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クルティラちゃんと決闘しよう

◆ ランフィルド 冒険者ギルド 決闘場 ◆


 冒険者の方々というギャラリーに囲まれて、クルティラちゃんと戦う事になった。皆さん、いつもいらっしゃるけど暇なんですか。あの新婚夫婦は忙しいみたいで、ギルドに来る暇がないというのに。


「ハイルトン家の子か……どれほどの実力かね」

「冒険者じゃないから戦闘Lvもわからんな」

「見ろよ、あの剣。これ以上ない白銀色だ」


 このウサギファイターの注目度を上回るとは、やりおる。今回は、そのこれ以上ない白銀色の剣をどうにかするのが目的だ。だけど、それは私がクルティラちゃんより強いという前提条件を満たさなきゃいけない。

 ティカに調べて貰った戦闘Lvは30くらいだったけど、戦い始めたらどうかな。前にあった時よりも強くなってるみたいで、成長速度もすごい。騎士学部にいた人達の平均が12前後だったらしいし、抜きん出すぎている。こんなところで呑気に観戦している人達より上だった。


「モノネ、決闘を受けてくれて感謝する。やるからには正々堂々、全力で戦おう」

「お手柔らかにね」

「では始めようか」


「ふぅッ……!」


 息を吐いたと同時に構えたクルティラちゃんが一変する。微動だにせずに私だけを見据える金色の目。硬直した全身からどことなく漲る烈気。あの呑気な冒険者も、呼吸すら止めて見守っているかのような静寂。これはあれだ。アスセーナちゃんと戦った時と似ているな。


――私に任せてほしい


 達人剣君の提案で引き受けた決闘だけど、この時点で帰りたい。あのヴァハールさんに勝ったとはいえ、この子に勝てる保証なんかどこにもないんだ。


「始めッ!」


 船長の開戦の合図と同時に私は身を引き、クルティラちゃんが迷いなく斬り込んでくる。


「てやぁぁぁぁッッ!」

「受けるっ!」


 決闘場の外にまで響かんばかりの掛け声、そしてズシリと重みしかない一撃。達人剣で受けたものの、足ごと床に沈むんじゃないのとすら思った。


「きえぁぁぁぁぁッ!」

「避ける!」


 弾くのは厳しいと悟ったのか、達人剣君はゲールみたいにクルティラちゃんの刃を流した。すぐにくる追撃の嵐。そしてかけ声がすごくて、もはや奇声だ。せっかくかわいいのに、これを聞いたら百年の恋も冷めるんじゃないか。

 とか考えてるうちに、達人剣君の防御をくぐりぬけてクルティラちゃんの剣先が危うく私の顔に届くところだった。これ一応、殺したらダメなんだけど。


「あっぶないぃ!」

「つうあぁぁぁあいあああぁぁぁぁッ!」

「うるさすぎる!」

「はぃあぁぁぁぁぁッ!」

「今返事した?!」


 気のせいか。それよりも達人剣を通じて、この子の強さが大体伝わってくる。当たり前だけどヴァハールさんより遥かに弱い。流しのゲールさんよりも弱い。

 攻めきれてないのは、達人剣君がうまい具合に手加減しているからだ。手加減とか、クルティラちゃんは面白くないだろうけど仕方ない。


「あのウサギファイターが防戦一方だぞ……」

「クソ強いぞ、あの子!」


――こいつの体力はどうなってるんだ……


 魔剣君が焦り始めてる。いい傾向です。魔剣君のコンセプトは、クルティラちゃんを弱らせて生気を吸い取って殺すというもの。今のクルティラちゃんは弱ってないどころか、すごい張り切ってる。だから生気も吸い取れない。このもどかしい状況で一言。


「その剣さ、合ってないんじゃない?」

「な、何を言う! 私の力を最大限に引き出せている!」

「でも全然、攻めきれてないじゃん」

「それなら、これで……!」


 藪をつついてしまった。来るぞ、スキルが。


「くらえ……うあっ!」


「バカ正直にスキルを放つタイミングを教えちゃダメでしょ」


 何かをしようとしたクルティラちゃんの剣を上から叩きつけて落とす。体がガラ空きになったところで、剣先をこの子の鼻先に突きつけて終わり。


「勝負あり、だね」

「クッ……!」


――おいおい! もう終わりかよ!?


 クルティラちゃんを疲弊させる絶好のチャンスだったのに、何も出来ないどころか完敗。実は魔剣に触った時、わかったことがある。あの魔剣君、元気な持ち主には一度も負けさせてない。そうして持ち主が自分を手放さないようにしていた。

 唯一の敗北させるタイミングとしては、持ち主の生気をほぼ絞りつくした場合のみだ。


「はぁ、はぁ……強い……まるで相手にならなかった……」


――ふざけるんじゃねえぞ! もう一回勝負だ! 俺を使って負けるとか許せねぇ!


