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出航準備をしよう

◆ カクティス国 港街シーサイド 船着き場 ◆


 私達、ご一行を凝視してくるナナーミちゃん。ちゃん付けすれば少しは怖さも半減するはず。あろうことか、私に接近してきてうさ耳から布団まで観察される。


「なるほど。普通じゃねーな。さっきボコった口先と図体だけの冒険者とは違う」

「ありがとう」

「それからそこの金髪ツインテール、お前も強いな」

「うふふ、嬉しいお言葉ですわ」

「アスセーナちゃんの猫被りモード、久しぶりに見た」


 私達の話は聞いてるはずなのに、わざわざ観察して何の意味があるんだろう。そして今度はイルシャちゃんとレリィちゃんのところへ。イルシャちゃんが、何この人みたいな顔を隠そうともしてない。レリィちゃんなんか完全に怯えて布団に乗り始めてる。


「これは香辛料の匂いか? そうか、お前は料理人だな」

「そうよ。それが何か?」

「そっちの布団かぶってるガキは薬を揃えてるな。その歳で薬師か?」

「ちがう」

「いや、なんでウソつくんだよ」


 さっきの暴行現場を見せつけられて、平静でいられる子どもはなかなかいない。だからといって布団に退避されても、庇ってやれる自信がない。怖がらせてるとわからないものかな。自分を客観視できないのか。さすがに私もそろそろイライラしてきたぞ。


「……怖がらせちまったみたいだな。悪かった、謝るから出てきてくれ」

「おぉ?」

「なんだよ、ウサギ女?」

「なんでもない」


 布団から頭だけ出したレリィちゃんが、ナナーミちゃんを見上げる。怯えながら布団から降りたレリィちゃんに、ナナーミちゃんがしゃがんで目線を合わせた。


「ごめんな」

「……うん」

「その薬は自分で配合したのか?」

「お薬が入ってるとわかったのが怖い」

「さっきボコった男を見て、ポーチから何か取り出そうとしてただろ。怪我人に差し出すものなんて一つしかないからな」

「でもそれでレリィちゃんが薬師とは限らなくない?」

「慌てる様子もなく、冷静に取り出そうとしてたところからしてプロかなーって思ったんだよ」


 そこまで観察してたのか。こっちに来る前にすでに私達に気づいていたわけだ。船長の娘だし、この子も何らかのアビリティ持ちかもしれない。いずれにしても、そりゃ船長の娘だなって感じだ。腕っぷしもよし、私達とそう変わらない歳で船も持ってる。また一つ、同年代との差を実感できた。


「……まぁいいんじゃね、お前ら。気に入ったよ」

「会って間もないよ?」

「勘と人を見る目だけは自信があるんだ。さっきのあの口先冒険者は、見た目がすでに気に入らねぇ」

「この恰好は気に入った?」

「センスはどうかと思うが、それとこれとは別だなー」

「安定のダメ出し」


 なんでだ。これ絶対かわいいと思ってるけど、誰もわかってくれない。いや、やけに密着してくるシルバー子ちゃんだけはわかってくれる。スキンシップが過剰気味だけど。


「まぁ、おれの事は程々にしておいてだな。お前ら、船に乗りたいんだろ? 気に入ったから乗せてやるよ」

「ありがとう。でも船は出せないんじゃ?」

「あ? 関係ねーよ。あいつらが勝手に決めてるだけだ」


「そうはいかんぞ、ナナーミ」


 屈強な船乗り達が続々と集まってくる。まともな人間なら、この状況だけで気が動転しそうなほどの威圧感だ。その中でも特に強そうなおじさんが、ナナーミちゃんを見下ろす。


「いくらお前といえども、認めるわけにはいかん」

「おれの性格は知ってんだろ? やりたいようにやるのがおれだ。商船ギルドだろうが関係ねぇ」

「俺達もこの港町の人間も、お前には何度も助けられた。その実力もよく知っている。だがな、こればかりは見過ごせん」

「おれは商船ギルドにも何にも属してねぇ。止める権利なんざねーだろ」

「だからこそだ。属してないということは、認められない権限もあるということにもなる」

「知るか」


 一触即発な雰囲気だ。体格だけならあのおじさんのほうが圧倒的に上だし、怖気づいても不思議じゃない。だけどナナーミちゃんは凄まじい目つきで対抗してる。今に殴りかかってもおかしくない。


