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一次選考の結果発表を確認しよう

◆ モノネの部屋 ◆


 今日が運命の日、すなわちブックスター大賞一次選考結果が発表される日だ。魔晶板(マナタブ)を持つ手が震える。これでブックスターのページへ行けばすぐに結果がわかるけど、それがなかなか出来ない。

 素人の私が、道楽で書き始めた小説が通過するとは考えにくい。落ちて当然くらいの気概で書き始めたはずだ。それが今はどうなのかというと、胸がバクバクいってる。


「確認しないのですカ?」

「今するから」


 それなりに時間をかけて書いた小説だし、落ちて当然なんて考えられるわけがない。だから直前になって怖気づいている。

 600作品以上の中から私の作品が選ばれる確率なんて微々たるもの。周囲は百戦錬磨の猛者、小説に命をかけて燃やしてるような連中ばかり。だけど私だって。私だって。


「か、確認するよ!」

「ご武運を……!」


 見慣れたブックスターのページに一次選考結果発表と書かれていた。一次通過作品は63作品。作品名と作者名が無機質に羅列されている。上から順に確認しよう。


魔物30日戦争 ダータク

城下町の道具屋 ジョッシュ

あの先生はわたしにドキキュンめろりん カレイヌ

地平線の向こうにいる君 ナルシト


「ない。ていうかあの時の人達、ちゃっかり通ってやんの」

「これは今一度、ブックスターに問い直す他はありませんネ」

「いいから武装解除して」


 ティカに銃口を降ろさせつつ、落ち着いて続きを確認する。これはダメかもしれない。焦燥してきた。


いちゃもんが多い料理店 ケン

街角カフェは夜間営業 トムヤ

天井塔 ユッチェ


「この料理押し、そっちでいくべきだったか」

「偏重審査の疑いがありまス」

「銃口やめろ」


 タイトルだけで面白そうな作品ばかりだ。しかもどれも審査員からの評価が高い。これはダメなやつだ。もう終わった。今日はもう寝るしかない。


「あーあ、世の中甘くないかー」


クリティカルバースデイ ヨンタ

堕ちた冠 ニイケル

落ちこぼれのレッテルを張られたけど最強の魔術師の資質を秘めていたらしい モノネ


 大体、皆は真面目にタイトルをコンパクトに収めてる。こんな長ったらしいのは、タイトルじゃなくてあらすじでやれと思う。タイトルすらさぼってるからこうなる。反省点が、いや。ちょっと。


「マスターの作品ですヨ!」

「……これはつまり」

「一次選考通過ということですネ!」


 見間違いじゃない。ここにしっかりと長ったらしいタイトルと作者名が刻まれている。何度も画面を更新したけど、消えなかった。誤作動でもない。


「ホントですかぁぁぁ!」

「ホントですヨ!」


 ブックスター大賞一次選考通過。つまりこれは控えめにいって、お前の作品は見込みがあるよというメッセージだ。それどころか書籍として発売してもいいかな、どうしようかなと迷ってる証拠でもある。そんな私を布団君が祝福してくれるかのように、ぎゅっと包む。いや、私がやらせてるんだけど。


「いやったぁぁぁぁぁぁ!」

「マ、マスター! どこへ……」


 ティカの制止も聞かずに窓を開けて、丸まったまま布団君と一緒に外に飛び出す。空中三回転、フリーフォール、そして全速前進。いつも見ていたランフィルド上空からの景色が違って見える。この街も私を祝福しているようにしか見えない。


「私は自由だぁぁぁ!」

「それは元からデス!」

「そういえば、広場の掲示板にも結果発表が張り出されてるんだっけ!」


 巻物みたいになった状態で広場を目指す。緑が基調されたような広場の真ん中に噴水とベンチがあって、その真ん中に掲示板はあった。あの人だかりは応募者だけじゃない。小説界隈をこよなく愛する人達も含まれている。


◆ ランフィルド広場 ◆


 掲示板には魔晶板(マナタブ)に表示された通りの結果が張ってあった。赤裸々に評価内容まで書かれてるもんだから、これは恥ずかしい。ところで私の作品にはなんて書かれてるのかな。さっきは嬉しさのあまり、見てなかった。


"重い展開からの逆転劇、折れない主人公の姿に心を打たれる。文句なしの快作"

