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船上生活を楽しもう

◆ 血鮫(ブラッドシャーク)号 内部 ◆


 この 血鮫(ブラッドシャーク)号、驚くほど快適な作りになってる。個室が5つ、しかもそれぞれに炎魔石と冷魔石が組み込まれた魔道具冷暖調和機(エアーコントロール)がついてた。一般の家にはまずない。私の部屋にはある。

 そして部屋を出ればキッチンと食堂、バスルーム、多目的室と幅広い。そしてバスルームの近くに設置されているすごいものがあった。


「レリィちゃん、後で洗濯するから先にお風呂に入っておいで」

「イルシャおねえちゃんも入ろう?」

「料理の下ごしらえが終わるまでは譲れないわ」

 

 この洗濯機(ウォッシュ)、水が回転して渦になって衣服の汚れを落とすという。これの迫力がすごくて、絶対に手を突っ込むなとナナーミちゃんに何度も念を押された。水自体が水魔石のおかげで、汚れが落ちやすい水に変換してくれている。

 その水回りも海水をくみ上げて飲料水なんかに変換できるから、水不足にあえぐ必要もない。排水はどうなってるのと聞いたら、知らないほうがいいと言われた。余計怖い。


「イルシャおねーちゃん! タオルとってー!」

「今、下ごしらえが佳境なの!」

「さっきから微妙にひどいな! 私がとるよ!」


 熱が入ったイルシャちゃんは、何人たりとも邪魔できない。ずぶ濡れのレリィちゃんの体を拭いてやりながら、この船の快適性について考える。私一人じゃ無理だけど、これなら何日だって航海できるはず。食料も冷蔵庫(クーラーボックス)で保存が効く。

 出航してから何日か経って不満な点といえば、暇なことくらいだ。本当に暇。アスセーナちゃんはあれから意地になって、モリで魚を獲ろうとしてるから幸せなものだと思う。昨日、ようやく一匹獲ったとおおはしゃぎしてた。なんのかんのですごい子です。


「生体感知! 戦闘Lv12の魔物が接近中!」

「どうせ問題ないでしょ」

「いえ、しかしですネ……」


「仕留めたぞー」


 甲板に出てみれば、腹を見せて浮いてる魔物がいた。船体から射出された魚雷(フィッシュキラー)の餌食になったようだ。これも高級魔道具で、取り付けられている船はほとんどない。

 そう、この船にかかれば下手な魔物程度なら戦うまでもない。操舵室から出てきたナナーミちゃんが、大きなあくびをしている。


「形状はモリという得物に似ていますが、小型化することにより飛び道具としての利便性を高めたわけですカ……」

「しかも使い捨てじゃなくて、鎖か何かで繋がっていて戻ってくるぞ」


 とか話しながら、ナナーミちゃんはティカの腕とか足をつまんで動かしてる。いきなり分解しそうで怖い。


「不思議だよなぁ。ティカってどうやって動いてるんだ?」

「この船に搭載されているオーパーツに比べたら、些細なものだよ。分解しないでね」

「するかよ」


 晴天すぎる空模様と広すぎる海。こんなのどかな海に幽霊船だの帝王イカなんてものがいるとは思えない。

 だけどナナーミちゃんに言わせれば、海は甘くない。気合が入ってるやつだ。いつ機嫌を損ねるかわからないらしい。あまりに暇すぎて、ふと備え付けられていたモリが目につく。そうだ。


「これで魚を獲るなんてねぇ」

「おい、危ないぞ。素人が持つもんじゃない」

「……そりゃっ!」


 モリを海面に突き刺してから引き抜くと、見事に魚が連なって刺さっていた。私にかかれば、誰の腕前にだって近づける。このモリはナナーミちゃんが使っていたから、その腕前が記憶されていたわけだ。当のナナーミちゃんが呆然としてた。このアビリティ、大好き。


「マ、マジかよー!? 海を怖がってたやつの手腕じゃないぞ!」

「ま、私のセンスにかかれば楽勝さ」

「悔しい……ですっ!」

「この子を忘れてた」


 せっかく練習して一匹獲れるようになったアスセーナちゃんには申し訳ない。腹いせにアビリティをばらされそう。


「いや、しかしなー……さすがにこれはおかしいだろ。よし、次は釣りをしてみるか」

「餌を垂らして待つやつだね。あんなの誰がやっても同じでしょ」

「お、言ったな? それシーサイドの船乗り達の前でも言えるな?」

「それは無理」


 調子に乗って何かを踏んだ気がした。釣り竿とやらを生まれて初めて握ったけど、どんな餌をつければいいのかもわからない。だけど問題なし。釣り竿君が教えてくれた通りにやればいいだけだ。


