好意に甘えよう
◆ 商人ギルド 1階 ◆
依頼内容はあくまでオオサラマンダー討伐だから、素材までは必須じゃない。だけど必要とはされている。具体的には皮なら防具に使えるし、肉や内臓は飲食店へ。場合によっては骨も重宝されているみたいなので、めんどくさがらずに商人ギルドに来た。
依頼で頼まれた品でない限りは、冒険者ギルドを介する必要がない。かといっていきなり店へいって「よう、店長! オオサラマンダーの肉があるんだがどうだ?」なんて尋ねたところで相手も困るだけ。いらねえよ、と言われたらそれまで。だからまずは、ほしがってる商人へと売る。
「冒険者ギルドと違ってなんかこう、どこかギラギラしているね」
「商売だからなぁ。商人ギルドで仲よくやっていこうなんてのは表向きさ」
筋肉おじさんが、どこか呆れたように周囲を見渡す。朝一、商人達が必要な商品を買い取る時間は静かな戦争とまで言われているらしい。
誰かが持ってきた品を誰のところに持っていくか。抜け駆けして名乗り出るのも手だけど、後が怖くなる。聞いただけで神経が磨り減るような駆け引きが今ここで行われていた。
「オオサラマンダーの肉って食べられるんだね。人とか襲ってるのに」
「鶏肉に近い味でとてもおいしいよ。おねーちゃんも今度、食べてみて」
「ボア肉は経験済みだからね。あれもおいしかった」
「ボア骨メン大好き」
あの助けた冒険者は夫婦で、その子どもがこの女の子だ。レリィ、歳は9歳。どういうわけか、すごくなつかれている。戦う力はないけど薬学の知識がすでに大人並みだそうで、この歳にしていろんな薬を作り出しているらしい。
怪我の治療もお手の物、私との差がひどい。しかも歳はこっちが上。こういう天才と比較しちゃいけないんだ。多分。
「この子は冒険者に憧れてるからなぁ。歳が近い君が気になってしょうがないんだろう」
「悪い気はしないけど……」
「この歳だから冒険者登録はできないし何より戦いのセンスが、ね」
「もっとがんばるもん」
この年齢なら無理もないけど、親公認なら本当に向いてないのかな。唇を尖らせつつも前向きな姿勢を見せているから、やっぱり私よりは立派です。
でも最近デビューしたばかりだし、憧れてもらうほどの人間じゃないからちょっとむず痒い。しかも全然、歳も近くない。これ絶対、年相応に見られてないな。
「かなりの値で売れたぜ。これで市場が潤うならこんな嬉しい事はねぇな」
「あなた、そのお金なんだけど……」
「あぁ、わかってる。嬢ちゃん……いや、モノネちゃん。お前のものだ」
「こんなに?! いやいや、さすがに受け取れません。せめてこのくらいでどうですか」
「たった3割でいいのか?」
「手柄を私が横取りしたようなものなので」
「何言ってやがる、君がこなけりゃこっちは死んでたんだ。命の恩人として受け取ってくれ」
「じゃあ4割で」
本当はほしいけど、この人達にだって生活がある。私みたいなちゃらんぽらんは当分、遊ぶお金があるだけで十分だ。ゴブリンの盗品みたいに、きちんと分別はつけないとね。あれは今思えば、持ち主が現れて本当によかった。
「いやー! さっそく商人ギルドに貢献してくれてありがとう! やはり私が気に入っただけあるな!」
「パラップさん、知り合いですか?」
「モノネ君がこの豪傑家族と知り合いだったとはな。世間は何とも狭い! ワッハッハッハッ!」
「豪傑だなんて大袈裟な、俺達はこの嬢ちゃんに助けれたんですわ」
「なんと、そうだったのか! 君達のような有能な冒険者を救うとは、やはり素晴らしい子だ! ワハハハッ!」
商人ギルド支部長だ。相変わらずよく笑う。まだ私がシャウールの娘だと気づかれてなくて幸い。悪い人じゃなさそうだし、目をかけてくれるのは嬉しいけどね。
「その布団も、いい値で売れそうだな!」
「いえ、これは売らないんで」
「冗談だ、わかってる。恐らくは羽毛布団かな。それもかなり上質だ。そのスウェットも市場で見たことがない」
「これは魔晶板で買ったものですね。すごいレア物らしいです」
「ほう? それは面白いな」
商人ギルド支部長たる人でも魔晶板には疎いのかな。ほんの少しだけ考え込んでいた。
「じゃあ、次は冒険者ギルドだな。モノネちゃんよ、お手柄報告しようぜ」
「堂々と報告しますね」