"序盤から読者を飽きさせない工夫が随所になされている"

"文章の情報量が適度で、すんなりと読まされた"


 やったね。嬉しすぎて今日は満足してこのまま寝そう。


"清々しいほどの成り上がりを見せてくれますが、シンプル故に先の展開がやや予想できてしまうのが残念です"


 あ、はい。精進します。


"わかりやすいキャラではあるが、主人公が調子に乗りすぎていて人によっては不快に感じると思う"


 なんでかな、耳が痛い。プロになったら、こういう意見を聞かないといけないんだ。今から折れてもしょうがない。


「僕の作品は一次通過か。ま、当然の結果かな」

「アタシの作品があったわぁぁ! やっぱりこの出版屋は見る目あるわぁ!」

「うわぁぁぁぁぁぁどこにもないぞぉぉぉ!」

「落ちてるし……見る目なさすぎて笑える。やっぱり田舎の出版屋はダメだわ」

「うーん、実力不足か。この評価を信じて次回作に活かそう」


 応募者の温度差がすごい。落ちた人でもきちんと冷静な人もいれば、今にも暴れ出すんじゃないかとすら思える人もいる。一歩間違えれば私もあっち側にいたはずだから、あの人達の素行については何も言わない。この様子だと掲示板に結果発表だけ張り付けて、ブックスターの人がこの場にいないのは正解だと思う。


「あ、モノネさーん」

「テニーさん、きちゃったんだ」


 やばいって、あなた。ブックスターの人間だとわかるや、殺意すら剥き出しそうな勢いで睨んでいる人達がいる。中にはあのひょろながの人もいた。


「モノネさんの作品、通ってますからねー。私は一押しだったんですけど、一部の方々からの評価が散々でしてねぇ……」

「そ、それはいいんだけどさ。なんでここに来たの?」

「落ちた方々から、いろいろ質問があると思いましてねー」

「熱心なのはいいけど、殺されるよ」


「おい! お前ぇ!」


 ほら、早速あのひょろながの人が先陣を切ってきた。後に続く落選者達も負けてない。すぐにテニーさんが囲まれて、ひどい目にあうんじゃないかというシチュエーションが出来上がる。


「はいー、ご質問を承りますー」

「ぼ、僕のカグ戦を落とした理由を聞かせてもらおうか……へ、返答次第では君の魂は冥府に落ちて汚れにまみれ、二度と転生を果たせないだろう」

「かぐせん?」

「か、かか、カオスグロティングス戦記に決まってるだろうがぁ! 本当にちゃんと選考したのか!」

「略されてもわかりませんのでー。あなたはわかっても、私達には定着してないんですよー。落ちた理由はここですかねー」

「こ、こここ、こ、ここだと!」

「冒頭から設定が羅列されていて、何がなんだかわかりませんしー……いきなり誰かわからない人が戦ってるシーンから始まっても、期待感はないですねー」

「わ、わからないのは当たり前だ! そいつは中盤に登場するキャラだからな!」

「はぁ……」


 あのテニーさんがため息をついた。その仕草がひょろながの人の逆鱗に触れたんだと思う。胸倉を掴んで、鼻息を吹きかけんばかりに顔を近づけた。


「さ、最初からすべてがわかる物語なんてないだろう! 冒頭に謎を残しつつ、その余韻を味わったまま主人公のシーンに移る……こ、これは王道だろう!」

「最初からすべてを提示する必要は確かにないですねー。でも最低限、誰が主人公でどういうキャラかわかりつつ、置かれている状況も把握できるモノネさんの作品に軍配が上がりましたー」

「なんでそこで私の作品を出すの」

「なにぃ!」


 しまった、つい突っ込んでしまった。いや、でも私の名前を呼びながら登場してるからバレてるか。ひょろながの人がテニーさんの胸倉から手を離して、今度は私につかつかと歩いてくる。なにさ、やる気か。勝てそうだし、やるよ。


