第一章 初めての時 (1)
カリンの息子優一は、青山の大学に入学して半年、なぜかいつも側にいる三咲に学校の帰りに”青山通りでも歩かないか”と誘われ付き合うことになりますが。
花音は、母親に甘えて洋服を買うため新しいブティックに行きますが店員の態度の悪さについ”茶目っ気”を起こします。
第一章 初めての時
(1)
「お母様、行って来ます」
「行ってらっしゃい」
大きくなった花音の元気に出かける姿を見ながらカリンは、目元を緩ました。
「花梨さん、もうみんな出かけたの」
お手伝いに車椅子を押させながら玄関口まで来た彼の母親の顔を見ると“にこっ”と笑って
「お母様、出かけました」
と答えた。
「そう」
そう言って少し寂しそうな顔をすると
「花梨さん、今日は」
「はい、踊りの和尚様がいらした後、お茶の和尚様が来られます」
「そう、ではお茶の時に声を掛けて下さる」
「分りました。そう致します」
カリンがそう言って頭を下げると、彼の母親は、満足そうな顔をして自室に戻った。
葉月家に嫁いでもう二〇年。優一は、一八歳、花音は一六歳になっていた。優一は、青山の大学に今年の春入学した、花音は自分が通った九段下の中高一貫の女子校に通わせている。
“もう、踊りもいいんだけどな”そんな思いがカリンにはあった。葉月の母親に見初められて二二年。あの時言った言葉を思い出すと今でも恥ずかしくなる。
“花梨さん、優のお嫁さんになって頂けない”そして少したった後、“はい”といった自分に。
「あれがなかったら、今の自分もないんだろうな」
そう思うと何となく心が揺れた。
夫の優は既に葉月コンツェルンの社長として二〇〇社を越すグループの頂点に立っている。家に帰るのは一週間で数日だけだ。時には出張で二週間近く開ける時もある。
「優」
既に四三才になっていたカリンだが、今でも“カリンのこと大切にする。恋人にする”と言った夫の言葉を忘れてはいなかった。
“今日も優は帰って来ない”そんな思いの中でカリンは心の寂しさを感じていた。
「優一、今日はどうするの」
「えっ」
教室で授業を聞きいていると隣に座る三咲が聞いてきた。
「別に、四限まで聞いた後、家に帰る」
「えーっ、優一は、たまには遊ぶとかしないの」
「遊ぶって」
分からない顔をする優一に三咲は
「帰りにどこか、例えば青山通りを“ぶらつく”とか」
三咲の顔を見ながら少し考えると
「あんまり興味ない」
優一は、大学で自分の素性を知っている人間はいない。いても学長くらいなものだ。今年入ったばかりの大学、まだ半年も経っていない学校で、なぜかいきなり声を掛けてきた子が三咲だった。
安西三咲。“多摩の方に住んでいるらしい”しか知らない。愛くるしい顔が特徴の女の子くらいにしか思っていなかった。
「ねえ、たまには私と学校の帰りに青山でも散歩しない」
優一は、頭の中で“困ったな”と思いながら“今日はお母さんには、特に何も言っていないし、たまにはいいか”と思うと
「ちょっと待って」
と言ってスマホを取り出した。授業中なので電話は出来ない。母親の携帯にメールをすると
“夕飯はどうするの”と返って来た。
“夕飯は家で食べる”と返答すると
“分った”と返信が来た。それを見た優一は
「いいよ」
と言うと
「わあ、じゃあ、四限終わったら」
と言って微笑んだ。
“微笑むと結構可愛いな”そう思いながら授業に気を向けた。
優一は四限が終わると三咲に誘われて表参道方面に歩く事にした。通りの右側は、そんなに変化がないが、反対側は大きく変わっている。少し歩くと三咲が
「ねえ、ここに入らない。結構コーヒーが美味しいんだ」
「うん、いいよ」
構えが、いかにも“青山通りのお店”という雰囲気の店のドアを開けると、店員が声を掛けた。少し落ち着いた雰囲気で、入口の直ぐ左側に、二階に上がる階段がある。
一階は、右側に四席、左に三席のテーブルがあり、奥に二つのボックス席があった。
“へーっ、見た目より結構広いんだ”そう思いながら入口に立っていると店員が、
