表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/7

古代兵器

 

 教会は旅人や、村民からの寄付によって成り立っている。まあ農民の方は金銭では無くもっぱら食料だが。そして、教会は見返りとして、祈りを捧げたり、旅人には、宿や食事の世話をしたりする。

 こう聞くと旅人にとってただの宿のようだけど、普通の宿と違う点は、部屋代がないと言うこと、そしてあくまで宿泊者は居候であって客人ではないこと。 

 つまり、泊まったからには、掃除など何らかの施しをしなければならない。つーかしないと白い目で見られる。

 そしてこの宿泊の中で最も重要になるのは、農民の物による寄付だ。

 というのも農民の寄付は、その村の名産品が多く宿泊する旅人への施しに利用される。 つまり宿に泊まれないような貧しい旅人でも名産品に触れる機会があるということだ。

 結果、村をあとにした旅人が他の村や町で宣伝をすることで、旅人の訪問が活発になり収益の向上につながるわけだ。

 

 そういう訳で、今教会に向かう途中だ。

 正直めんどくさいが、仕方がないし農作業より幾分楽だ。

そもそも頼まれたのは、使いだけだし、それが終わったら自由でいいだろ。

 という感じでさり気なくサボってるんだが、常、こう言う平凡な日々を過ごしているとこのままで良いのかと思ってしまう。

どこまで行っても変わらない景色、これからもこの変わらない毎日を過ごしただ受動的につまらない時間を過ごすのかと考えると、例えようのないむず痒さに苛まれるんだ。

 自分が本当にやりたいことは多分こんな生活を送ることではないのだと思う。

心底旅人が羨ましいと思った。

 旅人は、自分の足で歩きその目で世界を焼き付ける。その生活は、すごく刺激的なものなんじゃないかな。

 だけれどその生活が許されるのは、良いとこの金持ちに商人、修行僧と傭兵ぐらいの限られた人達だけ。

 俺らみたいな農民には絶対無理。


 そんな言いようの無い不安や、歯痒さを引きずりたどり着いた教会。

 その扉はきっちりと閉じられ、何処か物々しい。

その扉に手をかけゆっくりと引いた。


 口を開いた扉の先には、モニカさんの姿があった。

 箒をその手に持ち掃除中のようだ。

 

  「あら、お早いですね」


  「ごめん早く来すぎた。まだ掃除中だった?」  

  

  「いえいえ大丈夫ですよ。それより今日はどういった御用で?」


  「これ、今朝取ったばかりの葡萄なんだけど、親父に届けろって言われてさ」


葡萄の入った籠を手渡すとモニカさんは、微笑んだ。


「ありがとうございます。」


 ここで渡した葡萄は今朝収穫しただけあって生な訳だけど、本来葡萄は干し葡萄や酒に加工されて流通させられる。それは葡萄の足が早く町の市場に並ぶ頃までに悪くなってしまうからだ。

 つまり珍味である生の葡萄が食べられるのは、収穫地のそれも旬の時だけ。

 それが村の書き入れ時であるわけだが、なんせひたすらに忙しくなる。さていかにサボるべきか……憂鬱だ……。

  

  「ああ、そうだ、少し待ってて下さい」


 モニカさんは、一瞬目を見開いたかと思うと、小走りで礼拝堂横の扉えと消えた。

 お礼でもしてくれるのか?寄付なのに?


 そんなに歩いたつもりは無いのだけど、すごく疲れた……。

 長椅子に腰を下ろしたのだけど、木製だけあって背中が冷たい。

 必然的に正面にある女神の像は、ステンドグラスを通した太陽光によって何色にも染められた。

 その神々しい姿は何処か見入ってしまう。


  「アレン君だったかな?」 

 

