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スケルトンを討伐しよう

◆ 定食屋 "炎龍" 外 ◆


「ファイアバルカンッ!」

「あらよっとぉ!」


 炎の連射すらも、ゲールの剣を滑るようにして流れて明後日の方向へ飛んでいく。剣をくるくると回しながら、こっちの出方を伺っているっぽい。迂闊に攻めてもまた流されてしまう。

 かといって攻めあぐねていると、あいつがくる。受けた時点で流されるから、ひとまず避けるしかない。達人剣君、頼んだ。


「強いなぁ」

「荒地と森だらけだったこの辺りには、凶暴な魔物がウヨウヨいてなぁ。そんな連中の攻撃を流したのが俺なんだよ」


「未踏破地帯探索者……控えめに見積もっても、ブロンズ以上の実力はありまス」


 こいつはここを切り開いた開拓隊の一人か。考えてみたら、ここも最初から人が住める場所だったわけじゃない。つまり開拓隊あってのランフィルドだ。私が引きこもれるのも、元を辿れば開拓隊のおかげ。確かにそこは感謝しないといけない。


「お前、女のガキにしては強いなぁ。今なら降参すれば許してやるぞ?」

「何を許されるのかがわからない」

「大人に生意気な口を叩いた件だよ」

「ずっと思ってたけど、その大人の優位性を主張して女や子どもを見下す考え方ってあんたが生きてた時代じゃ普通なの?」

「今は違うのか?」

「違うよ。大人も年下も意見を交わし合って生きてきた証がこの街なの」

「この街が、ねぇ」


 我ながら、よくもこんないい感じのセリフが出るもんだ。これには何一つ反論できまい。


「この街を守ってる奴らは弱すぎた。他の奴らも俺達の襲撃に右往左往して逃げ回るばかり。あまっちょろいことをやってきたから、こうなるんだよなぁ」

「殺したの?」

「さぁな」

「私に勝ったらお酒をついであげるよ。逆に私が勝ったら、大人しくしてね」


「やれるもんならなっ!」


 ゲールの猛攻が始まった。ウサギスウェットと達人剣に全神経を集中して、私がやりたいことを伝える。ただ勝つだけじゃない。こいつの心を徹底して折る。さっきのザコならまだしも、こいつを完全に消滅させるのは骨だけに骨が折れる。だったらひとまず自分から負けを認めさせるしかない。


「流れの太刀……流水ッ!」

「また剣が……!」


 まるで鉄砲水が剣に当たって流されたみたいな感覚だ。水の圧力を剣技で表す、それが流水。いや、知らないけど。こうして体がガラ空きになったところを、ゲールの返し刃が狙う。


「もらっ……たぁ?!」

「よっと」


 後退してゲールの攻撃をかわしてから、くるりと体を回転させてその一撃を達人剣で受ける。ゲールの剣が達人剣の上を滑って、剣先を地面に落とす。

 今度は逆転した。ゲールが自分の攻撃を流されて隙だらけになる。そこから止めの刃がスケルトンの首にかかって、ガイコツを撥ね飛ばした。ドクロが宙を舞い、骨の胴体がそこに残る。


「お、俺の攻撃が流されただとぉ……」

「ついでに剣を落としてるよね。流しが得意でも自分が流された経験はなかったのかな」

「……ご名答だ」


 剣さえなければただのスケルトンだ。戦闘力を奪われたゲールは観念したのか、どっかりと地面に腰を落とした。


「生身の体なら、今ので俺は死んでいた。俺の負けだ……」

「物分かりがよすぎて助かる。約束だよ。私が知りたいことを話してくれる?」

「俺が女のガキに負けるなんざなぁ……時代は進んでるのか……」


 ガイコツがコロコロと転がってきてゲールの胴体にくっついたものの、ちょっと落ち込んでる。反撃してくる様子はないから、これは普通に折れたな。骨だけに。


「俺達はある男の手によって蘇った」

「お、語り出してくれた」

「その男は俺達にこう言った。『軟弱な街を変えてくれ』ってな」

「そいつはどんな奴? 強そう?」

「背は高かったが、いかにも貧弱そうな男だった。引っぱたきたくなるほどの陰気な野郎だ」

「名前は?」

「名乗りもしなかったからわからん」


 背が高くて貧弱で陰気な男か。私が顔を知ってる人間の数なんて知れてるから、この情報じゃどうにもならないな。ましてや死者を蘇らせるような人間に心当たりなんてない。


「それで蘇ったのは開拓隊? でも他の連中は弱かったよね」

「ここで飲み食いしてた連中はただの一般の連中だ。他の開拓隊は別の場所にいる」

「ふーん……それであんた達は、その名乗りもしなかった男に黙って従ったわけ?」

「ムカついたが蘇らせてもらった恩もあるし、何よりボスが街の様子を見ようと言ってなぁ。実際に目の当たりにして愕然としたよ」

「それで街を変えようとしてるの?」

「そう思っていた。けどお前みたいな奴もいるってわかったからな。少しだけ冷静になれたわ」


 敵は開拓隊とその他って感じか。このゲールでさえ強かったのに、隊長となると想像もつかない。戦って勝とうとするのは得策じゃないな。ひとまず隊長と話をすればいいか。このゲールも案外冷静だし、和解の可能性もなくはない。


