第四話 日曜は血戦①
こんかいはせつめいかい
長くなったので分割
ダンジョンで嫁を探すのは間違っているだろうか?
〝神々の恩恵の残る迷宮〟を彷徨い時に誇りを、時に命を掛けて挑む過酷な冒険。
その最中出会い、心を通わせ愛し合う男女。何も起きないはずがなく・・・・・・。
二人が結ばれるのはある意味必然で、結論、ダンジョンに嫁を探しに行くのは間違ってない。
目を覚ますと目の前にやや赤みを帯びた茶髪の美少女がいた。
その整った顔立ちは女神を彷彿とさせる勢いでその吐息は俺の理性を逆撫でしていく。
全然理解が及ばないんですけど何で俺はリリィに腕枕されながら抱きしめられているのか・・・・・・コレガワカラナイ。彼女の柔肌と暖かさに包まれ耳元で吐息を吹きかけられててこれで理性を保ててる俺って紳士の鑑じゃない・・・・・・?
「きのうはおたのしみでしたね」
「それは宿屋の主人のセリフだと思うけど」
やがて彼女が目を覚まし冗談を言った後「おはよう」と互いに挨拶を交わす。
今日はこの後朝食を食べた後に昨日聞いた『お願い』の内容を教えてもらう予定になっている。
まあ聖杖なんて探しに来る女の子の頼みだ、どうせ「魔王を倒してください」とか「邪神を封印してください」とか無茶な要求が突きつけられるのはもはや必然でここまで来たら俺はやるぜ俺はやるぜ俺はやるぜ!野蛮な神の奴隷になって苦しく長い生涯を過ごすより危険で困難な冒険の果てに死ぬ方がまだ『冒険者』らしい死に様だろう。
*りりぃはようすをうかがっている*
うん、何かね、絶対やばい話だよこれ。
纏ってる空気で分かる、そのぎこちない視線の動きは浮気のバレた旦那の挙動だよ。
さっきから大して食べてないのにめちゃくちゃ水飲んでるけどトイレにでも行きたいのかな?
多分間が持たなくて水飲んでるんだろうけど。
そんなこんなで今日の朝食は川魚を焼いた奴とふんわりやわらかパンときのこのスープでした。
ウチの地元では見れない巨大魚がテーブルに並んでいて食べたい人が切り分けて皿に盛って食べる形式らしい。味はあっさりしていてそれでいて食べ応えがあった、塩の風味も効いていてパンに合う。
きのこのスープも美味しくてリリィが話し始めるまでゆっくり堪能していた。
「実は昨日言ってた『お願い』の話なんだけど」
そう切り出した彼女が話し始めた内容は大体予想通り。
大陸西部に最近現れた魔王達の討伐に協力して欲しいと言うものだった。
ん・・・・・・?魔王・・・・・・〝達〟?
「ええ、七人の魔物達の王が集い西部を侵攻しつつあるのです。今は劣勢でありながらも西方戦線を維持出来ていますが何の手も打てなければいずれ決壊しエトナ大陸全域が魔物達に蹂躙される事になるでしょう」
「七人か・・・・・・俺達二人だけで行くのか?」
「いいえ、せめて四人は欲しい所だと思います。前衛に一人斥候に一人後衛火力が一人に回復役が一人はせめて必要かと」
この世界のパーティーは基本的に4の倍数の人数で組む、先程リリィが説明した役割をこなす為にそれだけの人数が必要だからだ。冒険者は意図せぬ事故で一人欠けても大丈夫なように8人で組むのが一般的である。
「じゃあとりあえず前線近くの都市まで移動して手伝ってくれる人を探してみようか」
「えっ・・・・・・受けてくださるのですか?こんな無茶な話を?」
何を今更って感じだ。正直昨日だって生と死の狭間を往くような戦いをしていたのだ。
今回は当ても無く彷徨うのではなくただ敵を倒すだけなのでむしろダンジョン探索よりマシだと思う。
「普通魔王と戦って下さいなんて言われたら絶対困惑すると思うのですが・・・・・・」
「そうか?」
実際魔王と言ってもピンからキリまでいて、村程度の規模の支配者もいれば一つの大陸を支配してしまうほど強力な王もいる。大陸極西の狭い範囲内に七人もの魔王が存在している時点で一体一体の支配力や実力はたかが知れているとバルは考えていた。
「とりあえず馬車を拾ってくるね、サンセットタウン行きがあるといいけど・・・・・・」
「馬車?飛んで行った方が早くない?」
「飛ぶ・・・・・・?」
リリィは訝しげにこちらを見つめてくる、嫌だなーそんなに熱く見つめられたら惚れてまうやろ!
