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アンデッド軍団を討伐しよう

◆ 辺境伯邸の前 ◆


 戦局はというと、私とジェシリカちゃん以外は厳しい。次点でストルフさんだけどアンデッドとの戦いに慣れてないのか、なかなか止めを刺せてない。

 スプレー攻撃も、ここに集まってるのは隊長格と強い人達ばかりだから危ない。医院長達に出来るのは戦闘能力が低いアンデッド討伐のみだ。そして攻めあぐねている理由はもう一つある。


「全隊ィ! 後退ィ!」

「へいっ!」


 アイゼフ総隊長の指揮がうますぎる。こっちが攻めている時は後退して守りを固めて、こっちが疲れて引いた隙を狙って攻撃指令を出す。大盾を持ったアンデッドが先頭で守りを固めて、後方から弓を撃たれる。上からファイアバルカンを撃ち込んだ際には――


「甘いわぁ! ソードサイクロンッ!」


「わぁぁっとぉ!」


 4本の腕を回転させて大風を起こしてくる。ファイアバルカンどころか、上から奇襲しようとした私まで吹っ飛びそうだ。どうやらアイゼフ総隊長は風に関連したスキルを得意とするらしい。このスキル、人間の時にはどうやって放っていたの。


「ふわふわと、浮ついた小娘め! その様はまるで風見鶏のようだな!」

「いいじゃん。風見鶏に失礼でしょ」

「風に流されるがごとく、己の信念が欠如していると言っているのだ!」

「この時代の人達に迷惑をかけてまで、何の信念を貫くのさ」

「貴様のように浮ついた者どもを正すのだ! 今の時代は見るに堪えん!」


 煽り返したものの、概ね当たってるのがどうしようもない。さすがは年の功だ。この人達と同じ時代に生まれなくてよかった。自分が正しいから従えの一点張りで、話なんか通じない。


「特にあそこで鞭を振るっている女! なんだあれは! 派手な衣装を着飾りおって! あれで嫁入りするつもりか!」

「お黙り。あなたのような亡者に女の価値なんかわかるはずありませんわ」

「ケツの青い小娘が女を語るなぁッ! 全隊! 進撃ッ!」


 アンデッド軍団が攻め始めて、冒険者達が後退し始める。だけど後方で一般の方々が消毒液臭をまき散らしてるから、向こうも一定の距離までしか進めない。

 あのスプレーで私がアンデッド軍団を攻撃しようと思っても、アイゼフの風で吹き飛ばされるのがどうしようもない。アイゼフを起点にしたこのフォーメーションを崩すにはどうしたらいいのか。船長は船長でまたボスと戦ってる。


「言えッ! お前の未練は何だ!」

「栄光だ……男子ならばぁ……栄光を掴めぇ!」

「ならば掴め! 私を倒してな!」


 よくわからないノリでずっとあんな感じだ。あの人がボスを抑えてくれて助かってる。実力は互角っぽいけど、段々と船長のほうがおされ始めてるから急がないと。何せこっちは人間だけど、あっちはアンデッドだから体力なんてお構いなしだもの。


「達人剣君、あのソードサイクロンどうする?」


――放った後の隙が大きい。だが接近したところで奴にダメージを与えねば意味がない


 なるほど。ソードサイクロン攻略の算段は立ってるわけだ。消毒液を直接浴びせたところで大したダメージにはならなそう。それならファイアバルカンと、あれの二段構えにしますか。


