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土地を買おう

いつも誤字報告ありがとうございます。助かります。

◆ ランフィルド 商人ギルド ◆


 以前から何とかしようと思い立ったまま放置してた案件、それがツクモポリスの街。過疎化で寂れてしまった街を救おうと決心したはずなんだ。下らないアンデッド騒動だの、いろいろ立て込んでいたせいで忘れてただけ。私の傍らにはツクモちゃんが、目の前には商人ギルドランフィルド支部長のパラップさんがいる。


「余っている土地がほしいだなんて、何か商売でも始める気になったのかい?」

「いえ、駅を作りたいんです」

「駅?」

「話すとそれなりに長くなるんですけどね」

「魔導列車の駅があれば、誰でもツクモポリスの街に入れるぞよ!」


 まずツクモポリスが何なのかを説明する段階をすっ飛ばすな。幸い、フレッドさんの結婚式のおかげであの街の知名度自体は皆無じゃない。冒険者達の間で話題になってるし、結婚式のサービスの充実っぷりを評価する人達もいる。

 前々からちらほらとあの街について聞いてくる人がいたけど、最近になっていよいよ増えてきた。ウサギといえばツクモポリスみたいになっていて、さすがにしんどい。だから、いっそ駅でも作ってご自由にお入り下さいと目論んだわけだけど。


「ツクモちゃんが選定した人なら、いつでも個人のみで出入り出来るんですけどね。それだといろいろ問題が出てくるから、きちんと入口と出口を作ったほうがいいかなと」

「なるほど、私も結婚式に出席しておけばよかったかな。ツクモポリスか……面白そうだ」

「ちなみに資源も豊富なんで、商売的にもメリットはあるんじゃないですかね」

「わかった。だが駅というのがイメージ出来んな。どの程度の土地が必要になるんだ?」

「ひとまず列車一本分の長さは必要ですね」


 列車という文化や概念がないから、そこから説明しなきゃいけない。私の拙い説明で理解してくれているのか、パラップさんはフンフンと頷いている。

 空間を飛び越えてあの街に移動するから、長いレールは不要なこと。後は乗客が立てるホームがあればいい。でも利用客数を考慮するとなったら、もうめんどくさくて投げ出したくなる。


「その駅とやらを見せてもらうことは出来ないか?」

「いいですよ。ツクモちゃん」

「ぞよ!」


 商人ギルド内にいたはずなのに、一瞬で周囲がツクモポリスの駅になる。瞬間移動とでもいえばいいのかな。この離れ業なら、あのしょうもないアンデッド軍団をここに隔離出来たんじゃないかと今更思う。


◆ ツクモポリス 駅 ◆


「ほぉ! これは壮観だな! これが列車か!」


 始めて見る列車に、パラップさんが興奮しっぱなしだ。先頭から最後尾の車両まで眺め、走ってはしゃいでる。

 それよりも一瞬でここに来られたという超常現象にもっと驚いてほしい。アンデッド騒動の時といい、この街の人達は本当に適応力が高すぎる。


「この長さと広さならば、あの土地かなぁ。だが、かなりの値だぞ」

「お金はあるんで構わないです」

「お、強気だな。じゃあ、このくらい出せるかな?」

「なんだ、そのくらい……あれ?」


 お金が明らかに少ない。この前まで贅沢できるほどあったというのに。いや、贅沢したからか。モノネさんはいい加減に学習したほうがいい。いくらブロンズクラスで収入が増えたといっても、そもそも活動してないじゃないですか。もうなんかすべてを投げ出して帰りたくなってきた。


「このくらいのお金で何とかなりませんか」

「さすがに無理だな……」


 はい、交渉失敗。商人の娘の風上にも置けない。寝たい。


「もう一つの土地ならば可能性はあるかもしれないな。そちらは別の地主がいるんだが、交渉してみるかい?」

「お願いします」

「では一度、戻ろうか……戻れるよね?」

「はい、心配しないで下さい」


 今になって不安になったか。興奮が冷めたようで何より。


◆ ランフィルド 商人ギルド ◆


「うわっ! パ、パラップさん?!」

「おぉ、驚かせてすまない」


 戻った先にいた商人が腰を抜かしそうになった。そりゃいきなり瞬間移動してきたら誰だって驚く。そういう意味では、あまり行使するものじゃないな。


「いやぁ、貴重な体験をさせてもらったよ。微力ながら、私も駅の完成に協力しよう」

「本当ですか?」

「以前、言っただろう。何かあれば声をかけてくれとな。必要な資材なんかもあるだろうから、こちらで可能な限り手配しよう」

「こんな私のために、ありがとうございます」


 そういえばゴブリン退治の時に、言われたっけ。建前じゃなかったか。でも私の頭じゃ石材やレールに使う鉱石くらいしか思い浮かばない。あと石がたくさん敷き詰めてあったっけ。もういいや、アスセーナちゃんに泣きつこう。


「次は土地の持ち主の元に行こうか」

「すごい大金持ちなんですか?」

「うーん、そうは見えないんだけどねぇ」


 何にせよ、土地だ。それと辺境伯の許可も必要なんだっけ。やることが多すぎる。


◆ 喫茶店"ゴールドウィンド" ◆ 


「いらっしゃい。おや、パラップさん」

「久しぶりだな、ダバルさん」


 前にアスセーナちゃんと来たことがあった店だ。店主の七三分け頭のおじさんが土地の持ち主なのか。確かに金持ちには見えないし、この店以外にも土地を持ってるのも謎だ。まぁ人を見かけで判断しちゃいけないか。


