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バーバ・ヤーガの家で

 王子が歩いていくと、やがて鶏の足の上に建った一件の家が見えてきました。

 その家の扉を叩くと中から骨のようにやせ細った老婆が現れました。

「おまえさんが何をしに来たかは知っているよ。ただし、おまえさんに悪い魔法使いのことを教えるかどうかはおまえさんの覚悟を見てからだ」

 老婆はそう言って、王子を家の中へ招き入れました。

「おまえさん、わかっておるかね?あの悪い魔法使いには何人もの勇敢な若者が挑んだ。だが誰一人としてその身に傷ひとつつけられず、逆に呪いをかけられて帰ってきたのさ。おまえさんも呪いを掛けられてしまうかもしれないのだよ?」

 諭すような老婆の言葉に、王子は強く言葉を返しました。

「それでも構いません。私はもう誓ったのです。魔法使いを退治して、彼女を助けると。そのためならば、どんな困難でも乗り越えてみせます」

 その言葉を聞いた老婆は、決心したように頷きました。

「そこまで言うのなら仕方がない。悪い魔法使いがどうして不死身なのか、どうすれば倒せるのかを教えてさしあげよう。あの悪い魔法使いが不死身なのは、奴の身体の中に心臓が無いからさ。あの魔法使いの心臓は、荒野の真ん中の一番高い樫の木の上にある木箱の中のウサギの首輪の中の金の卵の中に入っている針の先にあるのだ」

 老婆は息もつかずにその長い言葉を呪文のように言いました。

 王子は神妙な表情で顎に手をやって何かを考えるようなしぐさをしました。そしてゆっくりと口を開きました。

「すみません、もう一度お願いします」

「仕方ないねえ。しっかり覚えるんだよ?」

 老婆は真っ白な眉を片方持ち上げて呆れた様な表情を見せました。そして傍らに置いたカップから紅茶を一口頂き、再びその言葉を口にしました。

「悪い魔法使いの心臓は、荒野の真ん中の一番高い樫の木の上にある木箱の中のウサギの首輪の中の金の卵の中に入っている針の先にある。その針の先を 砕かない限りあの魔法使いを滅ぼすことは出来ないのだよ」

「なるほど…」

 今度こそ、王子は頷きました。そして再び口を開きました。

「私にはメモが必要な様です。すみませんが、紙とペンをお借りできますか?」

 まじない師の老婆は古びた羊皮紙と羽ペンを持ってきて、王子に差し出しました。王子はそれを受け取ると、老婆に向かって言いました。

「では、ゆっくりもう一度お願いします」


 書き取りが終わるまでにまじない師の老婆は魔法使いの心臓のありかを少なくとも5回は繰り返す羽目になりました。王子は書き取りを終えた紙を丁寧に巻き取ると、懐にしまいました。

「ありがとうございました。それでは私は、魔法使いを退治するために旅立ちます」

 王子はそう言いながら椅子を引いて立ち上がりました。

 老婆は何度も同じ言葉を繰り返したせいで少し疲れた様子でした。

 立ち上がり、扉へと向かいかけた王子に、その老婆がかすれた声を掛けました。

「待ちなさい。話はまだ終わってはおらん」

 扉の取っ手に伸ばしかけた手を止めて、王子は老婆を振り返りました。

「樫の木の上には木箱を守る毒蛇が住んでおる。それをどうやって退治するつもりだね?」

「毒蛇ですって!?」

「それに、その木箱にはまじないが掛かっている。仕掛けを解いた者にしかあけることは出来ないのだよ?」

「仕掛けですって!?」

「更に、木箱の中のウサギはウサギの中でも2番目に俊敏な足を持つ。どうやって捕まえるつもりだね?」

「ウサギの中で2番目ですって!?」

「その上、金の卵はとても硬く世界で最も硬い石でしか割ることが出来ん。どうやって割るつもりだね?」

「…そんなに硬いんですか!?」

「最後に、魔法使いの心臓のある針は目に見えないほど細い。どうやって砕くつもりだね?」

「………」

 老婆の言葉の度に言葉を返していた王子でしたが、最後には黙り込んで困ったような表情を浮かべました。

「問題は山積みだよ。本当に、どうにかできると思うかね?」

「……そんなに大変なことだなんて…」

 さすがの王子も少し怖気づいた様でした。しかし、逡巡の表情を見せた王子はすぐに顔を上げると勢い込んで言いました。

「ですが、私は誓ったのです!悪い魔法使いを退治して、彼女を助けるのだと!」

 その王子の決意を目の当たりにしたまじない師の老婆は、満足そうに頷きました。

「よくぞ言った、王子よ。それだけの決意があれば必ずや、成し遂げられるであろう」

 老婆の賞賛の言葉に王子は勇ましげに頷くと、口を開きました。

「すみませんが、もう一度紙とペンを貸してください!」


 書き取りが終わるまでに、今度は4回繰り返す羽目になりました。


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