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アイアンタートルを討伐しよう

◆ フィータル大森林 ◆


 フィータル平原から続く大森林が今回の勝負の場所だと、ストルフが指示してきた。この広すぎる森の中にアイアンタートルがいる。下手したらアイアンタートルの前に遭難する危険性すらあるほどの難所だとか。


「ブラッディレオが出た時は大騒ぎしていたのに、Lv36の亀が生息してるんだね」

「ランフィルドからだいぶ離れている上に、アイアンタートルの足は遅い。放っておいても街まで来る事はないのだよ」

「こんな勝負のために遠出するとか狂ってる」


「ストルフさん、早く始めようぜ」


 ストルフ率いる冒険者達はやる気に満ちている。一方、こっちは4人。話にならない。こんなもん負けて当然だ。それに私はこの勝負にも疑問がある。この人達、なんで大切なことに気づかないの。


「勝利条件は予め伝えた通りだ。先にアイアンタートルを討伐して、証拠品をミス・アスセーナに渡したチームの勝ちだ。

同時に倒した場合は、個体の大きさで判定する」

「審査員はしっかりと務めますのでご安心を!」

「当然のように聞きつけてやってきたアスセーナちゃんもいるし安心だね」


 審査員といいながら、こっち側に立ってる。誤審と贔屓は覚悟して下さい、ストルフさん。この子、あなたのこと嫌いです。


「ミス・アスセーナが判定するとなれば心強い。我々もより気が引き締まるというものだ」

「そのミスってつけるの気持ち悪いのでやめてくれません?」

「では始めようか。ミス・アスセーナ、スタートの合図を頼もう」

「いい加減にしないと判定負けにしますよ? はい、スタート」


 投げやりなスタートと同時に、不利な判定しかないストルフチームが動き出した。あっちは居場所がわかってるのかな。こっちはティカがやってくれるからいいけど。


「アイアンタートル、彼らが走り出した方角にいますネ」

「残念だね、こっちは布団君がいる」

「ほ、本当に乗っていいのか?」

「いいよ、フレッドさんにシーラさん。さ、カンカン兄弟もどうぞ」

「おぅう! 弟よ、これは寝心地もいいのだぞ!」

「兄よ! それは楽しみだ!」


 寝かせないっての。空を飛べば障害物なんて関係なし、大幅にショートカット出来る。討伐に手を出すなというルールはあるけど、運ぶのがダメとはいってない。

 バツが悪そうなフレッドさんは本当に真面目だ。こういう人こそ、報われるべきでしょう。いざ空へ舞い上がり、大森林を見下ろす。彼方まで森が広がっていた。何この森。


「いい眺めだ……この森も全部は探索されてないそうだな。奥地は未踏破地帯になってる」

「アイアンタートルはそんなに奥にいないから安心ね」

「ティカ、鉄の亀さんはどの辺にいるの?」

「そう遠くはないようデス。左前方へ移動して下さイ」


 ティカの指示通り、布団君で移動すると小さな川が流れている場所についた。その川をせき止めるかのようにして居座っている鉄の亀。予想より大きい。あんなのが転がってきたら一溜りもないんじゃ。


「フレッドさん。ここからあいつの首をめがけて剣を振り下ろせる?」

「この高さならいけるぞ! アビリティ全開で踏み込む!」


 布団君から飛び降りたフレッドさんが、鉄の亀の首に剣を振り下ろした。首にくい込みはしたけど、切断できない。この高さから威力つけてもダメなの。ウソでしょ。


「やばい……!」


「フーフゥー」


 不穏な鼻息と共に鉄の亀が頭をぶんぶんと振る。すっぽぬけた剣と一緒にフレッドさんが飛ばされつつも着地。奇襲失敗だ。鉄っぽい皮膚から血を流してはいるけど、致命傷じゃない。亀が見つめる先はもちろんフレッドさんだ。


「弟よ! 俺達もいくぞ!」

「とぉぉ!」


 カンカン兄弟も続き、亀の頭に飛び蹴りを直撃させる。揺らしてわずかにのけぞらせたものの、亀はまだ元気だ。確実にダメージにはなってるはずだけど、あの硬さじゃなかなか致命傷を与えられないか。


炎中位魔法(ブレイズショット)!」

「ブレイズ・アクセルッ!」


「おぉー!」


 シーラさんの炎の魔法に合わせてフレッドさんが、それに剣を当てる。炎の魔法と炎の剣の同時攻撃か。

感動した。これには亀さんも堪えるはず。反撃も許さないまま、亀は炎の責め苦にあった。炎を帯びたフレッドさんの剣、あれはアスセーナちゃんがやってたのと同じ要領かな。魔法剣になったその刃が亀の首に斬り込む。


「んんぬおぉぉ!」

「ブンッ!」


 またも剣がすっぽ抜ける。亀が首を振ってから、甲羅へひっこめた。


「皆、今こそ訓練の成果を発揮する時だよ!」


 倒し斬れたらよかったけど、こうなるのは想定していた。頭をひっこめたという事は、ピンチだと認めたようなものだ。

 甲羅だけになった鉄の亀がごろりと横向きになり次の瞬間、車輪みたいに回転し始めた。甲羅車輪がぐるりと円を描くように地面を削りながら、フレッドさん達を追い回す。思ったより速いな。


「こ、甲羅を叩け! 今こそ修業の成果を発揮しよう!」

「とぉりゃぁぁぁ!」

「ふぅんッ!」


 あの爆走をかわしつつ、剣と拳を当て続ける3人。シーラさんの詠唱が終わると同時にフレッドさんが例の合わせ技を発動した。

 首には刃が入ったけど、甲羅は無傷だ。それでも攻撃ヒット時の金属音がひたすらなり続ける。さぁうるさいはずだ。そして熱いはずだ。車輪攻撃の動きは単調だから、あの人達ならかわせる。