「お好きなところにお座り下さい」
と言ってきた。
「優一、一階でもいい」
「うん」
二人が入口から三つ目の席に座ると一つ奥のテーブルにお腹の大きい、いかにも“お嬢様”という雰囲気の女性が座っていた。優一は頭の中で“今の時間、こんなところでパフェを食べている人ってどんな人だろう”と思いながらテーブルに座ると、店員が氷と水の入ったグラスとメニューを持って来た。
三咲は、メニューを開きながら
「コーヒーも良いけどやっぱりパフェにしよう」
そう言って三咲は色々なパフェの写真が載っているページを見ながら、店員に少し大きめのパフェを頼むと
「優一は何にする」
と聞いてきた。
「“キリマン”」
店員が、“分りました”という顔をしてメニューを小脇に抱えながら奥に行くと三咲が優一の目を“じっ”と見て
「優一は、どこに住んでいるの」
「えっ」
少し黙った後、
「田園ライン沿い」
「どこなの」
「うーん、まあいいじゃないか」
「何故言えないの」
テーブルの反対側に座りながら自分の目を覗き込んでくる三咲に
「安西さんは」
と聞くとちょっと考えた後
「多摩センター」
「ふーん、小田急、京王どっち」
「いつも京王で通っている」
「そうか」
三咲が、自分の目を覗き込むようにすると、自然と洋服の胸元が前に垂れて、淡いピンクのブラの上の方と透き通るような肌が見えた。ちょっと“どきっ”としながら“ちらっ”と見ると“普通かな。大きい方なのかな”、自分の母親が大きい事を考えると基準がどうしてもそっちにいく。優一は一瞬、三咲の視線が自分に“どこ見ているの”という意味を伝えた。
優一は直ぐに視線を外して、青山通りの方向に視線をずらすと通りの反対側にある、最近出来たブティックに目をやった。
やがて運ばれてきたコーヒーを口にすると“へーっ”と思った。確かに結構美味しい、“キリマン”の豆の味が素直に表現されている。感心してもう一口飲みながらコーヒーを楽しいんでいると
「優一」
会ったその日から、自分を名前で呼ぶ女の子に、なぜか抵抗を感じないまま受け入れていると
「優一、ねえ、私と一緒にいるんだからもう少し楽しい顔をして」
「えっ」
また、答えにならない声を出すと
「うん」
と言って微笑んだ。
“この子なぜ、僕に声を掛けるのかな”頭の中に分らない疑問符を一杯に出しながら相手の顔を見ているとパフェを食べ終わった三咲が、
「ねえ、少し歩こう」
今のまずい状況を脱するにはいいなと思うと
「ああ、いいよ」
と答えた。“なんで僕は帰るといわないんだろう”そう思いながら、なぜか安西三咲に付いて青山通りを歩いて行くことになってしまった。
自分の右を歩きながら色々話しかけてくる三咲に
「優一って不思議ね。私これでも高校まで凄くもてた。今の大学でも結構声かけられるのに優一は、“私の事無視する”というかそれ以前に全く興味ないと言う感じ。私のこと嫌い」
「えっ」
また答えにならない言葉を言うと
「ねえ、“えっ”だけは止めよう。何か他の言葉を言って」
少し考えた後
「うーん」
と言うと三咲は滑りそうになって
「ったく。まあいいわ」
少し黙った三咲に
「安西さん、無視したり、興味なかったら、今こうやって歩いていない。それだけじゃだめ」
歩きを止めて三咲の目を見る優一に
「ごめん。少し言い過ぎた」
と言うと三咲は下を向いた。そんな姿に優一は
「いいよ。あまりうまく言えないんだ」
そう言って歩き出した。三咲が後を追うように歩くと、腕時計を見た優一は
「安西さん、今日はもう家に帰ります。ごめん、また明日」
そう言って表参道と青山通りの交差点にある地下鉄の入口に向った。
三咲は“どうして”という思いで優一を見ていた。今まで、男から声を掛けてきた。自分から声を掛けることもなかった。なのに、始めて“あいつ”を見た時からなぜか気になってしまった。
“なんで”という自分自身でも理解できない心の揺らぎを消化できなくて、いつも“あいつ”の授業と一緒の時は、必ず隣に座るようにしていた。そして今日やっとデートに誘ったと思ったら全く“無反応”。