「他のメンバーがどこにいるかわかる?」

「隊長とボスはこの街で一番偉いやつのところへ向かった。他の連中はその辺でフラフラしてるんじゃねえかな」

「ちょっと待って。隊長とボスってどういうことさ」

「あぁ、隊長は俺達の隊長だ。ボスは……俺にもよくわからん。あの人だけ唯一、生前の記憶がほとんどないんだ。ただ一つ言えるのは実力は隊長以上だな……」

「嫌になってきた」


 得体が知れないにも関わらず、こいつらが従うほどだ。こうなったらそいつらは何が何でもアスセーナちゃんか船長辺りに倒してもらおう。そしてこの街で一番偉いといえば辺境伯、これはもうダメかもしれない。生きてる保証すらない。


「ティカ、辺境伯の生体反応は?」

「無事のようデス。しかしそこにアンデッドがいるかもしれませン」

「ゲールさん、ボスと隊長が辺境伯を殺す可能性は?」

「隊長は真面目でお優しい方だからな、滅多なことにはならんだろうがボスはわからん……俺はあの人が怖い……」

「私も怖い」


 本当は辺境伯を助けにいくべきだろうけど、まずは戦力を集めないといけない。私がゲールよりも強いボスと隊長に勝てるとは思えないし、多少遠回りになってでも確実な方法を取るべきだ。

 それとこいつらを蘇らせた男も気になる。そいつを捕まえてアンデッドどもを元に戻させられたらそれがベストだ。さてさて、どうする。


1.辺境伯邸にいってボスと隊長を倒す。

2.戦力を集めて相談したのち、アンデッドどもを倒す。

3.蘇らせた男を捕まえる。

4.諦めて街の改革とやらに加担する。もしかしたら引きこもり放題になるかもしれない。


 1は勝てるとも限らない。そもそもそいつらを倒した途端にすべてが解決するとも思えない。逆上した部下達が暴れ出す可能性すらある。

 つまり4か。いや、こんな差別と根性まみれの連中が引きこもりなんて許すわけない。病人すらも無理矢理にでも立ち上がらせそう。はい、これも差別。


「まずは冒険者ギルドかな。ティカ、冒険者達の生体反応はある?」

「ありまス。ただフレッドさんとシーラさんの反応がありませン」

「ゲッ……まさか、最悪の事態なんてことには」


「もしかして、女を連れた黒髪の男か? 男のほうはボスに挑んで大怪我を負ったぞ」


 さすがの私も凍りつく。結婚を控えた身なのに、どうしてそんなことに。まさか受けた依頼がこいつらの討伐だったんじゃ。だとしたら許しておけない。すでに死んだ人間が、今を生きる人間の命を奪うなんて不条理極まりないもの。


「お、おい……言っておくが、死んじゃいないぞ。多分……」

「そう。よかった」


 イヤーギロチンが伸びに伸びて、周囲のアンデッドを完全に威嚇していた。死んでいる連中にも私の感情が伝わったか。カチカチと音が鳴っているのは、ゲールの歯の根が合ってないからだった。


「お、女の方は無傷だからな……ボスも殺しはしてない。病院にでもいるんじゃないか?」

「だったら先にお見舞いに行こうかな。もし、万が一の事態になってたら骨も残らないと思ってね」

「おう……」


 どうにか心を落ち着けて、布団に乗る。そんな私を不思議そうに眺めるも、突っ込んでこない。今のがよっぽど怖かったんだろうな。


「あんた達が切り開いた場所だし、そこは感謝してるけどさ。今を生きる人達を尊重しないと、ただのアンデッドだよ」

「……悪かったよ。久しぶりの酒と女で舞い上がってた」

「イルシャちゃん。お酒持ってきて、お金は私が払うから」

「え? まさかモノネさんが飲むの? それはダメよ」

「ボケなくていいから。はい、ゲールさん。グラスを持って」

「あ、あぁ」


 イルシャちゃんが店の中から持ってきたお酒を、ゲールが持ったグラスに注ぐ。表情はガイコツだからわからないけど、さすがに困惑してる。


「これは……?」

「女に注がれたお酒はおいしいんでしょ。よく味わってね」

「……ガキじゃなぁ」

「贅沢言うな」

「冗談だ。ありがたくいただくぜ」


 骨だから飲んでも、地面に垂れ流すだけなんだけどね。それでもおいしそうに飲んでるように見える。かすかに震えているし、まさか感動してるんじゃ。


「いいなぁ……やっぱり現世(ここ)はよぅ……」


「お、おれも頼む!」

「こっちも!」


 他のアンデッドも調子に乗り始めた。悪さしないならアンデッドだろうが、私は構わない。物霊と似たようなものだ。分かり合えるならそれに越したことはない。何人かファイアバルカンで消滅させちゃったけど、それはご愛敬。


◆ ティカ 記録 ◆


流しのゲール 強敵だっタ

この地を 切り開いた人間ならば 敬意を もって接したイ

なぜならば この地で マスターが 生まれたのだかラ

この様子だと 開拓隊も 悪人というわけでは なさそうダ

すべての 元凶は 恐らくボスと呼ばれている奴

そんな彼らを よみがえらせたのは テニーさんに 怒っていた

あの 背が高い男ダ

だが あの男に そこまでの力が あるとは思えなイ

まだ この事件には 裏があル

マスターに 相談しよウ


引き続き 記録を 継続

「やったー! あがりー! モノネさん、また最下位ね!」

「皆、強すぎ」

「場に出されたカードと自分の手札を見比べれば、おのずと相手の手札もわかるんですよ」

「そういうのがめんどうなんだよねー。最初は頑張って覚えようとするけど途中からだるくなる」

「カードゲームですら性格が出てるモノネさん……」

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