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第2章(3)自分はムアと戦うためにここにいます

「『エルデマクト・リアクター』変換圧力の調整を開始」

「冷却機構、正常に作動中」

「魔力変換、活性化」

「『エルデマクト・リアクター』と魔力蓄積装置を接続…三…二…一…接続完了。魔力抽出を開始」

「機関各部正常に起動。異常ありません」


 『エピメテウス』司令塔。

 士官達の操作で計器に次々と光が灯っていく。


「『ガルーダ』の収容は完了したか?」


 艦長のヴォルフガング・リジーレ大佐が飛行管制士官に問う。


「『ガルーダ』一番機、二番機収容完了。ハッチ閉鎖中です」

「では面舵いっぱい、針路七〇、両舷微速前進。座礁に注意しろ」

「面舵いっぱい、針路七〇、両舷微速前進ようそろ!」


 航海長が復唱し、『エピメテウス』は海上をすべるように前進し始める。

 推進音はその巨体からは想像できないほど静かだ。


「格納庫ハッチ閉鎖、飛行甲板閉鎖完了。気密確保しました」

「よし、主海水槽に注水。深度一〇〇キュピトまで潜航する!」

「了解、潜航開始します!」


 静かなさざ波と共に、『エピメテウス』は海中に姿を消した。





 『エピメテウス』第一状況説明室。


「先ほど連合魔力管理委員会委員長から、状況〇一・一〇・一三四の発生に伴う強制査察執行のための出動命令が下った」


 壇上に立つディータ・イル・マヌーク中佐は、参集した『ガルーダ』隊の面々……レーネ・シュタール技術中尉、ナターシャ・スミルノワ少尉、シャンタニ・ラージ・メルワ准尉、それに涼宮のどか准尉を前に厳かに告げた。


「……って通し番号で言われても何のことかわかんねえよな。ぶっちゃけあたしもわかんねえし」


 厳かだったのは最初だけで、すぐにいつものべらんめえな口調に戻る。


「今うちらがいるのが北洋東岸のビブロス沖、こっから南に行くとキリキア沖だ。南北を往来する商船が必ず通る海だが、ここで数ヶ月前からティレニア連邦の船が海賊の襲撃を受ける事件が相次いでる。積み荷を奪われたり乗員が人質にとられるだけならましな方で、抵抗して沈められちまった船も何隻かいる。ここまではわかるな?」

「……腑に落ちんのじゃが、何故その賊どもはティレニアの船ばかりを狙うのじゃ? 他の国の船が通ることもあるじゃろうに。何か特別な恨みでもあるのかの?」


 前回と同様後ろの方で机の上にあぐらをかいたシャンタニが首を傾げる。


「良い質問だな王女様。えーっと、世界史詳しい奴は知ってるかもしれねえが、南方の鉱物資源や砂糖を北方に運んで、逆に北方の器械や麦を南方に運ぶっていう商売は、大戦前からティレニア人がほとんど独占してるんだよ。戦後は旧ティルスが衰退したり南方の植民地だったカルト・ハダシュトが独立したりしてるから同じとはいえねえが、北洋の物流をティレニア系資本が牛耳ってることには変わりない。後で話すこの海賊の装備を考えても、そういうティレニア人の海上貿易独占を良く思ってないどっかの国なり企業なりが、海賊の後ろ盾になってる可能性は十分にある。普通の海賊だったらどこの国の船でも無差別に狙うはずだからな」

「自分もよろしいですか、中佐殿」


 飛行訓練を中断させられてからずっと不機嫌そうにしているナターシャが挙手する。


「何だ、ナターシャ」

「今回自分達に出動命令が出された理由をお聞かせ下さい。海賊の討伐は通常、連合海軍の任務ですし、それに自分達は予定では後二ヶ月は訓練期間だったはずです。ようやく『ガルーダ』の操縦を覚えたばかりの現在の自分達の練度では、高度な作戦、もとい強制査察が執行可能とは思えません」


 こればかりはナターシャの言い分が的を射ている。

 ディータは困った時の癖で頭をかいた。


「あー、ろくに訓練もしてねえのに急に初任務になったことについては、本当にすまねえなと思ってる。でもな、こいつはただの海賊退治じゃねえ、『フォレスタ』の装備でないとできない任務だ」

「……海賊が魔力兵器を有しているのですね?」


 レーネが静かに訊ねた。


「そういうことだ。この海賊は全部で一二隻ぐらいの船団だが、親玉の一隻が魔圧で活性化させた高出力のフッ化水素光線を放射する光線砲で武装しててな。動力は大戦末期に旧ランズベルク公国軍が放棄していった『エルデマクト・リアクター』の残骸を再利用したもので、変換効率の悪さは第二世代並みだが、この光線の波長は大気による減衰が少なく、強い破壊力を持っている。現在連合海軍の艦隊が出動しているが、連中はこの兵器の恐ろしさをまるでわかってないらしい。下手すりゃ全滅だ。そこでうちらの出番になったってわけさ」

「全滅……」


 のどかが息を呑む。


「特別査察執行部隊『フォレスタ』の任務は、世界各地ではびこる魔力の不正利用を撲滅し『ムア』の悪化を食い止めること、そして魔力によって危険に晒される人命を救うことだ。訓練不足できついとは思うが……やってくれるか?」


 ディータは一同を見回す。

 しばらく眉を寄せていたナターシャは、立ち上がってディータに敬礼した。


「勿論です、中佐殿。自分は『ムア』と戦うためにここにいます」


 他の面々も無言で頷く。


「みんな、ありがとな。……よし、到着まで時間があまりねえけど、強制査察の内容を説明する。気合入れて聞いてくれ!」


 ディータが黒板に光線砲の外観が描かれた絵と海図を広げる。ブリーフィングが始まった。


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