飛ぶと言うのはもちろん魔法での飛行の事である、大体水曜日までに結婚しなければならない俺が馬車にのってことこと何週間もかけて大陸西部まで移動するわけには行かないのだ。
俺としては魔王討伐は今日中に済ませておきたい用事だった。
「お姫様抱っこと手繋ぐのどっちがいい?」
「手を繋ぐ方でお願いします!っというより本当に魔法で空なんて飛べるの・・・・・・?正直古の冒険譚での胡散臭い話でぐらいしか聞いた事ないわよ?飛行魔法だなんて」
これはよく言われる事なのだが飛行魔法は実は全然難しくない。
むしろ何も無い場所に氷の槍を降らせたり火の海を生み出したりする方がよっぽど無茶してるのだ。
現代にあまり伝わってないので勉強する資料を集めるのが大変・・・・・・というのが現代に飛行魔法使いが少ない原因だとバルは考えている。
バルは魔法用の短剣を握り魔力を操作していく。リリィは未だに不安そうにこちらを見ていてちょっと笑えた、一回飛べばそんな不安も消えて空の旅を楽しめるようになるだろうさ。
ふわっと俺とリリィの身体が浮き周囲の人々が目を見開いている。そこから数回円を描きながら加速した後サンセットタウンへ向かう。
「ちょっと速過ぎない?これ本当に止まれるの?」
リリィがびびって何度もあれが怖いこれが不安と話しかけてくる。実際問題いつもに比べたら大分速いけどこの魔法に関しては度々出張する際に使っていたからその腕前は熟練の域に達している。減速し損ねて怪我しちゃいましたなんて哀れな事にはまずならないだろう。
この飛行魔法は本当に安全性を重視していて並みの攻撃魔法で狙撃されたとしても撃墜されないし万が一ドラゴンと正面衝突しても相手が吹っ飛ばされる程度の堅固な防壁と両立される設計なのだ。デートに使うにも安心だね。
最初は地面に足をつけたくてつけたくて震えていたリリィも徐々に心の平穏を取り戻し、周囲の景色を楽しめる様になりつつあった頃、俺達はエトナ大陸南西の都市サンセットタウンへと到着した。
「えっ?もう着いたの?」
リリィは驚きつつ周囲を見回していたけどもう着いちゃったんです。サンセットタウンはエトナ大陸南西部にあるちょっと大きめな都市である。ちょっと大きめなだけで別に周囲に恐ろしいダンジョンがあるとか特産品があるとかそんな事も無く正直解説し甲斐の無い街である。とりあえずこの街に来た目的・・・・・・魔王討伐の協力者を探す為に我々は冒険者ギルド・サンセット支部へやってきたのだ!
「な~んか、暗い雰囲気だなー」
冒険者ギルド内は物凄く暗い雰囲気が立ちこめ、みんな下を向きながら不味そうに酒を飲んでるイメージだ。まるで敗戦国にでも来たみたいだ、実際はまだ戦争中にも関わらず。
どこかの戦地で大きな敗北でもあったのだろうか?とりあえず受け付けの女の子に話を聞いてみようとリリィと共に受付カウンターへと向かった。
━━結論から言うと今回の魔王討伐への協力者は~一人もいませんでした~!
というのも最前線は連合軍側が圧敗で毎日着実に前線は大陸中央へと押し上がっていきこの街も五日後には飲まれるのではないか?と言われているみたい。
そんな状況下で魔王の首取りに行こうぜ!なんて言ってる奴らはかなりクレイジー、誰もついて行こうなんて思わないのは当然であった。
「これから一体どうしましょう?」
「時間も無いし2人で倒しに行こうか」
「そうですね・・・・・・って無理に決まってるじゃないですか!」
「大丈夫だって安心しろよ、冒険譚でも勇者一人で魔王狩りなんて話結構あるしへーきへーき」
俺は正直若干めんどくさくなっていてすぐに戦いたかったがリリィがそれを良しとはしなかった。
結局『傭兵ギルド』と『魔術師ギルド』を回り最低限の人数四人を確保するのに昼過ぎまで掛かってしまった。