マハラカの王様に会おう
◆ マハラカ国 王都ラハルジャ ◆
終点の王都に辿り着いて、ちょうどお昼時。腹ごしらえをしたいところだけど悩む。万が一でも王様に歓迎されておいしいものを食べさせてくれる可能性があるかもしれない。でも歓迎どころか真逆の展開になる可能性もある。
「これは……ユクリットの王都とはまた様相が違う」
「あちらが魔導車専用の道ですね。私達はこちらの歩道を歩きましょう」
港町よりも、魔導車がかなり目立つ。といってもこゆりちゃんによると、かなり高価な上に魔導車ギルドで認められた人しか操縦できない。
しかも専用の道が王都全体に整備されてるわけじゃなくて、これも一部のみ。つまり大半の人は徒歩だ。危ないから魔導車を自由に操縦できるのは街の外のみ。それなりに法や設備が行き届いていて、感心するしかない。
「それじゃ、この魔導具のお布団でお城まで行こうか」
「そうですね。魔道具のお布団ならすぐに着きますね」
「わざとらしく魔道具であることを強調しなくてもいいですわよ……」
「ご案内するでござるです」
5人乗りの布団はやっぱり目立つか。ゴーレム連れの人からも注目されてる。あの小さいゴーレムなら安いのかな。
「何度見ても、忍術と遜色ないでござるです……」
「コユリちゃんの忍術もすごいよ」
「忍術といってくれるでござるですか!」
「私からすれば、道具だろうがスキルだろうがそれを使いこなしてる時点で異能だからね」
「そ、そんな褒めすぎでござるですよ」
両手で頬を挟んでふるふると首を振ってる。この喜びようからして、忍術が使えないことにコンプレックスでもあったのかな。よくわからないけどクリティカルで褒められたようで何より。しかしレリィちゃんもこの子も、末恐ろしいとばかり思う。
「お城に着いたでござるです」
「案内ありがとう。まずは侵入できるかどうか……すみませーん」
「なんだ?」
ユクリット城と違って、どこか緊張感がない。今の今まであくびをかいていたほどだ。それだけ平和だとよくわかる。腰に携えてるのは見たところ、魔導銃かな。もし本気で襲いかかってきたら、近接の連中より怖そう。
そんな人達が港町の隊長が書いてくれた親書を手に取るなり、互いに顔を見合わせる。
「これ、ケイロン隊長の印だよな?」
「そうだな。これはアレだ、一大事ってやつだ」
「いや、待て……」
片方の門番が訝しがってる。この用心深さ、嫌いじゃない。
「一応、ここで確認しておこう。おい、お前がもし本物の物霊使いならば俺の銃を抜いてみろ」
「はい」
「おっと、何故触ろうとする? 物霊使いならば、触れずとも動かせるはずだ」
「すみません。まだその域に達してないんで」
「怪しいな。しかしケイロン隊長ほどの方が、勘違いを起こすとも思えん」
「こちらのティカじゃ参考になりませんか」
「この方は紛れもない物霊使いダ。幽霊船や僕も、この方のおかげで目覚めタ」
浮いてる人形、しかも喋る。この方とか、尊厳たっぷりだ。幽霊船というワードが決定的だったのか、門番達は納得したように頷く。
「なるほど、お前があの幽霊船騒動の……。わかった、通ってよし」
「ただし他の連中はダメだ」
「えー、やっぱりですか」
「当然だ。ついでに言えば、俺はまだ疑っている」
「わかりました。ただし、根拠の一つとしてティカの同行は許可して下さい」
「いいだろう」
この用心深さ、嫌いかもしれない。これで何かあっても、晴れて私一人で対処しなきゃいけない。あの二刀流のライナスさんみたいな怖い護衛がいたら嫌だな。今回は礼儀正しくしよう。そうしよう。
「モノネさん、何かあったら大声で叫んで下さいね。私も出来るだけ気配で察しますから」
「嬉しい。ナナーミちゃんの勘としては、どう?」
「さぁなー。未来のことまでわからねーよ。ま、大丈夫なんじゃないか?」
「それはよかった」
「あなたなら平気ですわ。帝王イカを討伐した冒険者が何を恐れる必要があって?」
「ありがとう。ジェシリカちゃん、大好き」
「まぁっ!」
冗談で言ったけど、案外うろたえてる。押しに弱いのはよくわかった。別の意味でうろたえてる子もいるけど無視。ジェシリカちゃんに大して鬼気迫るような眼差しだ。
◆ マハラカ城 王の間 ◆
城内や王の間はユクリット城とさほど変わらない。唯一違うのは、人間の護衛が少ないところ。左右にいる物騒なゴーレムの威圧感がすごい。両手に複数の穴が空いた筒みたいなものを装着していて、大体何がどうなるか想像できる。いや、もう一つあった。この王様、若い。
「よく来た。王がこのような若輩者で驚いただろう。私がマハラカ国の王セスターヴだ」
「初めまして。ユクリット国から来たモノネです」
年齢的には30前後かな。そして王妃がいないということは、独身の可能性がある。優しく微笑みかけてくる王様だけど、気を許したら両サイドのゴーレムに撃ち殺されそう。
「知っている。帝王イカと幽霊船の件は私からも礼を言おう」
「どういたしまして」
「本来はこれだけでも、国をあげて歓迎せねばならないほどの功績だ。私から何を進言できようか」
「はぁ、いや進言というか私が物霊使いなんですよね」
「そう! それだ!」
いきなり手を叩いてテンションを上げてきた。なんか抜けてる王様だな。悪い人ではなさそうだけど。こういうのはムードリーさんで間に合ってる。
「物霊使い! 亡き父からも聞かされていた! お前がそうなのだろう?!」
「はい。こちらのティカも私の力でこんな風になりました」
「王よ、国を治める者といえど」
「はいストップ」
いきなり不敬とかやめてほしい。前回はいなかったから、油断した。興奮気味の王様だけど、あのゴーレムの存在感は無視できない。どういう条件で動き出すのか。口を滑らして、なんか乱射してきたらどうする。
「喋るゴーレムか! これはいよいよ本格的だな!」
「ゴーレムってわかるんですか?」
「あぁ、今は滅多にないタイプだが大昔の主流だぞ! ゴーレムはいいぞ! ロマンしかない!」
「なんと」
ということはティカは大昔のゴーレムか。そんなものがうちの地下に放置されていたと。大昔で珍しいとなれば、売り物としては上々だ。いつか売り飛ばすつもりだったのかな。
「もはや疑いようもない! ようこそ、物霊使い! 我が国を救ってくれて感謝する!
