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侵略する斑頭を討伐しよう

◆ フィータル大森林 ◆


 こういう時のためにレリィちゃんを布団に乗せたまま採取させていた。変なのが来たら、すぐ上に逃がせる。いつか着せたアスセーナちゃん製の服を着せているから、空で変なのに襲われてもよほどの相手じゃない限りは平気なはず。布団君にも回避してもらうようにお願いしてる。問題はこっちだ。


「侵略する斑頭……未踏破地帯を追われた個体とはいえ、その実力はッ!」


 アスセーナちゃんが言い終わる前に強襲してきやがった。しかも今までの魔物と比べて段違いに速い。木々を縫うようにして、アスセーナちゃんの背後に回るまでの速度といったら。


「あぶなっ!」

「シャッ!」

「シャッじゃない!」


 アスセーナちゃんにかわされた途端に、ついでのように私に突撃してきた。しかも蛇なもんだから、かわされても木に巻き付くようにして潰す。つまり障害物なんてあってないようなものだ。


「フリーズガンッ!」


 ティカがまた何か新しい攻撃を始めた。放射状に放たれたのは冷気かな。あれなら素早いあいつも、かわしにくいはず。冷気を浴びせられた斑頭はうねった後、ティカに目をつける。だけどその隙をアスセーナちゃんが見落とすはずもなかった。頭を向けた直後に、顎の下をかっさばくようにして斬る。


「固いですね……。一応、スキル込みの威力なんですが」

「さっきのコウモリ悪魔より強いんじゃないの、あれ」

「あの魔物も、未踏破地帯の中でもそんなに強くないほうだと思いますよ」

「ウソでしょ」

「そういう場所なんですよ。だから未踏破地帯なんです」


「シャッシャッ!」


 なんか蛇野郎が反応してる。バカにしてるとも取れるような、鼻につく鳴き方だ。このバニースウェットのおかげか、なんとなーくだけど魔物の感情とか言わんとしてることがわかるような気がした。あいつ、いい気になってる。顎を斬られて血を流しているものの、まだまだ動けるみたいだ。


「ねぇ、採取は終わったから帰るって選択はなし?」

「この魔物を生かしておけば、フィータル大森林の生態系が崩れます。主のキングボアだけでなく、大森林の生物が絶滅しかねません」

「なにそれ怖い」


「シャァァッ!」


 キレたのか、またうねりにうねって迫ってきた。達人剣君も攻撃のタイミングの見極めが難しいみたい。不規則なその動きに苦戦中だ。それならバニースウェットの出番。イヤーギロチンを、長い胴体に振り下ろす。


「よし! 斬れた!」

「油断しちゃダメです!」


 長い胴体をすっぱりと切断したものの、頭はご健在だ。短くなっても変わらずの速度。それどころか斬られたほうの胴体がまだまだうねって、周囲の草木を跳ね飛ばしてる。


「なにあれぇ!」

「生命力が高いのでしょう。完全に動きを止めるまで時間がかかりますね」

「鳥の首を斬っても少しの間だけ動き続ける体の話を聞いたことがあるけど、あれみたいなものか」


 のたうち回ってる胴体も、こっちに狙いをつけて突撃してくる蛇本体も厄介すぎる。これ、胴体を斬ったらまた不利になるわけで。ティカのフリーズガンのおかげで、動きが鈍くなってるのが救いだ。こうなったら、風車で突撃合戦でもするか。


――いや、奴がこっちに狙いをつけてくるなら待てばいい


「モノネさん。こういう素早い敵は下手に追うよりも待ったほうがいいです」

「実力者同士の発想は似るか」


 不思議と私達の行動は一致した。私と背中合わせでアスセーナちゃんが後ろを守ってくれる。これから死角はほぼない。来るならこい。蛇が迫――


「えっ……」


 らないで突如、頭の後ろの切断面を地面に打ち付ける。何をしたかと思えばそのまま空へと昇っていった。まさかあの蛇野郎。


「レリィちゃんを狙った!」


 ウサギの跳躍力で追いつけるかどうか。追いついたところで、空走を一撃入れるのが限界だ。布団君は逃げてくれるだろうけど、絶対に助かるという保証なんてない。さすがに予想外すぎた。

 私達を簡単に殺せないとなると即ターゲット変更なんてね。未踏破地帯から逃げてきた習性がもろに出てる。


「間に合――」


「瞬着」


 何が起きてるのか。アスセーナちゃんが空中に現れて、蛇の真上を取る。そのまま剣を振り下ろして、頭にばっくりと一撃を入れた。


「ギシャァアァッ!」

「え? え? なに?」


 さすがに効いたのか、蛇がまた森へと転落していく。アスセーナちゃんの姿はもうない。落ちてきた大蛇が痛みで悶えながらも、またしゅるしゅると戦う態勢へ整え始めた。


「モノネさん! 今ですよ! 頭を潰せば終わります!」

「うわっ! 後ろにいたの?!」

「そりゃいますよ! 早く!」


 状況を把握させてほしかった。渋々、というわけじゃないけど念には念を入れてバニースウェットと達人剣の合わせ技、風車を発動。縦回転の刃が大蛇の頭に斬り込み、みじん切りと呼ぶのも悲惨な状態にする。残ったのは爆散したかのような大蛇の頭と長い胴体だけだった。


