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グリディを討伐しよう

◆ マハラカ国 森の奥地 製造工場 ◆


「ホンマに、なんやっちゅうねん……ッ!」


 両腕に力を込めて、その場で踏ん張るグリディ。腰に巻かれた乳白色のベルトが、わずかに引き締まった。腕には金色のガントレット、頭にはシャンデリアを思わせる装飾過多な兜。足には踵部分に翼がついた靴を履いている。いつの間にあんなものを装着していたのか。


「今ならギリで許したる。謝るなら、せいぜい200万ゼルで手を打ったるわ」

「ここまで来ておいて、謝る奴はいない」

「だよなー。バカじゃね?」


「そんなら、死にくされやぁ! ゲンコツや!」


 あの風体からは考えられない速度だ。殴った張本人であるナナーミちゃんは多分、勘で避けたんだと思う。グリディのパンチで床がぶっ飛んで削り取られ、機材や壁を貫通する。やばい、あれはシャレにならない。


「はぁん? よぉかわしたな」

「お前、動けるなー」


「あれは暴力のガントレット……。拳から衝撃を放てるようになる秘宝ですね」


 アスセーナちゃんが解説を始めた。グリディがぐふふと笑い、得意気にその暴力のガントレットを見せつけてくる。


「よぉ知っとるな。これもワイが大金をはたいて手に入れた秘宝や。それだけやないで」

「腰に巻いてるのは秘宝コルセトですね。どんな体型でも自然に重心を安定させて、体への負担を失くすという……」

「ほんで、この被りもんが秘宝ホワイトガーデンや。認知力を拡大させて、周囲の把握や敵の死角をつきやすくなるんやで」

「その靴はエンジェルブーツ。空中を駆ける事が可能になる秘宝ですね」

「そや、そや! どれも最低、街一つが買える額がついとったのをワイが買ったんや! どや、この現実がかわかるか?」


 すっかり自慢モードに入ったグリディの口元が緩みっぱなしだ。負ける要素がないと踏んだっぽい。私の家も裕福だけど、あのグリディは桁が違う。それだけのお金があるなら、私なら一生部屋から出なかった。


「お前らがなぁ、必死こいて鍛えて手に入れた力がなぁ。ワイなら金で買えるんや。そう考えると惨めなもんやな……」

「ねぇねぇ、アスセーナちゃん。秘宝ってなに? 魔導具とは違うの?」

「魔導具は人間の手で作られたと判明しているものです。秘宝はいつ誰が作ったのか、どうやって生まれたのかも不明なものです。

有名所だと神宝珠や魔剣ディスバレッドがそうですね」

「ディスバレッドってなんか聞いたことあるような」

「……聞いとらんな、お前ら」


 アスセーナちゃんの解説のほうが為になる。そもそも別に鍛えないで戦う力がある私には響かない言葉だもの。だからといって同意はしない。それに。


「街が何個も買えるくらいのお金を使って強くなりましたって言われてもね」

「そうですよ。私なんか大してお金もかけてませんからね」

「おれなんか丸腰だぜ?」

「わたくしも、ドレスくらいですわね」

「お、おのれら! そんならワイの力を見ぃや!」


 挑発はしたものの、勝算があるわけじゃない。先に仕掛けてきたグリディを迎え撃ったアスセーナちゃんだけど、なんと翻弄されてる。

 空中を蹴り、アスセーナちゃんの死角を突き、隙あらばあの爆発みたいなパンチ。もう工場内もメチャクチャだ。あいつが長々と自慢してる間に、他の人達を目線で避難させてよかった。


「小娘ェ、どや! なかなかのやり手みたいやが、これが秘宝の力やで!」

「私達が攻めあぐねるなんて……確かにやりますね」


 グリディがアスセーナちゃんに気を取られてる間に私やジェシリカちゃんの鞭で攻めるも、ひらりとかわされてしまう。更にあの風体でティカの魔導銃ですらかわすとは。

 何度かの攻防を繰り返したところで、ナナーミちゃんの拳がついにグリディを捉える。だけどそれもグリディには命中しない。間に割り込んだ黒服が庇ったから。


「いってぇ! なんだ、こいつの体!」

「グリディ様には指一本、触れさせん」

「ブハハハ! えぇ子や! さすがは元称号持ち冒険者やな! いや、そっちやったか? まぁええわ」

「元とは? 冒険者をやめても、称号を授与された事実は変わりませんよ」

「アスセーナさん。違うのですわ。その人達は……」


 ジェシリカちゃんの口から語られる衝撃の事実。私はアビリティの性質上、道具でも丁寧に扱うけどあのグリディは違う。人間ですら道具未満の扱いだ。称号まで獲得した冒険者が洗脳されて実験台にされて捨て石にされて。

