第二章 戸惑い (2)
優一のそばにいることで、うれしくてたまらない三咲だが、今一つ優一の心がつかみきれない。そんなとき、三咲は優一をディズニーランドに誘った。
第二章 戸惑い
(2)
「優一、今度の休みに一緒にどこか行かない」
彼が目の前にいる。距離にして一メートルも離れていない。当たり前だ。大学の近くのファーストフードは、テーブルが小さいので椅子に座ってもすぐそばにいる感じだ。
“何か言って”そう思いながら顔を見ていると
「今度の休みって」
「優一が学校ない時」
「えっ、でも安西さんは」
「優一の都合に合わせる」
一瞬黙って“どうやってこういう時は、返事をすればいいんだろう”と考えていると
「ねえ、だめ」
“まいったなあ。返事のしようがない。はいとかうんとかでいいのかな。どこに行くつもりなんだろう”頭の中で思い巡らしていると
三咲は段々下を向いてきて
「なんで何も言ってくれないの。そんなに私と一緒にいるのいやなの。本当にそうなら“私の事、嫌い”って言って。優一の事諦めるから。私だって良くわからない。でも優一の側にいたい」
そう言って下を向いてしまった三咲に、またまた“困ったな。こういうの苦手。この子のこと好きとか嫌いとかじゃなくて。可愛いけど・・どうすれば”
自分自身が、こういう状況にならなかった高校時代までを悔やんだ。“ここは、うーん、でも”そう思っているうちに涙が目元に溜まり始めた三咲に
「いいよ。安西さんの好きな所に一緒に行く」
「えーっ」
何をするかも決めてなかった三咲は予想外の言葉に目元に浮んだ涙をそっちのけにして
「いま、優一、“私の好きなところに一緒に行く”って行ったよね」
“間違いないよねっ”という目で見ると
「うん。言った」
その言葉に三咲は
「じゃあ、今度の土曜に“ディズニーランド”行こう」
今度は優一が
「えーっ、“ディズニーランド”」
回りのひとの目が自分に一斉に集まった事に首をすくめると
「安西さん、僕、“ディズニーランド”って行った事ないんだ」
「えっ、一回も」
三咲の驚きに頭を縦に振る優一に、少し“ニンマリ”すると
「分った。私が案内してあげる。でも朝は早いよ」
「何時ごろ」
「六時半には正門にいないと“ファストパス”取れない」
「えーっ、六時半。だって“ディズニーランド”って浦安ってとこにあるんでしょ」
自分の頭の片隅にある地名を引っ張り出しながら言うと
「優一って、浦安がどこにあるか知っているの」
少し黙った後、首都圏地図を頭に浮かべながら“えーっと、たしか”そう思いながら答えないでいると
「優一は、結構知らないのね。浦安は、千葉にあるの。それも東京に近いところ」
三咲の言葉に“ふーん”と思いながら“何て言おうかな。お母さん心配しそうだし”そう思っていると
「優一、何か心配事でもあるの」
「えっ、別に」
「顔に書いてあるわよ」
「えっ」
と言いながら自分の頬を“さする”と
「ほらっ」
と言って微笑んだ。
目の前にいる人を見ながら“ふふっ、優一とデートの約束しちゃった”心の中が昨日の“どんよりとした曇りから雲ひとつない快晴”になった三咲は、
「じゃあ、優一、渋谷の中央改札口に五時一〇分。私は始発に近いな」
嬉しそうに言うと
「あっ、この前の事もあるから携帯の電話番号教えて」
「えっ、この前の事って」
「優一、忘れたの。私を二回も“すっぽかして”」
「あーっ」
風邪で待ち合わせ場所に行けなかったことを思い出すと“いいのかな。教えて”と思いながら三咲の術中にはまった事を自覚しながら携帯番号を教えた。
“ふふっ、これで携帯番号ゲット”そう思って嬉しそうな顔をすると
「どうしたの、安西さん」
また“ふふっ”と笑うと
「別にー」
と言って目元を緩ませた。
「安西さん、そろそろ」
そう言うと意味を理解して
「うん、行こう。優一、四限終わったらどうするの」
「うん、今日はまだ、体調万全でないから真直ぐに家に帰る」
学校の帰りにこのままデートと思っていた三咲は、作り笑顔をすると
「そうね、そうだよね。優一、まだ風邪気味だもの。体調完全に治してもらわないと」
そう言って微笑んだ。
“何を期待しているの”そう思いながら学校の近くにあるファーストフードを出るとそのまま、三咲と並んで学校に向った。