「その剣は悪くないけど、クルティラちゃんの戦闘スタイルと合ってないね」

「そう……なのか?」

「うん。動きに無駄が多かったのは、剣の重さや形がクルティラちゃんの体格にマッチしてないから」


――てめぇ、何を言いやがる!


 魔剣が焦りまくってて面白い。あいつにとって一番困るのは、クルティラちゃんに捨てられることだ。そうなると、魔剣だと知っている私に処分されて終わりだから。


「モノネがそこまで言うか」

「言うね」


――ふざけるなよ……オレほどの剣を持ちながら、オレのせいにしやがるのか!


 そしてこの子は、私の言うことなら補正がかかる。そんな彼女が、剣を握って刀身をまじまじと見つめていた。このまま諦めてくれたらすべて解決なんだけど、私の中ではどうしてもこれは言っておきたい。


「極めつけにその剣さ、魔剣なんだよね」

「……魔剣?」

「それを持ち始めたから、自分の身を守れたんじゃなくてね。その剣がトラブルを起こしていたの。魔剣カラミティ、それがその剣の名前だよ」


「魔剣カラミティだって?!」


 ざわついた冒険者の反応が意外すぎる。有名だったのか。それにしても彼らは何でも知ってる。プランは二つあった。一つは私が考えた方法だ。クルティラちゃんに、自分から剣を手放してもらって円満解決。そしてもう一つは達人剣君の案。でもこの分だと、手放して終わりかな。


「抜群の切れ味で持ち主に勝利をもたらすが、同時に災いをもたらす事で知られている。何度も危険に晒されても剣の魅力には抗えず、最後には命を落としてしまうと聞いた」

「さすが船長。そうそう、生気を吸われるんだよね。もしかして最初から知っていたとか?」

「いや、実物は見た事がなかったからな。まぁ大方の流れは見えていたが」

「さすが反則アビリティ」


「……魔剣か。そうか」


 気落ちしちゃったか。こうなるのもわかっていたけど、バラさないのはこの子の為にもならないと思った。そうしないとまた同じようなものを手に入れる可能性がある。かわいそうだけど、こういうこともあると学んでほしい。


「いい剣だと思ったんだがな」


――簡単に口車に乗せられやがって! これだからガキはよぉ!


「斬り開いたと思った障害は、すべて魔剣のせいだったのか」


――勝てないのはお前の実力が足りないせいだ! オレのせいにするんじゃねぇ!


「クルティラちゃん、もっといい剣があると思うよ」

「どうかな……」


――こんなお粗末なことがあるかぁ! オレは、オレは魔剣カラミティだぞ!


 持っていた魔剣を、クルティラちゃんは刃を下にして垂直に持つ。そして、静かに鞘に納めた。後の処分は私がやるとして、これでめでたしめでたし。


「ちょうだい。私が預かって処分するからさ」

「処分? 壊してしまうのか?」

「それは未定だけど、危険なものなら他の人の手に渡ると大変だからね」

「そうなると、この剣は持ち主を失うわけか……」


 クルティラちゃんがまた剣を抜いて、空に掲げて眺めている。綺麗な剣だと思う。魔剣だと知らなかったら誰だって持ちたがる。だからこそ危ないんだろうけど。


「騎士が守るべきものとは何か。守るなどと口にするのは簡単だ。それに伴う力がなければ、虚勢でしかない。父もそう言っていた」

「正論だね」

「守るべきものが主君や民にしろ、今の私は弱い。だからこそ己の弱さから目を背けたくない。ここでこの魔剣を手放すのは簡単だ。しかしそれで何がどうなる?」


 不幸をもたらさなくなる、と言いたいけど段々突っ込めない空気になってきた。クルティラちゃんが少し瞼を落として、目の前にある剣をまるで遠くにあるものかのように見つめている。


「力とは心、心とは力とも父はよく言っていた。簡単に剣を捨てる者に何が守れる、捨てて得た力は果たしてどれほどなのか……」

「ちょ、まさかクルティラちゃん」


「強くあるための騎士としての第一歩だ。主君や民だけでなく、私はこの剣も守る」


 ちょっと何を言ってるかわからない。いや、だいぶわからない。今の話を理解できなかったとしか思えない。


「クルティラちゃん? それやばい剣だからね?」

「だが私が今日まで生きてこられたのも、この剣があってこそだ」

「だからそれも魔剣の思惑通りなわけで」

「私は生きているし、誰も不幸になっていない。それに今の戦い……モノネには悪いが、これまで以上に実力を出せていた。それなのに負けた……」

「余裕でウソがばれてる」


――どうやら風向きが変わったようだな?


