拳帝を見に行こう
◆ ランフィルド郊外 駅建設予定地 ◆
作業用のゴーレムがついに納品された。マハラカの王様の働きかけもあって、優先してくれたのはありがたい。わずか数日で完成までもってくるとは。
おかげで作業工程が大幅に短縮されて、残業もほぼなくなったらしい。私としてはいいこと尽くしだと思うんだけど、中には残業代が減ったと嘆いている人もいるとか。でも作業が長引くとそれだけ怪我も増えるから、喜ぶべきだと工事現場の偉い人が言ってた。
「あのゴーレムってやつ、想像以上に働き者だな!」
「ですね。私から見ても感心します」
「これなら来月には完成の目途が立ちそうだ。あの子も喜んでくれるよな」
「うむ、よくやったぞよ」
「ツクモちゃん、人間と接するからにはその態度は改めようね」
元はといえば、この子が我がまま言うからゴーレム導入を決めたんだ。帝王イカと幽霊船、マハラカ到着後にもトラブルに巻き込まれて散々だったというのに。
とはいえ、いくら人間じゃないといってもこんな小さい子に戦いを強要するわけにはいかない。レリィちゃんみたいに、何か一つでもすごい能力があればいいんだけど。
「ちゃんとお礼を言いなさい」
「う、うむ。ありがとうぞよ……」
「これからは驚かしはなしにしてくれよ?」
「控えめにするぞよ」
「一切やめなさい」
子どもを躾けるとかそんな歳でも柄でもないのに、なんでこんなことを。でもどこかで言ってやらないと、増長してしまう。誰のせいにされるかとなればどうせ私のせいだ。
「そういえば、いつも一緒にいる子達とは今日は一緒じゃないのか?」
「アスセーナちゃんは修業してるみたいで、ジェシリカちゃんは父親のお見舞いですね」
「そうなのか。そりゃもったいないな」
「はい?」
「今さ、この街にゴールドの称号の冒険者が来てるんだってよ」
「へぇ、それはちょっと見てみたいかも」
現場監督の話によれば、今はホテル"スカイキャッスル"のロイヤルスイートに宿泊していると。
その冒険者は"拳帝"で知られるブオウ。あのカンカン兄弟が崇拝する人だ。野次馬根性丸出して、覗いてきますか。そういえば久しぶりにティカと二人きりだ。
◆ ランフィルド ホテル"スカイキャッスル"前 ◆
ちょうどお昼時で出てくるのを待っているらしく、大勢の野次馬で賑わってる。冒険者だけかと思ったら、一般の人も多い。
拳帝は数々の豪快なエピソードから、一番噂が独り歩きしている冒険者らしいから人気があるようだ。あの女の子達なんかはいかにもミーハーっぽいけど。イケメンだったらいいね。
「モノネ! モノネではないか!」
「あ、カンカン兄。待望の拳帝はまだ見てないの?」
「昨日からランフィルド入りしていたというが、ちょうど依頼で外に出ていてな。今から胸の高鳴りが止まらんな、弟よ」
「あぁ。願わくば弟子入りしたいもんだよ、兄よ」
「ティカ、ここからなら戦闘Lvわかるよね?」
「それが、一般の方々ばかりですネ……強者ならば抑えている可能性もありまス」
「あ! 出てきたぞ!」
ホテルの入口から複数人が出てくる。先陣を切ってるのはパイナップルみたいな頭をした筋肉男だ。あの人に続いて、やっぱり体格のいい人達が揃ってる。
そして最後に出てきた大男。白髪がまじった肩までの長い髪に皺のある堀の深い顔。他の人達よりも頭一つ以上、大きい。40歳くらいか。あれが拳帝かな。
「拳帝!」
「サインを下さい!」
「俺を弟子にしてくれ!」
「待て待て! 気持ちはわかるが、師は休暇中だ!」
パイナップル頭が野次馬を制する。その師は野次馬に対して何の関心も示さない。無表情で弟子の後を歩いていた。あの威風堂々たる風体は確かに貫禄がある。
「拳帝! 俺達は子どもの頃からあなたに憧れてるんです! どうか弟子にして下さい!」
「だから待てと言ってる!」
カンカン兄弟もさすがに必死だ。何せ実物が目の前にいるんだから、興奮は収まらない。女の子達の反応はどうかというと、まんざらでもないようだ。あの渋さがいいらしい。
「拳帝! こっち向いて!」
「今、こっちを見たわ!」
「ウソ! 目を逸らしただけでしょ!」
「はぁ? 僻み?」
なんか熾烈な争いが繰り広げられてる。せいぜい頑張って下さい。私も女の子の端くれとして、あそこに混ざるべきかもしれない。でも私はかよわい女の子なので、あのドロドロな環境で生き抜く自信がないからやめる。
それはさておき、あの拳帝が野次馬を品定めでもするかのように視線をスライドさせてた。
「師よ、これからどうされますか?」
「なかなかの上玉揃いではないか。よし、今日はあの女子達を連れて飲むぞ」
「うす!」
「さすがは拳帝だ。英雄、色を好むとはいうが……」
