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ツクモの街に人を呼ぼう

◆ モノネの部屋 ◆


「それでぞよ、ツクモポリスはもっともっと栄えるべきぞよ」

「そうだね。でも三度寝の予定があるからまた後でね」


 このツクモちゃんはどこでもここでも現れる。私が食事をしていようと風呂に入っていようとお構いなし。この私にも、さすがにプライベートというものがある。というかプライベート以外、何もない。


「あのね、私だって考えてるんだよ。でもこういう街がありますよーと宣伝したところで、うまくいかないよ」

「じゃあ、どうするぞよ」

「まず街のクオリティを高めてみない? 例えば名物料理を用意するとか」

「それはイルシャがやってくれている最中ぞよ」

「手が早すぎる」


 機会があったら頼もうかなと思っていたけど手間が省けた。あとは医療関連も徹底したい。そっちは心苦しいけどレリィちゃんに頼んでみよう。


「街の出入りはどうなってるの? ジェシリカちゃん達だって出られないと不便でしょ」

「街の入口から出れば、その人が思い描いていた場所に出られるぞよ。もちろん、知らない場所にはいけないぞよ」

「もう何でもありだね。じゃあ入る時は?」

「ツクモポリスに行きたいと心の中で念じるぞよ。会ったことがあるなら、いつでも入れてやるぞよ」

「ツクモちゃんがいなくても出入り可能なんだ。それじゃ住民と認めた人間なら、その辺は自由なんだね」


 改めて考えると恐ろしい。世界のどこからでも入れて、行ったことがある場所に出られる。これは売りにしない手はない。だけど、どうしても最初にして最大の壁にぶち当たる。


「それで、どうすれば素晴らしいツクモポリスに人を呼び込めるぞよ」

「人に知ってもらうって大変なんだよ。普通に宣伝しただけじゃ、誰も見向きもしない。私も専門外だからこればっかりはね」

「ランフィルドの住人ごと転移させるぞよ?」

「軽く街の危機を感じたところで、真剣に考えてみる」


 ハッキリ言ってこの子は危険だ。やろうと思えば、誰でもあの街に拉致できる。アンガスとナベルくらいなら干渉できるっぽいけど、ほぼ無敵だ。だからこそ私がきっちり制御してやらないといけない。


「困った時の冒険者ギルドだね」

「名案デス。冒険者ならば、あらゆる方面と繋がってる場合が多いので宣伝にはもってこいデス」

「ティカもたまにはマシな発言をするぞよ」

「貴様、立場をわからせてやる必要があるナ」

「やるぞよ? しゅっしゅっしゅ!」

「ケンカしないで」


 なんでこの二人の仲が悪いのか、さっぱりわからない。同じ物霊でもソリが合わないとかあるのかな。


◆ ランフィルド 冒険者ギルド ◆


「物騒な者達が闊歩してるぞよ。住人として迎えてやってもいいぞよ」

「早まるな」


 マスコットが妙なチビを連れてきたものだから、またまた注目される。こんなかわいらしい子に加えて、アイアンタートル討伐で親睦を深めた仲だ。きちんと説明すれば、ツクモポリスに興味を示してくれるはず。ツクモちゃんじゃ話にならないから、ここは私が説明をしよう。


「……そんな街があるのか。でもなんか怖いな」

「この世界とは別の世界ってのがな。戻ってこられなさそうだ」

「そんなことはないぞよ! あまりバカにすると、連れていくぞよ!」

「やめい。まぁ確かに怖いよね。でも一度でいいから、来てみてよ」

「物霊ねぇ。どうも得体が知れないなぁ」


 かくかくしかじかで一生懸命に説明しても、食いつきが悪い。うん、私もあっちの立場なら絶対に信用しない。この人達だって忙しいんだし、そんな得体の知れないものに構ってる余裕なんてない。あの親睦討伐が何の役にも立たないなんて、悲しくなっちゃう。


「いやー、くたびれたなぁ!」

「フレッド、おかえり! 護衛の依頼、無事に終わったか?」


そこで元気よく、カップルが帰ってきた。お仕事帰りか、熱心で感心する。ここにいるブロンズはしばらくお仕事してない。


「エイベールまでだからな。何てことはないが、アンデッドに襲われてビックリした」

「アンデッド?! この辺りにそんなもんが出るのか……」

「ザコだったから問題はなかったけどな」

「結婚前に大事に至ると大変だからな。そういえば、日取りや場所はまだ決まってないのか?」

「未定だ。なかなかここっていう場所がなくてな……」


 何気ない会話に耳を傾ければ、そこにヒントはあった。いくらランフィルドのマスコットといえど、そこまで親しくもない冒険者に説明してもうまくいくわけない。だったらブロンズ仲間にして、そこそこの親睦を深めたあの二人だ。


