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12/201

稼いでみよう

◆ 冒険者ギルド 食堂 ◆


「モノネちゃん、これおいしいよ」

「こっちも香ばしくて癖になるぞ」


 冒険者になるとギルドで食事にありつける。そして、ほとんどが安い。こんなサービスがあるならもっと早く利用すればよかった。報酬だけだと生活費だけで余裕がなくなるから、食費を浮かせられるのは大きい。

 それはいいんだけど、さっきから冒険者達がいろんな食べ物を勧めてくる。特におじさんくらいの年齢となると、私みたいな子どもがかわいくみえるのかな。ニコニコしてすごく優しい。でもなんか餌付けされてるみたい。


「ギンビラ盗賊団をほとんど一人で壊滅させたんだって?」

「バーストボアも討伐したらしいぞ。俺、あいつが苦手なんだよなぁ」

「側頭部を狙えったって速すぎるし、回り込んでも反応よすぎるんだよな」

「だからな、君みたいな子が一人で討伐をしたと聞いたら黙っちゃいないわけよ」


 ジャンとチャックの存在はすでになかった事にされてるみたい。よっぽど評判が悪くて、いろんな人とパーティを組んでも足を引っ張られるからいないほうがいいとまで言われてる。

 だからあの二人を物ともせずに討伐をしたのがまずすごいとか。あらためて聞いても、ひどいコンビだ。


「そういえばジャンとチャックって、あれからどうしてるの?」

「この前まではその辺をフラフラしてたのを見たが、最近はどこへ行ったんだかな」

「冒険者登録も消されて自暴自棄になってなきゃいいが……」


 私の事を辺境伯や警備隊あたりに密告するかなと思ったけど諦めてくれたならいい。逆恨みが怖くてティカに生体感知を怠らないように言ってあるから、安全面では心配ないか。

 冒険者ギルドでよく見る顔は全員登録してある。そして驚く事に、この生体感知は魔力も測れるらしくてらしい。魔力は大体平均の域を出なくて、高魔力の人はなかなかいない。それだけ魔術師になれるくらいの人はレアなんだな。


