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それが、サズとエルの出会いだった。
つがいを見つければ、相手が己の唯一となる一途な竜人と異なり、竜人が他種である己のつがいを念願かなって見つけた時に、すでに相手に子がいた、というのは実は珍しい事ではない。勿論、見つかった後、つがいが己以外の異性の子をもうけるなど決して許されない。異種族婚とでも言うのだろうか、竜人のそれは、同種族婚に比べて数が少ない割に、問題が多かった。つがい以外の相手との子をもうけているのは大小ある問題の中でも比較的小さめのものだったりする。勿論、つがいである竜人が受ける衝撃は小さくないが。
そう言う例がないわけではないと知ってはいたが、それが我が身に起きるなど、サズに想像できるわけがない。
コブ付きかよ。
まさか我が身に起きるとはと、サズの喪失感に追い打ちをかける。つがいを失ったという絶望に嘆こうにも、傍で母親を呼びかけ続けられては気が削がれた。
眠っているのと死んだのが分からない子ヒョウの声を聞いていたサズは削がれた気が徐々に苛立って行くのを感じた。
うるさかったからではない。
つがいだったサズが出来なかったというのに、他のオスがまぐわったという事実が先刻から「かあさま、かあさま」鳴いているのだ。姿の知らぬオスへと殺意を沸かせ、子ヒョウにも苛立った。
こいつがここに居なけりゃ、こんな事考えずに済んだってのに。
もしかしたら、可能性すら最初から考えなかったかもしれなかった。子ヒョウさえ、居なければ。
つがいに関する事で竜人と言うのは前向き思考になりやすい。
サズも子ヒョウさえいなければ、つがいである黒ヒョウは清らかなままに逝ったと疑いもサズに信じたはずだった。
現実がどうであれ、そのくらい夢見る事は許されるはずだ。
「かあさま。かあさま。おねむ? まだおひさまおっきしてるよ?」
子ヒョウはそう言いながら黒ヒョウの身体をぺろぺろ舐めた。自らがいつもそうやって母親に起こされているからの行為だろうが、サズには我慢の限界だった。
「触んな。こいつはお前んじゃねぇ」
起きて、と黒ヒョウの閉じた瞼から耳までの辺りを何度も舐めていた子ヒョウを苛立つままにつかみ上げて睨みつける。
首をつかまれてだらりと身体を弛緩させた子ヒョウは、パチパチと瞬きをしてサズを見つめる。いかにも今気付きましたと言った態度だった。
「………………とおさま?」
「ざけんな!!」
しばし沈黙した後の子ヒョウの言葉に間髪入れずサズが怒鳴ると、子ヒョウの耳とシッポがピンと張りつめる。
だが、張り詰めていたのはほんの少しの間で、やがて耳は垂れ、シッポは丸まり、
「かあさま、かあさま」
ひっく、えぐ、と嗚咽を漏らしながら、子ヒョウは激しく泣きだした。
サズが怖くて、子ヒョウは母親に助けを求めたのだ。