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目的の品を持って帰ろう

◆ ランフィルド郊外 駅建設予定地 ◆


 ツクモちゃんのおかげで、一瞬でランフィルドに帰ることが出来た。ランフィルドや王都、カクティス国の港町シーサイド、マハラカ国の港街タハラージャ。あの子が行ったことがある場所ならいつでも行ける。いちいち海を渡る必要もない。ツクモちゃんは出来る子です。


「だいぶ形になってきたね」

「バリアウォールの設置場所も考慮されてますね。あちらは露店専用スペースでしょうか」

「いよいよぞよ?」

「本格始動にはまだ遠いよ」

「早くするぞよ」


 待ちきれないのか、ツクモちゃんが現場監督らしき人のところへトコトコと歩いていく。その現場監督が辺境伯と何やら話し合ってる。私には何も出来ないけど、部屋からでも応援するよ。お金とバリアウォールは揃えたし、役目は終えた。


「まだ出来ないぞよ?」

「うん? 君はツクモちゃんだったか。今、工程と工期のすり合わせの相談をしてるところだよ」

「うん? うん?」

「どれだけの作業が必要で、それにはどれだけの時間がかかるか。結果、工事は順調だよ。あと半年程度で完成かな」

「長いぞよ!」

「ツクモちゃん、辺境伯達を困らせないの」


 地団駄を踏んで駄々っ子みたいだ。実際、子どもだからしょうがないんだけど。でも半年も先なのか。商人ギルドの支部長パラップさんの働きかけもあって物資も滞りなく運ばれてくる。辺境伯も積極的に資金を回してくれるし、必要なものは確実に揃う。

 だからこれでも早いほうだと思う。私としては早かろうと遅かろうと関係ないけど、ツクモちゃんにとっては生きがいと化してるから何とかならないかな。高速で地団駄を踏んでうるさい。二人も苦笑いしてる。そんなのよりも、バリアウォールを渡さないと。


「辺境伯、ただいま」

「おかえり。早かったね」

「そっちの監督さんもさ、はい。バリアウォール」

「おぉ! これが例のものか! 実物は初めて見るなぁ!」


 監督のおじさんが大興奮でバリアウォールのロープを両手で握ってる。早速、広げて駅のホームの長さに合わせ始めた。アスセーナちゃんの指示通り、起動させると空を切るような音と共にバリアが発動する。と思う。


「どれどれ……本当に見えない壁が出来ているな。よいしょ!」

「おじさんが押しても平気」

「だろうね。これでも昔は戦闘Lv20は超えていたんだがなぁ。だが、そのくらいじゃないと困る」

「ゴボウも逃げ出す強者だったか」


 下手したら現役よりも強いのがゴロゴロしてる。体も引き締まってるし、今も強そうだ。監督のおじさんは大満足で、現場の人達を集めて得意げに説明してる。初めて見たくせに、もう訳知り顔で語ってた。調子のいいおじさんだ。


「二人とも、本当にご苦労だったね。それに帝王イカと幽霊船を討伐したそうじゃないか」

「その節は本当に成り行きというか。いや、情報早すぎる」

「冒険者ギルド間では常に情報は行き来しているからね。あの支部長が血相を変えて報告しに来た姿は見物だったよ」

「ほう、あのサーベル船長が」


 あの仏頂面がそんな変化を遂げるとは、さすが帝王イカだ。そういえばギルドに行ってアイアンの称号授与の手続きもあるし、何気に忙しい。

 船長といえば、娘のナナーミちゃんがいつの間にかいなくなってる。ちょっと前までツクモちゃんにベッタリだったのに。


「工事を進めるぞよ!」

「わかった。わかったから子どもはあっちで遊んでなさい」

「ツクモちゃん、邪魔したら進まないよ」

「ぞよね……」


 なんだ、その返事。ツクモちゃんが項垂れていじけてる。あまり子どもを甘やかすのもよくないけど、今回はツクモポリスの繁栄が目的だ。それに工期が縮めば、作業してる人達も大助かりなはず。とはいえ、私の頭でそんな方法を思いつくわけがなかった。


