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恋はアルデンテがお好き  作者: ルイ シノダ
10/21

第三章 心のままに (2)

優一は、三咲との間を保ちつつ、すでに大学も4年の秋になっていました。

それでも優一は、三咲に対して、今一つ踏み切れない心の中を母親のカリンに相談します。優一は、母親の「自分の心に素直になりなさい」と言われる。優一は、改めて自分の心の底に有るものを確かめようとしますが。

第三章 心のままに


(2)

「優一、もうすぐ卒業だね」

「うん」

「優一は、お父様の会社に行くの」

「いや、関連会社の社員として少し外にいる。勉強の為に」

「勉強の為」

分からない顔をする三咲に

「うん、いきなりお父さんの仕事を継ぐのは無理だ。あれだけの巨大企業になると、やはり前準備というものが必要だ。お父さんもそうしたらしい」

「ふーん」

優一は、三咲に両親と妹を紹介した。もう二年も前の話だ。その後も何回か、家に連れては来たが、ほとんど外で会った。もっとも優一が、海外に出かけていると事を除けば。大学ではほとんど一緒だった。合わない講義以外は。体を合わせたのもあれきりだ。

三咲は初め少し不安を感じたが、彼は“自分を大切にしているんだ”と思って考えないようにした。

「三咲は、前に話していた薬品メーカに行くの」

「うん、この前内定の通知が来た」

「そうか、良かったね」

三咲が優一の顔を見ながら寂しそうな顔をすると

「優一、会社に入ったら、今まで様に毎日会えなくなる。寂しくないの」

「そんなことない。でも必要な時間じゃないかな。大学に入って以来、“ずっ”と一緒だったから」

ますます不安な顔になった三咲は、

「本当にそう思っているの」

下を向きながら言うと

「私は、一日でも優一のそばにいれないのがいや」

“えっ、そんな無理だよ。会社入ったら”そう思いながら彼女の顔を見ていると

「優一の入る会社に一緒に入れない」

“えーっ”と思うと

「僕だって、三咲と毎日いたい。でも社会人としての考え方を持つ必要がある。三咲も同じだよ」

「でもー」と言うと

「三咲、社会人にしっかりならないと」

そう言ってほほ笑むと優一は、あれからの母親の態度を思い出した。


「優一、三咲さんを葉月家に嫁がせるならきちんと伝えておいて。お母様は、私にとても厳しかったわ」

カリンは、そう言って食事後に久しぶりにリビングで夫の母親と一緒に紅茶を飲みながら、母親の顔見て笑って言うと

「そうですよ。花梨さんが、我が家に初めて来たときは、厳しい目で見ましたよ。優の妻、そして“葉月家の女”としての資格を持つ人かと」

今になっては、すでに“葉月家の女”の代も母であるカリンに譲ってからは、肩の荷を下ろしたように素直な優一のお婆様になっていた。

「えーっ、でもまだそこまでは」

「いいえ、あのお部屋に入った以上、“葉月家の人間”になってもらいます。初めてだったんでしょう。あのお嬢様」

その言葉に“まっかな顔”になりながら下を向くと優一のお婆様が

「花梨さんも優が初めてだったから」

「お母様」

そう言うとカリンも顔を赤くした。若い日の優と自分を思い出したかのように。


「どうしたの、急に黙ったと思ったら今度は、急に笑ったりして。少しいやらしい笑いのような気がするけど」

彼女の顔を見ながら笑い顔は絶やさずに

「気のせい、気のせい」

というともう一度彼女の顔を見た。

「そう言えば、植村さんは。最近会っていないけど」

「うーん、私も会っていないけど、確かお父様の会社に営業として入るとか聞いた」

「そう」

そう言うとあれ以来、ギリシャ語の講義も終わってからは、すっかり会わなかった。三咲と一緒にお酒を飲みに行くとき以外は。


 植村美佐子の顔がもう遠くに有った。あの時の様な“心の揺れ“はもうない。ただ、三咲のことを考えると自分自身も分からないところもあった。

“これが運命なのかな。でも本当に僕は三咲のこと・・”今更ながら自分でも分からない部分が有った。

キスもする。あの時だけだが、体も合わせた。両親にも紹介し、三咲の両親にも挨拶した。でも何かが踏み切れなかった。三咲に対して。

あれ以来、三咲が心配して誘われた時も有った。でも結局自分自身で心が整理できないまま、断っていると三咲は“いいように”解釈したらしくそれ以来、誘うようなことは無かった。


「優一、ねえ」

“うんっ”という顔をすると

「二人で旅行行かない。卒業旅行ってやつ。友達は色々企画しているみたいだけど私はあまりそういうの興味ない。いくなら優一と二人がいい」

“えーっ”と思いながら“卒業旅行”。頭に全くなかった。大学はあくまでも勉強の場でしか考えていなかった優一は、男友達もいたが、普段話す程度だった。それだけに三咲の提案に迷っていると

