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聖水紀ーウオーター・ナイツー第18回■聖水が地球のすべてを飲み込む。それが人類への愛だと聖水人はいう。一方、先んじて聖水に同化したクルツは、自分の意識が新しい星に充満しているのに驚く。

聖水紀ーウオーター・ナイツー第17回


第11章

熱がその海域から広がっていた。空気もそれにつれて急上昇する。やがて、その熱波は地球を覆い、聖水神殿までたっしていた。人類は熱気で倒れていった。


『この熱は』


『どうやら、原因は宇宙要塞ですね。きっとマザーコンピュータがしかけたのでしょう』


宇宙要塞ウェガは地中のマグマを刺激していた。ポイズンであるAの聖水へのが失敗した今となっては、最後の手段だった。


地球全体を熱球化する。


地球が聖水に支配されるよりも、自らの手で人類を抹消しょういというわけだ。


が、自分のマザーコンピュータ脳球は生き残る。宇宙要塞ウェガはいわば宇宙船なのだ。


『熱波をこの地に呼び寄せているものがいますね』


『まさか、あのポイズンAでは』


聖水騎士団フガンは審問官の前に立されていた。


「生き残った聖水騎士団の一人として、地球にひとつくらいいいことをして死にたかったものですからね。怒りは人を不屈の男にします」


「フガン、君ですら、この我々を裏切るのか」


「裏切りですって、私は最初からあなたがたを信用なぞしておりませんよ」


『しかたがない、この熱波を防ぐため、全人類を聖水に飲み込もう』


「あなたがた聖水にそれほどの意義があるのですか」


『ひとつの愛情の表現なのですよ』


「何ですって」


『できの悪い子供ほどかわいいといういだろう』


「どういうことです」


『フガンくん、君も我々聖水を誤解している。我々聖水は君たち人類の祖先なのだ』


「はは、おわらいぐさだ。あなたがた聖水が先祖ですか。それじゃあ、出来の悪い子供は殺していいということですね。どんな権利があなたがたにあるといいうのです」フガンは笑いながら泣いていた。


 大きな音がして、聖水プールが自壊した。聖水がフガンの方に流れてくる。


「ははっ、どうぞ、このあわれで、まぬけな人類を同化なさい。おやじどの。いやおふくろどのか」


 フガンは聖水の波に飲まれる。聖水は自らの体積を急激に膨張させていた。この大陸を被い、やがて海岸に達していた。地球の海水との対決であった。


 海に達した聖水は、海水と激しい争いを繰り返していた。水H2Oを分解し、自分たちの組成に組み替えていた。それに対して海、地球の海なるものも戦いを挑んでいた。聖水と海水との境界線は熱をもっていた。蒸発する水が湯気を上らせていた。


 が、聖水の方が勢いがあった。彼らはいわば、狂信者であり、ある一定の意志の元に進化しているものだった。


 地球のあらゆるところで、地球の水は変化を遂げていた。地球の水は聖水に飲み込まれていた。そして、聖水へと変化していった。


やがて、聖水は勢いに乗り、レインツリーと、マザーコンピュータが支配する宇宙要塞ウェガのあるアンダマン諸島、スキャン島にたっしていた。


 大きく盛り上がった聖水の波は、まるで山並みの様に見えた。その大きな山塊が、レインツリーの要塞に押し寄せていた。


 宇宙要塞ウェガは聖水の中にさらわれ、やがて水没する。要塞ウェガの防御機構は、この聖水山脈の前では、何の役にも立たなかった。 宇宙要塞ウェガは、地球の上に立てられている建物である。地球人の思考で作られ、地球の材料で作られている。