“なるほど、三咲の彼はあいつか。確か葉月とかいう名前だったな”。たまたま同じファーストフードで昼食を取っていた美佐子は、しっかりと二人の昼食の会話を聞いていた。美佐子は、何とはなしにパッドで“葉月”という名前を検索した。
“葉月コンツェルン”、“葉月優”・・
「えーっ、でも、まさか」
そのまま、URLをタップすると優一の父親の顔が出てきた。そっくりだった。
“まさか、父親が優、あいつが優一”言葉にならない声に会社情報を出すと“二〇〇社以上のオーナー会社、えーっ、どういうこと、あいつってここの御曹司、三咲この事知っているのかな”
頭の混乱に拍車をかけ始めた美佐子は、四限の講義が頭に入らなかった。正門で三咲の出てくるのを待った美佐子は、三咲の顔を見つけると
「三咲、ちょっと時間ある」
「あっ、美佐子。別にいいよ。このまま家に帰るつもりだったから」
「ちょっと、お茶しよ」
そう言って近くのファーストフードに入ると“昼間も入ったなここ”と思いながら三咲は美佐子の後を付いて行った。
「三咲、実言うと、貴方が、ここでうちの学生と有っているとこ見ちゃった」
一瞬、アイスティーを噴出しそうになった三咲は、
「見ちゃったの」
と言って、まずそうな顔をした。
「彼とはどこまで」
「どこまでって」
そう言って恥ずかしそうな顔をすると
「その調子では、キスぐらいかな」
美佐子の言葉に真っ赤になりながら“なんでわかるの”と思いながら視線をそらすと
「彼のことどこまで知っているの」
少し黙った後、首を横に振って、
「“ゆっくり時間が来たら話すから、家族の事は聞かないで”って言われている」
三咲の言葉に何となく“あいつ”の優しさを感じると
「そうか」
そう言って“そういえば、三咲、この手初めてだもんね”と思うと、これ以上何となく深入りをしてはいけない気持ちが自然と出てきた。
「良かったね。三咲。始めての彼だね」
ますます、顔を真っ赤にすると
「まだ、彼の事分らない。自分を好きでも嫌いでも無い感じ」
それを聞いた美佐子は
「大丈夫だよ。出なければ“ディズニーランド一緒に行く”って言わないよ」
「えーっ、なんでそれ知っているの」
口が滑ったと知った美佐子は、昼間の事を話した。
「絶対、他言無用だからね」
まだ、心の中で温めておきたかった三咲は、本当に厳しい目で美佐子に言うと、両方の手のひらを前に出して
「わかったから、そんなに怖い顔しないで」
そう言って“参った”という顔をした。
“優一いるかな。この前みたいにいなかったら”そんな思いを胸に抱きながらまだ空いている早朝の渋谷駅井の頭線から渋谷駅JR中央改札口のちょうど改札が見える位置に来ると、優一がスッキリした洋服と簡単な小物入れのバッグを肩からかけて、こちらを見ていた。まだ自分を見つけていないらしい。わざと急いで走ると“ふーふー”息をして
「優一待った。急いで来たんだ」
いきなり抱きつこうかと思ったが、“ちょっと”と思うと
「安西さん、急がなくてもまだ、五時前だよ。もう直ぐ五時一〇分の東京方面行きが来るからホームに入ろう」
「うん」
と言うと三咲はもう心に羽が生えている気分になった。
山手線は、空いていた。優一と一緒に座ってお尻をピッタリとつけると
「安西さん、回りの人が見ている」
そう言って優一が小声で耳元に囁くと三咲は“ちらり”と周りを見た。
“確かに見ている”と分ると少しだけ離した。
実際、三咲は目立つ子だった。少し切れ長の大きな目、“すっ”と通った鼻筋に、潤んだ可愛い唇、柔らかい顔のラインに肩先まで伸びた良くブラッシングされた輝く髪の毛、色白で“すらっ”としたスタイルに大きくも無く小さくもないちょうどいい胸、全体に調和が取れていた。
優一はいつも“こんなに可愛い子が、なんで僕についてくるんだろう。別に僕の素性を知っている風でもないし”と思うと不思議だった。
今日もこの前の火曜日に“ディズニーランド”に行こうと誘った。優一は、母親に“ディズニーランド”のことを話すと、色々聞いてきたのを思い出していた。
「“ディズニーランド”ですか。あなたが」
母親のカリンは、優とは二人で言った事があるが、子供たちとは温泉や海外が多く、国内のレジャー施設は連れて行かなかった。それだけに息子の言葉に驚いた。
「どういう流れで、“ディズニーランド”に行く事になったの。優一が行きたいとは、お母さん思えないし」
