お金がすべての異世界で
最強の剣士、最強の魔法使い、最強の魔獣使い、そうなる為に血の滲むような努力、命を賭けた修行、髪に与えられたような天性の才能、それらが必要とされたのはもうかなり昔の話だ。
現在、最強の名を手にする為に必要なのは才能でも、血の滲むような努力でも、命懸けの修行でもない。
最強になる為に必要なもの…それは一生をとしても使い切る事の出来ないほどの “巨万の富” なのである。
ーー金をつぎ込めばつぎ込んだだけ強くなれるーー
ゲームで課金すればするだけ強くなれるのと同じように、この異世界は金さえあれば強くなる。
《金がすべての世界なのだ》
~ベアトリア王国:王都~
中世ヨーロッパの街並みを彷彿とさせるその大都のほぼ中心部に位置する石造りのドーム型建造物。
その大きな円形の建造物の中心で“魔法”のオークションが開かれていた。
この日、体育館ほどの大きさのこのドーム建造物の中には500をを超える人々が集まった。
その中にはただの一介の庶民などは一人もおらず、凄腕の商人から王都の大地主、高名な貴族や王族などが顔を揃えた。
その日オークションに賭けられると噂の一つの魔法の行く末を見るために…
『さあ続いての魔法は “#瞬間転移__テレポート__#。自身と触れた対象物を指定した座標に一瞬で移動させることのできる上級魔法です!! さあこの魔法が欲しい方は番号札を挙げて金額を提示してください!!』
中央に位置するステージ上で美しく着飾った女性が特殊な形をしたマイクのような物を片手に持ちオークション会場中にそう呼びかける。
十万…二十万…五十万と会場のいたるところから値段が提示され、徐々に値段も上がっていく。
『五百万グルだ…その魔法に現金一括で五百万グル出そう!!』
そう言って番号札を挙げるのはいかにもお金持ち貴族という見た目をした肥満男。
男は自慢のちょび髭をいじりながらドヤ顔で辺りを見渡す。
おお~っと会場中で歓声が広がり人々の視線がその男に注がれる。
それが高揚感を与え男はとても誇らしげだ。
そして男の提示した金額を超える者はなかなかでてこない。
それもそのはず…五百万グルとは日本円にすれば五千万円程に相当する大金なのだ。
『さあさあ五百万グルを超える方はいませんか!? それでは“瞬間転移”は五百万グルで落札となります!!』
手に持ったマイクを木槌に持ち替え、用意された木の板をカンカンと叩いた。
これが落札決定の合図である。
落札した男の縁者とみられる少女達はピョンピョンと陽気なジャンプで喜びを表現するが、落札した当の本人は当然だと言わんばかりに鼻でフンっと笑った。
「やりましたね叔父様!! これで私も一流の魔法使いですわ!!」
「いいえ違います!! 私が一流の魔法使いですわ!!」
「コラコラ喧嘩をするなみっともない。我輩がもう何個か魔法を落札してやるから仲良くしなさい」
「叔父様は本当にお金持ちですわね。いきなり五百万グルも提示するなんて」
「ほんとうですわ。叔父様の財産は底なしなのかしら?」
「フンッ当然だ…我輩を誰だと思っている? ベアトリア王国最高貴族バールトルトル家当主…ハル=バールトルトルであるぞ!? ブアッハッハッハ!!」
このように、お金に糸目をつけない金持ちが魔法に膨大な投資をし最強に近づいていくというのがこの世界の流れなのだ。
一切の例外はない。
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その後もオークションは順調に進みそろそろ終盤というところで、この場にいるほぼ全員が一番に注目する“ある魔法”が会場にコールされた。
『さあ続いては本日の目玉も目玉大目玉…皆様は“降霊術”というものをご存知ですか?』
壇上の女性は逆に問いかける形でより注目を引くよう仕向ける。
『次にご紹介するのは“死者蘇生”!! 死んだ人の魂を黄泉の国から呼び寄せ蘇生させる禁断の魔法!!こちらは大変希少な魔法のため最低額を一千万グルに設定させていただきます!! さあみなさん…金額の提示をよろしくお願いします!!』
間違いなく、過去最高の売値をつけるであろう死者蘇生の魔法。
会場のボルテージは一気に急上昇し、金持ち達の熾烈な駆け引きが期待された。
………が、期待していたような事は一切なく、一人の少女が発した一言で会場の盛り上がりはざわめきに姿を変える。
ーー10億グルーー
人は本当に驚くと声も出なくなるとはよく言ったものだ。
まるで時が止まったかのようだった…
先ほどまで猿のように馬鹿騒ぎしていた客人達は一切声を発する事なく、“10億グル”をコールしたその声の主であろう番号札を挙げた少女を見つめた。
背筋も凍るような美しく気高い美少女だった。
その黄金の髪は金塊よりもまばゆく輝き、大きな瞳はどんな鉱石よりも煌びやかだ。
大勢の衆目を浴びるが一切顔の表情を崩さずに、凛としてその場にただジッとしていた。
そして静まり返ったその空間で期を見計らったかのように口を開いた。
「一括払いで10億グル。どうせこの場にはこれ以上の金額を提示できる奴なんていないのだから決まりでいいわよね。ほら…早くその木槌でその木板を叩いて落札を決定してちょうだい」
『し、しかし…よろしいのですか!? 本当に10億グルで落札なさるのですか!? 冗談だったでは済まないですよ!?』
壇上の女は動揺した様子で少女にそう尋ねた。
それも当然、10億グルという金額は日本円にすると100億円に相当する金額なのだから、いくらこの場にいる全員が超お金持ちだとしても平然と支払える額ではないのだ。
そう…例えばこの国を治める王でもない限り…
「本当よ…何なら先払いでも構わないわよ。 テスラッ」
まるで飼い犬でも呼ぶかのように隣に座るメイド服の女を呼んだ。
「はい…お嬢様」
呼ばれた女も無表情のままサラサラと何かを書き始めた。
女はその何かを書き終えると席を立ち、ゆっくりと歩き壇上の女の前まで行くとそれを渡した。
「10億グルの小切手です。すでにサインしましたので使う事が可能です」
10億グルの小切手…それを渡された女は腰が抜けたようなその場にペタリと座り込んだ。
片手に貧国を買う事ができるだけの超大金を持っているのだからそれも仕方ない。
おかしいのは金髪の少女とメイドの方なのだ。
『あ、えーと…10億グルが提示されました。一応聞いておきますが…この会場でこれより上の金額を提示される方はいらっしゃいますか?』
震えた声でそう尋ねた…が、当然そんな者がいるわけもなく、広い会場内が沈黙に包まれるだけであった。
『そ、それでは…“死者蘇生”の魔法は… “10億グル” で落札となります』
弱々しい木槌の音が会場に響くのを聞いて、金髪の少女はメイドを連れてその場を立ち去った。
「計画通り…無事に落札できましたね。王もさぞお慶びになるでしょう」
「…そうね、これで“お兄様を生き返らせる”事ができるわ」
外に出た少女は、遥か遠い青空の先を見つめ心に思う。
ーーお待たせお兄ちゃん…もうすぐ生き返らせてあげるからねーー