 扉から現れたのは、お礼の品を抱えたモニカさん……と言う予想は裏切られ、あのハウエルとかいう男だった。

 多分そこまで危険な人物ではないのだと思うけど、謎が多いだけに身構えてしまう。


  「そうだけど、何の用だよ」


 なぜだろう、それまでニコニコしていたモニカさんがムスっとしている。


  「アレン、ハウエルさんに向かってあまりに無愛想ではありませんか!?」


 無愛想も何もあいつに愛想を振りまく理由が見当たらない。

 親父はよく旅人に接するときは~と長々と話出すが、こっちだって誰にでもへいこらするつもりはない。


  「いや、いいんだシャーロットさん。素性も知らない人物に何事も無いように接するのは難しいことですよ」


 ハウエルはモニカさんを制したが、その微妙に上から目線な言い草がムカつく。


  「ですがハウエルさん彼は――」


  「シャーロットさん、貴方は本当にわからず屋ですね」


  「あっ」


 ハウエルは、紳士的な口調でモニカさんに微笑みかけた。

 その表情のお陰か言葉にトゲが感じられない。


  「すみません……」


  「いえいえ」


 赤面したモニカさん表情は、いつもの落ち着いた雰囲気と違った。

 例えるなら恋焦がれた少女というか……。

 というかこれは惚れてるだろ。


  「シャーロットさん少し彼と外に出てきます」


  「ですが、まだ運動は控えた方がいいのではないでしょうか?」


  「大丈夫ですよ。もう十分に歩けますし。それにそろそろ、リハビリを始めないと」


  「そうですか、ですが一応これを持って行って下さい」


 モニカさんその手に握られた自分の胸ほどある杖をハウエルに押し付けた。

 モニカさんには長すぎるかのように感じた杖は、背の高いハウエルにはちょうどいい。


  「心配性ですよ、ですがありがたく使わせていただきます」


  「それじゃあ行こうか、アレン君」


  「お気を付けて……」


 半ば一方的に散歩に付き合わされる形になったけど、聞きたいこともあるし丁度いいかな。


 

 教会の扉を抜け農道をなんとなく進む。

 今回も最初に口を開いたのは、ハウエルだった。


  「ところで、聞きたいんだけど、君がエヴィルと言った紋章の事なんだけど――」


  「それは、アンタの方が詳しいだろ?」


  「そうなんだけど、こっちと認識が違うみたいで」


 認識の違いか……。

 確かにハウエルは教わったエヴィルとは違う気がする。

 しかし演技していると考えられないか?そうとしてもメリットがわからないが。


  「どう違うんだ?」


  「こちらでは、あくまで部隊章でしかなくて、教会で聞いたような大層な意味なんてないんだ」


 ハウエルは一体何者なんだ?記憶喪失なのかふざけてるのか、はたまた常識知らずなのか……。


  「アンタふざけてんのか?」


  「シャーロットさんもそんな反応だったよ。こっちはいたって真面目なんだけどね」


 ハウエルは困ったように笑っている。

 どうにもふざけているようには見えない。記憶喪失か?


  「記憶喪失か何かなのか?」


  「シャーロットさんにはそう説明してるけど、本当はそんな事ないんだ。何というか説明が難しいんだけど、この世の中というかこの世界のことが全く分からないんだ」


 どうもハギレが悪い。

 

  「ワケありか……」


  「ある目的のためにここに来たんだけど、想定と違っていて、どう動いたらいいか分からないんだ」


 その目的とやらが何なのか気になる。

 それが危害を加えることが目的だとしてこちらに話すか?

 何にせよ俺にはどうすることも出来ない話だと思う。

 

  「俺にどうしろと」

  

  「確かにな」


 何かうなだれてる……。

 そうだこっちも聞きたいことがあった。


  「話の腰を折るようだけどいい?」


  「ん?ああ、なんだい?」


  「あんたが身につけていた道具って、何なんだ?」


 これが気になっていた。ハウエルは洞窟の中で謎の道具を抱えていた。

 その道具は洞窟で見かける物に酷似していた。

 仮にその道具を持ち出そうと考えたのだとすれば、少なくとも何なのかは分かるはずだ。


  「それも何というか……」


  「持ち出そうとしたのか?」


  「?」


 腑に落ちない顔をしているが違うのか?


  「だってそこらへんに転がってただろ」


 ハウエルは目を一瞬見開いたかと思うと、口元に手を当てた。


  「ほかにもあるというのか?」


  「ああ、というか持ち出したんじゃないの?」


  「そこに案内してくれないか?」


 何か深刻そうな顔つきだ。


  「何か知ってるの?」


  「ああ」


 体に電撃が走った。

 何だろう?寒気がするというか、疼くというか変な感覚が体を支配し始めた。

 こんな感覚、あの洞窟を見つけた時以来かも知れない。


 道中何度かハウエルに質問するが、考え込んで「あとで話す」というばかりで答えてくれない。

 何を隠しているんだ?洞窟に着いたら話してくれるのだろうけど、答が目前のせいかむず痒い。 

 目的地は村はずれにあるだけあって、少々遠い。一応手負いのハウエルを連れてるとなると果たしていつごろたどり着けるだろうか……。


 

 

 ――洞窟へは、心配に反して意外と早く着いた。

 