「コーヒーをブラックで一つ」

「モモルソーダお願いします」

「はいよ」


 流れで頼んでしまった。パラップさんの奢りを期待するしかない。ブロンズの称号にあるまじき懐事情だ。


「ダバルさん、今日はお願いがあって来たんだがね。こちらの子が、あなたが所有する土地をほしいと言うんだ」

「土地を? 構わないが、その子が?」

「いろいろ察してるところはあると思いますが、出来ればお手柔らかなお値段でお願いします」

「私からも頼みたい。予算があまりないそうだからな」

「と言われてもなぁ。どのくらいの予算かな?」

「このくらいですね」

「んんっ……」


 そんな予算で土地なんか買えるわけねーだろバカと顔に出てる。大体、考えてみたら真面目に稼いでいたとしてもかなりの額だ。

 駅を作ろうと思い立った段階で、土地を考慮しないバカがどこにいる。なるほど、世の働き者はこういう時のために高収入の仕事を求めてるのか。


「ダメかね。モノネ君、街の外ならどうかね?」

「その手があったか」

「安全性が心配だな。魔物の襲撃に対する備えも必要になるし、利便性も落ちる」

「バッサリとしたダメ出し!」


 まさかコーヒー屋のおじさんにここまで言われるとは思わなかった。もはやここまでか。そもそも私が自腹をきって土地を買う必要性もない。ツクモちゃんには悪いけど、諦めてもらうかな。


「ダバルさんに、あの駅を見てもらえれば気が変わるかもなぁ」

「ツクモポリスだろう? 噂で聞いているよ。興味がないわけではないし、売ってあげたいのは山々なんだけどね」

「いえいえ、お気になさらず」


 運ばれてきたモモルソーダがおいしすぎて、ひとまずの問題すらどうでもよくなりそう。適度に冷えているし、飲み物に関しては炎龍よりこっちが上かな。なんて、イルシャちゃんには言えないけど。


「君は冒険者だろう? それなら一つ、依頼してもいいかな?」

「はい?」

「依頼を達成してくれたら、土地を無料で譲ってもいい」

「無料で? 無料で?」

「その代わりと言っては何だが、少々厄介な頼み事になる。と言ってもブロンズの称号ならば、さほど苦にはならないかもしれないけどね」

「結局、冒険者をやらなきゃいけない運命か」


 全力で目を背けていたけど、とうとう限界がきた。温厚そうで何でも頼みを聞いてくれそうな雰囲気のおじさんだけど、甘くなかったか。


「実は試してみたいブレンドがあってね。その原料を取りに行ってほしい」

「魔物がウヨウヨいる場所なんですよね、わかってます」

「さすが話が早い。問題はそれだけじゃなくてね、その原料というのが素人じゃ見分けもつきにくいし、見つけるのも大変なんだよ」

「はい」

「それについ最近、ネームドに指定された魔物がいるみたいでね。詳しい内容はギルドに行って依頼書を読んでくれ」

「はい」


 私が断るという可能性を排除した説明だった。魔物は強い、原料採取が難しい。これは私一人じゃ無理だ。あの子に泣きつこう。ついでにアスセーナちゃんにも泣きつこう。


「そんなに恐ろしい場所なのかい? ネームドだなんて物騒な……」

「未踏破地帯に隣接した場所だから、そちらの生存競争に敗れた魔物が入り込んできてネームドに指定されるんだろうね」


 恐ろしげな会話をスルーして、支払いを済ませた。まず何が必要かといえば英気だ。そのためには眠気を失くさなきゃいけない。つまり布団に潜り、休養をすること。今日も昼過ぎまで寝ていた気がするけど、いくら休んでも損はない。


◆ ティカ 記録 ◆


ツクモのために マスターが そこまでするとは

おい ツクモ 感謝しているのカ?


ぞよ


まったく 寛大かつ 慈愛に満ちたマスターだからこそ

引き受けてもらえた 難題ダ

他人のために 駅を作ろうなど 並みの人間に 出来る所業ではなイ

あの マスターが ダ

昼を過ぎても 寝息をたてていた マスターが ダ


しかし あのダバルという店主

何故 マスターが ブロンズの称号の持ち主だと わかったのカ

見たところ 冒険者ではなさそうだが 単なる冒険者に詳しい中年カ?

戦闘Lvは1 取るに足らないが 警戒は必要ダ


引き続き 記録を 継続

「魔術協会の派閥ってさ、何なの?」

「まとめてみました」


穏健派→魔法で人を救おう、何なら伝授するべき

保守派→介入したらややこしくなるから何もしない

推進派→あらゆる技術等に魔法が使われるべき

過激派→魔術師優位の魔術社会にするべきだ


「なるほど、一番下がろくでもない」

「推進派も根は同じと感じます。言い分はわからないでもないですが……」

「社会を変えるよりも自分が適当に馴染んだほうが楽だろうに」

「魔術協会の方々が全員、モノネさんなら平和だったでしょうね」

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