「偉そうに言ってるけどさ、その風を起こすスキルって別に大したことないよね」

「ほざけ! その気になれば、貴様など彼方に飛ばせるわ!」

「へー、無理でしょ」

「ならば見せてくれようぞ……!」


 こんな絵に描いたような挑発に乗るとは思わなかった。狙い通り、アイゼフが一際大きく構えた後、ソードサイクロンの暴風が私に放たれる。


「とうっ!」


「なにっ!」


 布団を蹴って地上に跳ぶ。暴風の圏外に着地した後はアイゼフの懐だ。すぐにアイゼフに向けて剣を振った。


「甘いわっ!」

「おっと! 受けられた!」

「この程度で……うごぉっ!?」


 私の剣を受けた直後、さすがにアイゼフはのけぞる。そりゃそうだ、私の剣には薬が塗ってあるんだから。その隙に渾身の一撃。


「空走ッ!」

「……ぬっ!?」


 アイゼフが4つの剣で咄嗟にガードしたものの、それぞれの腕がちぎれ飛ぶ。そのまま貫通して、空走は骨の体ごと砕いた。


「た、隊長!」

「来るなッ! まだ終わってないッ!」

「しぶとすぎる。じゃあファイアバルカンお願い」

「ハイ!」


「んごごごごぉぉぉ!」


 至近距離でファイアバルカンを浴びせられて、さすがのアイゼフも悶絶する。バラバラになった骨の体がなかなか再生できてない。

このまま決まりかと思った直後、剣を持った4つの腕が宙に浮いているのに気づく。


「ゲッ……!」


「ウィンドトラストッ!」


 風を纏った剣がそれぞれ4方向から襲ってくる。そこでバニーはあえてアイゼフのほうへ突進する選択をした。なるほど、追尾してくるなら本体ごと巻き込もうってわけか。


「ちぃ! 出来るなッ! 常人ならば咄嗟に後方へ逃げるものだがな!」

「ファイアバルカンでも止めを刺し切れないかー。こりゃどうしたもんかな」


 焦げた骨の体をきしませたアイゼフがゆらりと体勢を立て直す。さすがにファイアバルカンも永遠には撃てない。ティカを下げて仕切り直しだ。正直言ってきつすぎる。消毒液斬が効いているものの、あとどのくらいで倒せるのかもわからない。