「こんな事態なのに、衛兵がこない」

「この国ではギルドの力が強いですからね。内輪揉めは勝手にしろというのが暗黙のルールなんです」

「それでも、ナナーミちゃんはどこにも所属してないんだ」

「パパにも冒険者登録だけでもしておけと言われたけどな。所属するってことは倣えってことだろ。絶対ゴメンだね」


「ナナーミ、お前に何かあったらオヤジさんにどんな顔すればいいんだよ……」


 あのサーベルでなます切りにされるかもしれない。そんな展開を想像すれば、泣き落したくもなる。現におじさんがげんなりし始めてるもの。


「はぁ……お前らはどうなんだ? 海を渡りたいんだろ?」

「え? うん、納期とかいろいろあるからね」


 ナナーミちゃんが急に私に振ってくる。元々は私達の問題だから当然か。


「そんなものは誰だって同じだ。お前らは幽霊船と帝王イカの恐ろしさを知らんだろう」

「おじさんは知ってるの?」

「幽霊船は見てないが、帝王イカはな……足一つで人間の船なんか簡単に転覆させられるくらいでかい……」

「おっさんのトラウマを尊重してやりたいけどなー。結局お前らだよ、お前ら」


 ビシッと指されて、ますます後に引けない。私達にこそ、どうしろと。


「お前らがきちんとこいつらをどうにかする意志を見せるべきだろ。そうでないなら回れ右して帰りな」

「ごもっとも」


 だけど帝王イカと幽霊船をどうするかの算段がないのも事実だ。うまく迂回できないかな。


「商船ギルドの皆さん。私、シルバーの称号を持つアスセーナと言います」

「おう、知ってる。初めまして」

「初めまして。私達が正式に冒険者ギルドから依頼を受けたとしてもダメですか?」

「幽霊船と帝王イカの討伐か? あれにも条件があってな」


「なんだよ、条件つきならそう言えよ」


 ナナーミちゃんが毒づく。でもこの子は冒険者でもないから、その条件にすら乗っかれない。そういう意味でおじさんは止めたんだと思う。

 とんでもない依頼を引き受ける流れになってるけど、ここは流されるしかない。海だけにね。


「つまり商船ギルドが提示した条件を満たさなければ、冒険者ギルドで依頼を引き受けても海に出られないと?」

「そうだ。船で海に出る以上は、俺達の網から逃れられんってことだな」

「わかりました。その条件を教えていただけますか?」

「お前らがそれぞれ、ゴールドの冒険者級の実力があると俺達に認めさせろ。それが条件だ」

「イルシャさんやレリィちゃんもですか?」

「当たり前だ」


 ありえない。この人達、無理難題をふっかけて諦めさせようとしてる可能性がある。こんな横暴がまかり通っていいのか。何様だ。


「おじさん達に勝てばいいの?」

「俺達に勝っても何の自慢にもならんぞ。方法は自分達で考えな」

「俺なんか戦闘Lv9だからな!」

「おやっさんは確か20近いんだっけ?」

「19だな」


「そうですね。確かにその程度なら、称号がない冒険者でも勝てちゃいます」


 アスセーナちゃんの悪気ないナチュラル発言に、船乗り達が凍りつく。発言者がこの子だからよかったものの、そうじゃなかったら袋叩きにされかねない。唯一、ナナーミちゃんだけがケラケラ笑ってる。

 しかしこの船乗り達、自分の戦闘Lvを知ってるとは。冒険者じゃなくてもわかるものなのか。


「アハ! アハハハ! そうだよな! てめーらが大して強くないのに、人にはうるせーんだもんな!」

「だ、黙れナナーミ! 出航に関しては俺達が管理してるってだけだ!」


 顔を赤くしてナナーミちゃんとじゃれ合ってるおやっさんを眺めながら、私の中で何かが煮えたぎる。危険なのはわかってるけど、たかが船を出すくらいで何でこんな下らないものに付き合わなきゃならない。


「とにかく! できねぇなら出航は許さねぇ!」

「わかりました。モノネさん、まずは冒険者ギルドに行きましょう。海しか知らない人達じゃ話になりません」

「何だと?」


 アスセーナちゃんの顔つきはなんだか精悍だ。明らかに挑発されてると思ったのか、何人かの船乗り達が拳を握り締める。やんのか、コラ。私もアスセーナちゃんと同意見だ。グダグダ引き延ばすなら、いっそ暴れてやろうか。


◆ シーサイド 冒険者ギルド ◆


 有名人のアスセーナちゃんが、まずギルド長を呼びつけるという大胆な行動に出る。穏やかじゃない雰囲気に、冒険者達は何事かと固唾を飲んで見守っていた。

 これがまた腰が低そうなおじさんギルド支部長で、船長とは比較にならないくらい頼りない。はげあがった頭を光らせて、ペコペコと頭を下げている。


「……ですから、こちらに優先権があるわけです。商船ギルドが管理するのは漁船や商船のみです。

冒険者ギルドの依頼にまで介入する権限などないのですよ」

「し、しかしですね……」

「ギルド支部長はあんな人達に気圧されて、条件を飲んだのですか?」

「はい、まぁ……」


 理詰めに次ぐ理詰めで辟易したのか、ギルド支部長はハンカチで額を拭いてばかりだ。


「実績や国への貢献度はこちらのほうが上です。ダメ押しに七法守の方も交えて、彼らとお話しましょうか」

「あ、あの方々を?! さすがにアスセーナさんといえどそれは……」

「出来ます。その為の実績ですからね。まぁそれは最後の手段としましょうか」


 アスセーナちゃんの笑みが悪魔のそれだった。角と尻尾が生えていても違和感ない。どうやら船乗り達は、やってはいけないことをやってしまったようです。


◆ ティカ 記録 ◆


僕が 納期について 説明しなかったら 旅は中断されていタ

やはり マスターには 僕が 必要ダ

しかし 難問に ぶち当たル

船乗り達には 確かに 憤りを 感じル

冷静に対処するのが 最善かと思われたが どうやら

アスセーナさんが 何かを 考えていル

確かに 冒険者ですらない 彼らに 知ったようなことを

言われては 腹も立つカ

僕としては マスターは とっくにゴールドクラス以上なのだガ


引き続き 記録を 継続

「あの船乗り達、自分の戦闘Lvを知ってたよね」

「カードがなくても、基準がわかればおおよその数値がわかりますからね。それにしても、あの商船ギルド長が19……よく今まで生きて……」

「アスセーナちゃんもだいぶ煮えくり返ってるね」

「いえ、海の魔物は陸よりも解明されてないものが多いですからね。その分、19の実力では不足なんですよ」

「船上で真の実力を発揮とか? あ、これ小説に使おう」

「本当、何がゴールドの実力を見せろと……ろくに知りもしないくせに……」

「これ相当お怒りだ」

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