表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

11/18

聖水紀ーウオーター・ナイツー第11回■今度は組織レインツリーが、水鳥を使い、聖水車を守る聖水騎士団の内藤を狙った。

聖水紀ーウオーター・ナイツー第11回

作 飛鳥京香(1976年作品)(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/



第6章


聖水車のそばにいる内藤の耳に声がした。


『聖水をお飲み』


 聖水だと聖水など飲めるわけがないではないか。聖水騎士団の一人である内藤は、心の中から聞こえてくる声に逆らおうとしていた。 


聖水騎士団。


聖水を守るべきために作り出された組織。


聖なる水との契約によって騎士になる事はできる。


 聖水以前はしがないキーパンチャーだった内藤広志は、この聖水騎士団のコスチュームがきにいっていた。


以前にモニターを通じて遊んでいたある種のコンピューターゲーム。そのゲームに登場するキャラクターの一人に自分を投影していた。


 くずれさった既存社会よりも、この一種変容した社会、聖水紀にパソンコンゲーマーらしく親しさを感じている。


 聖水を守るべき役割をもつ騎士が、聖なる水を口にするなど、とうてい考えられないことだった。

 

よりにもよって、聖水車を守っている俺が。


聖水車とは、すべて聖水の奇跡を信じない人にデモンストレーションをみせる車なのだ。人々に聖水騎士団の施しを与える役目がある。


それを守るのが内藤たち、選ばれし騎士団なのだ。


 聖水人が、アマノ博士を選び、アマノ博士が内藤を選んだのだ。


「飲みなさい。内藤」


さらに強い声が内藤の心を包みこむ。


内藤の体がこわばる。何という大きな力か。あらがいようがなかった。


内藤の理性とは異なり、内藤の体は圧し曲げられていった。


内藤は助けを求めようとした。他の連中はどこだ。内藤は汗を流しながら、声の力にさからい、まわりを見ようとする。このハドルンの塔にもハドルンの街道にも人影が消えていた。


「聖水をお飲み。そうすれば、お前は生まれ変わる」


くそっ、レインツリーだな、この声は、呪術師どもめ。生まれ変わるだと、どんな風にだ。俺はプログラマーから、聖水騎士団になつた。これ以上何が必要だというんだ。


「聖水騎士団の地位にとどまる必要なぞありはしない。お前は新しい人になれるのだから。恐れることはない」


 内藤の騎士装甲服がぬげおちていた。ハイチタンの装甲が太陽の光りを受けてキラリと光る。


内藤は思わず、聖水車の注水口の所にしゃがみこんでいた。蛇口をひねる。


 その時、二人の騎士が内藤の方へ駆け寄った。


「内藤、何をする」

「狂ったか」


が、時すでに遅く、聖水の一滴が内藤の口に。


「内藤を殺せ」


大きな声が響いた。


聖水騎士団長アマノ博士が、塔のてっぺんから、叫びながら駆け降りてくる。


「早くしろ、たじろぐな」


が、二人の聖水騎士団員は同僚の体に手をかけることなどできない。


 アマノ博士は、三階の回廊から飛び下り、落下中に剣を引き抜き、瞬間、内藤の首を切り抜けた。


内藤の首なし死体がころがる。


「危ないところだ」


アマノ博士は剣の血のりをひきとりながら言った。


「いったい、内藤はどうしたでしょう」


聖水騎士のひとりが言った。


「レインツリーのしわざだ」


「レインツリーがなぜ」


「恐らく、聖水を手にいれたいにちがいない」


「あっ、隊長」


コンノが叫ぶ。内藤の首なし死体が、自分の首を拾いあげ、駆け出そうとした。


「くそっ」


クルスが自分の剣を引き抜き、内藤の背中をめがけ、投げ付けた。


剣は内藤の体を貫く。が体は歩みをやめない。


「いかん、レインツリーが瓢衣している。走れ、つかまえろ」


団長アマノ博士が命令する。三人は内藤の体を追う。


この時、急に空が暗くなった。三人は走りながら、空を見上げる。巨大な鳥だ。


鳥は、急に方向を変え、アマノたちの方へ急降下してくる。


「あやつは」


「レインツリーの手先だ。気をつけろ」


 三人は地に身をふせる。空圧が体を襲う。まわりに生えていた植物が軒並みはねたおされる。

「やってくるぞ。剣を抜け」


 アマノたち聖水騎士団は立ち上がり、三人の剣を水鳥の方に向ける。


 が、鳥はアマノたちの上を飛び過ぎる。鳥の背中には内藤の体がのっていた。


「逃すな。フォーメーションをとれ」


アマノが叫ぶが早いか、クルスとコンノは二人の体で台座を作り、アマノの体をほうりあげた。


 アマノは空中で剣を抜きはなち、鳥の背中に乗ろうとする。


 しかし、アマノの体は、鳥の体を突き抜ける。鳥は海水だ。アマノの体を受け止めない。


かろうじてアマノは、内藤の足をきりはなしていた。


内藤の体とアマノの体がからまって落ちてくる。かけつけた騎士がアマノの体をうけとめる。内藤の体は地面に激突する。いやな音がした。鳥は飛び去った。


「やったぞ」コンノが叫ぶ。


「くそつ」アマノが言う。


「どうしました。アマノ隊長」


「内藤の首がない」


「聖水でとけたのでは」



「違うな。レインツリーが、どうやら聖水を手にいれたのだ」


聖水騎士団の団長アマノは独りごちた。




聖水紀ーウオーター・ナイツー第11回

作 飛鳥京香(1976年作品)(C)飛鳥京香・山田企画事務所http://www.yamada-kikaku.com/

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