お見舞いに行こう
◆ ランフィルド病院 受け付け ◆
「面会謝絶! そんなにひどいの?!」
「はい。申し訳ありませんが、お引き取り下さい」
淡々とした対応にプロの意識を感じてる場合じゃない。この人達にとってはフレッドさんも一人の患者に過ぎない。それなら仕方ない。日を改めよう、と諦めるか。受け付けのカウンター君に、フレッドさんの病室を教えてもらえばこっちのものだ。そんな要領で無事、病室の番号がわかった。
「せめて様子だけでも見たいよね」
「結婚を控えていたというのに、このような事態になるとハ……」
「シーラさんの気持ちを考えると、こっちまで胸が潰れそうだよ」
この病院を信用してないわけじゃないけど、四の五の言ってられない。あの子の力を借りよう。
◆ ランフィルド病院 フレッドの病室 ◆
「シーラさん」
「モ、モノネちゃん!?」
窓をノックして驚かせてしまった。3階だろうが私には関係にない。だけどシーラさんは、うろたえながらも窓を開けてくれた。レリィちゃんを乗せて、病室へと入る。
そしてそこにある光景が痛々しい。包帯だらけで、見える部分といえば口元だけのフレッドさんがベッドに寝ている。あれで生きていると言われても信じられないくらいひどい。
「アンデッドのボスと戦ったんだってね」
「やめておけばよかった……戦う前から嫌な予感がしたもの。こんな事になるなら、冒険者なんかやめて結婚すればよかった……」
「レリィちゃん。フレッドさんはどう?」
話しかけておいて何だけど、返す言葉が思いつかない。まずはフレッドさんの命の安全を確保するのが先だ。ここまでひどいとさすがのレリィちゃんも、口をヘの字に曲げる。ポーチからゴソゴソと薬を取り出して見比べていた。
「意識はあるよ。でもかなり危ない」
「治りそう?」
「多分」
多分、から頷いてくれたから安心した。確かに意識はありそう。フレッドさんの口だけが何かを言いたそうに動いているから。レリィちゃんが調合した薬をその口に優しく注ぎこむ。飲み込めるか心配だったけど、飲んでくれた。
「これでいろんな症状を抑えられたよ。あとは包帯を剥がして、患部に薬を塗りたい。怒られそう?」
「超怒られるだろうけど、責任は私が取るよ」
「……すま、ない」
フレッドさんが喋った。さっきまで何も言えなかったのに、レリィちゃんの薬のおかげだ。改めて末恐ろしい。いや、現時点で恐ろしい。
「フレッド!」
「シーラ……悪かった……お前の言う事を聞いておけば……」
「そんなのいいから……」
「モノネもいるんだよな……? 聞いてくれ……」
「あまり喋らないほうがいいよ」
「いいんだ……聞いてくれ……」
さっきよりも楽になったとは思うけど、喋るだけでもきついはずだ。レリィちゃんがせっせと処置している中、フレッドさんは喋り続ける。
「アンデッドのボスはデュラ・ハーン……アンデッド系の中でも高位に位置する魔物だ……」
「デュラ・ハーン?」
「首がない鎧を纏ったアンデッドよ。厄介なのは他のアンデッドと違って、生前よりも強くなってる点ね」
「そして実力は……底が見えない……。あれなら生前の時点で……相当な化け物だったはずだ……」
「攻撃方法は?」
「素手だよ……剣すら抜かせられなかった……俺は素手で滅多打ちにされるがままだった……」
相当悔しいのか、フレッドさんが歯ぎしりをした気がした。フレッドさんを手加減してボコれるほどの化け物か。これは冗談抜きにアスセーナちゃんや船長と共闘しないとやばい。ストルフさんやジェシリカちゃんにも頼もう。こんな事態なら普通は逃げるんだけど、どういうわけか今はそんな気分になれない。
「強いだけじゃない……不死だからどんな攻撃でも……倒せない……」
「そういうのはエクソシストの出番なんだっけ」
「辺境伯辺りが魔晶板で魔術協会にエクソシスト派遣を要請しているといいのだけど……」
「私もシーラさんも大嫌いな魔術協会ね。癪だけど、文句も言ってられないか」
だけど辺境伯邸には、そのボスことデュラ・ハーンとナンチ開拓隊の隊長がいる。やっぱりここは戦力を集めよう。倒せなくても、この街からは追い出したい。その後でエクソシストにでも頼めばいい。それにしても、言えた立場じゃないけどアスセーナちゃんはどこにいるの。
「他の冒険者達や警備隊はどうなってるかわかる?」
「さぁな……俺は外で奴らと戦ったから……」
「そのボスはシーラさんには手を出さなかったの?」
「女が戦場に出るなとか……がなり立てていたから……」
「やっぱりそういう思考なんだ」
あのゲールと同じ時代の人なのかもしれない。だけどゲールはボスの正体もわからなければ、ボス自身も生前の記憶がないと。つまりこいつらに生前からの繋がりはないってことかな。それがわかったところでどうにもならないけど。
何にしても、昔の人間に好き勝手させてたまるか。私の安息を奪うどころか、フレッドさんまで痛めつけやがって。でも怒りを抑えないとイヤーギロチンが発現しちゃうから、深呼吸。
「結婚式……すまないな……出られそうに」
「あるからね。今は完治に専念してね」
「そうか……」
