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マハラカ軍を助けよう

◆ マハラカ国 王都北口前 ◆


「くるなら来い! ここはゴンドーが……何をする! 待て! 協力すると……」


 ゴンドーとかいう魔術師が、前線でいきり立ってる。見かねたのか、兵士二人が両脇を抱えて引きずっていった。

 それが可笑しいのか、扇子の内側でウフフと笑うミヤビ。あっちがどう出るかがわからないと、この緊張状態は解けない。手荒になるとは言ってたけど――


「風よ、来い来い」


 くるりと踊り始めた途端に、ミヤビから突風が放たれる。面食らった兵士達が吹っ飛び、ゴーレム達が攻撃を開始する。狂ったように乱射されるゴーレムバルカンの嵐がミヤビに集中砲火を浴びせた。


「よく狙いを定めるんだ! 魔導銃隊、攻撃開始!」

「風のせいで狙いが定まらない……!」


 吹き荒れる暴風が兵士達の体勢を崩し、ゴーレムバルカンは普通にひらりとかわされる。風と共に舞い踊り、飛び道具を無駄のない動きでかわす。暴風で人間達は思うように攻撃が出来ない。

 ミヤビが一瞬で攻防一体を作り上げてしまった。意外にも王様は怯まず、果敢に指示を出し続けている。


「これは魔法か?! ゴーレムを盾にして、攻撃を怠るな!」

「あれは魔法ではない! 奴から魔力を感じられないからだ!」

「お前はゴンドーとかいう……」

「恐らくアビリティだ! つまり魔力なしで、この暴風を引き起こしているのだよ!」


「ホホホ、さすがは魔術師の殿方。あちしの踊りは天候を引き寄せるどす」


 段々と風が激しくなり、私達も布団君にカバーしてもらっている。ふと横を見ると、ジェシリカちゃんがゴーレムの足にしがみついていた。


「ジェシリカちゃん、まさか戦う気でいたの?」

「お父様を名指しして連れ去る連中相手に逃げるなんて恥ですわ」

「でもあんなの手のつけようがないじゃん。軍隊でさえ、攻めあぐねてるもの」

「あの踊りをやめさせなければ、勝機はありませんわね」


「吹けよ風、振りよ雨」


 風に続いて、雨まで降ってきた。それが弾丸みたいに降り注ぎ、風と一体になって私達を揉みくちゃにする。

 ゴーレム君達の耐水性能は大丈夫かな。さすがに狙いが定まらな過ぎて、あらぬ方向にバルカンが飛び散ってた。この暴風じゃゴーレムの足場すら安定しなくなってきてる。私は布団君のおかげで、なんとか耐えられてた。あれ、これって実は。


「たった一人にここまで良いようにされるとは!」


「落ちよ天雷」


 辺りが光に包まれて、すぐ近くにあるゴーレムに落雷。焼け焦げたゴーレムは動きを停止して、胴体を支えられなくなった足が破損。巨体が崩れ落ちてしまった。あの女め。


「雷まで落とせるのか!」


<ミヤビはかつてアズマという国で巫女をやっていた。その踊りで日照り続きの際には雨乞いの儀式と称し、度々農作物などを救ってきた。国民に大層重宝されて親しまれていたが、そんな日も長くは続かない>


 アトラスから、提督と思われる人物がなんか語り出した。この嵐の中、よく聴こえる。


<彼女の力はやがて恐れられ、それは悪魔によってもたらされた力だという噂が流される。それはダイガミ信仰に背くとされ、彼女は国を追われてしまったのだ>


「ホホ……提督ったら。あちしはちーっとも気にしてないどす」


<古臭い土着信仰にまみれた国では、彼女のアビリティは受け入れられなかったわけだ。彼女だけではない。この世界にはその特異な力……アビリティによって様々な苦しみを抱えている者達がいる。おかしな話だと思わないか?>


 問いかけられても、こっちの話はあっちに聴こえない。講釈中、アスセーナちゃんが攻める段取りをつけていた。気づかれないように布団君で距離を詰めて、アスセーナちゃんのアビリティで急接近して勝負を決める。これだ。


<魔法などは広く知れ渡り、受け入れられている。だがアビリティだけはその真価も含めて認められていないのだ。アビリティこそが世を導く力だというのに……。我が国ではアビリティにこそ、もっとも価値がある。今ならばまだ間に合う。諸君の中にもしアビリティを持つ者がいるならば、受け入れよう>


「ネオヴァンダールでは、アビリティによって出世が決まる節があるどす。ガラクタを弄り回して生涯を終える国と、どっちが幸せやろなぁ」

「……笑止! 遊撃隊、出番だぞ!」


 王様の号令と同時に兵隊長らしき人達が飛び出して、剣や槍を振るう。その刹那、暴風が引き裂かれたように見えた。一時だけ風の抵抗を受けずにミヤビの元へ踏み込む。

 鎧は白金色に輝き、武器も特徴を色で示している。赤や青、緑。炎が迸り、風を引き裂き、青の剣は雨を一か所にまとめていた。


「あの武器は……」

「マスター、見覚えがあるのですカ?」

「過去にも、あれでこの国は勝ったんだよ」


「先祖代々の遺産などと、後生大事に封印しておくつもりなどない。あれこそが先祖達から受け継ぐ宝よ!

