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4話

 『まもなく、ワーグイック。まもなく、ワーグイック』


 「早えな!?」


 ナナシが驚いていると、フォードが解説し始めた。


 「この列車、時速65kmもあるらしいですよ。最先端の速度です。元々ワーグイックとオルデインの距離はそこまでありませんけど………」


 「そんな近いかなぁ……列車に乗ると距離間隔が狂うぜ、全く」


 ナナシががしがしと頭を掻いた。

 そのナナシを、いつの間にか外の風景を見ていたユミルがつつく。


 「見なよナナシ。あれが魔境と有名な『ワーグイック大森林』だぜ」


 ナナシとフォードが振り向くと、そこには30メートル以上ある木々が乱立する大森林が広がっていた。


 「木、でっかっ!?」


 「話には聞いていましたが、これは相当ですね………」


 人の手の入っていない森である。街の隣にあるとは思えないほどごちゃごちゃしていた。

 文明が発達して間もなく、更に強力な生物が多いためこのような未開の地がこの『ギュンター帝国』の中にも腐るほど残っていたのである。

 大自然の力に圧倒された3人は、再び車内アナウンスによって現実に戻された。


 『ワーグイック、ワーグイック……』


 「やべ、着いたぞ!降りねえと!」


 3人は、どたどたと列車から降りた。




  ~~~~~~~~~~~~~~~ 




 駅から出たナナシは、周りの風景を見渡しながら両手を挙げた。


 「すげえな!山、海、森!自然尽くしだ!」


 前方には緑に囲まれた巨大な山。右方には先程の大森林。左方にはオルデインから続く海岸線。

 『ワーグイック』は、ユミルの言う通り山、海、森で囲まれた街だった。

 ついでにとばかりにフォードがうんちくを語る。

 

 「様々な訓練ができる、ということで軍が中心となって開拓した街らしいです。それまでは魔境として人々は近づきすらしなかったそうですよ」


 「「はぇー」」


 どっからそういう知識が出てくるんだ。

 ナナシはフォードを見上げた。なんとも弱そうな見た目である。目に強い意志の光が宿っている訳でもなく、口調は穏やか。

 しかし、会ってから半日も経ってないこの男ではあるが、その観察眼と知識は到底及びもつきそうにない、とナナシは確信していた。


 (………こいつに会えたことは結構な幸運だな)


 今までナナシが触れてきたのは無能だらけだった。貴族なぞと接点を持つことはあまりない。才能のない平民とばかりつるんできたため、彼らと比べてばかりいた結果として、ナナシは自分の頭に多少の自信があったのである。

 だから、ナナシとしてはフォードは貴重な人材だった。自分以上がいる、というのは心強い。


 しかし、それ以上に優秀な人材がぞろぞろと駅から出てきた。

 士官学校の卒業生共だ。

 平民共が私服でうろつき回る中、徽章付きの軍服を着て談笑しながら歩いている。


 (………ッ!)

 

 ナナシは自分の喉が途端に乾いたような心地がした。既に外見からして才のオーラが溢れ出ていたのである。事実、老人は席次上位者が多数いると言っていた。

 ナナシは武者震いした。


 「ビリビリくるなぁ!」


 「あれ(・・)はまた別格だぜ。聞いたところによると本科の卒業生らしい」


 ユミルの言葉に、フォードは疑問符を浮かべた。


 「……妙ですね、貴族階級でしかも士官学校の中でも本科の出ともなればエリート中のエリートですよ。『特殊部隊』なんかに希望しなくても引く手数多なのでは?」


 訝しむフォードに、ユミルは自信なさげに言った。


 「う、うーん………さっきのも含めて全部人から聞いただけなんだけどさ、なんでもこれは『特殊部隊』の入隊試験以外も兼ねているらしいぜ。

 人材不足は意外と深刻らしくて、適正がある人は第1旅団すら入隊できるって」


 「第1旅団ですか!?え、あの!?」


 この『ギュンター帝国』に於いて、この『第1旅団』はかなり特別な意味を持つ旅団である。

 理由は単純、第1旅団は末端に至るまで高レベルの貴族で構成された部隊だからだ。

 入隊条件は生まれとレベルだけではない。この時代には珍しく戦場で個人としての武(・・・・・・・)を示すことが最低条件。その他、厳しい面接などで精神面も精査される。

 その結果、全員が常人離れした身体能力を発揮し、全員が最高峰の魔法の技量を持ち、そしてあらゆる任務に耐え得る最強の旅団が出来上がったのである。

 

 ユミルは、試験の結果次第ではそんな隊に入隊できると言ったのだ。

 フォードの驚きようは尋常ではなかった。


 「………あれ、ナナシさんは?」


 しかし、最もその話に食いついてきそうな少年がその場にいない。

 焦って辺りを見渡すユミルとフォード。

 ナナシは、すぐ近くかつ意外すぎる場所にいた。

 

 ユミルが素っ頓狂な声をあげる。


 「なんでその卒業生と話してるんだ!?」


 ナナシは、いつの間にか談笑していた男女4人組に話しかけていた。

 慌ててフォードとユミルはナナシに駆け寄る。

 そのまま二人でナナシの両腕を確保し、引きずってナナシを遠ざけた。


 「申し訳ありません!彼にはよく言い聞かせておきますのでどうかお許しをっ!」


 「うおぉ!?何をしやがるお前らぁ!?」


 ナナシがわーわー喚きながら引きづられて消える。

 いきなり現れて、そのまま嵐のように消えて行ったナナシを見てその卒業生………陸軍士官学校22期生の面々は唖然とした。


 「「…………」」

 

 そのインパクトに、最早何を話していたのかすら忘れてしまった。

 その中の一人、長身の女がポツリと呟く。感想だった。


 「………最近の平民はあんなもんなのか?」


 その声は凛々しいものだったが、どこか否定してほしいという暗示も込められている。

 金髪の男がそれを汲み取る。


 「あんなのが沢山いたら今頃革命で僕らはお陀仏だな」


 違いない、と苦笑する女を見やりつつ、男は先程の少年の言葉を思い出した。


 ――――俺はナナシ・キルトドーヴ。あんたらも入隊試験受けるんだろ?お互い頑張ろうぜ!


 (ナナシ、ね)


 どこかで聞いたことある名だ。一時期、くだらないことばかり書くブンヤ共が騒いでいたような気がする。


 一応、覚えておこうか。


 22期第三席、『クメシュ・フォン・アーレント』は自身のメモ帳にナナシの名を書き込んだ。