  「取り敢えず着いたけど……」


 ハウエルは難しい顔をして洞窟の壁に静かに触れている。

 何か思うことがあるのだろうか……。


 取り敢えずカンテラに火をいれよう。

 洞窟は意外と深いうえに深部は光がほぼ届かない。

 つまりカンテラのオイルの残量を考えて行動しなければ帰れなくなるわけだ。


  「オイルがもったいない、早く行こう」


  「ああ……」


 洞窟には、俺とハウエル二人の足音が響いた。

 深部に近づくにつれ不安感にも似たなんとも言えない心情が体を支配していく。

 なぜだろういつもの道なのに……。

 さあ最新部は目前だ。


 最新部に着いた途端、カンテラの光はモヤモヤと弱弱しい物に変わった。

 決してオイルが切れたわけではない。広すぎて光が壁まで届かないため光の照り返しが全くないからだ。 


  「嘘だろ……」


 ちょうどここでよく見る鉄塊をカンテラが映し出した時、ハウエルが呟いた。


 この鉄塊について何か知っているのか?


 ハウエルが鉄塊に駆け寄る。


  「何でこんなものが……。外傷は見当たらない。もしかしたら!」


 ハウエルは、何かブツブツ言ったかと思うとそれに手を掛け勢いよく引いた。

 するとどうだろう鉄塊の一部分が扉のように開いたんだ!

 身震いした。ハウエルはあれが何なのか完全に分かっている!


  「おい!これがなんなのか分かるのか!?」


  「これは、こいつは装甲車だ。」


 そうこうしゃ?

 一体何なんだ?見た感じ車輪がある点から言えば荷車のようだが?


  「荷車か何かか?」


  「ざっくり言えばな」


 返答もそうそうに扉から乗り込んだハウエル。

 数秒したあと「そうこうしゃ」がうねり声を上げた。

 同時に、凄まじい閃光を放つ。

  

  「よし!動いた!」


 それが放つカンテラなど比べ物にならない光は、この洞窟の全てをあらわにした。

 頭を突き抜ける衝撃に思考が追いつかない。

 ハウエルは一体何者なんだ?何故あれを扱える?そしてこの空間は?

 複数の疑問が頭を覆い尽くした中、俺にできることと言ったら、呆然とハウエルの挙動を見つめるだけだ。

 その姿は、多分情けないほど間抜けだろう。

 俺などよそにハウエルは、「そうこうしゃ」から飛び降りその眼前の鉄塊に駆け寄った。


  「こいつは、戦車か!?」


 戦車……多分チャリオットのことだとおもうが、それには車輪すら無く馬では引けそうにない。

 もう答えを教えを教えてくれるだろう。


  「答えてくれ……アンタは一体何者なんだ?」


 手を止めて振り向いたハウエルの顔は、いつにも増して真剣なものだった。


  「君はこの空間、この道具はなんだと考える?」


 ハウエルは静かに背後の「せんしゃ」を叩いた。

 

  「そんなの分かる訳ないだろ」


 答えを出し惜しみするハウエルはその表情を少し崩した。

 

  「だろうな。俺も分からなかった」


 分からなかった……?


  「だが、今分かった。こいつは、過去の兵器だ。それも果てしなく過去の、恐らく失われた文明のものだろう」


  「?」


  「それを私は動かすことが出来る」


 ハウエルが何を言っているのか分からない。

 過去の兵器……。失われた文明……。

 さっきの「そうこうしゃ」を見て今より古い文明があれだけのものを作れるとは到底思えない。


  「アンタ、これが何なのかのかを知っていた……」


  「君の反応から察するに、私の知っている文明は完全に途絶えたようだがな」


 様々な考えが頭を交錯する中、浮かぶ一つの答え。

 信じがたいが、これしかない。

 自分の生きるこの世界、これが全てだとは限らない。 

 自分の固定観念が崩れ去る快感を全身で感じる。


  「アンタ、俺たちの知らないとてつもない過去から来たのか……」


 数秒の沈黙のあとハウエルは口を開く。


  「今まで分からない事だらけだった。てっきり異世界にでも迷い込んだのだとすら思った。だけれどここに来て確信した!実験は成功したんだ!」


 ハウエルは、は自分自身に言い聞かせるように叫んだ。


  「そうだ!私は過去から来た!失われた文明の遺物だ!」


 ハウエルは「戦車」に触れていた手をどけた。

 そこには、不器用な文字が刻まれていた。


  新しい世界に私達古いシステムが入り込んではいけない。

  

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