 隊長格が集うマハラカ国遊撃隊、行けぇ!」


 風の剣で暴風を凌ぎ、雨は青の剣で。炎の剣がミヤビに迫る。眉を動かして、少しだけ踊りが乱れた気がした。


「これは否な事……」

「てやぁぁ!」


 炎の剣がミヤビに振り下ろされるも、優雅な舞いは止まらない。あの武器をもってしても、まだ翻弄されている。アビリティだけじゃなくて、近接戦闘も出来るという無言の主張だ。


「素敵な殿方、でも作法を知らんどすなぁ」

「何をッ!」

「花嫁修業も戦闘も作法あってのことやす。他人と関わる為の所作という点では戦闘も同じ事……」

「わけのわからんことを!」

「真の強さは作法にこそ宿る……」


 ミヤビが扇子を振って、炎の剣を止める。その時点で隊長の一人は動かなくなった。というより動けないんだ。必死な表情で力を入れてるのがよくわかるもの。


「こ、このッ……!」

「よう力を入れはっても、あかんどす。あちしは作法を学んでおりやす」


 残り2人の猛攻も、ミヤビにはかすりもしない。あの剣ですら届かないなんて。これはいよいよやるしかない。あいつが油断してる今がチャンスだ。布団君で急発進して距離を詰める。面食らう余裕すらないミヤビの前で、アスセーナちゃんの瞬間移動だ。


「なっ……!」


 バッサリとミヤビを切断、とはいかなかった。あのほぼゼロ距離から、身を引いてかわしていた。着物を巻いていた帯が切れて、前がはだける。血も飛んでいるけど、致命傷には至ってない。


「これをかわしますか……!」

「あ、あきまへんわ……よう知らんアビリティどす……」


「はいタッチ! 帯君、縛り上げて!」


 布団の中から飛び出して、ミヤビの帯に触れた。しゅるしゅると帯がうねり、ミヤビを縛り上げる。これで完全に動きは封じたと同時に、嵐も止んできた。


「ミヤビ様!」

「動かないで下さいよ」

「あの女……!」


 アスセーナちゃんがミヤビに剣を突きつけて、見学の子達を牽制した。これでようやく対等になったわけだ。ミヤビを人質にしてアトラス共々、手を引かせればいいんだから。


「見てますよね? こちらも悪いようにはしないので、この国からは手を引いて下さい」


<……驚いた。見事だ>


 アトラスから褒められた。でもよく考えたら、あっちが人質なんて気にしないとも限らない。それは皆も感じているようで、まだ誰一人として喜んでなかった。

 そんな緊張状態の中、アトラスから何か落ちてくる。それが近づくにつれて、人だとわかった。人が仁王立ちのまま落ちてきたと思ったら、音も立てずに着地した。うん、地面に着地したはずだ。それなのに砂埃も何もない。


「こうして対面したからには自己紹介しておこう。私がネオヴァンダール帝国第7部隊の隊長ロプロスだ。皆は親しみを込めて"提督"と呼んでくれる」

「……マハラカの王セスターヴだ」


 王様が声を絞り出すかのようだ。あの髭面でダンディの長身男ロプロスに圧倒されてる。白の海軍帽子に白のタンプトップ、鍛えていそうな筋肉。その上から軍服を肩に羽織ってる。落ちてくるときにあれも維持したか。爽やかな印象を受けるけど、ミヤビよりもぶっちぎりでやばい奴なはず。


「そこの君……本当に見事だ。ぜひ名前を聞きたい」

「……アスセーナです」

「アスセーナ……おぉ、君があの有名な! そうか! それなら納得だな! そっちの布団の子は?」

「ネモノです」

「ネモノ君か。君達のコンビネーションに私は非常に感動した。いやはや、ミヤビ一人でどうにかなるなどと甘く見てすまなかった」


 とぼけて頭をかいたり、親近感を持たせようとしてるのかな。偽名にしても、もっとマシな名前にするんだった。


「提督……」

「ミヤビ、気に病むことはない」

「しかし、仮にも七魔天の一角……このような場にて出番をいただいたのによう役目を果たせへんで……」

「彼女達のほうが上手だった。それだけの話だ」


 なんかさらっとすごい事実を口走った。あのミヤビが七魔天の一人か。どうりで強すぎると思った。天候を操るアビリティとか、下っ端なはずがないか。それよりこの状況、どうなる。


「単刀直入に言おう。ミヤビを引き渡し、これにて手打ちとしようか」

「そんな! あちしごときの命など……! 七魔天最強のあなたなら、あのような輩など」

「良いのだ。初めからそのつもりだっただろう?」


 最強が来ちゃったか。よく見たら、ミヤビに突きつけているアスセーナちゃんの剣が震えてる。もうやだ。 


◆ ティカ 記録 ◆


ミヤビ 戦闘Lvが 一瞬だけ 跳ね上がっタ

恐らく 必要な時だけ 力を出すのだろウ

そのせいで 正確な戦闘Lvが 計測できなイ

あれが 作法とやらであれば かなりの修練を 必要としたはズ

あの隊長達が 身に着けていた武具 あれは

フレッドさんの剣と シーラさんの杖の時に 似ていル

だが それをもってしても 追い込めなかったとハ


あのロプロス 戦闘Lvが100を 超えていル

ミヤビでさえ 変化させていたのだから 平常時で100は

化け物といって 差し支えなイ

マスター 僕はあなたを信じたイ

しかし それ以上に 生きてほしイ

僕には マスターがいれば それだけで十分


引き続き 記録を 継続

「やっぱり世の中って才能だよね」

「そんな事ないですよ。努力すれば才能だって凌駕します」

「努力できるのも才能だし、結果を出せるのも才能だよ。無能は努力しても無駄」

「確かに努力をして才能を開花させる方と、私みたいに初めから開花する人間もいますね」

「このさらっとした自己肯定よ」

「アスセーナさん、モノネさんに努力しない言い訳を与えないでね」

「最近、イルシャちゃんが容赦ない」

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