「そうだ。おじさん、剣を触らせてほしい」

「俺の剣を? それはいいが、なんでまた?」

「おじさん、強そうだしどんな武器を使ってるのかなーなんて」

「なるほど! それは確かに気になるよな!」


 さっきからチーズ揚げを勧めてくるおじさんは熟練の冒険者だといっていた。熟練なら武器も相当使い込まれてるはず。柄に手を当てて、その声を聴こう。


――――あと一振りが限界だ。折れそうだ


「おじさん、この剣ずっと使いこんでるね。根本から折れそうになってるよ」

「なんだって?! この前、鍛冶師に見てもらったばかりなんだけどなぁ……どれ」


 おじさんが刃の平らの部分を膝に当てて、腕で力を入れる。刃の根本から金属片がパラパラと落ちていて、誰の目から見ても危ないとわかった。


「こりゃひどい! このまま戦いに出ていたら、死んでいたかもしれん!」

「鍛冶師の人はこれわからなかったのかな?」

「信頼している鍛冶師だったんだがな……」

「おっさん、あの鍛冶師だろ? 最近、人気が出て調子に乗って仕事も手を抜き始めてるって噂だぞ」

「なんだよ、そりゃ! やけに仕事が早いなと思ったんだよ!」


 これは願ってもない展開。物の声を聴くのは思ったより有用だ。何せ物が抱えている悩みがわかる。早速、行動しよう。


「モノネちゃん、すごいな! 出来れば私の武器もみてほしい!」

「俺のも頼む!」

「えー……でも、当たるかなぁ。そういうのはきちんとした鍛冶師にお金を払ったほうが……」

「下手な鍛冶師なんかにゃ任せてらんねぇ! そんな金があるなら、君に払う!」

「ほ、ホントに?」


 引いてみてよかった。いきなりお金をとるなんていったら、一気に白けるからね。これはひょっとすると、冒険者をやるよりも効率よくお金を稼げるかもしれない。


「わかりました。やりましょう」

「まずは俺だ!」

「待てや! 戦闘Lvからしてオレのほうが上だろう?!」

「関係ないだろ!」

「高いほうがそれだけ危険がつきまとうんだ! 戦闘Lv5ともなれば、常に死が隣にある!」

「じゃあオレは6だから、お先」

「こらぁ!」


「ハイハイ、並んで下さい」


 大人しく冒険者達が列を作る。結構いるな。


「この斧は……柄の部分に限界がきてるね」

「あぁ、最近握った時に違和感があったんだ。なるほど!」

「この槍は突くのもいいけど、リーチを活かして薙ぎ払ってほしいってさ」

「今度やってみる!」

「この弓の弦、合ってないってさ。取り換えたほうがいいよ」

「マジか! 作ったやつ適当か!」

「俺の棍棒を見てくれ。こいつをどう思う?」

「なんか嫌」


 これは結構大変だ。声を聴いて自分でそれを解釈して相手に伝える。この一連の動作だけでもきつい。しかも中には持ち主を嫌ってる武器もあって、伝えにくい。


「……この武器はもっと頻繁に手入れをしてあげたほうがいいね。大事にされてないってさ」

「なんだとぉ! んなわけあるかぁ!」

「じゃあ、勝手にして下さい。次の戦いで武器がパッキリ壊れて飛んできた刃が胸に刺さるかもしれないけど」

「な、にぃ……」


 持ち主への憎悪があると、物が反逆するケースもあるとわかった。隙あらば折れた際に――なんて呟きがゾッとさせてくれる。心無い物だと思っているのは人間だけで、実は意思があるんだ。

 私の力はそういった声を拾えるし、だからこそ言う事を聞いてくれるのかもしれない。


「面白そうな事をやってるな。俺の剣も見てもらえるか?」

「あ、フレッドさん。久しぶり」


 黒髪の優男ことフレッドさん。ブロンズの称号を持つという事で周囲の注目度も違う。列を作ってる冒険者達が自然とフレッドさんを迎い入れる。隣にいる女の人は彼女かな。フレッドさんと同じく、黒髪だけど綺麗なロングヘアーだ。


「隣の人は?」

「彼女はシーラ。俺のパートナーであり、婚約者さ。この前の討伐戦では別行動していたから初めましてかな?」

「初めまして。私の杖も見てくれる?」

「杖? もしかして魔術師さん?」

「そうよ。といっても、自慢できるような魔力でもないけどね」


「シーラ、生体登録完了……おぉ、これは確かに他とは一線を画した魔力」


 公衆の面前で呼び捨て登録はやめてほしかった。他の人達のは静かにやってくれたのに。杖、先端の丸いのは魔石かな。ここから炎がボオオォって出るのか。さて、まずはフレッドさんの剣から。


