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イワン王子とワシリーサ姫

このお話はロシアの昔話「蛙の王女」を基にしたものです。

基のお話を知らなくても読めますが、知っていればよりいっそう面白いかもしれません。

 昔々、ある国に三人の王子がおりました。

 三人の王子はいずれも劣らない立派な青年で、王様は近い内に三人の結婚相手を探そうと考えておりました。

 その国では昔から王子の結婚相手は自分で選ぶ習わしがあり、三人の王子たちは自分で結婚相手を選ばなければなりません。

 そこである日王様は、三人の王子を呼んで言いました。

「お前たちもそろそろ結婚を考えてもいい年頃だ。城の塔からそれぞれ一本ずつ矢を放ち、落ちた場所で花嫁を探しなさい」

 王子たちは王様の言葉を受け、それぞれ矢を一本ずつ手にして塔へと上りました。

 まず一番上の王子が放った矢は荒野の方へと飛んでいきました。

 次に、二番目の王子が放った矢は森の方へと飛んでいきました。

 最後に末っ子の王子が放った矢は沼地の方へと飛んでいきました。

 末っ子の王子が自分の矢を追って沼地へ入っていくと、果たして彼の矢は沼地の真ん中に生えた草の上に落ちて刺さっておりました。

 王子は辺りを見回しました。この近くに住む人を、自分の結婚相手にしなければならないからです。

 しかしいくら辺りを見回しても、家の一軒どころか人っ子一人、見当たりません。どこか近くに村でもないかと王子は沼から離れようとしました。

 そのとき、突然声が掛けられました。

「あなた、こんなところで何をしているんですか?」

 王子がその声に振り返ると、いつのまにか沼のほとりに一人の女性がたっていました。

 流れる黒髪は墨のように黒く、その肌は鳩の羽毛のように白く、その瞳は青空のように澄みきっていました。

 年のころは自分と同じか少し下くらいに見えるその女性は、王子を不思議そうに見つめていました。

 その美貌に目を奪われて言葉もない王子に、女性は言葉を続けました。

「ここには時々悪い魔法使いが来るのですよ。悪いことは言いませんから、早く帰った方がいいです。」

 王子はその女性をこの沼に住む妖精か、さもなければ女神に違いないと思いました。

 そして同時に、この女性を自分の結婚相手にできるならさぞかし幸せだろうと思いました。

「あなたは、どうしてここに居るのですか?」

 王子はその女性に聞いてみました。

 悪い魔法使いが現れる沼にこのような美しい女性が来るのは何か訳があるに違いないと思ったからです。

 女性は少し驚いた顔をして、それから悲しげに話し始めました。

「私は、その悪い魔法使いが来るのを待っているのです。悪い魔法使いは私が言うことを聞かないからと私に呪いを掛けてしまったのです。だから、私はここで魔法使いが再び現れるのを待っているのです。彼の言うことを聞けば、呪いは解いてくれる約束ですから」

 それを聞いた王子は、怒りで頭の中が真っ赤になりました。

 こんなに美しい女性を無理矢理に言うことを聞かせようとは、なんて悪い魔法使いなのでしょうか。

 王子はなんとしてもその女性を助けたいと言う気持ちになりました。

「もしよければ、私がその悪い魔法使いを退治して、あなたを救って見せましょう!」

 王子は胸を張ってそう言いました。

「そんな、無理です!あの魔法使いはとても強く、不死身なのです。あなたも呪いをかけられてしまいます」

「いいえ、あなたを助けるためなら呪いなど、怖くありません!」

 女性は王子を引き留めようと尚も口を開きましたが、王子は聞き入れません。次第にその女性にも、王子が本当に魔法使いを退治してくれるのではないかという気がしてきました。

「あなたがそこまで言うのなら、私にはもう止められません。ですが、剣であの魔法使いを退治することはできません。まずはこの沼地から真っ直ぐ東に行った先の鶏の足の上に建っている家に行ってみてください。悪い魔法使いのことをよく知っているまじない師が住んでいます」

「わかりました。まずはそこへ行ってみます。あなたは決して、悪い魔法使いに会わないように気を付けてください。魔法使いを退治したら、私はまたここへ戻って参ります」

 王子はそう言うと、東へ向かって歩き出そうとしました。

「あの…」

 その王子の背中に女性が声をかけます。

「あなたは…どうしてわたしのために、危険を冒そうとするのですか?」

 王子は振り返り、女性の青く澄んだ瞳を見つめ、言いました。

「その理由は、呪いを解いた後にお話ししましょう」

 そしてもう振り返らずに、王子は東の道を真っ直ぐに行きました。


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