい」


 最後に一発、蹴り上げてぶっ飛ばす。カンカン兄を吊るしていた木に激突して落ちるかと思ったら、太い枝に引っかかった。絶妙なバランスを保って引っかかっている様はまるで逆さ吊りだ。

 狙ったわけじゃないけど、カンカン兄と同じ仕打ちを受けてしまったか。粋がってた割には大したことなかったな。戦闘Lv40じゃこんなものか。


「ハ、ハハハ……! なるほど、思ってたより面白いな」


 観戦モードの拳帝がいよいよ戦闘するか。改めて見ると、体格差がひどい。弟子がこっぴどくやられた感想がそれか。

 薄々感づいてたけどこいつ、ろくに稽古もつけてないんじゃないかと。この世界はよくわからない私だけど、弟子ならそれなりに愛情はあるはずだ。

 だけどあいつからは愛情や厳しさも、何も感じられない。どちらかというと手下という認識に近い。


「弟子達、手当てしてやらなくていいの?」

「この程度でやられるようならば弟子でも何でもない。元々、勝手についてきただけの連中だからな」

「なるほど、それならその辺の山賊と変わらないのもわかる」

「お前、私が怖くないのか?」

「怖いけど負ける気はしないかな」


 挑発していいことはあまりないけど、口をついて出てしまう。拳帝が腰を落として構えに入った。そして全身の筋肉がやや膨張して、草木がざわつく。

 考えてみたら戦闘Lv130なんだっけ。帝王イカよりも数値としては低いけど、今は私一人だ。


「カァッッ!」


 間合いでもないのにバカ正直な正拳突きだ。だけどスウェットは危険を察知して全力で左に飛びのいた。直線状の草木を含めた障害物が何かに衝突されたかのように粉々に散る。

 後には局所的な台風でも起こったかのような惨状だった。巻き上げられた森の残骸を見るに、竜巻でも放ったのかな。


「我が"螺旋突砲拳"を避けるとはな」

「風車ッ!」


 達人剣君との合わせ技で全力だ。これこそ避けられるかもしれないけど、拳帝は腕をクロスしてガード姿勢に入る。腕を斬りつけて血が跳ぶも、ガードは崩せない。地面に踏ん張ったまま後退させるも、ガードした腕を振りほどくと同時に風車の回転も弾かれる。

 その隙を突き、次は拳のラッシュだ。さっきのなんとか拳ほどの威力はないけど、布団君が拾い上げてくれなかったらやられてた。大樹なんて物ともせずにへし折られ、この周囲だけでも森が半壊していく。


「面白いな! なんだそれは!」

「イヤーギロチンッ!」


 千切りのごとく、ギロチンを何度も振り降ろす。拳帝の腕や肩から出血が目立つけど、依然として立ったままだ。あの筋肉の繊維に阻まれて刃が入っていかないんだ。

 バニースウェットでも、あの化け物みたいな体に致命傷を与えられないとは。わかってはいたけど、格が違う。ギロチンバニーや謎の達人よりも強ければ、私には勝てない。


「竜嵐脚ッ!」


 今度はこっちがガードする番だ。回し蹴りで円状の衝撃をウサ耳で防ぎ、姿勢を維持できない。飛ばされたところで布団君にクッションになってもらった。

 私は引いてる時はティカの番だ。サンダーブラストをありったけ浴びせて、足を止める。そう、止めるだけだ。化け物め。


「んぬぐぁぁぁ! このポンコツモンスターがッ!」

「ギャッ!」


「ティカッ!」


 拳圧での遠距離攻撃で、ティカが弾き飛ばされてしまった。空中でバラバラになり、それがスローになったかのように見届けてしまう。


「フン! うっとおしい! たかが魔物が決闘に割って入るな!」

「……あんた、何したの」

「邪魔者は消えた! さぁ続きだ!」


 そんなものよりも、ティカを回収した。手足がもげて痛々しい。戦いに出た以上、こうなる覚悟が必要なのはわかってる。わかってるけど、それと感情とは別だ。

 要するに今、私は怒ってる。血の巡りを感じて、頭から理性が飛びかけた。ウサ耳は更に歪な形になり、所々が湾曲している。まるで死神の鎌が連結しているかのようだ。


「また面白い形になったな。いいぞ、それでこそ倒し甲斐が」


 なんか喋ってるうちに、あいつの腕が落ちる。時間差で断面から血が噴き出し、静止していた。鎌が首にかかったところで我に返り、かろうじてしゃがんでかわす。


「なん、だ、腕が。なんだ、なんだ」

「後ろ」

「ぬぅおっ!」


 振り返った時にはすでに横に。またこっちに視線を移した時には上に。上から振り下ろされた刃を残った腕でガードするも、今度は筋肉に食い込んでる。

 噴き出した血で危機感を感じ取ったのか、呼吸を荒げながら蹴り上げて応戦してきた。だけどそこにはもう私はいない。また背後を取り、今度はあえて静観した。次にあいつが取る行動が見えたからだ。