 私ですら思うところがあるんだから、アスセーナちゃんはどうなる。ナナーミちゃんなんか殴りかかって、黒服にガードされてた。少しは学習しなさい。


「つまりアレやな。称号まで取った冒険者が暴れて、名実ともに冒険者そのものの評判が落ちるっちゅうわけや。はぁぁ悲しいなぁ!」

「浸食鉱石パサライト……未だにその性質は謎とされていますし、侵された生物が元に戻った事例もありません」

「せやで。わかったんなら諦めや」

「浸食鉱石パサライトも秘宝も思うがまま……。ひどい話ですね、モノネさん」


 そうだね、と答えようとした時にようやく気づいた。なんでわざわざ私に振ったのか。いやいや、アスセーナちゃん。いくら私でも、そりゃ無茶でしょ。

 だけどあの強さのグリディに加えて、何かとやりにくい黒服達もいる。ここは私がどうにかしないといけないわけか。しかし私はあの女の人と違って、触れなきゃ思い通りに動かせない。

 つまりあの秘宝まみれのグリディに接近しなきゃいけないわけだ。バニースウェットですら、なかなか近づけないってのに。


「ブハハハッ! さっきの大口はどないしたん! どの口がワシを侮蔑しよったぁ!」

「ティカ、あいつの動きをどうにか止めて」

「かしこまりましタ。フリーズガン!」


 サンダーブラストに続いてなんかまた習得してた。銃から打ち出した氷のブレスがグリディに一直線に向かう。だけどアスセーナちゃんの攻撃ですらかわしてる相手だ。当たるはずがない。


「なんもなんもォ! おもろい人形やな! どうや、ワイが買い取ったろうか?」

「黙レ。フリーズガン!」

「なんもぉ!」


 かわされまくりで、外した先の床や壁が氷漬けになる。自在に空中すら移動できるグリディにとっては、何の障害にもなってない。

 だけど私はティカに動きをどうにか止めてと言ったんだ。天井こそ高いけど、室内はそう広くない。ここが氷のフロアとなりつつあるのに、おデブちゃんはまったく気づかず。


「しつっこいやっちゃな……うぉうっ!」


 調子に乗って氷の上に着地して転びそうになる。その隙が仇になり、ナナーミちゃんの拳の餌食となった。顔と腹に数発浴びせられつつも、グリディは態勢を立て直してまた空中に逃げる。

 黒服達は足場が制限されているせいか、うまくグリディを援護できずにいた。いいぞ、目論見通りだ。物霊使いを舐めてるとどうなるか。ここで思い知らせてやる。


「ぶはっ……! 猛獣みたいな小娘やなッ! あひゃうっ!」

「気をつけなさい」

「ジェシリカァ!」


 ジェシリカちゃんの鞭がグリディの太ももに命中した。一発当たっただけで、グリディが気持ち悪い声を出す。

 あのおデブちゃんはまだ気づかないんだろうか。さっきよりも私達の攻撃が当たりやすくなってる事実に。転びそうになって慎重になってしまったのが運の尽きだ。グリディは空中以外に移動しようとしない。空中経験者から言わせてもらうと地上と違って、上下前後左右から敵に狙われるハメになる。

 いくらあのホワイトガーデンが優秀でも、ここにいるのは歴戦の猛者達だ。そしてもう一つ、グリディの体型が段々と痩せていってる。


「ハァ、ハァ……なんや、息切れかいな……」

「グリディさん、買い物をするなら慎重になりましょう。そのガントレットの性質をご存知ないんですか?」

「性質やて……いや、まさか」

「そのガントレットはあなたのエネルギーを衝撃に変換しているのですよ。日頃から不摂生して、常にエネルギーを蓄えていたから気づかなかったんでしょうね。そして、こんなにも長期戦になったことなんて一度もないんじゃないですか?」