「ハァハァ……きついな……」


「亀さんの動きが遅くなってるよ! 絶対に攻撃をやめちゃダメ!」


 偉そうに戦闘指南なんぞをする私。実際、最初よりも甲羅の動きが鈍っている。そして反転時の動きが隙だらけになった。そこを見逃さず、全員で一斉に叩く、叩く、叩く。


「ブゥンッ!」


「よし! 頭を出したな!」


 シーラさんとの合わせ技、3度目のブレイズ・アクセルがさっきの斬り口に直撃する。


「うぉぉぉぉぉ!」

「フレッドよ! あと一息だ! うりゃりゃりゃー!」

「兄よ! いけるぞ!」


 カンカン兄弟にボコボコに殴られた頭がフラフラしつつ、フレッドさんの刃がついに首を通過した。すっぱりと切断された亀の頭が宙を舞ってから河原にごとりと転がる。よし。


「か、勝った……やったぞ!」

「おぉぉぉ! フレッドにシーラ! 俺達の勝利だ!」

「はぁ……心臓に悪い戦いね。でも戦闘Lv36に勝てたのは感慨深いわ」


 大きな亀の体を前にして、全員が力を抜いて座り込む。ゆっくりお休みと言いたいけど、今はそんな場合じゃない。こいつを倒した証拠をアスセーナちゃんのところにもっていかなきゃ。あの頭がいいのかな。


「さすがに大きいなぁ。どうやって運ぼうか」

「俺達が担ぐから問題ないぞ!」

「なんというバイタリティ。初めてあんた達がすごいと思った」

「なんか引っかかる言い方だが、早いところ帰るぞ。奴らに先を越されては元も子もない」


 亀さんの胴体とかまとめて縛り上げて、わっしょいわっしょいと運ぶ。さすがにこの重さは布団君じゃ支えきれない。ウサギさんも無理。この兄弟、すごいな。あの戦いの後なのに疲れを微塵も見せない。ティカの生体感知で魔物を避けつつ、森の出口まで歩を進める。


「ストルフさんのチームはどうなってるんだろう」

「それなのですがマスター、あちらはこちらよりも大きな個体を相手にしているようデス」

「それを倒して持ってこられたら負けじゃん。急ごう」


 つまり、あっちが戦ってるのはこれよりも強いってことか。あの人数だし平気でしょう。こっちは4人なんだ。本当よくやったよ。帰ったらお祝いだね。えっちらおっちらと歩き、森の出口が見えてきた。先を越されてないか心配だったけど、アスセーナちゃんが私達を見つけるなり走り寄ってきたからまだか。


「おぉい! アスセーナァ! 帰ったぞ!」

「モノネさん、お帰りなさい! すごく大きいですね!」

「私よりもカンカン兄弟に返事してあげてね」

「兄弟さんもフレッドさん、シーラさん! お疲れ様でした!」

「おう、手強かったけど何とかなったよ」


 ストルフチームはまだ時間がかかってるのかな。欲張って大きい個体を狙ってるのかもしれない。あの自信過剰っぷりからしてありそう。


「この勝負、モノネさん達の勝ちですね。帰りましょう」

「ストルフさん達を待とうよ。なんか大きい個体と戦ってるみたいだし」

「夕食までには帰りますよ。さ、行きましょう」

「私もあの人は好きじゃないけど、アスセーナちゃんは更に突き放すよね」


「マ、マスター……大きい個体の魔物と大勢の冒険者がこちらにやってきまス……」


 遠くの森のほうから木々がなぎ倒される音が聴こえまくってくる。冒険者達の阿鼻叫喚の叫びと共にそれは近づいてきた。

 そして先陣を切って走ってきたのがストルフ、後ろに冒険者達が続いてる。更にその後ろ、木よりも高い何かが回転しながら追ってきてた。


「お、お前達ぃ! こいつを何とかしろぉ!」


「さ、帰ろうか」


 素で帰り支度を始めた私を見るストルフが、マジかってくらい目を見開いた。マジです。帰りたい。


「あれさ、アイアンタートルだよね?」

「言いにくいのですが、フレッドさん達が倒したアイアンタートルは恐らく幼体だったかト……」

「もうやだ」


「追いつかれるぅぅぅ!」


 さっきよりも大きい亀車輪がバウンドして頭上に迫った。誰だ、戦闘Lv36とか言ったの。


◆ ティカ 記録 ◆


フレッドさんにシーラさん カンカン兄弟 この方々も

成長していまス 戦闘Lvは全員 30に届きそうデス

マスターが いない間も 鍛錬に 勤しんでいたのかも しれなイ

幼体とはいえ あの手強さは 予想以上

それでも 4人で結束し 見事勝利した その姿は 美しイ

そして あの成体のアイアンタートル 戦闘Lv45 ストルフの手には余るはズ

マスター達の手を わずらわせた件も含めて この勝負

マスター達の 大勝利


引き続き 記録を 継続

「はぁ……面白すぎた。去年のブックスター大賞の最優秀作品……これは評価されてもしょうがない」

「マスターの作品も、評価に値しまス」

「キャラの魅力の引き出し方とか、読者を引き込む展開、すべてをとっても敵わない」

「マスターの作品のほうが遥かに上デス。どれどれ……こんなもの、マスターの作品には……おぉ」

「ね、さすがに読めば私を持ち上げられないでしょ?」

「これはマスターに匹敵しますネ……」

「互角で落ち着いたか」

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