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交渉を見守ろう

◆ マハラカ国 王都 ◆


「王都全域にバリアウォールを展開する! 皆さんには安心していただきたい!」


 マハラカ国ならではの防衛手段だ。その信頼性は皆の様子でよくわかる。兵士の一声でそこまでパニックにならず、どよめいた雰囲気だけが残った。子どもを抱き寄せる親や何かに祈りを捧げるおじいさん。固唾を飲んで空を見上げている人。それをさせているのがネオヴァンダール帝国の空中要塞アトラスだ。


「お前らもひとまず、工場の中に入りな」

「社長、ネオヴァンダール帝国とはどのような国なのですか?」

「さぁな。ただアレの存在だけは世界中に周知させようとしているように見える。風の噂じゃアレをちらつかせただけで、びびって降伏した国もあったらしいな」

「あの王様なら降伏しかねない」


 まさかいきなり攻撃を仕掛けてくるとは思いたくないけど、よくない流れなのは確かだ。完全に部外者である私達はここで退散してもいいんだけど、まずゴーレム入手という目的が果たせない。

 万が一、この国があのデカブツに滅ぼされたら尚更だ。かといって、アレに勝ち目なんてない。どういう原理で動いているのかとか、突っ込む気力すら沸かないほどの存在感だ。それを踏まえた上で、私はどうするか。私はこの国が好きだ。それは確か。


「高度を落としてますね」

「いよいよ攻める気か」

「狙いはグリディでしょうね。彼の引き渡しの条件として、見逃すという事でしょう」

「昨日の今日で早すぎる」


<こちらはネオヴァンダール帝国第7部隊アトラス。まずは許可なく貴国の領土に踏み入った非礼を詫びよう>


 あのアトラスから、なんか聴こえてきた。中にいる人の声だろうけど、ここまで届かせてる。

そういう魔導具かアビリティか何なのか。どうでもいいか。


「若い男の声だな……あれが喋ってるのか?」

「意外と礼儀正しいし、穏便にすんでほしい……」


<まずは要件を伝える。マハラカ国王よ。そちらに拘束されているグリディ侯爵、及びダグラス元男爵の身柄を引き渡していただきたい>


 とんでもない要件だ。ダグラス元男爵はジェシリカちゃんのお父さんか。お見舞いに行った時にはやつれてひどい様相だったけど、元貴族としての風格はどことなくあるように思えた。グリディはわかるとして、なんで今更ジェシリカちゃんのお父さんを欲しがるのか。


<もちろん無償ではない。こちらに30億ゼルの用意がある。その他、要望があれば聞き入れよう。交渉の意志があるならば、そちらの王都の北側にて待っている>


「アスセーナちゃん。信用できると思う?」

「何とも言えませんね。確かなのは、こちらが応じなかった事態への対処法があのアトラスでしょう」

「ほぼ脅迫じゃん」


 交渉は別として、ただ一つだけ厄介な事が起こりそう。ジェシリカちゃんが交渉の場に出向いてしまうかもしれない。そんな短絡的な行動に至らないと願うばかりだ。


「マスター、ジェシリカさんが移動を開始したようデス」

「はい、私の祈りは届きませんでしたとさ」


 ノコノコ出向いて何が出来る。クールを装っておいて直情的だ。グリディ戦で何も学ばなかったのか。


「はぁ……遠くから隠れて見ようか」

「モノネさん、実をいうと私はお勧めしたくないです」

「わかるけどさ」

「どうも引っかかるんです。グリディをわざわざ取り返しに来た理由といい、彼のモノネさんへの執着といい……」


 私だって全力で行きたくないけど、ジェシリカちゃんは絶対に見捨てられない。貴族の娘として舐められないように強気に振舞い、時には拒絶する。境遇を考えると、あんな性格になっても不思議じゃない。それを知った今はなんだか余計に可愛らしく思えた。

 だから最悪、あの子だけでも守る。あっちはどう思ってるのか知らないけど、ここまできたらお友達だ。


◆ マハラカ国 王都北口前 ◆


「お初にお目にかかりやす。あちし、皇帝陛下側室候補の教育担当ミヤビと申しますどす」


 こっちが王様と護衛、物騒なゴーレム他、マハラカ軍が総出でお出迎えしたというのに話が違うのが出てきた。アトラスから出ていた声の主はどこいった。

 そこにいるのは鮮やかな着物を着こなす場違いな風体の女の人だ。扇子で顔の下半分をかくして、なんとも優雅なことよ。などとゴーレムの影からこっそりと伺う。


「う、うむ。ちこうよれ」

「まぁ、お上手どす」


 あの王様が対応できる事態とは思えない。早速、思考が飛んで訳のわからない発言をする始末。美人なせいか、兵隊の士気が別の意味で上がってる気さえする。なるほど、顔がいいといろいろと得なんだね。


