仕事の国
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自由都市ギムレーは、重工業が盛んである。
その証拠に、町を闊歩する人太は、労働者と職人で溢れていた。
けれども、それでもギムレーは、人手不足に悩んでいると言う。
それゆえに、ギムレーでは公共事業を中心に、世界各国から労働者を集めている。
逆に言えば、ギムレーにいる労働者は、ギムレーの市民ではなく、世界各国から出稼ぎに来た労働者が多い。
しかし、シルフィード・アムドゥスキアスとエマ・アイリスが、そんなギムレーに立ち寄った理由は、決して労働をする為ではなく、シルフィードは噺蒐集、エマは暇つぶしの、いわゆる観光をする為である。
けれども、エマが、ギムレーの労働者集めのキャッチフレーズに見入ってしまい、観光中であるのに関わらず、エマはシルフィードに、「なんか、働いてみたい」と言った。
エマが、見入ってしまったギムレーの労働者集めのキャッチフレーズとは、これのことである。
『労働者の諸君、夢を持とう、希望を抱け。働くことの出来る日常に感謝し、よりよい生活を送る為に、社会に貢献しよう』
シルフィードは、これを見て、なにゆえにエマが仕事をやりたいと思うようになったのか分らなかったのだが、それも仕方がないことだろう。
なぜならばエマが、シルフィードら人間とは違って、千五百年の時を生きるヴァンパイアの中でも、最高位に位置するQV(クイーンヴァンパイアの略称)だからである。
千五百年と言う、気も遠くなるような年月を生きていれば、世界で伝承されているほとんどの魔法を扱うことの出来るエマであっても、自らの身体を動かしたくなるのだろう。
とにかく、エマに仕事をするのを断っても、エマは一向に仕事を諦める様子はなかったので、自分に小遣い稼ぎだと言い聞かせて、シルフィードは、そこらで、そこそこの日当がもらえる公共事業を探し、参加することにした。
その公共事業は、ギムレーの近くにある崖に、ギムレー大橋と言う橋を架けることだった。
シルフィードとエマが、ギムレー大橋に着いた時には、そこにはたくさんの労働者がいた。
主な仕事の内容は、大きな石材をなん十人で運び、指定された場所に置くと言うだけのものだった。
仕事が始まった最初の頃は、労働者同士、一丸となって、自分よりも遥かに大きな石材を運んで行った。
けれども、だんだん作業が進んでいくと、労働者全員に疲れの色が見えて来て、次第にさぼり出す労働者が出現した。
それを阻止する為に、現場監督であるギムレーの役人が、さぼる労働者に対して鞭を打つのだけれども、その様子は余りにも惨いもので、眼を覆いたくなるものだった。
ようやく昼になり、ギムレーの役人から昼食が支給された。
シルフィードは、ギムレーの役人から支給された昼食を見て、驚きを隠せなかった。
と言うのは、お湯に潰した馬鈴薯を入れてかき混ぜただけの、味のないスープだった。
と言っても、ほとんどただのお湯と言っても過言ではなかったので、ギムレーの役人から昼食を支給された際に、労働者同士で、馬鈴薯の量に関して喧嘩が絶えなかった。
ヴァンパイアゆえに、食事を摂らなくても生きて行けるエマでさえも、流石に、労働者に対しての食事が足りないと言うことは気付いていた。
昼食後の仕事は、地獄と言っても過言ではなかった。
シルフィードは、食事を必要としないエマからスープを分けてもらったから、ましな方だとしても、労働者の中には、重労働に耐え切れず、その場で倒れてしまう労働者がいた。
しかし、周囲の労働者やギムレーの役人は、その倒れてしまった労働者を助けることはなく、それどころか、その労働者に対して、文字通り鞭打つ行為をした。
そして、そのまま絶命してしまう労働者もいた。
シルフィードは、小さな休憩時間に、ギムレーの役人に、仕事がいつ終わるのかを尋ねてみた。
すると、ギムレーの役人は、シルフィードに言う。
「このギムレー大橋が完成するまでだ」
「そんなの、数年後の話でしょ。死傷者が、出でいるのですよ」
「全くだ。これでは、労働者ではなく、奴隷ではないか」
「黙れ! 労働者は、黙って働け! 働かされてもらえることに感謝しろ! 死んでいった労働者は、この国の為に死んで本望だっただろう」
シルフィードは、狂っていると思った。
それは、エマも同様だった。
エマは、ギムレーの役人に問う。
「仕事は、このギムレー大橋が完成するまでだったよな?」
「ああ、そうだ」
それを聞くや否や、エマは、作業場の方を向き、呪文を唱えた。