 そしてこいつ、空走にも反応してた。達人剣でも一筋縄じゃいかないとかやめてほしい。戦いが長引く中、遠くから何かが走ってきた。あれはガイコツ、すなわちアンデッドだ。


「アイゼフ総隊長。もうやめよう」

「ゲールか。俺に申し立てするその意味、理解しているであろう?」

「……あんたは厳しいけど絶対に曲がった事は言ったりやらなかった。ましてや部下を痛めつけるなんてことはな」

「あれか……」


 門の近くに、頭だけになったグーバンが転がされている。再生できないということは、体がどうにかなってるのかな。口を動かして何か言ってる。


「隊……長……オラ達に、勝ち目はない……人間が、大勢きて、本気になったら、オラ達は……負ける」

「開拓隊の面汚しもいいところだな」

「そいつの言ってることは正しいよ。現に今、こんなウサギにすら追いつめられてるのがいい証拠でしょ」

「何?」

「あんたが不死身のアンデッドじゃなかったら、私の攻撃でとっくに死んでるよね? さっきの腕を浮かせる攻撃も人間の時には出来なかったよね?」

「ぬ……」


 効いてる効いてる。プライドが高そうだし、この手の揺さぶりは有効だね。問題は根本的な解決には何一つ至ってないところだ。


「その娘の言う通りだ、隊長。あんたはとっくに負けてるんだ。それとも心までアンデッドに成り下がる気か?」

「う、うぎぎ……ゲール、お前は、アンデッドではないと?」

「人だった頃を思い出したんだ。そこのウサギ娘に負けた時にな。思い出してくれ、なんの為にこの地を開拓した?」

「それは……」


 アイゼフがぎこちなく頭を動かし、地面を見つめたまま固まった。これはどういう流れかな。


「国の繁栄……いや。未来の人々へと繋ぐ為……」

「そうだ。探求心だけじゃない。資源が増えれば生活も潤う。俺達の子ども達がより明るく生きる為だろうよ」

「うおぉぉ……俺は、俺は……」


 気がつけば部下達も攻撃を止めて隊長に視線を集中させている。冒険者達も空気を読んで見守ってくれている。そしてアイゼフの千切れた腕が持っていた剣がそれぞれ落ちた。


「俺は、正す為に……」

「隊長、俺達が未来を壊してどうするよ。ナンチ開拓隊は土地だけを切り開いたんじゃなくてよ……」

「未来を切り開いたんだよね」

「お前、ウサギ……せっかくバシッと決めようと思ったのによ」

「ごめん」


「あれぇ? もう終わりっぽいですか?」


 辺境伯邸の壁の角から、ひょこっと現れたアスセーナちゃん。ようやく出てきた。ひとまず無事でよかった。でもなんだか少し息を切らせているような。


「アスセーナちゃん、どこに行ってたのさ」

「それはもうアンデッド達が襲撃したものだから、皆さんの安全を確保していたんですよ。特にお年寄りや子どもの足だと逃げられませんからね」

「なるほど、アスセーナちゃんらしい行動だ」

「本当に疲れましたよ。だから私、いくらいいムードでも許せないんですよねぇ……」


 アスセーナちゃんが剣を抜いた途端、アンデッド達がざわつく。ナンチ討伐隊すらも警戒させるほどのものが、アスセーナちゃんにはあるんだ。つまりそれを感じさせるほど、彼女は怒っている。


「女だてらに只者ではないな……」

「私とモノネさん相手に……まだやります?」

「わたくしも忘れないでもらえませんこと?」

「私とモノネさん、そしてジェシリカさん相手に……まだやります?」

「わざわざ言い直さなくても」


 恰好がついてないのはセリフだけだ。アスセーナちゃんの剣に白いオーラみたいなものが纏わりついてる。脅しじゃなくて、きちんとアンデッドを殺せるという証拠を見せつけていた。


「それはセイントセイバー……魔法剣の使い手か」

「えぇ、よくご存じですね」

「……負けを認めよう」


 あれだけ頑なだったアイゼフがあっさりと降参した。よくわからないけど、あれならアンデッドも倒せるのか。本当に何でも出来る子だ。消毒液で倒せるなんて新発見とかいってた私達のレベルよ。


「アスセーナちゃん。負けを認めてくれたことだし、ひとまずは」

「ぐあぁぁぁぁぁぁッ!」


「ア、アスセーナちゃん?」


 負けを認めたアイゼフの肩をアスセーナちゃんがセイントセイバーで削ぎ落した。ちょっと待って、こんな子だったっけ。その目は完全になんというか、空虚だった。目の光が消えているようにも見える。


「う、うぅ……焼ける……体が、消えそうだ……」


「アスセーナちゃん。さすがにもういいでしょ?」

「……モノネさんは彼らが本当に改心すると思いますか?」

「え、そりゃするでしょ……」


 私に目もくれず、アスセーナちゃんは膝をついたアイゼフを見下ろしている。これがシルバーの称号たらしめる理由か。彼女にとって、討伐対象と見なした相手には容赦しない。

 悪人とはいえ、人も殺している。ましてやアンデッドに情が沸くはずもない。いつかの性悪魔術師ならともかく、ちゃんと負けを認めた相手を殺すのはさすがに寝覚めが悪い。


「今回はモノネさんを信じて、このくらいにしておきますね」

「えぇ?」


 急に笑顔になったアスセーナちゃんがセイントセイバーを解除した。切断されたところを押さえながら苦しむアイゼフを横目に、アスセーナちゃんは続ける。


「私一人だったら容赦なく消滅させてましたけどね。後から出てきて偉そうには言えません」

「……やっぱり私とは住む世界が違うなー」

「どうしてそういうこと言うんですか! 住めますよぉ!」

「ちょ、なんで布団に入ろうとするの」


 さっきのは何だったのか。この切り替えの良さもシルバーの称号に必要なものなのか。何にせよ、この境地じゃないと務まらないものがあるなら私に冒険者は出来ないかな。よし、さぼる口実が一つ出来た。


◆ ティカ 記録 ◆


今後の課題として 出力の維持があるカ

マスターのお役に立つどころか 足を引っ張った節さえ あル

まだダ まだ 力が 足りなイ

もっと 僕の本来の力を 発揮しないト

本来の力? はて 僕に そんなものが あるのカ?


だから てぃかは ごーれむぞよ?


黙れ 久しぶりに 登場するんじゃなイ


引き続き 記録を 継続

「思うんだけどさ、鍋に野菜を入れる必要あるの? 肉だけでよくない?」

「何を言うのよ。野菜なくして鍋足り得ないの。お肉だけの鍋なんてナンセンスだわ」

「イルシャちゃんにしては抽象的な反論だね。たまには肉だけをがっつり食べてみたいかな」

「わかってないのね……野菜から出る水分も重要だし、それぞれの素材が」

「あ、ごめん。私の負けでいい」

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