「フレッドさん達、結婚するの?」

「あぁ。次の依頼が終わったら俺達、結婚する予定なんだ」

「そんな不穏な」

「不穏?」

「いや、気にしないで。それよりいい場所を知ってるんだけどさ。この前、訓練したツクモポリスなんてどう?」

「あそこか……」


 すごい思案顔をしている。シーラさんも悩んでる。だけど何か思いついたように、ニッコリと笑った。


「いいんじゃない?」

「いいのか?」

「あそこ、私は好きよ。それに物霊の街での祝杯なんて、ちょっとした自慢にもなるし」

「うーん、まぁ悪くないか」

「あのね、結婚式の際にはここにいる皆も招待してほしい。気味悪がられたままじゃ、釈然としないからね」

「皆に聞いてみるか」


 すでにツクモポリス経験者であるフレッドさんが説明すると、どうでしょう。なんだか皆さん、乗り気です。


「卵料理にはちょっと興味があるな。絶品ミルクも気になるぜ……」

「どこまでも続いてそうな田舎町かぁ。癒されるかもな」

「廃止された魔導列車も見てみたいぞ」


「私とのこの差よ」


 マスコットだなんて思い上がっていた私に見せつけてくれる。そもそも誰もマスコット呼ばわりしてないのに一人で調子に乗ってた。痛いのは恰好だけで十分だ。


「ちゃんとあの街の魅力を伝えないと、興味を持ってくれないぞ。この辺は冒険者としての経験の差が出たな」

「この街のブロンズ冒険者はフレッドさんだ。あなたが引っ張っていけばいい」

「拗ねるなよ……」

「あとは結婚式の日取りね。フレッド、次の依頼次第で資金が溜まりそうだから……近いうちに挙げられるわね」


 将来を見据えてコツコツとお金を貯める。これが人としてのあるべき姿だ。見たか、モノネ。シーラさんが開いた手帳に日程がビッシリ書かれているし、見てるだけで頭が痛くなる。そして依頼書をパラパラとめくり、早速仕事に取りかかろうとしていた。すごすぎる。


「……アンデッド討伐? 私達が遭遇した個体以外にもいるのね」

「ブラッディレオの例もあるからな。何がいたって不思議じゃないさ。ちょうどいい、これにしよう」


「フレッド、その依頼に関連するのだがな。少し話がある」


 2階から降りてきた船長が、神妙な面持ちでフレッドさん達と何か話し始めた。巻き込まれないうちに退散して、こっちはこっちで準備を始めよう。フレッドさん達が帰ってきたら、いつでも結婚式を挙げられるようにしないと。


◆ ツクモの街 ◆


「そうですか! 我が街で結婚式を挙げたいという方が! 皆の者ォ!」


 まだ知り合いが結婚式を挙げたいって、までしか言ってない。言ってないのに皆の者が集まりすぎてる。断るわけないと思っていたけど一応、許可を貰おうとしたらこれだ。


「我が街に定住するどころか、結婚式まで挙げるとは!」

「いや、定住するとは言ってない」

「町中総出で祝福せねば! 場所は集会場を使おう!」

「もう絶対、話聞いてないよね」


「結婚式といえば料理ね!」


 この子こそ、当たり前のように定住してるんじゃないの。イルシャちゃんが奮起してる。でも、いてくれてよかった。あとは髪型とかのセッティングやら何やら、いろいろあるんだっけ。


「服装とか整えるのに人が必要だよね」

「それなら、ジェシリカさんが上手よ」

「いつの間に知り合ったのさ」

「レストランの料理の試作品を食べてもらってたんだけど、絶対においしいって言わなくて苦労したのよ……」

「ゴリ押しか」


「当散髪屋もお忘れずに!」


 散髪屋さんが両手にハサミを持ってアピールしてる。これでまた一つ、問題が解決したか。あとはスケジュール。結婚式なんて一生縁がないから、そんなもんどう組めばいいんだかさっぱりだ。


「結婚式から葬式まで、幅広いイベントをカバーする総合プランナーとはアタシのことよ」

「じゃあ、おばさんにそっちは任せるね」


 なんだ、次々と物霊達が思ったところをカバーしてくれる。この街、本当に何でもある。それだけに廃れてしまったのが惜しい。そりゃ町長も悔しいか。


「細かいところはフレッドさん達が帰ってきたら、打ち合わせしようか」

「結婚式といえばウェディングドレスにブーケよね」


「そちらは当店にお任せを!」


 おっと、こっちも用意があったか。スケジュールやイベント内容も含めて、フレッドさん達と打ち合わせして決めればいいし、あれ。私、必要ない。


「式場のセッティングやら何やら、忙しくなりますなぁ!」

「最近の若い子はどんなウェディングドレスがいいのかしら」


 街の方々でどんどん盛り上がってるし、これは全部任せてもいいか。本人のあずかり知らぬところで巻き込まれたジェシリカちゃんとか、思うところはあるけど考えるのが面倒になってきた。あとは司会が必要なんだっけ。私? ご冗談を。することがないなら寝るのが一番。


◆ ティカ 記録 ◆


結婚式 それは二人が 永遠に愛する誓いを 立てて

今後の苦楽を 共にする前の 儀式

なんとも神聖であり 尊イ

それだけに マスターも いつか 結婚式を

迎える日がくると思うと 感涙せずには いられなイ

ウェディングドレスとやらは どんなものか 想像もつかないが

きっと マスターに マスターに


何故ダ 何故その場面が 想像できなイ

これでは マスターと お呼びする資格など なくなル

即 イメージを 修正せねバ


引き続き 記録を 継続

「イルシャちゃん、それ何?」

「ランフィルドにほしい施設アンケートだって。モノネさん、何かある?」

「ゴロゴロ出来る施設とか?」

「それは家でやればいいじゃない……」

「意外と家で出来ない人とかいるかもしれないよ。本を読んだり、飲み物を自由に飲めたら最高だね」

「食べ物があれば嬉しいですネ」

「そんなの絶対いらないでしょ……」

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