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目的の品を手に入れよう

◆ マハラカ国 港街タハラージャ 魔導具市場 ◆


 アイスクリームの余韻を楽しみながら、ようやく目的を思い出す。そう、バリアウォールを買いに来たんだ。

 イルシャちゃんは高速で生鮮市場に向かっていったし、レリィちゃんはナナーミちゃん付きで薬膳だとかそんなの売り場に行った。待ち合わせ場所と時間は決めているけど、ティカの生体感知があるからいつでも居場所はわかる。


「ガラクタにしか見えないものばかりが陳列されてる」

「ガラクタも多いですが、中には掘り出し物があってそこが魅力なんですよ」

「そんなガラクタの中からバリアウォールを探すの?」

「何でも揃ってる大型魔導具店があるので、そちらに行きましょう」


 そこら辺の露店に陳列されている怪しげな魔導具の数々。未来の相手の姿が映る鏡や、危険を察知したら一つずつ宝石が割れるネックレスだって。どれもいい値段する。ネックレスがよさげだと思ったけど、ティカがいれば大体何とかなると気づいた。


「使い捨てですが、一度だけ低位から中位魔法を放てる魔導具が人気ですね。魔力がなくても誰でも使えます」

「ティカがいるからいいや」

「マ、マスター……!」

「あれなんかも人気ですよ。道しるべの矢、一度だけですが目的のものがある場所へと導いてくれます」

「ティカがいれば何とかなる」

「マスタァァ! 僕は……僕は!」

「でもティカさんだと生物限定ですからね」


 せっかく感動に打ち震えてるのに、水を差すんじゃない。それでも本人は満足したのか、どこか誇らしげだ。いつもみたいに私よりも半歩後ろじゃなくて、前に出て飛んでる。


「すごい矢だけど、値段もすごい。あんなのが普通に売られてるんだ」

「この国では普通ですよ。魔導具が生活の一部になってるんです。確かにあの矢は少し値が張りますけどね」

「ま、私なら人だろうと物だろうと探せるけどね」

「モノネさんの存在が知れ渡れば大騒ぎですよ。だから私が守ってあげるんです」

「う、うん」


 ありがたいけど、ちょっと重い。そして私が余計なことを言ったから、ティカがまた半歩後ろに下がってる。この子にとって、私の発言がすべてなんだな。後で適当に何か頼んで持ち上げてやるか。


◆ マハラカ国 港街タハラージャ 大型魔導具店"ユアホーム" ◆


「着きましたね。あなたの家だと思って親しんで下さいという意味のお店です」

「お金とるくせに」


 つい無粋な突っ込みをしてしまう。さてこの空間、さっきの雑多な市場と違って何もかもが整理されている。天井からぶら下がった看板に案内が書かれていて、わかりやすい。棚と通路が一定の間隔だから見通しもいい。客層も、服装からして裕福そうな人達ばかり。


「ペット用の魔導具なんてあるんだ。どこまでも奥が深い」

「ここなら大体ものが手に入りますよ。信頼できる魔具師としか契約していないので、品質もバッチリです」

「魔具師すごい」


 そんな中、布団が目についた。まさか空を飛べるのかとドキドキしながら見ると一安心。一定時間、必ず快眠できる布団か。私の布団君が標準装備してるものが売りだなんて片腹痛い。布団君なら一定時間どころか、いつまでも寝られる。


「で、バリアウォールはどこにあるの?」

「あちらの防護用品コーナーですね。大きさや強度によって値段もピンキリなので、よく吟味しましょう」


 防護用品コーナーの棚に着くと、一発でわかった。ただし名前がないとさっぱりわからない。何せただのヒモだ。


「これを地面に埋めて起動するんですよ。害獣から農作物を守れたりとか、使用用途は広いです」

「一番安いので20万ゼルか」

「駅の長さを考えた場合、こちらの80万ゼルがいいと思います」

「人が落ちなければいいし、強度はそこまで固くなくてもいいか」


 300万ゼルとか、一体何を守るために存在しているのか。よく見たら戦闘Lv30まで安心とか書かれてた。冒険者が苦労して倒す魔物でも、金さえ積めば寄せつけないのか。この世の沙汰も金次第。


「こちらの最新型となると、1000万ゼルですね。ひも状ではなく、二つの棒状のものからバリアが張られるタイプですか」

「帝王イカの攻撃も防げそう」

「知能がある魔物だと地面を掘り起こしてヒモを壊したりと、うまくいかない場合もあるみたいですけどね」

「棒も壊されたら意味ないか」


 あくまで簡易的なものという事か。それを聞いて少しだけ安心した自分がいる。冒険者の仕事が消えたところで私には関係ないはずなのに。


「これを買いましょうか。フフフ、モノネさんと買い物……ウフフ」

「ルンルン気分で買うような金額の品じゃない」

「経費は辺境伯から落ちますよ」

「それはいいんだけどさ」


 遠い異国の地で、友達と買い物。特殊な状況に思えて、ごく当たり前でもある。その前途がおかしいだけで、ありふれた日常。布団の上で、私の隣にはアスセーナちゃんがいる。私の腕を取り、寄りかかってくる。やっぱりスキンシップは過剰だ。