フレッドさんの声が震えて、目元を覆っている包帯がわずかに滲んだ。私には冒険者の誇りも何もないし、その悔しさを肩代わりしてあげる事もできない。だからせめて今はお見舞いの品を置いておこう。果物おいしいよ。
「入口にアンデッドが?!」
「閉鎖しろ! 絶対に中に入れるなよ!」
廊下を慌ただしく走る人達が不穏なことを叫んでいる。これは働かないとダメなやつだ。
「私も行くわ」
「シーラさんはフレッドさんのそばにいてあげなよ」
「……でも」
「悔しいのはわかるけどさ。立派な冒険者を目指すのもいいけど、自分が満足して幸せになった人間が勝ちだと私は思うよ」
「つまりマスターの事ですネ」
「水を差すんじゃない」
シーラさんをなだめてから、病院の窓から外に出る。入口を目指せば、そこにいるわいるわ。
◆ ランフィルド病院 入口 ◆
「オラァ! 体が腐ってるから治療してくれやぁ!」
「こっちは腕がないんだが?!」
「今のご時世ならすぐ治せるだろうがよ!」
別の意味で殺到していた。襲いに来たんじゃないんかい。己の惨状がどうにかなると思ってるスケルトンやゾンビの群れだ。救いがなさすぎる。そもそもあんた達、死んでますから。すいっと移動して、アンデッドどもを正面に構えた。
「はいはーい、死人が生きてる人に迷惑かけないように」
「なんだこのガキャ! 死人だからって差別すんなや!」
「生きてる人間が偉いって誰が決めたんだよ!」
「この問答、果てがない」
門の前でギャースカ叫ぶアンデッドども。あれだけいきり立ってるなら、こっちまで入ってくればいいのに。どうも変だな。
「ねぇねぇ、どうしてここまで来ないの?」
「行けるわけねぇだろ!」
「なんで?」
「行けねぇからだよ!」
「その理由を教えろって言ってるのに、さすがは頭まで腐ってるだけある」
ここまで煽ってもこっちまで来ない。どう考えても不自然だ。見ると、足を踏み出してこっちに来る素振りは見せている。だけどこっちに踏み出す寸前に門の外に足を置く。これはこっちに来られないか、来たいけど怖い。どっちかだ。
だとしたら試す価値はあり。布団君で適当なアンデッドの背後に移動して、足蹴りして門の内側へと倒した。
「てりゃっ!」
「う、うおあぁぁぁ! 苦しいやめてくれぇぇぇ!」
ゾンビの体が崩れ出して、煙を吐き始める。這いながらもゾンビは門の外側へ逃げていった。これは。これはこれは。
「て、てめぇ何てことしやがる!」
「そりゃっ!」
「そ、それはぁ!」
レリィちゃんから貰った薬だ。万が一、怪我したり病気になった時に飲むように持ち歩いていた。それをゾンビに投げつけると、また煙を吹き始めて今度こそ体が本格的に崩れる。
「あぎゃあぁぁぁぁ!」
「ボブゥゥゥ!」
生前名ボブが完全に消滅してしまった。少し心が痛まないこともないけど、迷惑かけてる上に一応はアンデッドモンスターに分類されてるからね。人はこうやって自己正当化に努めている。
「この野郎、よくもやりやがったなぁ!」
「その様で病院に入ろうとしてたのか」
「ナンチ開拓隊2番隊を舐めやがって……」
「ゲール隊長は改心しましたよ」
「オラに嘘をつけば舌を切られるってぇ、よく言うだろぉ?」
のっそりと後ろから出て来たのは一際大きいゾンビだ。他のゾンビと違って肌が土気色ではあるけど、つやがある。上半身がもりもり大きくて、下半身と比べるとアンバランスだ。そんなアンデッドがゴリラみたいな姿勢で私を見下ろしてきた。
「1番隊の斬り込み隊長はオラ達の"刃"って言うだろぉ? オラの2番隊は"壁"って言うだろぉ?」
「でもゲール隊長、私に負けましたよ」
「オラの村では嘘をついた子どもは一晩中、木に吊るされるってぇよく言うだろぉ?」
「舌を切られたり吊るされたり大変ですね。虐待ですね」
「もう容赦しねぇ……2番隊の隊長グーバンを怒らせりゃ、ゲール以上だってよく言うだろぉ?」
あら、つまりゲール隊長より強いと? でもエクソシスト顔負けの弱点も発見しちゃったからね。これでレリィちゃんの家にアンデッドが寄り付かなかった理由もわかった。あとはここを何とかしないと。
◆ ティカ 記録 ◆
フレッドさん かなり痛々しい姿だっタ
優しくて 落ち着いているが 心の底では
誰にも負けまいと 熱い闘志を 燃やしていル
そんな人が あそこまで 痛めつけられたとなると
相当な 屈辱に違いなイ
ましてや シーラさんの前ダ
デュラ・ハーン あまりにも 許しがたイ
こちらには レリィさんの薬があル
彼女は どこまでも 恐ろしイ
だが これが知れ渡れば やっかむ連中も 出てくるに違いなイ
どういう連中かは 予想できるだけに 面倒ダ
グーバン ゲール以上と自称しているが 今のマスターと僕で
十分に 対処できるはズ
引き続き 記録を 継続
「いやー、瞬撃少女は何度読んでも面白いなー」
「モノネさんもそれ読んでいたんですか。本当に面白いですよね」
「光速で敵を倒すとかさ、架空のお話でも燃えるよね」
「え? 知らないんですか? 瞬撃少女は実在していた人物をモデルにしてるんですよ?」
「ウッソでしょ?」
「ウソみたいな話ですよねー」




