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第2章(7)そのためのフォレスタです


「連合海軍がやられているとはどういうことだ!」


 ネオポリス、世界連合政府本部。

 北洋艦隊が壊滅寸前にあるという報は、沿岸のティレニア軍観測基地から本国の軍上層部に伝えられ、紆余曲折を経て連合魔力管理委員会のティレニア代表委員の知るところとなった。


「被害の程度は? ……何、軍令部が機密を盾に情報を出し渋っているだと? ふざけるな、私の立場はどうなる! さっさと私に正確な情報を上げろ、軍令部には文民統制の講釈でもしてやれ!」


 通信機の端末を叩きつけて廊下に出たティレニア代表は、ぎょっとして立ちすくんだ。

 目の前に今一番会いたくない人間の姿があったからだ。


「た、た、立ち聞きは良くないな、リープクネヒト委員長」

「お出になるのを待っていたのは事実ですが、立ち聞きをしていたつもりはありません。……もっとも、どのような内容の通信をなさっておられたかは、代表殿のお顔に書いてあります」


 会議の席上と変わらぬ怜悧な眼差しを向けて、セシリア・リープクネヒトは言葉を返した。

 後半のくだりは若干の棘があったが、声色は風の無い湖水の表面のように静謐だ。

 ティレニア代表は、先の大戦終結の立役者であり新生ランズベルク共和国の象徴とも称えられるセシリアのことが苦手だった。

 委員長選挙で自分を破った政敵でもあったし、その性質は彼が知っている本国の政官界には全くいないタイプで、一緒にいるだけで自分がひどく矮小な存在に貶められているような気がしてならなかったからだ。


「……何の話かわからんな」

「時間があまり無いので本題に。このような状況になることが予想できましたので、勝手ながら既に手を打ってあります。事後承諾になってしまい申し訳ありませんが、同意を頂ければ幸いです。連合海軍に大きな被害が出る前に解決して差し上げられなかったのはとても残念ですが」

「な……!」


 セシリアの唐突な通告に、ティレニア代表は絶句した。

 混乱する頭でこのいけすかない政敵が自分の縄張りに介入してきた意図を突き止めようと試みる。

 もっともセシリアはいつも通りの無表情で、顔からは内心を探りようが無い。

 自然ティレニア代表がたどり着くのは、彼自身の価値観を彼女に当てはめた結論になった。


「そうか、手柄を横取りするつもりだな……キリキア沖の海賊問題は、連合海軍が解決すると伝えたはずだ。これは連合政府最高安全保障会議の決議に基づいている。『フォレスタ』だか何だか知らないが、余計な手出しは越権行為だぞ!」


 セシリアはかすかに眉根を寄せる。


「ですが代表殿……それでは兵があまりに哀れです」

「連合海軍を見損なうな! 少なくとも我がティレニアの男子ならば、海で勇敢に戦って死ねるなら本望だ」


 そう虚勢を張る代表は、この瞬間にも自国の将兵達が、戦うことすらできずに一方的に殺戮されている現実を知らない。

 セシリアはしばし考える素振りを見せてから、一つの提案をする。


「お望みなら、海賊問題解決後の公式発表は連合海軍にお任せします。ご自由にして下さって構いません」


 そう告げると、セシリアは黙って返事を待った。


「……ほほう」


 セシリアの提案の意味に気付いて、ティレニア代表の目に欲深な光が宿る。


「君ならあの海賊をどうにかできるというのかね?」


 セシリアはその時だけ、かすかに笑ったようだった。


「ええ、勿論。そのための『フォレスタ』です」


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