おかげで今日まで、大きく繁栄できた! いやぁ、まさか私が古門書に記された約束を果たすとはな!」
「どういたしまして」
私はその人じゃないし、礼を言われるのは筋違いだ。と、無粋な突っ込みはやめよう。ひとまず、はしゃがせておく。
「これは国中に伝えねばな! 国を挙げて祝おう! 今日は記念日になるぞ!」
「あの、大変嬉しいんですけどその前に一つお願いがあるんです」
「ほう! お願いだと! 申してみよ!」
「実は……」
手短かに伝えると、王様は強く頷いた。上機嫌で何より。宴でも何でもどうぞ。そういえば、お腹すいてたっけ。
「容易い。それならば優秀なゴーレム技師が所属している会社がある。この二体のゴーレムも、そこで作ってもらったものだ」
「そんなに優秀なんですか」
「うむ、侵入者など秒でハチの巣に出来るぞ」
「怖くて泣きそう」
「これはユクリット国との国交のきっかけにもなる。これでまた一つ、他国にもゴーレムが流通するならばこれほど嬉しいことはない」
満面の笑みで本当に幸せそうだ。ゴーレムが好きというのも本当っぽい。この国のゴーレム普及率は、この人の情熱も一役買ってそう。
「便利なものはどんどん使ってもらわないとな。ゴーレムにとっても、そのほうがいいだろう」
「ゴーレムに心があると信じてるんですね」
「お前ならば聴こえるのだろう? 羨ましいよ、まったく」
「この赤い絨毯も、手入れが行き届いていて満足そうですよ」
「ハハハ! そうか! それはよかった!」
よく見ると柱や壁に至るまで、汚れがほとんど目立たない。街にもゴミがほとんど落ちてなかったし、この徹底ぶりは気持ちがいい。思いのほか、事がスムーズに進んでよかった。
「さて、そうと決まれば……おっと。その前にこれを飲まねば。ぐびっ」
「王様、それって」
「あぁ、これか。今、民の間でも流行っていてな。何でも魔法が使えるようになるらしいぞ」
「陛下! またこのようなものを発注されたのですか!」
髪の毛が薄くなった大臣っぽい人が入って来て叫んでる。兵士二人がかりで抱えているのは大きな箱だ。まさか、あれって。
「おぉ、届いたか! エルフィンVはもはや生活の一部よ!」
「陛下、こんなものは何の効果もありませんぞ! それなのに、こんなに大量に……」
「バカを言うな。一日七本は飲まねば効果はないのだぞ」
「いや、多すぎでしょ」
男二人が抱えるほどの箱に、エルフィンVが詰まってるのか。さすが王族となれば、大人買いも余裕だ。頭を抱えた大臣をよそに、王様は鼻歌を歌いながら箱を開けてビンを取り出している。
「フッフッフッ、これは味もよくてな。つい癖になる」
「お止めください、陛下! 国を治める者が、そんなものに現を抜かすなど!」
「すでに次の発注は済ませている! もはや誰にも止められんぞ! ハハハハハハッ!」
誰が何に現を抜かそうがどうでもいいけど、こっちの件だけは忘れないでほしい。どいつもこいつも、なんで魔法使いになりたがるのか。
◆ ティカ 記録 ◆
マハラカ国の王 物分かりがよくて よかっタ
人柄も良し マスターとは 良好な関係を 築けそうダ
この僕が 大昔のゴーレムとは そういえば
ここ最近 僕の中に 何らかの 記憶があるような
時折 一瞬だけ 映像として 見えるようナ
こうなると 大臣ではないが なぜか 頭を抱えてしまウ
僕の中に 僕もマスターも知らない 何かがあるとすれば
それを 解き明かして よいものカ
引き続き 記録を 継続
「剣よりも魔導銃を使ったほうが強くない?」
「輸入制限や価格、供給や扱う技術の難易度の問題があります。手入れも大変ですし、そう簡単じゃないんですよ」
「そういえばユクリット国だと誰も持ってなかったね」
「輸入制限ですね。そこは徹底してるんですよ」
「でも斬撃を飛ばしたり、魔法をぶっ放すほうがやばいよね」
「ご、極一部の方ですから」