的を突いている母親の言葉に、“大切な自分の母親には嘘をつきたくない”と思うと正直に事の成り行きを話した。
「分ったわ。優一が一緒に行こうと思った子だったら、そうしなさい。でも一度、我が家に連れて来なさい。お母さん会ってみたいな」
カリンは、自分が、優の母親に“優のお嫁さんになって頂けない”と言われた言葉を忘れてはいなかった。それだけに“女癖の悪い”祖父と父親の血を引きながら“女にはきれい”な息子の優一の行動に興味を持った。
「優一、見て、ほらあれが“ディズニーランド”」
優一の隣で、控えめに言う三咲の見ている目の方向を見ると“山とか、お城の様なもの”が見えてきた。
“ふーん”と思いながら三咲の横顔を見ると目が輝いている。“女の子って、こういうの好きなんだ”そう思いながら嬉しそうな三咲の横顔を見ていた。
優一は、両親に連れられて一年に一度、北米、ヨーロッパや中東、アジアの主要都市や観光地に連れて行ってもらっている。ほとんどが、父親が先に出張した後、終わりを見計らって行くのだ。
父親曰く“若いうちから、日本と欧米の違いを肌で感じる事が重要だ。日本の常識は、海外では通用しない事の方が多い。若いうちからそれを体で理解することが必要だ”そう言っていた。
だから、優一は、ドイツやイギリスの城や宮殿を見ることもあった。それだけに“ディズニーランド”にあるお城は、“クエスチョンマーク”が頭に浮かんだが、“まあ、レジャーランドだから”と思って理解することにした。
「優一、“シンデレラ城”よ」
目を輝かしながら言う三咲を見ながら、何も反応しない優一は“うーん、ちょっと苦手かも”そう思いながら、ホームに入った電車から降りた。駅の改札を出ると右側に簡単に食事が出来るお店が有った。
「優一、ちょっとお腹満たしていこう」
三咲は、優一の手を引いて、ドアを開けるとカウンタの待っている人の後ろに並んだ。
「私がオーダーするから席を確保して。何食べる」
カウンタ前のメニューには、簡単なサンドイッチの名前と写真がついていた。
「コーヒーとチキンのサンド」
そう三咲に言って、自分のポケットから財布を出そうとすると
「いいここは。後で割り勘」
そう言って“にこっ”と笑った。
“割り勘と言われても”と思いながら窓際の空いているテーブルを確保すると、カウンタに他の人と並んでいる三咲を見た。
メニューを見て楽しそうにしている。優一が見ていると、たまにこっちを見ては“にこっ”とする。お店の外は、待ち合せの若い人たちでいっぱいだ。
“ふーん”と思いながら見ていると
「持って来たよ」
と言って二人分のサンドイッチとコーヒーが乗っているトレイをテーブルに置いた。トレイを置くと座らないで、もう一度カウンタのそばに行くとナフキンとグラスに水を入れて持ってきた。
「はい」
と言ってテーブルに置くと優一の顔を見た。“えっ”という感じで見返すと
「優一は、こういうところ来るの初めて」
「えっ」
「また“えっ”。何か他の表現見つけて。私といる時だけでもいいから」
自分の顔を“じっ“と見て少し真面目な顔で言った。
「うん」
間をおいて
「こういうところに来るのは初めて。なんか違う世界を見ている感じ」
外の待ち合わせでにぎやかになっている風景を見ながら言うと
「これ早く食べて行こう。ネットでチケット持っていると言っても急がないと」
そう言って、口にサンドイッチをくわえた。
三咲に手を引かれながら行くと大勢の人が何列にも並んでいる。
「こっち、こっち」
と言って手を引っ張りながら一つの並びの後ろに着くと左側を見て
「あっちは、チケットを持っていない人。当日売りを並んでいる人たち。こっちの三列がチケットを持っている人たち。ゲートまでそんなに遠くないから、ファストパスは何とかなる。優一順番が大事なの」
自分の顔を見ながら一所懸命説明する三咲に“嬉しそうだな。顔が輝いている”と思っていると
「優一、どのアトラクションから行く」
入口で渡された園内案内のパンフレットを見ながら言うと
「そうか、ごめん。始めてだから、聞いても解らないよね。私が行きたい所から行っていい」
嬉しそうな声で言う三咲に
「うん、安西さんに任せた」
なぜか、“じーっ”と自分の顔を見る三咲に“何か”という顔をすると
「ねえ、“安西さん”っていう言い方、ここだけでもいいからなしにしてほしい。“三咲“って呼んで」