「お、その餌にするのか」

「あとはこれを海に落とすだけだね」

「素人め。釣りは大会が開かれるほど、奥が深いんだ。おいそれと釣れるとは」


「来たっ!」


 ぐぐっと釣り竿が引き上がり、私はそれに腕を添えるだけ。そして餌に釣られた魚が海面から飛び出す。片手でキャッチして完了。赤い鱗の魚がすごく跳ねている。


「そ、それニードルフィッシュじゃないか……」

「そんなに驚かれるなんてね。またやっちゃったかな?」

「バカッ! すぐに口を閉じろ!」

「え……ひぎゃっ!」


 かぱっと開いた口から針みたいなのが飛び出してきた。バニースウェットのおかげでかわした後、すぐに捕まえて口を閉じる。


「はーっ、はーっ……ビックリした……」

「ニードルフィッシュ、戦闘Lv2ですネ」

「魔物かい!」

「警戒心が強くてあんまり釣れない魚だけど絶品なんだよ。だけど今みたいに攻撃してくるから、釣り人なら知らない奴はいねぇ」

「そんなものが釣れるとは」


「これでハッキリした。その布団といい、物に何かを働きかけるアビリティを持ってるだろ?」


 ハッキリさせられた。アスセーナちゃんが私の後ろで肩を震わせて笑ってるのが腹立つ。今日は布団で寝せてあげない。


「フォームもガタガタだったしな。知識か動作か……いずれにせよ、物から引き出しているのはほぼ確定だ。違うか?」

「違いますね」

「そうか。おれの勘だと100%だと思ったんだがなー。でもその変なスウェットも、戦闘時に役立つだろ?」

「モノネさんのアビリティについては正解ですよ」

「こらぁ!」

「これから帝王イカに挑むんですから、情報は共有しておいたほうがいいです」


 ぐぅの音も何の音も出ない。今の今まですっかり忘れていたし、思い出した途端に憂鬱になってきた。冷静に考えて勝てるわけないし、所詮は海に出るための口実だ。依頼は失敗ということで、スルーしたい。


「ナナーミさんは信用できますよ、モノネさん」

「信用できる?」

「どうかなぁ?」

「ニヤニヤされてるもうダメだ帰る」


 キシシと笑った後で背中を優しく叩いてくる。私よりも高い身長のせいで、どことなくお姉さんっぽく思えた。というか年齢は私よりも一つ上らしい。


「冗談だっての。とんでもないアビリティだな……確かにそれは知られないに越したことはないぜ」

「だよね」

「おれが思いつく限りで、あんなことやこんなことも出来るな。だとしたら、絶対に欲しがる連中はいるはずだ」

「そういう物騒な連中はゴールドの人達に討伐してほしい」

「特に目指しているマハラカ国だと……ん?」


 言いかけてやめるな。ますます行きたくなくなる理由が増えそう。ナナーミちゃんが空を見上げて、周囲も見渡す。空気をひときしり吸った後、長く吐く。


「これはシケるな。パパならこんなもん出航前にわかってたんだろうなー」

「えー? こんなにいい天気なのに?」

「だから海は怖いんだよ。いつ機嫌を損ねるかわかったもんじゃない」

「本当ですね。なんとなく曇ってきました……」


 確かにかすかに薄暗くなってきた。やや強い風が頬に吹きつける。こそっと布団君の上に退避っと。


「引き返す?」

「バカ言え。突き進むに決まってんだろ」

「沈まない?」

「嵐ごときはどうでもいい。問題はイカだろ」

「幽霊船もですね」


 段々と波による船の揺れが大きくなってきた気がした。布団君の上からでもわかる。そして手に当たった水滴、これは雨だ。今はにわか雨程度だけど、ナナーミちゃんの発言のおかげで危機感しかない。


「遊びは終わりだ。お前らはここで番張っててくれ」

「わかった。退避して……なんて?」

「嵐に乗じて襲ってくる魔物がいるんだ。絶対じゃないが念のため、だよ」


「雨、強くなってきました」


 雨と共に風が強くなり、高い波が行く手を阻んでるように見える。揺れる船の上で、アスセーナちゃんとナナーミちゃんはバランスを保っていた。雨音がうるさくなってきて、ついには空が光る。


「これ本当に大丈夫? 雷も落ちそうだけど?」

「雷ごときも心配すんな。それよりも」


「おぉーい」


 遠くから何か聴こえた気がした。


◆ ティカ 記録 ◆


この船 かなり高度な魔導具が 積まれていル

船長の船とはいうが 一体 どれほどの大金があれば

ここにある 魔導具が 揃うのカ

まさか 略だ いや それは ない きっト


ナナーミさん 予想以上の 勘の鋭さデス

マスターの アビリティを見抜くとは となれば

実力は アスセーナちゃんに 迫るかもしれなイ

この方も 例によって 戦闘Lvが 低イ

平常時で 大体20程度

マスターの 釣り もう少し 見たかったが

それどころでは なくなってきタ


引き続き 記録を 継続

「魔導具ってどれもこれも便利だよね。もっと普及すればいいのに」

「純度が高い魔石でなければ役に立ちませんから貴重なんです。それに魔具師の方々が心血を注いで作成されてますからね」

「量産となると厳しいわけか」

「腕がいい魔具師も貴重です。志望者は多いものの、きちんと育つのはわずかという厳しい世界なんですよ」

「下手すれば何年も棒に振るわけか」

「モノネさん、自分はそうならなくてよかったーみたいな話に持っていこうとしても無駄ですよ」

「もう無理して話をしなくてもいい気がしてきた」

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