 会計を済ませて一安心。これで一応の目的は果たしたわけだ。後は私がこのバリアウォール君に"列車が来てドアが開いたら解除して"と命令するだけ。


「この後はどうします? まだ見て回りますか?」

「このまま帰るのも惜しいからね」


「やぁやぁ! 皆さん、今日も精が出ますなぁ!」


 店に入ってきたのはとてつもない巨漢だ。いや、体型はガムブルアの2倍くらいある。首が肉で埋もれて、肥え太った体に合った赤い派手なスーツ。趣味の悪いお金の柄ネクタイ。のっしのっしと陽気に歩いてきた男の両手には紙袋があった。


「グリディさん、こんにちは! 先日、卸していただいた品ですがね……大好評ですよ!」

「おおきに! 質のいい魔導具で繁盛されてはるオタクには、ちぃっと見合わんかったかなと思うとりましたわぁ!」

「いやいや、求められてるのは魔導具だけじゃありませんからねー。それで今日はどのような用件で?」

「これな、差し入れや」


 おじさんが紙袋から取り出した箱を開く。それは全部ビッグサイズのピザだった。焼いたチーズの香しさがこっちまで漂ってくる。あの人を歓迎しているのは店員だけじゃない。客も皆、笑顔で迎えていた。


「これはこれは気を使っていただいて……」

「なんもなんもぉ! うちかておいしい思いさせてもろうてますからなぁ! 今日はオタクもうまいもの食ってもらわんと!」

「いやはや、グリディさんには頭が上がりませんねぇ」

「せや! お客さんも小腹すいとるやろ! よかったら食べてってな!」


「アスセーナちゃん。お腹空いたよね」


 聞いて確認はしたものの、たとえ断られても食べるつもりだ。どさくさに紛れて忍び寄り、ピザに手を伸ばす。ふっくらとしたパン生地に熱々のチーズがマッチしていて、おいしすぎる以外の言葉がない。ちゃっかりアスセーナちゃんも食べてる。


「これはいけますね。イルシャさんがいたら、大変な事になってました」

「あの子には内緒ね。バレたらうるさそう」


「嬢ちゃん達は観光か?」


 気づかれた。いや、いただいている手前だからいいんだけどさ。もぐもぐしながら無言で頷くと、機嫌がよさそうにグリディというおじさんも返す。


「ええ国やろ。ここはモノで溢れていて不便がなんもない。大昔からは考えられんわ」

「大昔は違うんですか?」

「そらもう、明日の飯すら危うい貧乏な国だったらしいで。それが今じゃ隣の国とすっかり逆転しはってなぁ……わからんもんや」

「ふーん……」


 このエピソード、どこか引っかかる。などと考えたところで、ピザのおいしさの前じゃどうでもよくなった。店員も客も大満足の空気の中、グリディさんは額の汗を拭いながら何かを思いついたように両手を叩く。


「せやせや! せっかくや、即売会に来んか? ワイが主催しとるもんでな。他じゃちぃっと見られんはずやで」

「アスセーナちゃん、どうする?」

「まだ時間はありますし、行きましょうか」

「でも買わないといけない空気だったら帰る」

「なんもなんもぉ! 大半が冷やかしやけど、客は客や! 気軽に来てもらってええんや! 皆さんもどうや?」


 ピザの空き箱を片付けたおじさんが、片手で来いと促す。なんと私達以外にも、かなりの人達がついてきた。この様子からして、信頼のある豪商なんだろうけど何者だろう。あの体型を作るほどだ、相当儲かってるに違いない。


「マスター、二つほどお耳に入れたい事がありまス」

「うん?」

「一つ、少し前から尾行されてまス。戦闘Lvは取るに足りませんが、姿がどうにも確認できませン」

「ゲッ、なんでさ。火種は嫌だ」

「もう一つはあのグリディとかいう商人……戦闘Lvが80を超えてまス」

「ウソォ! あの体型で?」


「どちらも少し様子を見ましょう」


 片手に持ったピザをかじりながら、アスセーナちゃんは余裕だった。なるほど、どっちも気づいた上での行動だったか。さすがの余裕だ。と思ったら眠いのか、私の膝に頭を乗せ始めた。膝枕は許可してないし、ピザもまだ残ってる。行儀が悪いぞ。


◆ ティカ 記録 ◆


さすがの魔導具国 中には 使い方次第で とてつもない事態になるものや

使用用途が わからないものまで 様々ダ

しかし どれを ひっくるめても この僕がいれば 大半が不要なもノ

マスターに 褒めてもらったのだから 間違いなイ

この僕こそが すべての 魔導具を 凌駕する者

うむ 物霊使いの 従者としては 申し分なイ


二つの不安要素 どう対処すべきカ

なぜ 姿が見えないのカ それほど 遠い位置にはいないはズ

何が目的なのカ

そして グリディとかいう男 こちらも警戒に値すル

間違いなく ただの商人ではなイ

マスターが可憐すぎて 声をかけたくなる気持ちは わかるが

あまり軽率な真似をすれば 対処すル


引き続き 記録を 継続

「魔導具ってすごいね。何でも出来ちゃいそう」

「それだけに魔術協会の一部の方々はいい顔をしてませんね」

「なんとか派の方々? 魔法の上をいかれたら都合が悪いってことね」

「わざと魔導具を集めて処分したり、協会内でも所有を固く禁じているそうです」

「実益を生まないプライドの無駄さよ」

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