“えーっ、そんな。名前で呼べるの妹だけだよ、女性を名前で呼ぶなんて”頭の中で“困ったな”と思っていると自分の顔に近づいて
「いいでしょう」
と今度は“いたずらっ子な顔”で言われた。優一は、つられて
「いいよ」
と言ってしまった後、“あっ”と思ったが、遅かった。
「やったあ。じゃあ練習。呼んで」
頭の中で練習すると
「三咲さん」
恥ずかしそうに言うと
「違う、“三咲”。もう一度言って」
“うっ。結構厳しいな。この子”そう思いながら思い切って
「三咲」
と言うと
「よくできました」
と言って、思いっきり嬉しそうな顔をした。
「あっ、動き出した」
列がぞろぞろゲートの方に詰まって行く。大きなバッグを持つ三咲が楽しそうに歩きだした。
「お母様、お兄様は。ドアが開いて、もういませんでした」
「朝早く出かけました」
「えっ、どこへ」
母親の入れてくれた紅茶のにおいを楽しみながら聞くと
「“ディズニーランド”」
「えーっ、お兄様が“ディズニーランド”。信じられません」
“ふふっ”と母親が笑うと
“誰と行ったのだろう。一人で行くとは思えないし”花音はそう頭の中で考えながら
「お母様、どなたと行かれるか聞いています」
また、“ふふっ”と笑うと
「さあ、聞いていませんよ」
と言って微笑んだ。
「“ディズニーランド”か、テレビで見たことが有りますが」
そう言って、あまり興味を示さない娘に“花音は、ああいうところは、興味が無いのね”そう思うとなんとなく心が和んだ。
カリンは、土曜の朝、久々に居る夫の優が朝食を一緒に取っている事が嬉しかった。
「あなた、今日は、何か予定入っています」
「いや、何も。カリンに合わせるよ」
「えっ、ほんと」
「うん」
夫の優は、おいしそうにコーヒーを飲みながらカリンに言うと、目元が緩みながら新聞を見ている。
「ほしいものが有ります。一緒に行って下さる」
「うん、良いよ。どこ」
「玉川高島屋SC」
「高島屋SCか、久々だね。東急本店もいいんじゃないか」
「いいえ、ちょっとあなたが出張でいない時、少し、ウインドウショッピングしました。その時に見つけたものです。まだ売れていないとよいのですが」
母親の嬉しそうな顔に、二人の会話を聞いていた花音は、“お父様、久々に土曜日家にいるから、お邪魔しちゃいけないんだろうな。私も行きたいな玉川高島屋SC”そう思いながら紅茶を飲んでいると
「花音はどうします」
“えっ、良いのかな。誘ってくれたのかな”と思いながら母親を見ると“良いわよ”という顔をしていた。
“ラッキー”と思って“ちらり”と父親を見ると“じっ”と花音の顔を見ていた。“あっ”と思うと
「お母様、お誘いありがとうございます。でも今日はお友達と約束が有ります」
“残念だなあ。私も洋服ほしいな”
「あら、珍しいわね。花音が断るなんて。でも顔に“私も洋服ほしい”って書いてあるわよ」
「えっ」
と言って自分の頬を触ると、その姿を見ていた父親が、目元を緩まして
「いいよ、花音、一緒に来て」
“やったー”と思いながら
「いえ、お母様、本当に用事があります」
“何で意地張っているの。行きますと言えばいいじゃない”頭の中と相反する言葉に自分でも理解できないまま
「そう、仕方ないわね。一緒においしいもの食べようと思ったのに」
“えーっ、そんな”またまた、思いながら、もう後には引き返せない雰囲気で
「そうですか。残念です」
そう言って、両親が、まだ楽しそうに話しているテーブルから離れた。
二階の自分の部屋に戻った花音は、窓から見える箱根や丹沢の山並みを見ながら“どうしようかな。でも、元々予定入っていなかったし。のんびりしよう”
部屋にある、三人は座れるソファに横になるとベッドの向こうにある鏡に自分が映っているのが見えた。
“人並みだと思うのだけどな”
花音は、高等部二年なるが、まだ、過去“彼”と呼べる人がいなかった。しつけの厳しい中高一貫の女子学校に入れられて、元々チャンスが少ない上に休日は出かけてもセキュリティが一緒で移動も車では声も掛けてもらえない。
“美緒、どうしているかな。電話してみようかな”中等部から知り合った友達の名前が頭に浮かぶとソファの前のテーブルに置いて有るスマホを手に取った。
いよいよ、三咲と優一の仲が深まりそうな感じがありますが、優一の心はどこかよそにある感じです。この後の二人の進展を楽しみに。