この後は冒険者ギルドにいって清算だ。また一つ、私の実績が積まれるわけか。それ以上に私のおかげで誰かが助かったというほうが大きい。胸を張ろう。
◆ 冒険者ギルド 1階 ◆
「お疲れ様です、モノネさん! 3人も、よくご無事で!」
「いやいやホント、あんなでかいモンがいるとはなぁ。戦闘Lvだけに惑わされちゃいかんな」
最初にあのオオサラマンダーに挑もうと提案したのは、レティのお父さんだった。大きくても戦闘Lv6、自分達だけでどうにかなると思ったらしい。
結局のところ私は通常個体のオオサラマンダーを見てないんだけど、それだと何気にバーストボアよりも弱いんだな。あくまで冒険者ギルド規定では、だけど。
「これからは程々にするさ。な、レリィ?」
「んー……」
「なんだ、不満か? これでわかったろ。俺達みたいなベテランでも、今回みたいに死ぬ時は死ぬんだ」
「そうよ。かっこいいだとか、そんな憧れだけでやれるような世界じゃないの」
両親に説得されても、レリィちゃんは片足をプラプラさせて不満そうだ。なんでも今回はレティちゃんがどうしてもとせがむから、討伐に連れていったらしい。
でも結果的に彼女がいなかったら、お父さんは怪我が悪化して死んでいた。だから筋肉お父さんも完全には諭せずに、口調が和らいでいる。頭がいい子なら、理屈ではわかってそうだけどな。
「……わかった。おりこうにして、お薬の勉強する」
「それがいい。何より、お前にはそっちのほうが向いている」
私みたいな人間よりも、こういう子にアビリティが備わっていたらよかったのに。といっても今更、手放したくはないけど。
「モノネさん、ギルド内でも評価が高いですよ。なんといっても依頼達成率100%ですから」
「銅賞とっちゃう?」
「そうですね、候補としては十分です。その奇抜な見た目からしてインパクトがありますし、何気に人気ですよ」
「私が人気者、とな」
「兎耳をふりふりさせて戦ってる冒険者なんてそりゃ目立つからな」
誰かが冷やかしてきた。なんとなく頭を振ってふりふりさせてやる。揺れる揺れる。
「ふりふーり……ん? どうしたの、レリィちゃん」
「おうち、来てほしい」
裾をくいくいと引っ張られる。せっかくのお誘いだけど、これから寝る予定が入っていて立て込んでいるんだよね。
「私が? なぜに?」
「お話したい」
「いいんじゃない? お金も入った事だし、ご馳走するわ」
やったぜ、お母様。食費を浮かせられる。ギルドの食事もいいけど、毎日だと飽きちゃう。寝る予定の前に、ご馳走がスケジュールに加わった。
「あなたも怪我の具合の事もあるし、しばらくは大人しく生活してましょ」
「おう、唾つけて治ればよかったんだがな」
「パパ、おうち帰ったら寝てて。傷口から変な菌が入ってたら大変」
「わかった、わかった。ただしご馳走はいただくぜ」
微笑ましくなるほど仲がいい家族だ。助けてよかったと思える。ジャンとチャックみたいなのばっかりだったら、やさぐれていたな。冒険者も案外悪くないなと思い始めている自分がいた。
◆ ティカ 記録 ◆
商人ギルド 水面下での熾烈な争い
争いが起きない為に 商人ギルドがあるのに どこか トラブルが起きそうな 空間デス
マスターのご両親は こんな空間で 活動をされていたとは さすがは マスターのご両親
レリィという少女 マスターが お気に入りの様子ですが マスターには
同性を惹きつける 魅力が あるのカ
同性ばかりというのが 気にかかりますが マスターの魅力は 素敵な方々には
きちんと 伝わるという事デス
後は 男性のほうですが 現在は
フレッドさん 婚約者あり
シュワルト辺境伯 不明
船長 不明
レリィのパパさん 既婚者
パラップさん 既婚者
ボボロル 論外
ううむ
引き続き 記録を 継続
「冒険者登録にも年齢制限があったのですネ」
「12歳以下はダメなんだって。レリィちゃんも9歳だから登録できない」
「やる気のある子を拾い上げてこそだと思いまス」
「そうはいっても、仲介所でしかないからね。サポートはするけど後は知らんみたいな」
「その割にはルーカさんや船長の熱の入り様がすごいデス。ならばもっと基盤から変えて……」
「全然冒険してない人が冒険者登録してる時点で深く考えなくていいと思う」