「優一」

と言って目を少し怖いふりをした。とても可愛かった。普通の男ならこれでダウンだろう位可愛かった。

「わかった、分かった」

「えっ、じゃあいいの。やったあー。お母さんに了解取らなきゃ」

“えーっ、三咲の両親公認”一瞬めまいがしそうなほどに感じると

「優一もきちんと両親には承諾貰ってね。内緒で行くの、いやだから」

“うそだろう。そんなこと言ったら・・”優一は、さっきまで思い出していた、母親のカリンの言葉が浮かんだ。

“優一、三咲さんを葉月家に嫁がせるならきちんと伝えておいて”暗に母親は、普段の行いを律して二人の仲をきちんとするようにと言っているのだ。“二人だけの旅行”なんて言ったらどんなことになるのか。

そう思いながら

「ちょっと聞いてみる」

と言いながら“なんでこんな言葉が出てくるの”と自虐的になりながら苦笑いになった。


その日の夜、食事が終わり片づけもあらかた済んだところで

「お母さん、少しお話が有るのですが」

「なに」

「できればリビングで」

「分かったわ。先に行って。紅茶を入れてあげるわ」

そう言うとなぜか嬉しそうな顔をして棚から紅茶を入れてあるパッケージを取った。


母親のカリンが、リビング入ってくると優一は、瞳を見た。生まれて初めて見た時から変わらない優しい瞳。自分自身を包んでくれる瞳だった。

優しく柔らかい香りのするティーポットをトレイからテーブルに置くとティーカップに紅茶を注いだ。優一は、香りを楽しみながら一口付けると目元を緩めながら

「お母さんの入れる紅茶は、最高です」

そう言って、もう一口付けた。カリンはほほ笑みながら

「同じ紅茶を入れることのできるお嬢様を妻に迎えたら」

自分の瞳の奥に有る何かを見抜くように見つめるとティーカップをソーサーに置いた。

何も言えないままに優一は、ティーカップの淵を見ていると

「三咲さんのことね」

息子の手元を見ながら言うと

「お母さん、僕は・・分からないんです。三咲のことを本当に好きなのか」


そう言って優一の心に重さが有ることを見抜くと少し時間をおいた。

「優一、自分の心に素直になりなさい。心に残るものが有ればそれが自分にとって何かをはっきりする必要があります。三咲さんの為にも」


優一は、三咲が大学に来ない日を選んで正門で植村美佐子が来るのを待った。門のそばで二〇分位すると運よく美佐子が現れた。友達と話しながら歩いてくる。優一が一心に顔を見ていると気付いたのか。少し頭を下げた。

門の前まで来た時

「植村さん」

そう言って美佐子の瞳を見た。“なに”という顔をして立ち止まると

「少しお話が有るのですが」

それ以外言わない優一を黙って見ていると美佐子の隣にいる子が、察したように

「美佐子、じゃあね。先に帰る」

そう言って足早に二人の前から消えた。

「葉月さん、何か御用でしょうか」

久々に見た美佐子の姿に優一は心が揺れた。

「できれば、二人で話せるところに」

「分かりました」

優一のいつもと違う雰囲気に了解の意志を示すと

「では」

と言って歩き出した。美佐子は少しだけ下がって隣に付くように歩くと優一の歩くままに付いて行った。


この前とは違う店に入ると

「お話とは」

と美佐子が切り出した。今日入った店は、少し高そうだが、この前の様なことは無かった。

優一は、黙りながらコーヒーを口にすると

「植村さん」

とだけ言って、また美佐子の顔を見た。少しの間、時間が流れた。何も言わないまま目で会話するようにしていると

「三咲のことはどうするのですか」

いきなりの切り出しだったが、心の中に素直に入る言葉に

「まだ、なにも」

「三咲は、高校時代から私が大切にしてきた友達です。彼女を安易に裏切ることは出来ません」

優一に“心の覚悟を決めろ”と言わんばかりに別の言葉で言うと

「分かりました」

優一が答えると、更に優一の瞳の中を見抜くように視線を向けて

「葉月さん、考える時間はあります。急ぐ必要は無いと思いますが」

そう言って、優一の目を見ると少しだけほほ笑んだ。優一は心が“どきっ”とすると

「今日、夕食をいっしょにいかがですか」

“三咲の事を考えてと言っているのに。何を急ぐの”と思いながらも美佐子は、心の中で自分が今まで奥底にしまっていたものが、表面に浮き出して来たことを感じた。もう一度彼の顔を“じっ”と見ると

