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ある兵士の記録

 サラサラと風が草を撫でる音が耳を抜けた。私は少しずつ瞼を開ける。そして瞳が映し出したのは、予想に正しく草原であった。


 取り敢えずたどり着いたのか数秒前の無機質な景色と一転している。ここが以前のどこに当たるのか私には、全くわからない。いや、もしかしたら先ほどの薄れゆく意識の中で命は事切れここは、神の審判を待つ場所なのかもしれない……。しかし、ここが何にせよ私の存在は確かなものであり、私は与えられた任務を全うするまでだが。

 

ここに来て気が付いたが、周囲に他の隊員の姿が見当たらない。転送に不具合でもあったのだろうか。私は、無線に呼びかけた。


「こちらハウエル、ハウエル伍長であります。応答願います。」


 あらゆるチャンネルに呼びかける私に答えてくれるのは、無情にもノイズの音だけだった。皆無線の届かない所にいるのか、はたまた意識を失っているのか……。何にせよ私一人では、任務遂行は無理だ。幸いにも装備は失ってないし、これより探索も兼ねて、隊員の捜索を行う事とする。


 ―1日目―


 半日ほど歩いただろうか、未だ隊員は発見出来ない。それどころか、代わり映えしない景色が広がり、ループに陥っているのではないかと不安になる。ここが私達が元々住んでいた世界と同じであるのなら、コンパスは正常に作用していると思うのだが……。


 日が暮れ出した頃、自分が野営をする装備を身に付けていない事に気がついた。野営の装備については、私達と同時に送られてくる手はずとなっていたはずだが、この状況から察するに、転送時に何らかのトラブルがあり、他の隊員同様正常に送られてない又、位置的に一致しなかったと考えられる。仕方ない、万が一発見出来なかった場合点在する木の下で夜を過ごそう。


 ―2日目―


 前日の夜小雨が降ったせいか肌寒く、満足に仮眠が取れなかった。だがそんな事をいちいち気にしてはいられない。


 太陽の位置から見るに昼頃、殺風景な景色の中に牛の二倍はあるだろうか、四本足の角のある生物を発見した。それは、草食動物のようでしきりに地面の草を貪っていたが、その穏やかな外見とは裏腹に私を発見した瞬間狂ったように向かって来た。とっさに銃の引き金を引いたが、銃弾をその身に受けつつもひるまない、だが数発撃った内一発がそいつの脳天を射止めたようで、なんとか事なき終えた。前日の野営中に発見されなかった事が不幸中の幸いだろう。そこで今日はせめてもの安全を兼ねて、木の上で夜を明かそうと思う。

 生態系の変化が著しいようであのような生物も存在しているようだ。他の隊員の安否が危ぶまれる。


 ―3日目―


 少々頭痛とめまいがする。私としことが風邪にでもかかってしまったようだ。うだつは上がらないが探索を開始する。変化の少ない日々に少しずつ時間感覚が失われて来ている。


 ―4日目―


 頭痛がひどい、それと吐き気までする。新種のウィルスにでも感染していなければいいが。変わらない景色、見つからない隊員にと気持ちが折れそうだ。もしかしたら他の隊員はもうすでに……そこまで考えてやめた。悲しいことに私の精神をギリギリでつなぎ止めているのは、任務を遂行するという使命感だけなのかもしれない。


 ―5日目―


 もうダメだ……。そう思いつつ移動していた私に朗報があった。人間のような生命体を発見したのだ。どうやら彼らは、農作業を行っているようで、こぞって何かを収穫している。この事から、彼らはある一定のコミュニティを形成しているようだ。もしかしたら、私達の世界は、最悪の結末を迎えなかったのかも知れない。あるいは、生き残りか……。何にせよ前回のような危険生物である可能性も捨てきれなので、接触は避けようかと思う。どうやら小高い丘の上にいる私の存在に気づいてないみたであるし。そして、丘を少し降りた所に洞窟を発見したので、今日は雨風をしのげそうだ。


 ―6日目―


 私は、やってしまった!洞窟内でライトの電池を切らしてしまったのだ。それに、せっかく鋭く研いだナイフまで落としてしまった。意外と深いこの洞窟は外部からの光が差込にくく、未だ頭痛、吐き気の収まらない状況では、脱出は困難を極める。今は残念ながら他の隊員が救助に来ることを祈る事しか出来ない。しかし、ここ数日の状況ではそれも困難だろう。ちなみにこの記録は、洞窟深部で太陽光が微弱ながら差し込む所を発見し書いている。だがその光も太陽が一定の場所にないと差し込まないのであろうか、徐々に弱りつつある。


 ―7日目―

 

 もう動けない、死を決意した方が良さそうだ。作戦失敗は、久しぶりだな、今までこれ程絶望する失敗はあっただろうか?それも今回が最初で最後になるのは幸運なのかもしれない。それに本来失われるはずだった命が数日でも長らえたのも神の導きであったと思いたい。

 そういえば、このように湿った場所では、蛆が沸くと聞く。ここに来て何の成果も上げていないが、蛆のエサ程度には役に立つようだ。

 もうペンを握る手に力が入らない。ああ神よ……。











 瞼を少しずつ開いた。差し込む光が眩しい。数日前のデジャヴのように感じたが、その予想は、眼前の景色と感覚が否定した。サラサラとした風は、開け放たれた窓に掛かるカーテンに打ち付けられ、優しく私の頬を撫でる。そして私の体は、優しく布で包まれていた。どうやら私はベッドの上のようだ。


