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ゴーレム制作工場に行こう

◆ ゴーレム制作会社"ゴッドハンド" ◆


 凄まじく神の域に達した名前の会社だ。会社といっても広々とした工場で、何かよくわからない薬品っぽい匂いが充満してる。

 作りかけのゴーレムの頭部や腕がバラバラに陳列されていたり、すでに完成しているものもあった。この現場を見ても、どうやってゴーレムなんてものが作られてるのかさっぱりわからない。

 そしてこの人の少なさ。なんと、たった一人しかいない。


「もしかしてお客さんですか?」

「そのつもりです」


 キャップを被った三つ編みの女の子が、私達に気づく。何故か気まずそうに軽く頭を下げた。


「すみません。内容によりますが、恐らく年内は厳しいです」

「えぇー! 工事用のものを数体欲しいだけなんだけど?」

「技師のほとんどが出勤してない状態なんです。あ、休暇中の人もいますが……」

「国内トップと聞いた割には、すでに崩壊寸前だった」


 この子だけじゃ手が回らないだろうし、他の注文も全然さばけてないんだろうな。これならいくら腕がよくてもダメだ。他を当たるしかない。

 諦めて帰ろうとした時、アスセーナちゃんが神妙な顔つきで腕を掴んできた。


「他の方々は病気か何かで休んでるのですか?」

「はい、そうです」

「本当ですか? 仮病では?」

「そ、そんなわけありません。本当に真面目な方々ですから」

「いきなり何かにお金を使い込んだりしませんでした?」

「何かって……あ、もしかしたら」


 ここにきてアスセーナちゃんが優秀な冒険者であることを思い出した。この子が何かに気づいたなら、任せよう。鈍感なウサギファイターは静観しよう。


「ここ最近、社内でエルフィンVが流行りまして……あ、エルフィンVというのは」

「知ってますよ。一日に7本飲めば魔法が使えるようになる飲料水ですよね」

「いえ、確か10本だったと思います」

「なるほど」


 なんで増えてるの。もう絶対にまともな飲み物じゃない。一国の王さえも狂わせた魔の薬だ。こんなところにまで浸透して蝕んでいるとは。誰が何にハマろうがどうでもいいけど、こっちの事情が狂うなら話は別だ。すでに面倒な予感がしまくって帰りたい。


「でもアスセーナちゃん。休んでまでエルフィンVを飲むものかな」

「なかなか魔力が上がらなくて追加で飲んで、それでも上がらなくて。練習が足りないのかと、より執着する可能性もあります」

「それなら仕事なんてやってられないよね。わかる」

「モノネさんならわかってくれると思いました」


「でもなー。それだけでここまで流行るかー?」


 ナナーミちゃんの勘が発動かな。一番興味なさそうなくせに、それでいて鋭い。ジェシリカちゃんなんか露骨にあくびをかいてる。


「そこなんですよね。何の効果もないとなれば、さすがにすぐ廃れるはずです」

「でもガンジさん……先輩技師は魔法が使えるようになったと喜んでました。わたしも実際に見せてもらったことあります」

「あー、そういえば即売会の時も戦士風の人が魔法を使ってたっけ」


 効果がある人とない人がいる。魔導車内にいた角刈り魔術師が言ってた事が本当だとしたら、個人差が出るのはおかしい。

となると、答えはかなり絞られてくる。


「ジーロ先輩なんかは家にも帰ってないらしくて……」

「行方不明者までいるのか。衛兵に捜索してもらえば?」

「衛兵も人手不足で、手が回らないと突っぱねられました。もうこっちも困ってるんですよ。このままじゃ納期に影響が出ます」

「そっか。それじゃこっちの注文どころじゃないね」

「モノネさん、私達で何とかしませんか?」


 ツクモの街が絡んでいなければ、とっくに逃げてる。あの王様が嫌な奴だったとしたら尚更だ。少しだけ黙っていると、アスセーナちゃんが困り顔だ。やれやれ。


「ツクモの街については約束があるからね。重すぎる腰を上げますか」

「やったぁぁ!」

「ぎゃふぅっ!」


 全身の骨が折れるんじゃないかって勢いで抱きつかれた。まぁ放っておけない。この国は物を大切にして、重要性を理解している。物持ちがいい私には好印象だった。王様というより、私はこの国が気に入ってしまったようだ。私がこんな感情を抱くなんて、前ならあり得なかった。この引きこもりの分際で。


◆ ゴーレム技師ガンジの部屋の前 ◆


「もしもーし」


 古びた集合住宅の一角のドアを叩くけど反応なし。ドア君に聞いてみると、在宅中ではあるみたい。まだるっこしいのは面倒だから、開いてもらおう。ドア君、開けて。


「ガチャっと」

「うあぁ?! な、なんだお前ら!」

「こんにちは、ガンジさん。私達はこういうものです」

「はぁ?! 客! カルーナがいるだろう! ていうか、どうやって開けた!」

「あの子一人に任せるつもりですか」


 カルーナというのは三つ編みの女の子技師の名前だ。新人ながらも奮闘しているというのに、このベテランは両手にエルフィンVと魔導書だもの。部屋もろくに片付いてないし、臭いもひどい。何があなたをそうさせる。