”ありえない”今までの自分の事を考えると無性になぜか心が揺らいだ。
「お母さん、ただいま」
玄関で靴を脱ぎながら言うと
「お帰りなさい。優一。思ったより早かったわね。お母さんもっと遅いと思った」
「うーん、なんか僕も良く分からない」
自分で寄り道してくると言いながら“良く分からない”と言う、分からない言葉を言う可愛い息子に微笑むと
「食事は、まだだから」
と言ってキッチンに行った。
優一は、安西三咲が、何で自分を誘ったのか分からなかった。“可愛いんだから僕に声かけなくても良いのに”と思いながら一五畳の自分の部屋に置いてある大きな机に向かうと今日の講義の復習を始めた。
「お母様、ちょっと聞いてください」
「えっ、なあに」
食事の終わった後のリビングで、兄の優一が居ないことを確かめると花音は、母親のカリンの側に来て、
「お母様、私、今日“凄いこと”を見てしまいました」
「えっ」
と言って自分に良く似た娘に、分からない顔をすると、花音は母やに顔を近づけて
「今日青山通りを友達と歩いていたら、お兄様が可愛い女性と一緒に歩いていました」
飲んでいる紅茶を吹き出しそうになりながら驚くと
「ねえ、お母様も驚くでしょう。丁度、青山通りをお兄様の学校から表参道方向に歩いていくのを道路の反対側から見ました。私も驚いて足が止まりました。女性に興味無い人と思っていたから」
カリンは、娘の話を聞きながら“それも困る”と思ったが。
「そう、どんな感じのお嬢様」
「うーん、とても可愛いと言うか愛らしい顔をして目がしっかりと大きく、うーん、それから身長はお母様と同じくらいかな」
娘の話を聞きながら少し会ってみたくなったが 、息子があの“無反応さ”では気に掛けていないのだろうと思った。祖父と父親の血を考えると信じられない事だが。
「ねえ、お母様。私欲しいものがあるの」
そう言って暗に“今のことは忘れます”と言う顔してカリンの顔を覗いた。
花音は、小さい頃から欲しいものがあると自分の側に寄って来て、甘えた顔をする。この顔は、“また洋服だな”と思うとつい微笑んでしまった。六畳のウォーキングクローゼットに一杯の洋服と別に四つのクローゼットに洋服そしてアクセサリと、花音は小さい頃からカリンに甘えては好きなものを手に入れた。
ただ、趣味は悪くなく、カリンも“これなら”と思うものばかりだった。変に流行を追わない“上質なもの”、やはり生まれた時から備わっているのだろう。そんな娘の顔を見ながらカリンは、娘の言葉に微笑んだ。
「美優、今日、学校の帰り青山に行かない。新しく出来たブティック、この前見たら結構ステキな洋服があったの。それをお母様に言ったら“買っていい”って言われた」
「いいな、花音は。“我が家は欲しい物は、自分でアルバイトして買いなさい”だもの」
「アルバイト、ムリムリ。私もしてみたいけど、許してくれない」
「そうか、そうだよね。花音のとこ、厳しそうだしね」
中学から一緒の美優は、花音の家にも何回か遊びに行っている。花音の家は大きくてお母様は厳しいそうだった。始めて行った時は、まるで足先から頭の天辺まで見られている感じがした。
「ねっ、行こう美優」
「いいよ」
早生まれの花音は高校二年だが、年はまだ一六才だった。九段下の駅を半蔵門線に乗る為、歩いていると
「そういえば、花音、好きな人とかいる。花音、全然男の人に興味なさそうだし。私ちょっと気になる人が出来た」
「えーっ、美優、好きな人が出来た」
ただでさえ大きな目をさらに大きく開けて驚くと
「“好きな人”じゃない。“気になる人”」
「大して変わらないんじゃないの」
「そんな事ない」
と言って美優は手を大きく開いて
「“こーんな”に違う」
と言った。その姿に花音は笑うと
「分った、分った」
と言って笑い顔が涙目になった。
半蔵門線のホームに立ちながら
「他の学校の子」
「ううん、この前、表参道を歩いていたら偶然見つけた」