「こ、この前の痛い恰好をしたガキか。お、おお、お前も応募者だったんだな。どれ……なんだこのタイトルはぁ!」

「面倒だからタイトルで話の内容を伝えた」

「こ、こ、こんなふざけたタイトルの作品が通ってるのか! こんなものは小説じゃない!」

「そうだ、そうだ! 小説というものを舐めている!」

「こんなものが通ってる時点で、大賞の質も知れたな」


 ひどい言われよう。私の作品が優れているとはいわないけど、少なくとも認められる部分があって通ったのは確かだ。悔しいのはわかるけど、他の作品を攻撃するのはお門違い。


「わかりやすさって大切なんですよー。人はわからないものになかなか興味を示しませんし、わかりやすさは正義ですっ」

「そんな活字すらも読めなさそうな連中が世の中にあふれてるのか! 小説の未来が危ぶまれるな……」

「知能まで低下してるんじゃないか?」

「俺の時代じゃ、難解な言葉があっても自分で調べて読んだものだ。今の若い連中は根性がないな」

「そういう時代じゃないってことですねー」


「おい、お前ら見苦しいぞ……」


 おっと、他の人達が集まってきてる。ギャラリーに囲まれた状況に恐れをなしたのか、文句を言ってる人達が少し押し黙った。


「オレも落ちたが、単なる実力不足だと思っている。読む人間を楽しませられないなら、作者であるオレのせいだからな」

「そうだ。どんな人間が読もうが、楽しませなきゃいけない相手はその人達なんだ」

「それを貶めてるようじゃ、物書きとして失格だな。自分の作品が最高だと思うなら、自分だけで読んでいればいいだろ?」

「グッ……で、でも、僕の作品は途中からすごく盛り上がって……」

「じゃあ、聞くけどさ。あんた、つまらないと思った作品を最後まで読むか?」

「う、うーっ!」


 なんか変な声を出して完全に言い返せなくなった。私なんかよりも、この人達のほうが遥かに上手だ。さすがは小説界隈に長い間、身を置いている猛者達。その凄みで完全に落選者達が気圧されている。


「あのー、お話があるなら聞きますよー?」

「も、もういい! どけっ!」


 ひょろながの人がギャラリーを押しのけて逃げたと同時に、味方していた落選者も追うようにしていなくなった。他人事じゃないだけに、あのひょろながの人を責められない。私も落選していたら、あっち側でがなり立ててたのかな。


「困りましたねー……せっかくいい作品を書いてもらおうと思ったのに」

「テニーさんは熱心だね。気にしないで、二次選考がんばってね」

「はいー、がんばりますー……」


 ちょっと落ち込んでるな。あんな連中、放っておけばいいのに。この人は本気で小説と向き合っている。またしても私にはない姿勢です。


「まぁオレも、正直に言うと黒い気持ちはあるけどな」

「あぁ、こんな面白い作品が評価されないなんてと思う事もあるなぁ」

「でもそこで堪えないとな。難しいけどさ」

「皆、強いなぁ」


「ではではー、残った皆さんだけでもお話を聞きますよー」


 通過者と落選者が集まってきているところを見ると、テニーさんそのものが信頼されてるのかもしれない。私もご一緒したほうがいいのかな。よし、成長のためだ。


「このシーン、矛盾してますよねー。あのキャラの過去の発言とは真逆の行動してますー」

「あ……」

「序盤からいるあのキャラ、魅力あまりないですねー。行動に一貫性がありませんしー」

「はい……」

「あと誤字もたくさんありますー」

「ありますー……」


 心が折れる音が聴こえてきそうなくらいヘコんだけど、めげない。これじゃ二次選考は絶望的だなとほんのり思ったけど、めげない。こんな面白い作品が評価されないなんて。


◆ ティカ 記録 ◆


マスターが あんなに喜ぶ姿 初めて見タ

僕も 飛び回りたくなるくらい 嬉しかっタ

追いつくのに 苦労しタ

マスターが いよいよ 小説界にて 脚光を浴びる時が 来たのカ

マスターが 最優秀賞を 取ってほしイ

マスターの幸せは 僕の幸セ

気になるのは あの落選した連中ダ

あの 痩せた男 どうにも 闇を 感じル


引き続き 記録を 継続

「モノネさん。突然そのアビリティが消えたらどうするの?」

「どうしたの、イルシャちゃん。最近、出番がないからってさ」

「そういう不安はないのかなって思ったの」

「考えたことすらない」

「アビリティ封じのアビリティみたいなのを使う相手がいたら?」

「イルシャちゃんにしてはえぐい発想だし、やっぱり出番がないからイライラしてるでしょ」

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