「分かりました。両親に連絡させて下さい」

優一の目の前でスマホを取りだすと

「お母様、今日夕食は外で食べます。うん、大丈夫遅くはなりません」

そう言って、“終了“のマークにタップした。その言葉に優一は、外を向くと顎を引いた。

美佐子は、“えっ”と思いながら優一の視線の先をみると、いつの間に止まっていたのか、黒塗りの大きな車の前にサングラスをかけ細いブルーのネクタイをした男が立っていた。

優一は、テーブルに座りながらボーイの方を向くと、ボーイがお辞儀をした。それを見た優一は、

「植村さん、行きましょうか」

と声を掛けた。彼の態度に驚きながらも、立ち上がった彼の後を付いて行くと喫茶店の入口で車の後部座席のドアを開けてお辞儀しながら待っている男を見て

“何なの。これは、食事行くだけでしょ”一抹の不安を心に感じながらも、美佐子は言われるままに優一の後に続いて後部座席に乗った。

サングラスを掛けた男がドアを閉めると運転席側に回って車を走らせた。

「葉月さん、これは」

「植村さんと、せっかく食事が出来るのでレストランを予約しました」

“予約って。自分と話している間に予約している時間などなかったはずなのに”と思いながら、乗っていると紀尾井町のホテルに着いた。

三井の叔母様の系列のホテルだ。フロントに付くと運転していた“お付きの者”が下りて後部座席のドアを開けると優一が降りて、その後を美佐子が降りた。

ベルボーイは、四人いるが頭を下げたままにしている。周りの人が何だろうという顔をしながらベルボーイの隙間から中に入るのを見て美佐子は、“何これ”経験したこととのない雰囲気に少し体が震えた。

フロント玄関の中からマネージャらしき男が出てくると

「葉月様、お待ちしておりました。こちらへ」

そう言って優一の先を歩いた。

「ちょっと、葉月さん、これって」

「あっ、ごめん。お母さんの友達のホテルの最上階にあるレストランを借りたんだ。美佐子さんの為に」

さすがに美佐子は“えーっ”って声を出すと周りの人が自分を見た。少し恐縮な顔をしていると

「ここは、三井の叔母様の系列会社が経営するホテル。気にしなくていいよ」

「気にしなくてって言われても」

三八階にあるレストランの入り口は従業員が総出で出迎えていた。全員が頭を下げている。

“えーっ、ちょっと夕飯のつもりだったのに”そう思いながら、大学に来たいつものカジュアルな洋服を悔やんだ。良く見ると優一も結構ラフな格好だ。


中に入ると誰もいない。二人だけの貸し切りの様だ。ボーイに引かれた椅子に座ると

「葉月君、いつもこんなところで食事しているの」

「まさか」

「じゃあなぜ」

美佐子の顔を見ながらちょっとだけ黙った後、

「もし植村さんが今日の夕食をOKしてくれたら、来れるようにとお母さんにお願いしておいた。まだ僕では何もできない」

美佐子は“葉月家”の大きさが見えないまでも自分の父親の会社の比ではないことだけは分かった。

「美佐子さん、アルコール飲めます。あっ、それと嫌いなものは」

優一の目を見た後、

「アルコールは少し飲めます。嫌いなものはありません」

それを聞くと優一は、近くに立っていたボーイに目配せをした。

“どういうつもりなんだろう”そう思いながら“ここまで来たんだからはっきりしたほうがいい”と思って

「葉月君、ここまで連れてきた理由を教えて。ちょっと学生同士が夕食を食べるという雰囲気じゃないわよね。これ」

美佐子は素直に自分の気持ちを出した。優一は美佐子の瞳を“じっ”と見た。そして、この前、リビングでお母さんと一緒に話したことを美佐子に話した。

「母は、自分の気持ちに素直になれといいました。素直に言います。心の底に美佐子さんがずっといます。安西さんは素敵な方です。僕は安西さんと会っていて、楽しくないと思ったことは一度も有りません。安西さんは、人を引き付ける魅力があります。でも、いつも心の底に有るあなたが、自分自身を一歩踏み出せないようにさせていました。今日は自分自身があなたと直接二人で会うことによって、心の底に有るものが何か知りたいと思いました」

話しているうちに瞳の奥に強い意志を持っているものを感じた。“母親のあの瞳”間違いなかった。“この人はあの女性の子供”優一の言葉にだんだん自分が下を向いて行くのが分かった。