「えっ、見つけた」
理解不可能なマークが頭の中に一杯広がりながら不思議な顔をしていると
「この前ね、竹下通りを歩いていたら、前から、あの辺りには不釣合いな格好の人がいたの」
「どんな」
と花音が返すと
「ベレー帽かぶって、キャンバス、ほら絵を描くあのキャンバスと道具箱を持って歩いているの。おかしいと思わない。風景撮るならスマホにだって八〇〇万ギガ以上の解像度を持つカメラが付いているのよ。今時、あの格好はないと思うけどな」
美優が話す言葉を不思議そうな顔で見ていると
「どうかした」
花音は美優を見ると
「話がつながらない」
と言って不思議そうな顔をした。
「あっ、そうか。それでね。その人がこちらに歩いてきたので、ちょっと珍しくて“マジマジ”と見たわけ。そしたらなんか惹かれるの」
「ふーん。それで」
「それで、・・・えーと、そのまま行ってしまったの」
ホームを滑りそうになりながら
「美優、それ、単に“通りすがりの人”が、ちょっと気になったってこと」
「うーん」
要領を得ない友達の話を聞いているとホームに半蔵門線が入ってきた。
花音は、美優と一緒に表参道に着くと新しく出来たブティックに行く為、兄の通う大学とは反対側の歩道を歩いていた。
“そういえば、この前、お兄様と可愛い女性が歩いていたのを見たのはこの辺だったな”と思いながら歩いていると、前に自分の兄と歩いていた女性が、明らかに学生と分る何人かの男の子たちと反対側から歩いてきた。
男の子たちがすれ違いながら小声で
「結構可愛いな」
「でもまだ高校生だぜ」
「でもいいじゃん」
好きなことを言いながら通りすぎていた。
確かに、一緒に歩く美優は可愛かった。目が大きく髪の毛も肩より少し長くて綺麗だ。顔も整っている。花音は母親譲りの“さわやかな笑顔”の女の子だ。
“あれ”と思いながら、“ふーん、あの人もてるんだ”と思ってそのまま歩いていると、やがてブティックに着いた。今流行の海外ブランドを揃えてある店だ。
制服のまま店内に入ると店員が“場違いよ”という顔をして寄ってこなかった。
美優が小声で
「店員の態度悪いわね」
と言うと
「いいじゃない。ゆっくり見れるし」
そう言って店内の中を見た。花音はこの前見つけた洋服が、奥にあるのを見つけると
「美優、これどう、似合うかな」
「うーん、花音は大体着こなせるけど、一応着てみたら」
そう言って美優がその洋服に手を伸ばすと
「お客様、ご試着の時はお呼び下さい」
そう言って白い手袋をした店員が近づいてきた。花音と美優の今風ではない地味な制服を見ると“買うの、本当に”といった目で花音を見た。
花音は、その店員を見返すと
「美優、今日は気分悪いから帰ろう」
そう言って帰ろうとしたとき、さらにもう一人の店員が近づいて来て
「お客様、どうぞご試着下さい」
と言って、花音の気に入っている洋服を手に取って渡した。
花音は、“えっ”と思いながら“せっかく来たのだし”と思うと美優と一緒に奥にある試着室に洋服を持って歩いて行った。
「マネージャ、どういう・・」
少し年上のマネージャは、いきなり店員の口に自分の手を当てると小声で
「あなた、分らなかったの。あの子のつけているアクセサリや腕時計。どれも百万は下らないわ。もっとお客様を見る目を養いなさい」
厳しい口調で怒られると店員は、“えーっ”と言う顔になった。
やがて、花音が、試着室のドアを開けて
「美優、どう似合う」
その声に、マネージャと店員が花音を見ると目を丸くした。さっきまで地味な制服を着た女の子と同じ人間とは思えないほどに着こなしが分っていた。
「さすがね。花音。とても似合うよ」
「そう、お母様に言っておいたから買おうかな」
「花音は羨ましいな。私なんかとても買えないわ」
「ふふっ」
と言ってドアを閉めるとまた地味な制服を着て試着室から出てきた。
店員が、先程とは全く違った態度で対応すると花音と美優は顔を合わせて、含み笑いをした。