すると、積まれていた石材が宙に舞い、瞬く間に、橋が完成した。
エマは、ギムレーの役人に問う。
「これで、仕事は終わりだな?」
「あ、ああ」
その瞬間、労働者たちによる声援が、怒号のように地鳴りのように響き渡った。
それから、シルフィードとエマは、ギムレーの役人から日当を受け取って、ギムレーで汗を流す為に、銭湯を探した。
その道中、シルフィードとエマは、道端の端に倒れている少女の姿を見た。
シルフィードは、そのまま素通りしようと思ったが、エマは少女の元に駆け寄り、声をかける。
「大丈夫か? 話せるか?」
「かろうじて、意識はあるようだな」
「……誰ですか? お客様ですか?」
「客?」
すると、少女はゆっくりと身体を起こして、シルフィードの方に駆け寄り、うつろな眼を四ながら、シルフィードのズボンのボタンとファスナーを降ろし始めた。
シルフィードは、少女のその行動に驚いて、少女を両手で突き飛ばした。
少女は、尻餅をついた。
そして少女は、シルフィードとエマを確認した。
少女は、エマに言う。
「お客様は、あなたですか」
「私たちは、別に客でもなんでもないぞ」
「ああ。いきなり、びっくりしたよ。きみは、一体、ここでなにをしているのだい?」
「僕? 僕は、身体を売っています。僕、身体が弱くて、他の労働者さんのように働けないので、労働者に身体を売って、お金をもらっています」
「そうか」
「それで、一日どれぐらい稼いでいるの?」
「多い日で小さな銅貨二十枚。いい仕事です。でも、今日は、ギムレー大橋の建設が終了して、失業者が増えたので、全く持って稼げませんでしたが」
「シルフィード。それは、儲かっていると言えるのか?」
「儲かっていない。彼女の言う小さな銅貨が、モーモス銅貨とするならば、一日の食事を摂るのが関の山で、宿に泊まることは出来ない。僕とエマがさっきまで働いていた仕事でさえ、食事付きで大銅貨と言われるテュケー銅貨を五枚……すなわち、モーモス銅貨十枚でテュケー銅貨一枚と同じ価値であるから、彼女は、僕やエマの一人分の半分も稼げていない。モーモス銅貨二十枚では、一日の食事を摂るのでやっとだよ」
「それでも、僕は、労働者さんのおかげで、なんとか生きることが出来ています」
少女のその言葉の裏に、まるで嘘や謙遜は含まれていなかった。
気付けば少女は、男の青臭いにおいをしていた。
それでもなお、シルフィードとエマに対して、笑顔を絶やさなかった。
少女は、シルフィードとエマに言う。
「あの、こんなことを言うのは失礼ですが、僕を抱いてくれませんか? お金はどれだけ少なくてもかまいませんから。なんなら、二人同時でも大丈夫ですので」
「…………」
「くだらん。私は、興味がない」
「そんな。お願いします。なんでもしますから。お金がないと、僕、生きていけないのです」
「なんでもするのか。それなら、分った」
「おい、シルフィード。お前は、それでいいのか?」
「ありがとうございます」
「…………」
それからシルフィードは、少女を銭湯に連れて行き、少女の為に新しい衣服を買い、ちゃんとした食事を与えた。
また、少女は、病気の心配があったので、病院に行き、薬も買い与えた。
やがて夜になり、シルフィードとエマは、宿を借りることにした。
宿の一室で、エマは、すやすやとベッドの上で眠っている少女を一瞥しながら、シルフィードに言う。
「しかし、私は意外だったよ。人間と言うのは、皆、利己的だから、シルフィードは、この少女を犯して、飽きたら捨てるとばかり思っていたのに。衛生面に気を付けて銭湯に連れて行ったり、病気の薬を買って上げるのは分るが、どうして彼女の服を買ったり、ちゃんとした食事を与えたり、それどころか、一度も犯すことなく、私とシルフィードの旅に同行させると言ったのだ? どう言う風の吹き回しだ? 得をするわけではないのに。まさか、親切と言うわけではあるまい?」
「流石に、旅に同行まではさせないさ。彼女の体力じゃ、旅は出来ないよ。旅の同行は、次の目的地で、彼女の出来る仕事が見つかるまでだよ」
「しかし、シルフィードに、そこまでする理由が分からないのだが。そこまでお金に余裕があるわけでもないし」
「それは、僕にも分らないよ。ただ、彼女が、死んだ僕の妹に似ているからかもしれない」
「と言うと?」