 私は死んだのか?それともあれは、ただの夢だったのか?私は右腕を上げ、手を開閉してみたが何ら問題なかった。しかし、左腕を上げようとした時左肩に激痛が走った。とっさに左肩に目を向ける。するとそこは、丁寧に包帯が巻きつけられ自分が負傷していた事を覚らせていた。だがこの事は、自分は生きていること、数日前の出来事も事実であった事の証明となる。果たして自分を助け上げてくれたのは、誰なのか?脳裏に隊員達の姿を浮かべた。


 その時、ゆっくりと扉の開く音が聞こえた。私はそこへ視線を落とす。普段の私ならとっさに身構えてしまうだろうが、不思議とその気は起こらない。多分安心という麻薬に闘争本能は鈍らさられているのだろう。


 私の目に入り込んだのは、女性の姿であった。彼女のその手には食器がのせられた盆がある。


  「あっ良かった、目が覚めたのですか?」


 彼女の姿はいろんな意味で私をクギ付けにした。まず彼女の外見では、二十……いや十代後半といった所だろうか年若い印象を受ける。そして、そのような若い隊員は私の所属していた部隊には存在しない。つまり完全に初対面な顔だ。彼女の髪は栗色でその落ち着いた色合いが、彼女の白い肌と反対しお互いの存在を主張していた。だが今一番特筆すべき点は、彼女の話した言葉が私に理解出来たと言う点だ。つまり少なくても言語の点では過去から継承されてきているという事になる。


  「ここは、どこですか?」


  「ここは、ネヴィルと言う村の教会です」


 ネヴィルと言う地名に聞き覚えはないが、教会が存在することは、宗教は健在のようだ。そして彼女はさしずめシスターと言ったところか。


  「ところで私は、どうしてここに……すみません記憶が曖昧なもので……」


  「二日前ここに担ぎ込まれたのですよ。その時は驚きましたよ。あの二人がいきなり来て教会の扉を叩くんですもの。それに貴方も虫の息ですし、急いでお医者様を呼んでなんとか命をつなぎ止められました。この幸運も神に感謝です」


 そう言うと彼女は盆を傍らの台に置き、手を組私も見慣れた祈るポーズをした。宗教も言語も存在しているとなると当然文化も現存だろう。そうなると本当に私の存在理由がなくなる。だがしかし、過去に戻る方法も理由もない今、ここで骨を休めるのも良いのかもしれない。


 彼女は私の腰の辺りに手を当て起こしあげようとする。流石に男を起こすのは大変だろう。私は腹筋に力を入れた。


  「お食事をお持ちしましたが、動けますか?」


  「すみません、まだ腕が本調子でないもので」


 肩を怪我しているのは事実だが、利き腕ではない方だ。たまには、私だって甘えたい。

 彼女は木製のスプーンで料理をすくい上げ、「アーン」と言い私の口を開けさせる。私は素直に食事を口にした。ミルクのリゾットだろうか、優しい味の中にシナモンの風味がアクセントとなっている。素朴な味ではあるが、私の心は満たされてゆく。この時ばかりは妻子持ちでなくて良かったと思った。


  「そういえば、不思議な格好をなさっておりましたが、旅の方ですか?」


 私の着ていた服は軍服であるが、彼女はその存在も知らないのか?軍服などどこも似たようなものだとおもうが。


  「ああ、私は軍人です」


  「軍?騎士様のようには見えませんが、傭兵の方ですか?」


 彼女は不思議そうな顔をしている。騎士だと!?この地域では軍をそのように呼ぶのか?


  「はぁ、一応傭兵と言う扱いだったとおもいますが」


  「剣や盾は、どうされたのですか?」


 私は過去に来たのか?しかし、グレイは未来に行けるが、過去には行けないと言ってた覚えがあるが。

何にせよ、ここは余計な事は話さず向こうに合わせるのが得策かと考える。何だか面倒な事になりそうだ。


  「恐らく意識を失っている時に追い剥ぎにでもあったのでしょう」


  「だからあんなに酷い状況で」


 彼女が少し悲しそうな顔をした。私がどんな状況であったか定かでないが、私は男として可憐な女性のそんな顔を見るのは嫌だ。


  「ああ、いいんだ。私の命は失われなかった。それだけでも儲けものです」

 

  「はぁ」

 

 微妙な反応だが、彼女が優しいという事は十二分に分かる。そういえば、彼女の名前を聞いていなかったな。人に名を尋ねる前に自分の名を名乗るのが礼儀と言うし、まず私から名乗ろうかと思う。


  「そうだ、私、クリスティアン・ハウエルと申します。できれば貴女の名前をお聞きしたい」


 彼女は一瞬呆気に取られた顔をしていたが、すぐに笑顔を向けた。


  「いきなり名前を名乗るなんて変わった人ですね」


 彼女は少しいたずらっぽく笑う。


  「ハハハ、すみませんタイミングおかしかったですね」


 こちらも、彼女みたく上手に笑えてるか分からないが、笑顔を返した。


  「貴方みたいな人好きですよ。はい、お答えしますよ。私シャーロット・モニカ・クラークと申します」


 彼女あらため、シャーロットさんが終始笑顔を絶やさないその笑顔は、私にとって非常に魅力的であった。そして、「貴方みたいな人好きですよ」と言う言葉が私の頭の中で、反響し続けているのは、言うまでもない。

 

感想よろしくお願い致します。

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