「花音、レジする時の店員の対応見た。最初入った時の店員の顔が全く変わって“引きつって”いたみたい。花音カード出す時、わざとお財布や腕時計見せたでしょ。それが原因よ」
「あら、美優分っていた。少し“カチン”と来たからわざとらしくしてあげた」
「全く」
花音は、店員がブティックの入口まで、大きなブランドの名前の入った紙袋を手に持って来た後、マネージャと店員が深々とお辞儀をして、花音に紙袋を渡す姿を思い出すと、目元を緩ませて笑顔になった。
花音は、自分の学校のかばんから財布を出すと、その財布を見ただけで店員は、目を丸くし、カードを取る為に腕を伸ばした時に、花音が腕につけていた時計で、さらに目を丸くし、女子学生ではもてるはずのないクレジットカードを見た時は、既に顔が“引きつって”いた。
普段花音は、かばんから財布を出さずにお金だけを出す。時計は袖の中に普段入れている。カードで買い物はしない。今日も買えるだけのお金を母親から貰っていた。それだけにいかに“露骨”に店員に接したかが美優は分った。
「お母様、ただ今、美優と表参道のブティックに行って、お母様に許して頂いたお洋服かって来ました」
そう言って玄関を上がろうとすると
「花音お帰り。後で見せてね」
そう言ってカリンが笑顔を見せると、いくら四〇を過ぎたとはいえ花音が見ても母の顔は素敵だった。
「お母様ごめんなさい。カードを使ってしまいました」
“どうして“という顔をするカリンに花音は理由を話すと
「しかないわね。でも普段してはいけませんよ」
そう言って微笑むと花音も“ほっ”とした。
「ところでお母様、お父様は」
「今日はお帰りになりません」
少し寂しそうな言いように
「お母様、花音が側に居てあげます」
と言うと、二階から降りてきた優一が
「そう言って、買ったばかりの洋服に似合うアクセサリをねだるんだろう」
「いいえ、私はお兄様ではありません。私の大事なお母様が、お父様がいない時の心の寂しさを側にいて少しでも癒されたらと思っているのです」
「うそだ。側に行った後、ねだるに決まってる」
可愛い二人の他愛無い会話に
「二人ともそこまでよ。花音もそんなこと言わないわよね」
暗に釘を指された花音は、渋い顔をしながら
「しません」
と言うと洋服の入った大きな袋とかばんを持って二階に上がった。
花音の部屋は、葉月家の二階西側にある二〇畳の部屋だ。親たちが一階に移る時、兄と“じゃんけん”で勝ち取った部屋だ。花音はこの部屋がとても気に入っている。今も夕日に照らされた箱根、富士山、丹沢、高尾山系が美しく輝いている。
自分の部屋に入りカーテンを閉めると制服を脱ぎ始めた。制服の上着を脱いで、着ていた洋服をつるすクローゼットの前のハンガーにかけると、ブラウスのボタンを上から外していった。ゆっくりと外すと淡いピンクのブラが見えてくる。
鏡を見ながら、“お母様はあんなに大きいのに”と思いながらそれでも小さくない胸を眺めながらブラウスも脱ぐとスカートも脱いで先ほどの洋服を着て見た。やはり試着室とは違う。家で着ると一段と素敵に見えた。
「お母様、お母様」
そう言って、階下に下りていくとリビングにいたカリンに型を作って見せた。
「素敵だわ、花音。とても似合うわよ」
「そうでしょう。やはりこの洋服に似合うアクセサリも必要と思うのですが」
甘えた顔で言う花音に“我娘ながら少しわがまま”と思うと
「さっき、優一と言っていたことを思い出しなさい。その洋服に似合うアクセサリを花音は一杯持っていますよ」
そう言って微笑むと
「えーっ、でも」
そう言いながら“仕方ない”という顔をすると二階に戻って行った。
高校まで、そして大学に入っても、もてる三咲が、優一だけは、自分に興味ない態度に三咲は”なぜ”という思いを抱きます。三咲自身も自分の心の中が理解できていません。これからの進展楽しみです。
花音は、まだまだ、”甘えっ子”。恋愛よりも遊びと友達との時間が楽しい年頃ですが、これからの流れ、どうなる事でしょう。
お楽しみに。




