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アイスを食べよう

◆ マハラカ国 港街タハラージャ 冒険者ギルド 会議室 ◆


「ふむ、詳細はよくわかった。本当によくやってくれた……」


 目が覚めたら、まだ戦闘Lv特定会議が終わってないのか。2時間にも及ぶ会議とか、私が起きてられるわけない。どうせアスセーナちゃん主導だったし、遠慮なく眠らせてもらった。あの強面支部長に斧で真っ二つにされるかなと思ったけど、意外と甘くて助かる。顔の割にいいおじさんだ。


「……すまないな。疲れてるのに長々と付き合わせて」

「おはようございます」


 寝ぼけて挨拶したけど、この支部長が顔に似合った性格なら斧で真っ二つにされてる。アスセーナちゃんが報告書の束をまとめながら、挨拶を返してきた。全部あの子に任せてしまって多少の罪悪感がないこともない。だけどこれが冒険者としての常務なら、私には務まらないと思う。


「ごめんね、アスセーナちゃん。寝ちゃった」

「いいんですよ。冒険者の中には報告書だけで済ませる人もいますから、出席するだけでも偉いです」

「じゃあ、それでよかったんじゃ」

「話し合えばそれだけ情報の精度が上がるかもしれません。他の冒険者にそれが伝わって生存率が少しでも上がってほしいですからね」

「さすがすぎる。私には到達できない思考の域」


 伊達にシルバーやってないな。考えれば考えるほど私なんかが冒険者をやっていていいものか。目をこすっていると、斧支部長が優しく目を細めていた。


「何せ君はダーナを彷彿とさせるからなぁ。う、思い出したら涙が……」

「支部長、モノネさんはアイアンの称号を貰えますよね?」

「もちろんだ。そしてアスセーナ、君にはゴールドの称号が授与されるだろう」

「わ、私がゴールドですか?!」

「当然だ。そのくらいの偉業を成し遂げたのだからな、誇っていい」

「私がゴールド……」


 アスセーナちゃんですら実感が沸かないのか。そしてこの私がアイアンだなんて、夢みたいだ。嬉しいという感情はなくて、本当に夢なんじゃないか。目が覚めたらいつも通り部屋の中。まだ眠いから昼過ぎまで寝ていようと二度寝。そんな平和な日々。

 だけど、そうなればここにいるアスセーナちゃんとの出会いも夢になる。それだけは絶対に嫌だから、これは現実であってほしい。そう考えると冒険者自体はさておき、結果的にはよかったのかな。


「よかったね、アスセーナちゃん」

「モノネさんもですよ。嬉しいですか?」

「そりゃ嬉しいよ」

「フフフ、そんなに嬉しくないですよね」

「そんなことないよ」


 ずばり言い当てられた。ゴールドの称号で嬉しそうにしているアスセーナちゃんの前だからウソついたけど、お見通しか。

 この私が誇りをもって冒険者をやってるわけじゃない事くらい、アスセーナちゃんならわかる。それどころかイルシャちゃんやレリィちゃんにだって。


「ま、冒険者になってよかったと思う事も多少はあるよ」

「多少ですか」

「じゃあ大いにある」

「私もです」


 頬を染めたアスセーナちゃんが手を握ってくる。いつもみたいに布団にダイブしてくるかと思って身構えちゃった。

 握られて気づいたけどアスセーナちゃんの手、タコだらけだ。ボンクラな私でもわかる。これは何かすごい特訓したな。


「アスセーナちゃん、手が……」

「私が帝王イカ戦で使ったスキルありますよね。こっそりヴァハールさんに鍛えてもらったんです」

「いつの間に」

「何をするにも簡単に出来てしまった私が、です。ヴァハールさんに軽くあしらわれて火がついちゃいました」

「アスセーナちゃんってすごい負けず嫌いだもんね」


 悔しいです、がお得意のセリフだけどあれは本気だ。イルシャちゃんには料理で及ばず、薬の知識ではレリィちゃんに負けて。彼女にとっては、ここ最近になって敗北の連続だった。


「アスセーナちゃんは誰にも負けないよ。元々強い子が努力なんてしちゃったら、もう誰も追いつけない」

「モノネさんにそう言われると、本当にそう思えますよ」

「そう?」


「あー、コホン」


 斧支部長が気まずそうだ。内輪の馴れ合いを見せつけてごめんなさい。用が済んだら退散すべきだ。


◆ マハラカ国 港街タハラージャ 冒険者ギルド前 ◆


「報告終わったかー?」

「ナナーミちゃん、ちょうど来てくれたんだ」


 その両サイドにいる二人が、何やら気になるものを持っている。黄色いスナック状の筒の上に白いクリーム。それを舐めていた。さすが食べ物には目がないな。


「モノネさん、この国はすごいわ! これアイスクリームっていうのよ!」

「あぁ、そういえばそんなのがあるって話だったね」

「冷たくて甘い! 口の中でふわりと溶けていく! 私の発想だと数百年かかっても辿りつけないの!」

「いや、案外すんなりと行きつくんじゃ」

「無理なのよ! これを作るには」


「まー、異国の文化ってやつはいつも驚かせてくれるよなー」


 ナナーミちゃん、ナイス。このまま食べ物トークが続くと面倒だ。レリィちゃんも同じアイスクリームを持っているけど、すでに溶けてポタポタと落ちている。早く食べないと溶けるのが欠点か。時間制限つきの食べ物は性に合わない。だけど気になる。