――最高の友フレッド。この身が在る限り、お前の剣であり続けたい


「文句なしってさ。この剣、ずっと大事にしたほうがいいよ」

「ほ、本当か? 最近、無茶をさせてちょっと心配だったんだが」

「次はシーラさんね」


――未来の夫、そしてその剣と共に寄り添いたい。シーラの魔力が心地よい


「……武器ともに相思相愛です」

「ど、どういう事?」


「お幸せに!」

「式をあげるなら呼んでくれよな!」


 シーラさんが頬を赤くして、周囲にからかわれる。お熱い。出来る冒険者は武器にも好かれる。武器に反逆されかけてる人はがんばりましょうという事ね。


「おっと、お金をとっているんだったな」

「はい、今後ともごひいきに」

「もしかして商売にするつもりなのか」

「必要とされているならば、それも考えたい」


 本当は冒険に出るよりもこっちのほうが楽に稼げると気づいたからなんだけど、角を立たせる必要もなし。ブロンズ冒険者の気前のいい金払いが、よりそう思わせてくれる。

 もっと信頼されたらこっそりと値段を吊り上げよう。


「マスター、船長が近づいてマス」

「なんて?」


「私の武器も見てもらいたい」


 その人が来るだけで、皆の気が引き締まる。支部長が、上機嫌で歩いてきた。この人からお金をとれるのかな。逆にとられそう。船長というより見た目が海賊だし。

 支部長の事を親しみを込めて船長という人もいるらしいから、とりあえずそう呼んでみよう。


「船長の武器はやっぱりサーベルかなー、なんて。ハハハ……」

「そうだ。二つとも、頼む。金は置いておく」

「はい、では」


――海だ! 波だ! 久しぶりに海賊どもを斬らせろ!

――殺せ! 血しぶきの雨が俺を滾らせるぅ!


「ヒィッ!」


 殺意の声にびびりすぎて、椅子ごと倒れた。シーラさんに引き起こしてもらいながら、船長の顔を見る。この人、やっぱり海賊だった。


「よ、欲求不満ですね。たまには戦ったほうが喜びますよ。出来れば人間じゃないほうがいいですけど……」

「そうか。船を娘に譲ってからはご無沙汰だったな。たまには体を動かそう」

「そうですね、ぜひ人間以外で」

「それとな、君がこういう商売をするのは構わない。しかし払ってもらうものがある」

「それが本題ですよね、なんとなくわかります」


 海賊がついに本業に戻るのか。最初の獲物は私だと。これはもう覚悟するしかない。バニースウェットに剣、臨戦態勢だ。


「売り上げ分の税金だ。この街で商売をしている者なら、皆払っている」

「あっ」

「冒険者の依頼とて例外ではない。きちんと差し引かれているからな。脱税は重罪だぞ」

「という事は」

「今日の売り上げがこれだけなら、差し引かれるのはこのくらいか」

「結構がばっといく!」


 この残りだと、もう少しがんばらないと厳しい。我ながら商人の娘とは思えないな。


「まぁここでは取らんよ。辺境伯のところに聞きにいきなさい。それと商人ギルドへの挨拶も忘れんようにな」

「許可いるんですか」

「当たり前だ。勝手な商売をしたら法の前に、彼らに袋叩きにされるぞ。物の価値などを取り決めて、互いの商売に影響がないように統括するのは大事だろう」

 

 今すぐにでも寝たい。面倒すぎて寝たい。

16年も生きてきて、税金の存在なんて欠片も考えた事なかった。


「冒険はいい。商売もいい。ただし、金に関しての誤魔化しは厳禁だぞ。現金だけにな。ハッハッハッ!」


 元々笑えなかったけど、今は別の意味で笑えない。颯爽と去っていく船長の背中が大きすぎて、頼もしすぎて。このまま何も知らなかったら今度こそ、とっ捕まるところだった。

 勢いで乗って私にお金を払った冒険者達が気まずそうに、席についてなんか食べたり飲んだりしてる。私もつまもう、お勧めのチーズ揚げを。


◆ ティカ 記録 ◆


マスター 早くも 自分の力の可能性に 気づきましタ

現実は 甘くなかったのですが 十分に 芽はありまス

めげずに トライしてほしいと 思いまス

人の役に 立った事には 変わりないのデス

そして 僕が 活動できたという事は きっと……


引き続き 記録を 継続

「魔石管理士、鑑定士、魔具士……いろんな職業があるんだなー」

「いずれも国家資格と呼ばれるものを習得しなければいけないようですネ」

「やっと合格しても、プロの見習いを何年もやってようやく正式に職として名乗れるんだものね」

「マスターが職について興味を持ったという事は、何かを目指すのですカ?」

「いや、こういうのを見て大変だなーって眺めるのが好きなだけ」

「あまりいい趣味とは言えませんネ……」

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