 おっと、さっきまで慌てていた魔剣君が息を吹き返してる。これはまずい。


「剣のおかげで実力が引き出せたのなら、後は私の実力不足だ。それならば尚更、捨てるわけにはいかない。今の私に出来ることは……この剣を守り、そして感謝することだ」


――何? なんだって?


「負けたままではこの剣に失礼だからな。ならば、この剣に恥じない力をつける。そうなった暁には、すべてを守れる立派な騎士となっているはずだ」


――こいつ……


「そう感じるほど、この剣は素晴らしい。私の生気でよければ、いくらでも吸え。ただし簡単に死んでやるつもりもないし、守り切ってみせるがな」


――い、言いやがったな!


 クルティラちゃんが微笑みながら、刀身を指で撫でる。この分だと、どうあっても魔剣を捨てないか。もう私にどうこうできるものじゃない。


「クルティラ、いいのか?」

「ギルド長、物言いは承知しています。ですが私は決めました。魔剣がもたらす不幸からも、皆を守れる騎士になってみせる。正しきことに剣を振るい、結果を出せばもう誰もこれを魔剣などと呼べない。そんな最高の騎士を目指します」

「……ふむ。魔剣もとんだ人間に拾われたものだな」


――いい度胸してやがるぜ……。だったら見てな、どれだけかかっても諦めねぇからな


――目論見通りだな


 船長がそう言うなら平気なのかな。結果的に達人剣君のプラン通りになってしまった。魔剣といえどプライドはあるはず。その一縷の望みにかけて、接戦を演じれば魔剣はきっと悔しがる。つまり魔剣のプライドを刺激してやれば、クルティラちゃんがいい持ち手となってくれるはず。持ち前のポジティブさとバイタリティも相まって、うまく相乗効果が出るかもしれない。

 なるほど、物と言えど十把一絡げには出来ないか。わかってるようで、私は物の気持ちがわかってなかった。


「いいのか? 魔剣なんだろ?」

「いや、でも過去には魔剣の使い手もいたらしい」


――気楽なガキだぜ……オレがあの至高の魔剣ディスバレッドだったら、とっくに死んでたってのによ


 このまま終わらせるのも癪だ。せめて物霊使いとして、やれる事はやっておきたい。クルティラちゃんに近づいて、鞘に収まってる剣を見下ろす。


「クルティラちゃんを大切にしなよ。時間が経つほど、あんたが魔剣だと知れ渡るからね。意味わかるよね?」


――ク……し、仕方ねぇな


 お、しおらしく言う事を聞いたぞ。これはどういう事かな。私が理解を深めたからか。魔剣とはいえ、私にどうこうできないわけはなかったか。なんだかアビリティにより自信がついた気がする。


「ハハハ、剣相手にそこまで真摯に話しかけるのか。モノネは面白いな」

「クルティラちゃんだってやってたじゃん。大丈夫? 万が一ってことにでもなったら……」

「そうなれば私は自刃する。その上での覚悟だ」

「やめて」


――オレが何かして成功すれば、どのみちこいつ死ぬのかよ! そしてこいつはオレを手放さない……


 もう魔剣として生きる道は断たれてしまったとさ。覚悟が重すぎて、もうこの問題は私の手から遠く離れてしまった。この子なら本気でやりかねない。


「今、この場にて誓おう! 私はこの魔剣カラミティと共に生きる! そしてすべてを守って救う!」


「いいぞー!」

「やっぱりハイルトン家は格が違うぜ!」

「出来ればオレには近づかないでほしいけどな!」


 拍手喝采していいものかな。何にしてもクルティラちゃんが決めたことだ。ここは流れに乗って拍手しておこう。もうどうにでもなれ。クルティラちゃんは強い子だ。うん。


◆ ティカ 記録 ◆


魔剣カラミティ 魔剣の中でも 下に分類されているが

危険であることに かわりはなイ

彼女の真面目さが 災いして このようなことに なったが

彼女が言う強さが実在すれば それは 大きな力となるはズ


アビリティ Lv1 → Lv2


ん? 何か 力がみなぎったような 気がすル

これは マスターの力も 同時に 上がったと考えて いいものカ


引き続き 記録を 継続

「アスセーナちゃん。騎士って給料いいのかな」

「階級や配属先によって変わりますよ。ロイヤルガードともなれば、下手な貴族よりも裕福ですね」

「なるほど、相応の対価があるわけね。そして自由を失うという対価を支払うと……」

「それは騎士に限った話じゃありませんけどね……」

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― 新着の感想 ―
[一言] かんすとっぷと同じ時空なのかな
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