  ~~~~~~~~~~~~~~~


 

 午後一時。

 昼食をとった後、3人は受験生を集めた広場に向かった。

 

 「うっわ、すんげえ数だな」


 ナナシの言う通り、そこには1000を優に超すほどの人々で溢れかえっていた。

 無論、その外見も様々である。上質な服に袖を通す男、はたまたボロ布で身を包む男。自信に満ち溢れた目、ただひたすらに無気力な目。よく鍛えられた肉体を誇る人、逆にフォードよりも細い人。男だけかと思えば、女もいる。猟銃を携帯する猟師や、逆に漁師と思わしき男などなど、ひたすらに多様な人がいた。


 「この中で争うんですか………」


 「全くどうなるかわからないね」


 マッチョで溢れかえっていそうだと予想されていたが、意外とそうでもなかった。

 因みに、レベルは10上がると身体能力が1.3倍になると言われている。基本的に一般人のレベルは10前後と言われているため、地球人に比べて1.3倍の身体能力があることになる。

 

 5分程ナナシ達が周りを観察していると、ザワザワしていた周囲が急に静かになった。

 試験官が来たのである。

 試験官の男は、軍人特有のはっきりと聞こえる声で話し始めた。


 「諸君。ここまでの旅路、ご苦労。我らが祖国の危機に立ち上がらんとする諸君らの愛国心を我々も嬉しく思う」


 (よく言うぜ、愛国心に溢れたやつはもう戦争に乗り込んでるっつーの)


 共和国との戦争が始まる時、帝国は志願兵を募った。

 つまるところ、ここに居るのは愛国心の欠片もなく、それでいて自分の出世を望むような輩ばかりなのである。試験官の言葉は、どう考えても皮肉だった。

 ナナシがフォードと目を合わせると、フォードは苦笑を返す。

 他にも理解していた人がいたらしく一瞬ざわついたが、試験官の男が話を続けると自然と静まった。皮肉であることに気づくだけの賢さがあったからである。


 「しかし、今回の『特殊部隊』は諸君らも知っている通り『即戦力』を求めている。

 我々も生半可な実力の者を『特殊部隊』に入れる訳にはいかないため、試験は………恐ろしく厳しいものになると先に言っておく。無理をすれば死ぬだろう。

 であるからして、試験は明日10時から行う。

 諸君らはそれまで身体を休め、そして本当に試験を受けるか十分に検討して欲しい。帰りの列車も手配しよう。時刻は試験開始と同時、明日10時。

 尚、この町の宿代は全て我々が持つ。存分に身体を休めて欲しい。

 それでは、諸君らの健闘を祈る!」


 そう言って男が頭を下げて退出する。

 次の瞬間、受験者達が一斉に駆け出した。


 「なんだなんだ!?」


 ナナシがうろたえていると、ユミルがナナシを引っ張った。


 「言わせるな!宿探しだよ!」


 「まさかこれ逃したら野宿かぁっ!?」


 「流石にこんな田舎街1つに1000人以上泊められるだけの宿泊施設無いですよ!」


 ナナシも慌てて走り出した。

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