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第2章(5)ガルーダ隊、出る!


 海を割って、漆黒の巨体が浮上した。

 排水扉から海水を滝のように吐き出す様は、まるで鋼鉄の鯨だ。

 舳先を南にめぐらした『エピメテウス』の外装が、突然左右に開いた。

 二重の船穀が展開し、長大な飛行甲板が姿を現わす。


「一番機、兵装取り付け最終確認! 二番機確認急いで!」


 格納庫では、レーネと整備士達が発進準備に追われていた。ブリーフィングから徹夜で続けていた『ガルーダ』の調整は、直前になってようやく形になった。


「あの……兵装って何ですか?」


 作業の邪魔にならないように格納庫の端に立って、のどかが遠慮がちに質問する。


「勿論、武器のことよ。まさか丸腰で任務を遂行すると思っていたの?」


 自らも機械油にまみれた手で『ガルーダ』二番機の機首下部に無骨な六銃身回転式機関砲を固定しながら、レーネはそっけなく答えた。

 これ以外にも、両翼には三連発噴進弾筒が一基ずつ、胴体下部には魔力防壁を展開するための半球状の発振機が取り付けられる。


「そ、それじゃあ『ガルーダ』は……」

「兵器ともいえるわね」


 のどかが言おうとしたことをレーネが先取りする。

 のどかはうつむいた。

 『フォレスタ』が普通の組織でないのは便宜上とはいえ軍の階級を使っていることからもわかったし、『ムア』の拡大を止めるために実力を行使しなければならないことがあるのも気付いていた。

 自分自身、『ムア』を無くすためなら何でもすると言った。

 それでも、鈍く光る武器が『ガルーダ』に取り付けられていくのを見ると、自分が正しいのかどうかわからなくなる。


「誰かを傷付けないと……『ムア』は無くせないんでしょうか……」


 消え入るような小声で呟いたのどかを、レーネは一瞥する。

 手元に目を戻し、機関砲の固定を終わらせると、レーネはのどかに近付いて優しく微笑んだ。


「お悩みなさい、涼宮さん。こればかりは、自分で答えを出すしかないわ」


 その時、ナターシャがシャンタニと共に格納庫に入ってきた。


「ふん、悩むなんて魔女には似合わない台詞だな」


 二人は樹脂のようなぴったりした防護服を身に纏っている。

 防護服は魔力防壁の展開を補助する伝導性の高い素材でできており、『ガルーダ』を操縦する人間が重力加速度、気圧や気温などの厳しい環境に耐えられるようになっていた。


「あらスミルノワさんおはよう、今日はまた一段と平たいですわねえ」

「っ! ……どこかの魔女のように無駄に大きければいいというものでもない」


 いつも通り二人の間に火花が散る。

 だがそれは一瞬だった。


「機体の調整は万全か」


 真顔になってナターシャが訊ねる。


「うふふ、私を誰だと思っているのかしら?」

「……そうだったな」


 肩をすくめるレーネに、ナターシャは苦笑いする。

 短い会話だったが、ナターシャがレーネを罵らずに話しているのを初めて見て、のどかは少し驚いた。


「涼宮准尉といったか、ここで何をしている」


 ナターシャは次にのどかがいることに気付いて表情を険しくした。


「君は今回の任務には参加しないはずだ。素人が格納庫をうろついていると邪魔だろう」

「ごっ、ごめんなさい」


 慌てて謝るのどかの前をナターシャは素通りしていく。


「……我々は行動するしかない。悩むのは自由だがそれを忘れないことだ、涼宮准尉」


 先ほどのレーネとの話が聞こえていたのか、最後にそう言って、ナターシャは一番機に乗り込んだ。


「全くこれだから痴れ者だというのじゃ、素直になればいいものを……すまんの、のどか。妾の顔に免じて許してやってたもれ」


 そう言ってシャンタニが後に続く。


「それはそうと、あやつもああ見えてレーネを買っておるんじゃの」

「……え、誰が私を?」


 急に話をふられてレーネが戸惑った顔をする。


「ナターシャじゃよ。本当に嫌っておるなら、そんな者に命は預けられんからの」


 シャンタニはにんまりと笑ってレーネの背中を叩くと、二番機に乗り込んだ。

 残されたレーネはしばらくぽかんとしてから、困ったような、寂しいような表情を浮かべる。


「もう……そんなわけないじゃない」


 滑車で飛行甲板に前進した二機の『ガルーダ』が、折り畳まれた翼を開く。

 直後、機体が翠色の光に包まれた。

 動力中枢『エルデマクト・リアクター』が起動し、魔力変換を始めたのだ。

 放熱口がかすかな吐息をつく。

 すかさず甲板員が数名胴体の下に潜り込み、機体を蒸気射出機の射出台に固定した。


 一番機のナターシャは慣れた動作で計器類、火器管制の最終点検を行う。

 どこにも異常は無かった。


「生体同期率、規定値を確保。いつでもいけるわよ」


 観測機材のメーターを睨んでレーネが告げる。

 生体同期とは、『ガルーダ』搭乗者の意識を読み取って操縦を補助する仕組みのことだ。

 単座の『ガルーダ』ではひとたび空に上がれば、たった一人で航行、航法、戦闘機動、通信など多くの仕事をこなさなければならない。

 自然界の一部である以上、人体の脳や神経にも『エルデマクト』は流れている。そこで魔力防壁の展開など咄嗟の時に必要ないくつかの機能は、これを読み取って搭乗者の意識に追随した制御が可能になっているのだ。

 ナターシャは軽く頷いて、操縦席を保護する有機硝子製の水滴型風防を密閉させた。

 一番機の後ろに偏向板が立てられ、甲板員達が散って行く。


〈一番機、ナターシャ・スミルノワ。発進準備完了〉


 数秒後、シャンタニの二番機も点検を終える。


〈二番機、シャンタニ・ラージ・メルワ。準備完了じゃ!〉


〈こちら司令塔、一番機・二番機の発艦を許可します〉


 司令塔の飛行管制士官からゴーサインが出る。

 ナターシャは深呼吸をして宣言した。


〈了解、『ガルーダ』隊出る!〉


 甲板員が腰をかがめ、前方を指した右手を甲板にわずかに触れさせる。

 それが合図だった。

 射出機が唸りを上げ、二機の『ガルーダ』は大空へと放たれた。


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