たいして聖水は、いわば、宇宙であった。宇宙意識である。


地球、そのものである宇宙要塞ウェガ中に入り込み、総てをばらばらにした。


 この聖水の意識の中に、かつてのAの意識、ポイズンの意識が含まれていた。


彼Aが、自分の生まれ故郷である宇宙要塞ウェガを教え、聖水全体をウェガに向かわせたのだ。


 レインツリーは聖水の洪水の中で涙を流していた。


赤い樹液だった。体全体の細胞から、赤い樹液は宇宙要塞ウェガの内部でも渦巻いていた。



やがて、聖水がレインツリーの組織をバラバラに分断した。破砕されたレインツリーのまわりはまるで、血がいっぱいの海だった。


 マザーの機械組織にも、聖水が侵入していた。


防水組織も何のあるやくにもたたない。マザーコンピュータの機械意識も寸断される。その一瞬。マザーの意識にひらめいた。


『我が子、タンツを助けて』


 ウェガにいるレインツリーの指導者、そしてAにとっては創造者である者。


「マザー」タンツも叫ぶ。


 その指導者もいまやウェガに流れ込む聖水の前にはなすべき手段をもたなかった。


 聖水に沈み込む指導者だった。


 彼はこのような経験をしたことがあった。その記憶が蘇ってきた。


「シマ、あなたなのね」彼は彼に話しかける存在にきずく。そう、私はシマとも呼ばれていた。レインツリーの指導者は思った。


「そうだ。ろくでなしの老いぼれシマだ。君こそ歌姫ベラ、そして『みしるし』イコール伝説のDNA情報、聖水のミッシングリンクだったのか」


「そう、シマ。白状するとね。私自身が『みしるし』だとはきずいていなかったわ。私の先祖から受け継いでいたDNA情報がどんなものだったのか」


「聖水が人々を溶かし、探していたものとは人間のDNA情報だったのか」


「いい、タンツ。人類は宇宙最高の生命体ではないのよ。地球人類は、聖水がかって人類誕生以前、始源の海にはなったDNA情報キャリアーが進化したものなの。間違って進化した生物なのよ。人間という形態をとるべきではなかった」


 聖水人の声が、タンツの意識にはいってきた。


『タンツくん、君はなぜ、我々にしたがわなかったのだ。この地球に聖水の再来をもたらした君こそが、聖水の理解者であなかったか』


「むだだろう、私に何をいっても。いずれにしろ、私は死ぬのだから。何もかも無駄にすぎないのだ。聖水人よ、私の静かな死を与えてくれるのだろうね。長いつきあいではないか」


『タンツくん、君に選択させてあげよう。君の死に方をね。我々聖水に同化するか、それとも、君の意志を、そのまま固定して、意識だけは永遠に生き続けるかだ』


「私に地球を与えるのか、終わりなき地球を」


『ともかく、タンツ、君が最後の地球人だ』


「この苛酷容赦ない世界に何か救いがあるというのかね」


『愛だよ』


「ははっ、君たち聖水から、その言葉を聞くとはね。愛という概念が君たちに存在したのか。我々、人類は君たちから見ると下等かもしれない。が個体としてそれぞれがいろんな形の愛をもっていたのだ」


『タンツくん、こう考えてくれ、我々聖水が君たち人類を飲み込むのもひとつの愛の形だと思ってくれ』


『ひとつの大きな愛に君たちは包まれるのだ』


「ふふん、信じられないね」地球防衛軍タンツ大佐は最後まで聖水に逆らった。


第12章

■地球のウォターステーションで、先んじて聖水に同化した「クルツ」は、いまの自分の存在に驚いていた。


 クルツの意識は星のすべてを覆いつくしていた。この星の名はまだない。クルツがなずけるべきなのだろう。いわばクルツの星。


星は聖水でみちみちている。聖水の意識イコール「クルツ」の意識だった。


 分派という、意識の分割だった。


聖水の意識が分派され、宗教の布教のように、クルツの意識は、地球から遠く離れた星へ送り込まれた。


クルツは創造主であり、その荒れ果てた星を自分の体、聖水でもっておおった。


 クルツは思う。


 聖なる水は、自分も含まれるのだが、宇宙意識のひとつの形態にすぎないのではないか。


 私クルツの様に、聖水は、他の星に送り込まれ、徐々に聖水の意識で覆っていく。


 私達は聖水という大きな意識の血であり、肉なのだ。


 地球に最初に飛来した聖なる水も、クルツと同じ様に他の星から飛来したものなのだろう。


大いなる存在クルツはそう考え始めた。

 (完)


SF小説■聖水紀■第18回(1978年作品)

作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所

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