駅建設について考えよう
◆ ランフィルド 冒険者ギルド 個室 ◆
「ティカが戦闘Lv60って言ってるんだからさー」
「それを確固たる事実と確認するために、こうして話し合っている」
侵略する斑頭の討伐及びジャロ豆の採取完了の報告をした。斑頭は未踏破地帯の魔物だから戦闘Lvは不明。これがまた面倒だ。何せ船長に戦闘の詳細を説明して、そこからおおよその戦闘Lvを算出するんだから。アスセーナちゃんがいなかったら、戦闘Lv不明にして投げてた。
「侵略する斑頭、推定戦闘Lv60だな」
「だからそう言ってる」
「毒を持っているかどうかの情報も欲しかったところだ」
「調べたところ、持ってませんでしたね。キングボアも絞め殺していましたし」
「なるほど」
こんなやり取りがずっと行われている。本来ならブロンズの称号持ちとして、議論に参加すべきだけど何せ戦闘に関しては素人もいいところだ。わからないことがあったら、バニースウェットと達人剣に聞くしかない。
「このレベルの魔物でさえ追われる環境か。それとコウモリ悪魔のような魔物も気になるところだな」
「あれは戦闘Lv90くらいはありますかねー。モノネさんに恐れをなして逃げましたけど、もし襲ってきたらかなり面倒だったはずです」
「私じゃなくてアスセーナちゃんに、だからね」
「この分だと、あそこの探索は先の話になりそうだな……」
この鬼強い船長がため息をついて天井を仰いでいる。そんな魔境の話よりも私が気になっていたのは、アスセーナちゃんの戦闘Lvだ。今まではぐらかされてきたけどようやく観念したのか、ついに情報を開示してくれた。
名前:アスセーナ
性別:女
年齢:16
クラス:ソードファイター
称号:シルバー
戦闘Lv:112
コメント:一生懸命がんばります!
「コメントが私と大差なかった」
「奇遇ですね! ハッ……これはもしや運命」
「カンカン兄弟もこのレベルだよ」
「ひぃーん!」
そんなに絶叫しなくても。というか、どうしてそういう方向にもっていきたがるのか。戦闘Lv112に驚愕。これに比べたらウサギファイターなんか、ゴブリンクラスだ。
「これだけ強かったら、コウモリ悪魔なんか楽勝でしょ」
「チッチッチッ、モノネさん。前に言いましたよね? 戦闘Lvはあくまで『私が倒した一番強い魔物のレベル』です。つまり、112の魔物を倒せたからといって90に勝てる保証も道理もありません。魔物によって性質も違いますし、相性もありますからね」
「あ、はい」
Lv112の怪物を倒せるのが、このシルバー子ちゃんだ。やっぱりウサギファイターは隠居か。そして更新された私の戦闘Lvは60だ。いきなり上がるんじゃない。
◆ 冒険者ギルド 受け付け ◆
「モノネ君、ジャロ豆を採取してくれたみたいだね。ありがとう」
「お礼ならレリィちゃんに言って下さい」
功労者としてレリィちゃんを、この場につれてきた。ダバルさんに小さく頭を下げてる。まさかこんな子が採取したなんて、と言わせたい。
「そうか、そうか。ありがとう」
「コーヒーっておいしいの?」
「うーん、子どもにはちょっと苦いかな」
「えぇー……」
普通にスルーしやがった。この街の人達特有の適応力か。いや、なんかこの人はより突出してる気がする。これが老練の貫禄か。
「ココア辺りも考案してみるか。いやぁ、どんなブレンドにするか迷うなぁ」
「おじさん、ブレンドもいいけど約束は?」
「もちろん忘れてないよ。約束通り、土地は無料で譲ろう」
「よし、肩の荷が下りた」
「しかし駅なぁ。検討もつかんな」
「そうだ。これは始まりだった」
これはもう本当にアスセーナちゃんに任せるしかない。だけど私としては、あの駅を見てまだ足りない部分があると感じた。今日は譲ってもらった土地を前に、それを話し合いたいと思う。
◆ ランフィルド郊外 元ダバルの土地 ◆
住宅もまばらになる北東の場所は雑木林も目立ち、まだまだ開けた土地がある。その中の一つがダバルさんの土地だったわけだけど、これがまた広い。
これなら、あの列車一本分なら余裕で入る。私とアスセーナちゃん以外にシュワルト辺境伯、後はツクモポリスに興味津々なダバルさんを交えて話し合おう。辺境伯には一応、許可は貰ったけど度々立ち合いにくると言ってる。