願ってもない誘いに、女の子達はもちろん即決だ。拳帝達に群がる女の子達を物欲しそうに見ている男達。カンカン兄弟も同じだ。あの兄弟にとって、拳帝への弟子入りは夢のはず。私からも少しだけ応援してやりたいところだけど、どうしたものか。
「しかし、これでは男女の比率が合わんな……。そこの男達も共にどうだ?」
「お、俺達に言ってるのか?」
「同じ冒険者だろう。せっかくの機会であるし、ぜひ君達と腹を割って話したい」
「大歓迎ですよ!」
「マスター、予想外の展開ですネ……」
堅物かと思ったけど案外、話せる人かもしれない。ちょっとイメージと違うけど、これも強者としての一つの姿か。
あれだけ人数がいる事だし、私が混じってもわからないな。隅でジュースでも飲みながら、見物としましょうか。
◆ ランフィルド酒場 "大開拓時代" ◆
ランフィルドで一番大きい酒場にて、大勢で飲み食い。こんなウサギファイターがしれっと混じってるのに、誰も突っ込まない。それだけ盛り上がってる証拠だし、何ならすでに出来上がってらっしゃる。顔を赤らめた人達が拳帝を囲んで、あれやこれやと質問していた。
「拳帝! どうすればあなたのように強くなれますか!」
「鍛錬に邪道はない。己の拳を信じて、ひたすら鍛えるのみよ」
「拳帝はご結婚されてるんですかー?」
「いや、恥ずかしいながらこの歳にして独身だ」
「えー! 信じられない!」
茶番めいたやり取りが延々と続けられてる。拳帝がグラスを片手に得意気だ。弟子達も女子どもと会話が弾んでるし、余ったのはカンカン兄弟を初めとした武闘派だった。応援してやりたいけど、私にはどうしようもない。あ、このオレンジジュースおいしい。
「すごい筋肉ー!」
「フフフ、女子よ。この筋肉が大金を生んだのだ。そこの冒険者諸君も鍛えればいつかは叶うぞ」
「あの、拳帝。ぜひ我々の弟子入りを認めてほしいのですが……」
「いいだろう。今日は気分がいい」
「ほ、本当ですか?! 夢じゃないか……!」
あら、一瞬で叶っちゃった。顔を赤らめた拳帝が上機嫌だ。弟子達も、あのビジュアルですごいモテてる。話を聞いていると、どうも拳帝の弟子というだけで補正がかかるらしい。顔だけならカンカン兄弟と大差ないのに、これが肩書きマジックか。
「ただし、修業は厳しいぞ。今まで何人も私の元を去っているほどにな」
「はい、覚悟してます!」
「それならまずは師の前に俺を超えて貰わんとな?」
「……はい」
パイナップル頭が女の子を両脇に抱いたまま、話に入ってきた。カンカン兄弟がやや不服そうだ。そりゃ拳帝に憧れているのであって、あんなパイナップルに上から目線で言われる筋合いなんかないもんね。
とはいっても兄弟子、弟弟子ともいう。カンカン兄弟には頑張って乗り越えてほしい。
「真昼間ではあるが、たまにはこんな贅沢もいいだろう! 今日は私の奢りだからな! とことん飲んでよいぞ!」
「いえぇぇぇぇぇぇい!」
「おい、姉ちゃん! 今夜はどうだ?!」
「えぇー、どうしよっかなー?」
弟子を初めとした男達がよからぬ方向へ調子に乗り始めた。やばい、これは私には理解できないノリだ。
そもそもこんなに目立つウサギファイターが余ってる。これは女の子の端くれとして、奮起するべきなのか。
「ところであそこにいるのは誰の子だ?」
「モノネといって、あれでもアイアンの称号を持つ冒険者なんですよ」
「ア、アイアン? あれで、か? そもそもまだ子どもではないか……」
「ギャグみたいでしょう。この街のマスコット冒険者ですよ」
「ていうかなんでここにいるんだ……?」
宴もたけなわというところで、とんだ辱めを受けた。さすがはゴールドの冒険者。アイアン程度じゃ認識すらしないか。ここでアスセーナちゃんなら悔しがるんだろうけど、私はモノネ。プライドも恥もないのであった。
◆ ティカ 記録 ◆
拳帝ブオウ その存在感は 確かに圧倒的
何より 怖いのは 戦闘Lvが ほぼ抑えられているところダ
あの弟子達も 同様で 口だけではない可能性が あル
しかし なんだろウ
割と 俗な趣味を 持つところが 意外ダ
だが マスターの魅力どころか 存在にすら 気づかなかったとは
色を好むとはいっても 原色以外を 知らぬ模様
強者ならば マスターを 気に掛けるべきではあるが
取るに足らぬとでも いうのカ
その驕りが 命取りとなる日が くるのを 心待ちに しよウ
引き続き 記録を 継続
「モノネー! おれも小説を書いてみたぜ!」
「ナナーミちゃんが? どれどれ……」
「見どころはなんといっても、おれが大怪獣をぶっ潰すところだな! それまでが」
「『バキィ! シャッ! スッ! ガッ! かったぜ!』 うん、意味わからん」
「はー? 殴って避けて移動して背後から一撃だろ? わかれよ」
「これを理解できるのは世界でナナーミちゃん、ただ一人だよ」
「なんだよー、小説ってめんどくせーなー」