「お、おぉ! 痩せとる! えぇな! ダイエットや!」


 なんか喜んでる。確かに体重が気になる人にとってはうってつけの秘宝かもしれない。そういう意味でも、夢のようなアイテムだ。私は気にしないけど。

 そうこうしてるうちに、グリディが天井近くに移動した。常に空中を蹴ってないといけない上に、だいぶエネルギーも消耗してる。これは決着が近いかな。


「クッ……もしかしてワイ、追い詰められとる?」

「ていっ!」

「なんや!?」


 布団君から跳躍して一気にグリディに接近する。当然、かわされた先は下に真っ逆さま。とはならず、先回りしてくれた布団君が優しく受け止めてくれる。そして久々登場、矢達の出番だ。

 いくら認知を拡大していようと、まさか布団から矢が飛び出すとは思わないはず。案の定、二度目の跳躍と同時に放たれた矢にグリディは不意を突かれた。肩を刺されて、呻く。


「ぎゃぁっ! な、何がどうなっとるぅ! まさかアビリティ……」

「今だっ!」


 三度目の跳躍を迎え撃つグリディ。突進しか知らないバカな小娘だと思ったんだろうか。舌なめずりをして迎撃への自信が表れていた。


「なんもなんもッ! ワイを舐めたらあかんで!」

「後ろがガラ空きですねぇ」


 いくらアスセーナちゃんでも、空を飛べるはずがない。グリディはそう思っていたはずだ。だけどあの子の瞬間移動はそれも可能にする。こんな時、誰だって驚いて振り向く。


「いつの間に……」

「はいタッチ。ホワイトガーデン君、外れて?」

「は……? おおぉ?! なんや! おぉぉい!」


 ボロリと落ちるホワイトガーデン。続いてガントレットも外れて、コルセトもするりと。何が起こったのか把握できないグリディは、空中を蹴る動作すら忘れる。そうなるとこれこそ真っ逆さまなわけで。


「んぎゃああああぁぁ!」

「ひどい悲鳴だ」


 落ちたところをナナーミちゃんが見逃すはずがない。殴る蹴るの暴行が始まってしまった。こっそりと秘宝を回収して、丸い顔が更に腫れ上がりつつあるグリディの行く末を見守る。


「グリディ様!」

「は、早く助けぶふぇぁっ!」

「まだまだ終わらねーぞ! オラオラオラァッ!」


 駆けつけようとした黒服3人をアスセーナちゃんが抑える。あの人達のパサライトも私がどうにかしないといけないわけか。とはいっても成功したところで、敵である事には変わりない。ピクリとも動かなくなったグリディの醜態を尻目に、覚悟を決める。


「そこの3人。パサライトを解除してあげるといったら、どうする?」

「なに……?」


「この、ままで、終わりやと……思うなぁ……」


 落ち着いたと思ったらグリディの巨体が寝返りをうつ。まずい、何かをする気だ。


「ブーデ・ソック……発動や……」


 とてつもなくひどい。何故かはわからないけどそう思った。


◆ ティカ 記録 ◆


マスターの命令ならば 確実に遂行すル

それが 僕の使命ダ

室内での サンダーブラストは 被害が大きイ

フリーズガンの 新たな可能性を あそこで 思いついたのは

偶然か それとも


グリディの生体反応が 強くなっタ

この戦闘Lvは まずイ


引き続き 記録を 継続

「モノネさん! 新メニューを考えたから食べてみて!」

「久ぶりの登場で気合い入ってるね、イルシャちゃん」

「とある国で『早い! 安い! うまい!』のキャッチフレーズで有名な牛丼よ」

「おいしい。おいしいけど、もう少し汁がほしいかな」

「なるほど! 汁を多くするサービスを追加するわ!」

「すごいぞ、イルシャ! もうパパが教えることはないな!」

「こんなにもたくましく育ってくれるなんて……ママも言うことないわ」

「一家3人でおめでたいね」

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