「私がマハラカ国王セスターヴだ。そちらはあの声の主ではないように思えるが?」

「あの方は提督なので、離れられぬ身どすえ。代わってあちしが、お話役として馳せ参じたわけでありんす」

「側室の教育係が、その役目を引き受けるとはな。後ろにいる子達がそうか」

「はい、外の世界を見せるのも側室として大切な教育どす」


 ずらりと並んでいる女性集団が異様だ。側室って確か王様の嫁候補だっけ。あんなに嫁にしてどうする。世の中には、ただ一人の相手を愛して結婚する人達が大勢いるというのに。フレッド夫妻は元気かな。


「まぁそれはいい。それでそちらが要求している引き渡しの件だが、おいそれと受け入れるわけにはいかない」

「30億に上乗せして、35億……では?」

「うむ……いや、そうではない。引き渡すに値する根拠を聞かせてもらいたい」

「皇帝陛下のお心を知るのは、あちしどもには叶わぬ事どす」


 上乗せの段階でちょっと揺れたように思えたけど気のせい。ミヤビはずっと扇子を口元に当てていて、笑っているのかもわからない。ティカに生体感知してもらったところ、戦闘Lvは1だった。だけどムードリーさんの件もあるし、油断はできない。

 その証拠に、後ろにいる女の子達が4前後。その辺でくすぶってる冒険者と同等の強さだ。教育係が教育相手よりも弱いなんてあり得ない。


「ダグラス氏はともかく、我が国で犯罪を犯した人間をそちらに引き渡せと?」

「えぇ、ですからこちらもそれなりの用意をさせていただきはりました。それで手打ちというわけには……」

「ふー……なるほど。それでもしこちらが断ったら?」

「その時は……」


 ミヤビが少しだけ頭をくいっと上に向けた。その先にあるのは空中要塞アトラスだ。そして王様に無言で微笑みかける。何を言わんとしているかはわかるだろうってね。わかっていたけど、つくづく舐められてる。交渉なんて名ばかりだ。これは脅しでしかない。


「まぁ……そういう事どすなぁ」

「どういう事だ? ハッキリと口に出してもらわないとわからない」

「あちし達も急ぎ故……多少、手荒になりますやろなぁ」

「手荒とはどういう事だ? もう少し具体的に述べてもらいたい」

「気丈な殿方どすなぁ」


 ミヤビの目つきが鋭くなる。そろそろ仮面が剥がれるか。王様の凛とした佇まいが頼もしい。あの大国相手にまったく怯んでないし、それどころか怒ってさえいるように思えた。


「返答しよう。引き渡しには応じない。どのような人物だろうと、我が国内で罪を犯したものは等しく罪人だ。

ダグラス氏に至っては」

「今更、お父様に戻れですって? あなたの国のろくでなしが散々痛めつけてくれたせいで、この場で返事すらできませんの。

代わりにわたくしが伝言を預かっておきましたわ」

「いや、待つのだ」

「『富や名誉よりも大切なものを得られた。そちらの国にはそれがない』ですわ」

「待たれよ。待って下さい」


 王様の前に躍り出た直情ジェシリカちゃん。ペースを乱された王様が困惑してる。目つきだけでなく、扇子を外したミヤビの口元が見事に吊り上がってた。笑ってるのか何なのか。


「お父様……そう。あなたがダグラスはんの……生きてはりましたの。親子揃って皇帝陛下に……そう」

「コホンッ! 正規の手続きをもって我が国の領土に踏み入らず。一方的な要求を突きつけた人物がこの場にいない。

挙句の果てに見学だと? 貴国での教育とやらも透けて見えるようだ」

「……聡明な王と伺ってはりましたが、見当違いのようどす」

「そうなのか?!」


 どうもあの王様は締まりがない。これは激突必死か。あのミヤビはともかく、アトラスがやばすぎる。それともあそこまで啖呵をきったからには、何か策でもあるのかな。


「はて、さて。こうなった以上は、どうしはりますかねぇ」


「くるなら来い! 魔術士ゴンドー、微力ながら力添えする!」


 なんか出て来た。あの角刈り頭のおじさんは、魔導車の時にいた人だ。必死にエルフィンVの危険性を説いていた人。気持ちは嬉しいんだけど早計でしょう。

 ていうか私達含めて、正規軍でもない人をホイホイ通しすぎなのも問題。そして今は、あの人が事態をややこしくしかねない。これだから魔術協会は。


◆ ティカ 記録 ◆


まさに一触即発 このまま ネオヴァンダール軍と 戦ってしまうのカ

第七部隊アトラス あの規模で 一部隊の時点で

帝国の 層の厚さが わかル

まともに 戦えば 勝ち目はなイ

何が 一番の問題かといえば あのミヤビが 提督と呼んだ 存在

ここからでは 生体感知できないはずだが それでも

感知に 引っかかりかねない 異様な 存在感を 感じル


ゴンドー 戦力的には 申し分ないが この事態では

本当に微力なのが 悲しイ


引き続き 記録を 継続

「モノネさん、夜以外に眠くなるのは危険信号だと聞いたわ」

「どうしたの、イルシャちゃん」

「基本的に寝不足が原因か、過眠症のケースもあるみたいよ」

「そう」

「だからモノネさんも気をつけたほうがいいわよ」

「出番なくてイライラしてるのはわかるけど、私を不安にさせても何も変わらないよ」

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