美佐子は自分自身、“心の底にある何か”は分かっていた。だから“こいつ”と離れた。“でもなぜ今になって”そう思うと“やってられない”と思った。

自分の気持ちの奥に忘れるように仕舞っていた“それ”を浮き出させる言葉だった。前だったら立ち去ったかも知れない。

でも今はその気持ちが無かった。ただ素直にそのまま受け入れることは、“あるもの”が邪魔をしていた。“三咲”それだけは、譲れない大切なものだった。

 ずっと静かな時間が流れた。ボーイが食事を持って来ても、ただ口に入れるだけだった。目に前に座る“あいつ”は、何も言わない。そして自分も何も言わなかった。いや言う言葉が無かった。

 やがて、デザートが出てきた時、美佐子は有るものを確かめたかった。デザートのフォークは、手に持たず、“あいつ”の目を見て言った。

「葉月君、私に責任を持てますか」

何も言わず優一は、頷いた。

美佐子は、優一の目を離さず

「分かりました」

とだけ言った。

「少し、時間をいただけますか」

と言うとバッグからスマホだけを持って、レストランの入り口に行くと何か話していた。そして戻って来ると何も言わずに頷いた。


時間の中で、緩やかに体に走る初めての感覚だけが有った。初めてのショック(痛み)は、仕方ないと思った。後は、身を任せるだけだった。

「優一」

それだけ言うと彼にすべてをゆだねた。

突然にそれが来ると“あいつ”は自分の体に覆いかぶさってきた。初めてだからか、あまり感傷は無かった。ただ、自分の体の上で“あいつ”がほほ笑むと自分もほほ笑んだ。

少しの間、“あいつ”の腕の中で余韻に浸りながらいると唇を重ねていた。受け止めるようにしていると歯に舌が当たった。口を緩めると勝手に入ってきた。後は任せるだけだった。

そして、また、“あいつ”は、私の体を別の感覚の世界に連れて行った。


いつの間に眠ったんだろう。気がつくと“あいつ”が横で可愛い顔をして眠っていた。

何気なく自分の大事なところに手を当てると明らかに自分とは別のものが漂っていた。

“しちゃった。三咲ごめん”そう言うとあいつの額にキスをした。ずっと見ているとやがて目を覚ました。

「あっ」

それだけ言うと顔を赤くして

「美佐子さん」

とだけ言った。“もう、もうちょっと何かまともなこと言えないの”そう思いながら顔を見ていると、何を勘違いしたのか急に自分のブランケットに潜り込んだ。

“えっ、うそ”、思い切り自分の手で押さえたが、後の祭りだった。また、自分の感傷は、何処かに持って行かれた。自分の声だけが漏れているような気がした。やがて、あいつが入ってくるとたまらない感情が体に走った。“うそでしょう。初めてなのに”そう思いながら、めくるめく心地よさに体をゆだねた。


「美佐子さん、自分の心の中に有るものがはっきりわかりました。母が言ったことは正しかった。“自分の心に素直になれ”と。改めていいます。お付き合いして下さい。昨日の美佐子さんに言った言葉、嘘ではありません」

美佐子は、すでに心の中に優一が大きくなっていた。“でも”と思うとはっきりしなければいけないことを口にした。

「葉月君。私も心の底に有るものがはっきりわかりました。でもそれを素直にするためには、三咲のことをはっきりして下さい」

美佐子の心の揺れが分かった。高校時代から続いた友達関係を壊すことは、目に見えていた。その責任を自分が取れと。

「分かりました」

それだけ言うとまだ横にいる美佐子の唇に自分の唇を当てた。柔らかかった。三咲の様にマシュマロの様な柔らかさではない。唇をしっかりと触れていたい柔らかさだ。


カーテンの隙間からまだ、昇る前の太陽の光が射していた。優一は、家の車で美佐子を家に送り届けると自分の家に戻った。

父親の優は、仕事に出かけていた。花音はまだ起きていない。もう大学二年になっている。玄関に入ると母親のカリンが出てきた。息子の顔を“じっ”と見てほほ笑むと

「優一、素敵な一夜の翌朝はコーヒー、紅茶どちらにします」

ほとんど目元が緩みそうな笑顔で言うと優一は

「コーヒーにします。着替えてきます」

そう言って二階に上がった。

“選んだのは、植村美佐子さん。良かった。あの子なら”そう思うとカリンは、早く会いたくなった。

「優一、もう隠すことないでしょう。昨夜の素敵なお嬢様。お母さんも早く会わせて」

そう言ってほほ笑むと

「分かりました」

そう言ってまじめな顔をすると

「やっぱり、少しだけ、お父様と優の血を引いているのね。お母さん、安心したわ」

そう言って、思い切り嬉しそうな顔をした。かつて夫の優が、自分にそうしたように。


やはり、優一の心の底に有ったのは、植村美佐子だった。罪な男ですね。優一は。これも親譲り?

さて、来週は、新しい展開が、始ります。お楽しみに

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