「そういえばカロッシ鉱山にゴーレムがいたっけ。あんなのがこっちにも配備されないかな」

「ゴーレム精製はコストがかかりますからね」

「そんな貴重なもんをあんなところに……あ、でもマハラカ国にいっぱいゴーレムいたよね」


「駅だー!」


 何やら騒がしい子ども達が来た。その保護者らしき人物はジェシリカちゃん。きっと弟と妹に駅を見せてやりたくて来たんだ。ここは一つ、挨拶をしますか。


「ジェシリカちゃ」

「あなたぁ!」

「ひっ!」


 私達を見るなり、スカートをつまんで走り迫ってくる。走りにくいなら、あんな長いスカートとか着用すべきじゃない。


「マハラカ国に旅行に行ったんですって?! しかも帝王イカと幽霊船を討伐したんですってぇ?!」

「揺るぎない事実だね」


 すごい剣幕で迫られて両肩を掴まれて揺らされる。そうだと頷いてるのになかなか止まない。


「そうやってまた実績を積んでいい気になって! このわたくしの手柄になるかもしれなかったのに!」

「そんな逆恨みな」

「なぜアスセーナさんは誘ってわたくしは!」

「いやいやいや。それはちょっと違うんじゃない?」

「な、何が違うといいますの」


 あのジェシリカちゃんがたじろいでる。これはひょっとして、いいペースなんじゃないか。


「なんかジェシリカちゃんってさ。いつも私にツンツンしてるじゃない?」

「そ、そ、そんなわけありませんことよ」

「そんなわけあるでしょ。読書の邪魔をしたのは悪かったけど、図書館の時なんかツンツンしまくりだったよ」


 思うところがあったのか、ジェシリカちゃんが途端に口を噤む。よし、いい機会だ。少しは素直になってもらわないと。


「それなのに、そういう時だけ声をかけろってのは虫が良すぎるよ」

「そ、それはそうかもしれませんわね」

「こっちだって嫌われてるのかなって思うじゃない?」

「嫌ってはいませんわ」

「ホントにー?」


 顔をそむけたジェシリカちゃんをわざとらしく覗き込む。絡みたいなら素直になるべきだ。こうして見ると厄介な性格だと思う。


「ジェシリカさんも潜在能力を含めて、シルバーを狙えると思うんですよね。手柄や功績って運によるところも大きいですし……」

「当然ですのよ! わたくしだって、きっかけさえあれば!」


「おねーちゃん……」


 妹の一人、メアリーが心配そうだ。ツクモポリスに移住して少しは生活が楽になったとはいえ、この幼い子ども達がいる。なかなか冒険者の活動に精を出せないのもしょうがない。


「メアリー、気にすることはありませんの。わたくしは」

「リサはお片付けできるようになった!」

「あら、いつの間に」

「ごはんもメアリーおねえちゃんのお手伝いで難なく乗り切れる!」

「あら……」

「ここにいる全員がおねしょを卒業したという!」


 弟のクートの堂々たる宣言。リサも胸を張って長女のメアリーを巻き込んでる。いや、長女はさすがに卒業してないとまずい。


「お姉ちゃん、リサとクートもいつまでも子どもじゃないよ。私も前みたいに勝手にギルドでお仕事しないから……。だからおねえちゃんはやりたい事をやって」

「メアリー……」

「それにツクモポリスの人達がいるもん。全然寂しくないから」

「そう……」


 心配をかけまいとして言ってるんだろうけど、当のジェシリカちゃんは複雑そうだ。寂しくないというフレーズが効いてるのかもしれない。涙腺を抑えているのか、またも顔をこっちに向けなくなった。


「この姉に向かって、生意気ですことよ。罰として、わたくしは頻繁に家を開けますわ」

「うむ! 達者でな!」

「寂しくて泣いても知りませんのよ」

「泣かない!」


 クートの謎の敬礼が余計にジェシリカちゃんを刺激する。堪えきれなくなって涙をこぼした。


「まったく……本当にもう」

「ジェシリカちゃん、やったね」

「何がですの。これであなたの活躍の場はなくなりますのよ」

「そうだね。楽できるからいい事しかない」

「どこまでも減らず口ですこと」


 いや、本心です。アスセーナちゃんに続いて、ジェリシカちゃんがいれば私の出番は減る。富や名声なんて興味がないから、どうぞ勝手に持っていってほしい。当面はまずアイアンの称号だけ貰っておこう。


「ジェシリカさん。安心してはいられませんよ」

「何がですの」

「この布団はすでに先客がいるんです」

「……勝手になさい」

「そんなことを言っていいんですか? この柔らかさを体感すれば、もう虜になること間違いないですよ」

「いや、アスセーナちゃんの特等席でもないからね」


 布団に入りながらドヤ顔で説明するな。最近、私よりも寝てる率が高まってる。これでジェリシカちゃんが興味を持ったら面倒だ。だけど言葉通り、素知らぬ顔をしている。よかった。


「フン、こんなもの誰が……」


 おや、そういいながらも布団をさすって手触りを確かめてる。ダメだ、そこは素直になっちゃいけない。ツンツンしてなさい。


◆ ティカ 記録 ◆


もし 駅が完成すれば どの程度の収益が 見込めるだろうカ

周辺が どの程度 栄えるか 大賑わいとなれば

さぞかし マスターも鼻が高いはズ

それに 収益が高まれば マスターが 休息を取る時間が 増えル

数日 いや数ヵ月もの間 寝ている事だって 可能ダ

マスターにとって 夢のような生活が 待ってル

それに加えて ジェシリカさんという 強力な戦力

アスセーナさんの見立て通り 彼女の実力は 申し分なイ

イルシャさんやレリィさん いろいろな方々が マスターの元へ

集まってくるようダ

この僕としても 仕えている身として 至上の喜びであル


引き続き 記録を 継続

「あのグリディさんの喋り方って何なの?」

「地方独特の訛りですね。中には何を言ってるのかまったくわからないものもありますよ」

「へぇ、例えばどんなの?」

「モノネっちゃねさってめんこいべさぁ」

「なんとおっしゃった」

「モノネさんは寝てる姿もかわいいと言ったんです」

「巧妙に聞き返させやがって」

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