「あなた達が出勤しないせいで、めちゃくちゃだよ」

「うるさい! オレはもう技師なんてやめた! これからは魔法を覚えて魔術師になるんだ!」

「それならそれで、きちんとケジメをつけないといけませんよ」

「毎日毎日、激務で身も心も限界なんだ! こき使うことしか考えてないあんな会社なんざ二度と行くか!」

「そして私と同レベルに落ちるか」


 私とアスセーナちゃんの二人の説得も空しく、このベテラン技師はエルフィンVを手放さない。これはどうやら、エルフィンVだけに問題があるわけじゃなさそう。


「休みなんてほとんどない! 徹夜も当たり前! あんなもん死ぬわ!」

「ですよね」

「モノネさん! ガンジさん。あなたが辞めるならそれで構いません。ですが、未練はないんですか?」

「ないっ!」

「本当ですか? ゴーレム技師という仕事を捨てられるんですか?」

「……ん」


 ベテランが言葉を詰まらせる。曲がりなりにも国内トップと呼べるレベルにまで会社を支えた人間の一人だ。プライドもあれば未練もあるはず。それがあんな胡散臭い飲み物一つで惑わされるとは。


「他にいいところがあれば、検討したい。ジーロはすでに行っちまったみたいだけどな」

「ジーロというのは同僚の技師ですね」

「俺もあいつに誘われたんだよ。何でもいい仕事を紹介してくれる奴がいるから、一緒にこないかってな」

「あなたは行かなかったんですか?」

「なんか怪しいからな。今よりもひどい職場の可能性もあるだろうし……」


 会社には行かないで、仲間内で別の職場へ行こうとしたのか。このガンジさんもひどいけど、ジーロって人も輪をかけてひどい。大丈夫ですか、ゴッドハンド。


「ではあなたはジーロさんがどこへ行ったのか、わからないんですね」

「おう。これ以上はジーロにでも直接聞いてくれ。家を教えてやるからよ」

「家にいないみたいなんですよ」

「ウソだろ? どこかで住み込みで働いてるのかな。なんか心配になってきたぞ……」

「あなたはひとまず会社に行って下さい。不満があるなら相談しましょう。それとそのエルフィンVを飲んでも無駄ですよ」


 アスセーナちゃんが「ただのジュースですから」と付け加えた時のガンジさんの顔は一生忘れない。エルフィンVの正体について、あの子にはおおよその検討がついてるわけか。物霊使い引退の時が迫る。


◆ ジーロの部屋 ◆


 なんでこうも男の一人暮らしというものは、汚らしくなるのか。せめて衣服くらいまとめておけ。マハラカ国民の風上にも置けない。

 あまりに酷すぎたから、私がちょいちょいと片付けておいた。これで落ち着いて捜索できる。


「汚らわしい住まいですわね。キブリの住処に相応しいですわ」

「ジェシリカちゃんが前に住んでた部屋みたいだね」

「綺麗にしてましたわよ!」

「あの本棚の裏にキブリが6匹くらいいそうだなー」

「勘でそういうの当てないで、ナナーミちゃん」


 長居したくない場所なのは確かだから、とっとと終わらせよう。どれどれ、まずは縁の深そうな作業服達から行こう。


――毎日、洗濯してくれた

――ここ何日かはずっとしてくれない


「……そっか」


 作業服だけは綺麗に畳まれていた。だけど持ち主はいない。ガンジさんと同じく、ゴーレム技師に未練が残っていてほしい。そっと手を離そうと思った時だった。


――あの太った男、グリディが仕事終わりに話しかけてきた


「グリディさんが?」


――高額の収入と良い待遇の前に悩んだ末、最終的には快諾してしまった


「それであんたが残されたんだね」


――私を洗濯して乾かして綺麗に畳んだ後、出ていった


「それはそれでケジメをつけたのかな」


――王都より東の地、森の奥にある工場。ジーロは行ってしまった


 作業服を撫でた後、立ち上がる。あまりに感傷に浸ったせいか、3人が沈黙して様子を伺ってた。ジーロさんがどんな思いで出て行ったのかはわからない。もし少しでも未練を残しているなら。


「あの、モノネさん。どうかしましたか?」

「いや別に。私に隠し事は出来ないって改めて思っただけ」

「そ、それってまさか私の……!」

「多分だけど違うと思う」


「グリディ……?」


 違うって言ってるのに、アスセーナちゃんの動揺が止まらない。ナナーミちゃんを見ると、本棚から下着姿の女の人が表紙絵になってる本を取り出してケタケタ笑ってる。自由ですな。

 そんな中、ジェシリカちゃんの呟きがなぜか耳に残った。


◆ ティカ 記録 ◆


ゴーレム制作会社と聞いたが やはり 僕のようなゴーレムは いなイ

あのカルーナという少女 僕が気になるのか ちらちらと 見てきタ

機会があれば 彼女とも 話してみたイ

しかし 今の惨状では それも 叶わないカ

原因が エルフィンVだけではない上に この事件

僕の予想だが 何か 大きなものに 繋がっている気がして ならなイ

あのグリディという商人 一体 何者なのカ


引き続き 記録を 継続

「魔術協会のエクソシスト、ナベルがやってた術域展開ってさ。何なの?」

「魔法の効果範囲を広げるんです。魔法は物理法則に従わない分、魔術師の魔力によって射程距離が決まりますから」

「じゃあ、あれは光っぽい魔法をツクモの街全域に広げたってこと?」

「そうです。高位の魔術師でもこれが出来る方はあまりいないので、ナベルさんは凄腕ですよ」

「よく勝てたな、私」

「アンガスさんもそうですが、もし油断も慢心もなかったらもう少し危なかったかもですねー」

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