 そう、なんとなくだけど先の行動がわかってしまってる。さっきまでじゃ考えられなかった現象だ。


「やれぇッ!」


 林から氷柱や炎の弾丸が飛び出してくる。それに合わせて拳帝は転がるようにして逃げた。せっかくの不意打ちだけど、すでに生体感知済みだ。

 隠れて待機させていた魔術師二人に急接近して、驚く間も与えずに打撃を浴びせて沈めた。こいつら、昼間に打診した相手かな。それにしては早すぎるし準備がよすぎる。考えられるのはあの拳帝が常連様で、いつも通りの手筈ってところか。


「知ってた」

「バカな……さっきとまるで動きが違う……」

「あんたさ、本当に拳帝? やる事がみみっちいよ。いつもこんなことやってるの?」

「うるさいッ! オレは拳帝だ!」


 私じゃなくてオレか。そういって腰に下げている道具袋から何かを取り出した。薬みたいな粒を飲んだと思ったら、筋肉がまた膨れ上がる。切り落とされた腕の出血も止まり、全身が更に膨張してアンバランスな体型だ。


「ガキのくせにえらく強いようだが、お前はオレは勝てんぞ……オレは拳帝なのだからな!」

「何の薬?」

「知る必要はないッ! 今のオレはさっきの数倍のパワーを誇る! 今度は肉片も残らんぞ!」


「待ちなさい」


 ガサリと遠くの草木を分けてやってきたのは、この場に似つかわしくない人だ。ウサギファイターも人のことは言えないけど、あっちなんか七三分けヘアーに黒い蝶ネクタイとチョッキ、白い前掛け。散歩でもするかのように落ち着いたダバルさんがここにいる。


「ダバルさん?!」

「お前は確かあのコーヒー屋の主人……まさかこんなところまで来て料金の請求か?」

「それもいいけど、どうしてもこれだけは言わなければいけないと思ってね」

「今更、何をほざくつもりだ。状況が見えてないのかッ!」


 またも腰を落として、螺旋なんとか拳を放つ体勢に入る。普通に考えたら危ないんだけど、不思議と危機を感じない。だってダバルさんもまた、同じような姿勢だもの。


「来なさい」


 手でクイクイと挑発したダバルさんにキレて、拳帝があの技を放つ。さっきよりも強くなった状態でのあの技なら、それこそ肉片も残らない。

 だけど拳帝の拳は弾かれて、ぐるりと体を半回転させながら激しく地面に打ちつけた。かろうじてわかったのはダバルさんがあの拳を、虫でも追っ払うかのようにして払った事だ。そう、かろうじて。


「ぐぅッ……何、なんだと……!」

「型はよく出来ているけど、力が入りすぎて隙だらけだ。だから少し力を加えるだけで、簡単に崩れる。もっと自然体にならないと使い物にならないね」

「このジジイッ! 何をしやがった! 俺は拳帝だぞ! 何なんだ、お前はぁ!」

「それとブオウは一度も、自らを拳帝と名乗ったことはない」

「なに……?」


「弟子を持ったこともない」


 ティカのパーツが腕の中で動き始めているというのに、私は目の前の事態から目が離せない。なんでわからなかったんだろう。いや、わかってたまるか。本物はティカの生体感知すらも潜り抜けるのか。まさかこんなに身近にいたなんて。


「まさか、まさかあなたは……」

「一応、拳帝と呼ばれた身だよ。今はチンピラに酷評されるコーヒー屋の主人だけどね」


 腰を抜かしたままの拳帝のはずの男。その男がやった構えをまたやってみせたダバルさん。その瞬間、空気が凍った。


◆ ティカ 記録 ◆


負傷により 記録不可

認識範囲は ごくわずカ

マスターの 生存だけは 確認済ミ

不甲斐なイ

この僕が 落ちたものダ

もっと 力を取り戻サナケレバ


引キ続キ 記録ヲ ケイゾク

「フルーツシェイク、おいしいね」

「もう何杯でも飲めちゃいますよ。ジェシリカさんは飲まないんですか?」

「あなた達と違って健康には気を使ってますの。太っても知りませんわよ」

「さすがはご令嬢」

「淑女たるもの、健康と美容には気を使って当然ですわ」

「でもこれ、栄養素が豊富で美肌効果もあるんですよ」

「まっ、まぁー! それなら話は別ですわ!」

「やっぱりちょろい」

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