「それどこに売ってるの?」

「いろんなところにあるけど、お勧めは"ミルメルミミルク"よ」

「頭おかしくなりそうな店名だ」

「アイスクリームなら王都にもあるけどなー。食いたいなら行こうぜ」


 幽霊船、帝王イカと激務続きだったからこういう雰囲気は新鮮だ。せっかくの異国なんだから楽しまないと。


◆ 港街タハラージャ アイス屋"ミルメルミミルク" ◆


 とてつもない行列が出来ていた。たった一つのアイスを買うために、凄まじい情熱を燃やしてる方々だ。私ならこの時点で帰る。


「マスター、あの親子が連れているのはゴーレムでは?」

「あんなに小さいのが?」

「僕も小さいですがゴーレムデス」

「ティカよりは大きいけどさ」


 子どもが手を引いてるのは、積み木をそのままつなぎ合わせたような不格好なゴーレムだ。よく見るとゴーレムに荷物を持たせている人もいるし、ようやくここを異国だと認識できる。更には車輪がついた乗り物が勝手に動いていた。あれはもしや物霊使いのライバル。


「アスセーナちゃん、あれって?」

「馬がなくても走る魔導車ですね。かなり高価で一部のお金持ちしか持ってませんが、便利な乗り物ですよ」

「私の存在が危ぶまれる」

「布団のほうが寝心地いいじゃないですか!」

「だよね」


「王都に行くときはアレに乗れるぞ。金は取られるけどな」


 私のアビリティがなくても、あれだけの力を発揮するとは。そりゃ布団に乗って調子こいてる奴がいても誰も興味も示さないわけだ。ユクリッド国の王都だとかなり視線が刺さったのに、この国だと魔道具の一種か何かだと思われてる。誰も見向きもしない。

 そうこうしてるうちに列がだいぶ消化されて、私達の番が回ってきた。なんか早い。


「思ったより早く食べられそう」

「私もビックリしたんだけど、答えはアレ」

「なんかうにゅっと出てる?!」


 黄色いスナックに巻貝のごとく、うにゅっと出たものが乗る。あの四角い魔道具の中にアイスが入っていて、そのまま出せるのか。そりゃ早いわけだ。ぼけっと眺めてると、前の人が注文をする番になった。


「お客様、ご注文は何になさいますか?」

「俺はストロベリーハーフメロン、モモルマシトリプルで」

「わたしはチョコレートバニラマシ、オレンジポテトフォースで!」

「かしこまりました」


「なんて?」


 何かの詠唱かな。あのカップルは魔術師だった? あのうにゅって出てくる魔道具だけじゃなくて、他にもアイスが保管されてる場所があった。店員が手前のケースから、スコップみたいなのでアイスをすくってる。


「お待たせしました!」

「どうも! いやー、これを食べるために遥々ウィザードキングダムから来たんだよな!」

「遠かったわねー」


 なるほど、やっぱり魔術師だったか。でもここで詠唱する意味がわからない。


「お待たせしました! ご注文をお伺いします!」

「え、あの」

「おれはチョコマシマシで!」

「私は今度はモモルハーフストロベリーマシ、アップルフォースにするわ」

「ではソーダアンコロマシスプライトフォースにしましょうか。モノネさんは?」


 イルシャちゃん達、さっき食べてたでしょ。異文化ならぬ異次元。国が違えば店も違う。私には早かったかもしれない。


「ソーダアンコロで」

「シングルかー。初めてにしては通だなー」


 魔力値8に詠唱なんて出来るわけない。イルシャちゃんが持ってたアイスは何だったの。シングルかな、通だね。そういえばなんでこの国まで来たんだっけ。


◆ ティカ 記録 ◆


マスターが アイアンの称号を獲得確定

ブロンズは初の称号ということで めでたかったが

今回は どうカ

僕としては すでにプラチナの実力があると 踏んでいるから

これしきのことで はしゃいでは いけなイ

むしろ ゴールドまで スキップさせても いいはズ

あの支部長といい どうにも 見る目がなイ


次は マハラカ観光

僕としては 各種ゴーレムに興味があるのだが マスターがアイスを食べている様子が

たまらなく 愛おしいので 良しとしよウ

しかし あのアイス 味のほうは どうなのカ

水色と 黒がいりまじって 毒物の様相を 醸し出していル

もし毒ならば ただでは おかなイ


引き続き 記録を 継続

「モノネさんがスカートを履いたら可愛いと思います」

「そんなもん履いたら見えちゃうよ」

「物霊に『誰かに見られそうになったら隠して』と命令すればいいのです」

「そこまでして履くのか」

「見えそうで見えないみたいなので喜ぶ人もいるんですよ。気持ち悪いですよね」

「そう思うなら推奨するな」

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