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第1章(1)がんばるって決めたもの

〈 お父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃん、お兄さん、まどかお姉さん、ほのかお姉さんへ

 お元気ですか。

 村の人達も変わりありませんか。

 わたしはおかげさまで元気にしています。

 村をはなれて今日で一五日がたちました。

 大陸横断鉄道に乗るのも、よその国の景色を見るのも初めてで、毎日がとても楽しいです。

 食べ物は、海が遠いのでお魚は食べられないですが、栄養のある物を偏りなく頂いています。

 昨日の夜はパルミュラという大きな町に列車がとまって、砂漠というとても広いお砂場を見ました。

 砂漠はまるで水の代わりに砂でできた海みたいで、砂が月明かりをあびてきらきらと銀色にひかっていて、すごくきれいでした。

 いよいよ今日、終点のビブロスに着きます。

 わたしがこれから働くことになる『フォレスタ』の本部がある町です。

 正直に言うと、今でもわたしが『フォレスタ』の入隊試験に合格したのが信じられません。

 これも、わたしに勉強をさせてくれたみんなのおかげです。

 色々な学問を教えて下さり、大変貴重な外国語の辞書や教本を貸して下さった寺子屋の小松先生、応援して下さった村の皆さんにも本当に感謝しています。

 大好きな村を離れてみんなとしばらく会えなくなるのはちょっとさびしいです。でも、『フォレスタ』に行けば、世界を『ムア』から救う仕事ができます。

 『ムア』がなくなれば、きっとわたしたちの村でも前と同じようにお魚がたくさんとれるようになって、お父さんとお兄さんも、遠くの町まで働きに行かないですむようになると思います。

 その日まで、わたし一所懸命がんばります。

 今、列車の中でこの手紙を書いています。

 列車がビブロスに着いたら車掌さんに預けるので、そちらに届くのは一五日ぐらい後になると思います。

 それではみんな、どうか身体に気をつけて。


 のどかより


 追伸

 シロにえさをやる時は鶏の骨を混ぜないようにしてあげて下さい。

 よろしくお願いします。 〉




 列車が山間を抜け、車窓から眩しい光が差し込む。

 筆をおいて顔を上げた黒い髪の少女は、窓の外を見て思わず歓声を上げた。


「わあ、海だ!」


 列車の行く先に、白い石を積み上げた背の高い建物が何本もそびえる街並みと、そしてその向こうに広がる海が見えた。

 紺碧の大海は、降り注ぐ陽光を反射して燦然と輝いている。

 海上を行き交う船、遠くの島々、空を飛ぶ海鳥。

 異国の風景であるにも関わらず、久しぶりに見る海は少女に遠い故郷を思い出させた。


(みんな、どうしてるかな……)


 じわっと目に熱いものがこみ上げてくる。

 それを抑えるように、少女は両の拳をぎゅっと握り締めた。


(泣かない。わたし、がんばるって決めたもの)


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