「念のため、列車をここに呼んだほうがいいかな」
「呼ぶぞよ!」
「おっと」
辺境伯の隣に突然現れるもんだから、またまた驚かせてしまった。いや、大して驚いてない。さすがに領主ともなると肝が据わってる。
「ほぉ! これは見ごたえがある!」
「うん、これだけでも街の名物になるね。いい集客になるだろう」
何もない空間からスーッと頭を出した魔導列車に歓喜する二人。二人は知らないだろうけど、こうなるまですごい苦労したんだからね。そう思ってツクモちゃんを見ると、あどけない顔で視線を合わせてきた。
「辺境伯、これは利用客からお金を取ったほうがいいんですか?」
「いや、無料にしよう。その辺りの人件費や管理などの費用をカットして、駅周辺に店を展開したほうがいい。商人にお土産やお弁当などを販売してもらうだけでも、収益としては上々だろう。露骨な集金を見せつけないで済むメリットもあるからね」
「恐れ入りました」
「無料で提供して見せたほうが、大衆受けはいいんだ。それに列車などの維持費は不要だろう?」
「それはもう」
ちゃっかりそういうのは考えてるか。これはガムブルアが妬むのもわかる。早速、アスセーナちゃんと大まかな配置を決めているし私は用済みかな。でもその前に一つだけどうしても対策してほしいことがある。
「あのさ、あの駅ってやつだけど。線路に人が落ちたら危ないよね」
「確かにそうだね」
「もちろん列車君は止まってくれるけど、万が一ってこともあるからさ。壁をつけて落ちないようにするのはダメかな」
「私としては列車が登場する景観を損なわせたくないな。これは絶対に売りになるからね。でも対策は必要だろう」
「それでしたら、魔導具のバリアウォールを使ってはどうですか?」
「何それ」
「見えない壁を作り出す魔導具です。強度によって値段が変わりますし、ホーム全体をカバーするとなると……はぁ」
提案しておいて急に沈まないでほしい。これはお金がかかりそう。アスセーナちゃんの資産を持ってしても、ため息をつかせるほどの代物だもの。ちらりと辺境伯に期待の一瞥を送る。
「うん、費用は考えておくよ。だけど魔道具なんて、この街にもあまり入ってこないな」
「どれどれ、魔晶板で手に入らないかな……ないっぽい」
「それなら直接、仕入れに行くしかありません」
「となると?」
「魔導具といえば、マハラカ国だな。あそこに行けば、大概のものはあるだろう」
「へー」
ダバルさんが教えてくれたけど、マハラカ国か。聞いたことがないし、そんなところまで遠出するのは億劫だ。
「それにそのバリアウォールだって、ずっと置き続けてると通れな……いや、私ならどうにか出来るか」
「うん?」
「いや、こっちの話です。仕方ない……安全性の為か。それに布団君ならひとっ飛びだもの」
「その布団は海を越えられるのかい?」
「え? 海ですと」
「マハラカ国は海の向こうにあるんだよ。昔は長い航海で一ヶ月以上はかかったみたいだ。今は魔石技術が使われた船が一般的だから、そんなにかからないけどね」
布団君で海の向こうか。これはちょっと考えちゃう。ここから王都くらいまでなら何てことない。でも海はなんか怖い。自慢じゃないけど、私は海というものに一度も行ったことがないから。
「モノネさん。マハラカ国には観光に行くつもりで!」
「アスセーナちゃんがついてるなら心強い。でも船に乗るんだよね……」
「船のことなら、冒険者ギルドの支部長に相談するといい。航海となれば図らってくれるだろう」
「さすが船長ということか。ありがとう、さすがダバルさん」
「いやいや」
何気に物知りなコーヒー屋のおじさん。アスセーナちゃんがついてくれるなら、海も怖くない。楽しい船旅を想像しよう。
◆ ティカ 記録 ◆
マハラカ国 記録の底に この名があっタ
僕は この国を 知っていル
ただし おぼろげすぎて 直接的な 関わりがあるのかどうカ
だが ここへ行くことに 抵抗がないどころか 何かを 期待していル
僕自身が 行きたがっているのか それとも
引き続き 記録を 継続
「モノネさんならこれが似合いますね!」
「だから着ないって」
「これなら?」
「それも無理」
「これは! これはぁ!」
「海に入るわけじゃないから水着なんかいらないし、必死になる意味もわからない」