「ふー……今度こそ暴れないよね」

「さっき斬った胴体もようやく大人しくなりましたね」

「危なかったホント……で、今のは何?」

「……私のアビリティです」


 何故か気まずそうに答えるアスセーナちゃん。そういえばアビリティ持ちだったっけ。大蛇の亡骸の前でモジモジして、アスセーナちゃんが消えた。


「こんな風に、一瞬で好きな場所に移動できるんです……」

「わひゃい! だからビックリさせないでってぇ!」

「すみません……」

「無敵すぎるでしょ! そんなのあるなら、あのヴァハールさんにだって勝てたよね?!」

「いえ、それは……」


 なんか煮え切らないな。突拍子もない無敵アビリティを見せつけられて、私は興奮を抑えきれない。レリィちゃんが残りのジャロ豆を採取する中、アスセーナちゃんが上目遣いですごい見てくる。


「アビリティを持たない方に使うのは気が引けて……。そもそも私、このアビリティ好きじゃないんです」

「どうして? ジャンジャン使えばいいのに」

「私が鍛錬によって得たものじゃないので、これでアドバンテージをとっても後悔するんですよ。アビリティがなかったら私、負けてたかもって……」

「アビリティしかないウサギファイターどうするの」

「モノネさんはいいんですよ。それしかないから」

「ひどく傷ついた」


 アスセーナちゃんともあろう方が、些細なことで悩んでる。いや、元々悩むほうか。私みたいなのに目をつけて、あれこれ自分について考えていたくらいだもの。


「アビリティがなくても強い方はたくさんいます。そういった方々に負けたくありませんし……」

「悔しがりなアスセーナちゃんらしいね。だけど私からしたら贅沢な悩みだよ」

「そんな!」

「世の中にはすごい真面目に努力しているのに、負けたくない相手に負ける人もいるんだよ」

「それはそうですけど……」


 重傷を負ったフレッドさんの姿が目に焼き付いている。鍛錬で得た力じゃなかろうが、勝ちたいはず。勝てなくて大怪我して震えるほど悔しがるんだ。負けるというのはそういうこと。プライドも積み上げてきた努力も実績も、全部否定される。だから私は努力せずに逃げてる。


「そんな人達の気持ちを考えろとは言わないけどさ。勝てるのがどれだけ恵まれているのか、少しだけ考えてみたほうがいいんじゃないかな」

「……勝てないのは確かに悔しいです」

「そうでしょ。だったらアビリティだろうが何だろうが、勝てることに感謝しないとね」

「私、思い上がってるんでしょうか」

「うん」

「ひどく傷つきました!」


 意趣返し大成功。とはいえアスセーナちゃんは本来、私ごときが偉そうに言える相手じゃない。だから完全にノリだ。この子にはこうやって元気いっぱいでいてほしいから、結果オーライ。


「アスセーナお姉ちゃん」

「レリィちゃん……」

「ありがとう」

「レリィちゃぁん!」

「んぎゅっ」


 すぐそうやって抱きしめる。身長差もあって、レリィちゃんが苦しそう。んぎゅってるから離したほうがいい。


「すごすぎるアビリティだから、もっと使ったほうがいいよ。私なんか引退してもいいかな」

「ほらぁ! そうなるから極力、使いたくなかったんですぅ! 言っておきますけど弱点や制限もありますからぁ!」

「そうなってしまったからには引退だ」

「させませんから! 弱点や制限をたっぷりと教えた上で、モノネさんのアビリティがいかにおかしいか思い知らせますからぁ!」

「やめてほしい」


 視界の範囲にしか"瞬着"出来ないこと。それも、ごく短い範囲にしか瞬着できないこと。合間をあけずに連続使用できないこと。

 汎用性抜群な上に地味に成長してる私のアビリティが、ぶっ飛んでること。そもそも成長してると見抜かれていたこと。その後、布団の上で本当にたっぷりと教えられた。


◆ ティカ 記録 ◆


魔導砲 魔導銃 ファイアバルカン フリーズガン

これらの武装は 元々僕に 備わっていたものカ

それとも マスターの力によって 芽生えたものカ

僕が 何なのか ますます わからなくなル

しかし あの大蛇の動きを 制限できたのは 大きイ

推定戦闘Lv60 このレベルでさえ 未踏破地帯では 生きられないのカ

実力自体は マスター一人でも 勝てた相手ではあル

しかし 今回のように 狡猾に攻められる場合もあるので

そういう意味で 未踏破地帯は 魔境ダ


アスセーナさんのアビリティ あれを駆使した 本気の彼女を

想像するだけで 恐ろしイ


引き続き 記録を 継続

「アスセーナちゃんならゴールドクラスの人にも勝てるんじゃないの?」

「どうでしょうね。前にも言いましたけどあの人達、本当に化け物ですからね」

「例えばどんなの?」

「調香師って聞いてどんなの思い浮かべます?」

「わかんない」

「それです。もう理解不能なんです」

「なんかごまかしてない?」

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