「僕の妹は、生まれつき身体が弱いうえ、眼がほとんど見えず、歩けなかったのだよ。けれども、僕は、そんな妹になにもしてあげられなかった。僕の家系は、有名な音楽家をたくさん輩出してきた家系だから、毎日毎日楽器の練習で忙しくて、妹には、外の世界を見せてあげることが出来なかった。もちろん僕の両親は、自分の家系に障害者がいることが世間に露見するのが嫌だったから、妹を外に出すことはなかったけれども。それで、妹は、十歳の誕生日を迎える前に死んじゃった」
「要するに、シルフィードは、少女を助けることによって、妹に対する罪滅ぼしをしているのか?」
「まさか。彼女は妹ではないし、顔も似てもいない。ただ似ているのは、自由に生きると言うことが出来ないと言う不幸な境遇だけさ。それに、死んだ人間に罪滅ぼしとか、面白い冗談だよ」
「じゃあ、なんでシルフィードは、得もしないのに、彼女を助けるのだ?」
「自己満足だよ。昔、かわいそうな妹に対して出来ななかったことを、かわいそうな女の子にして上げる。その行為は、聖人君主が戯れ言のように並べる愛とは程遠いし、親切だと言っても、親切にしてくさすぎる。だとすると、ただたんに、自分の自尊心を満たす為だけにやっている行為だよ」
「なるほど。要するに、人間と言うのは、時に物質的な価値よりも、眼には見えない心の潤いに価値を見出すことがあるのだね。面白い」
「別に面白くはないよ。人と言うのは、中には、眼に見えない、形のないものの為に、平気で人を殺したりするのだからさ」
『仕事の国』を読んでくださった方、本当にありがとうございます。
この小説は、うp主が、最近日本社会で問題になっているブラック企業をモチーフに書いた小説なのですけれども、聞く話によれば、日本は、そのようなブラック企業に支えられていると言う話を、よく耳にします。
確かに、考えてみれば、そうですよね。
うp主は、定時に会社から帰ることが出来る仕事を、あまり耳にしません。
ひょっとすると、ブラック企業と言うのは、悪は悪でも、必要悪なのかもしれませんね。
だからと言って、うp主はブラック企業を擁護するつもりは毛頭ありませんけどね。
ところで、うp主は先日に、とある全国チェーン化されている某中華料理屋さんで、ホールのアルバイトを始めました。
その某中華料理屋さんは、インターネットの情報だけ見れば、ブラック企業であると言われているのですけれども、別にうp主は、少なくともうp主が務めている店舗が、ブラック企業であるとは思いませんでした。その店舗の人間関係が劣悪であることを除いて。
そうなのです。
一言で、なにが劣悪であるかと言うと、その店舗に、合計で社員が二名しかいないことが理由なのかもしれませんが、新人の教育が、全くもってありません。
別にうp主は、仕事をするにあたって、すべき仕事は全て教えてもらわないと動くべきではないと言う考えを持っているわけではないけれども、その店舗では、ほとんど全ての仕事を、他のアルバイトの人の行動を見て、その真似をして、覚えなければなりません。
それだけならばまだしも、基本的に、その店舗で働いているベテランのアルバイトほど、新人のアルバイトよりも精神的な余裕があるのか、さぼる傾向にあると見受けられます。
それゆえに、徐々に仕事の効率が悪くなってしまいます。
けれども、それに対する文句は、新人のアルバイトであるうp主に降りかかってくるのです。
そして、最もうp主をいらいらされることは、仕事が統一化されていないことです。
と言うのは、うp主が務めている店舗のホールのアルバイトの数は、うp主を含めて、せいぜい十人てい度なのですけれども、同じ仕事でも、それぞれ十人によって仕事のやり方が異なるのです。
それゆえに、毎回、今日のシフトが同じであった人の仕事のやり方と合わせて、うp主は仕事をしなければなりません。
結論を言うと、うp主が務めている店舗は、社員を含めたコミュニケーション力が低く、それゆえに全体的に民度が低いのです。
うp主は、某県にある吹奏楽部が名門の某高校でテナーサックスを吹いていたのですけれども、当時は、その吹奏楽部は、多いときで百五十人くらいの部員がいましたが、うp主が務めている店舗のアルバイトでの規律や民度や、覚えるべき仕事の量さえも、たかが高校の、百五十人部員がいる吹奏楽部よりも、ずっと劣っていました。
うp主は、ただたんにブラック企業を注意するよりも、そう言った民度の低い、言い換えてみれば無駄が多すぎるがゆえにブラック企業になる企業を、注意されるべきだと思います。
さて、無駄話が長くなってしまいましたが、これからもじゃんじゃん小説をうpしてゆくつもりですので、応援よろしくお願いします。
よろしければ、感想もしくは評価を添えていただければ、嬉しいです。