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4の刻印

「兄様、お足元にお気を付けてください」

「兄ちゃん、今日もかっこいいよ。あ、肩に埃が。とってあげる」

「兄様、危ないです。もう少しこちらに」

「おい、兄ちゃんにわざと肩ぶつけようとしたでしょ」


 本日の天気、快晴なり。

 そんな天気とは裏腹に男はうんざりした顔でスラム街を歩いていた。無法地帯と呼ばれるこの場所にルールなんてものは無い。『奴隷システム管理局』の管轄外のここではシステム自体はあるものの、ここで何をしようが一切干渉されない。


 それはこのスラム街の特徴が影響している。ここに住む人間に戸籍は無い。社会から隔離され、人権を剥奪された者達の溜まり場だ。王族の人間、政府の元重鎮、大富豪として名が通っていたもの、犯罪者、はたまた、普通の女、子供まで様々だ。だが、全てに共通するのは二度と表舞台に上がることは無いということだ。

 スラム街は表向きは無法地帯だが裏の顔は政府や権力を持つものが、社会的抹殺、ゴミと判断した人間を闇に葬り去るためにできた場所だ。


 スラム街には店などは無く、朝の5時に物資が政府のヘリで空から落とされてくる。その物資を巡り、日々、抗争が絶えないため、治安はかなり悪い。また、それ以外には闇商人達が違法武器などを密輸してくるぐらいしか物資を手に入れる方法は無い。勿論値段は高額だ。故にスラム街には、法など無く力こそ全ての弱肉強食が色濃く反映されている。そんな環境だからこそ大なり小なりの規模の闇組織が数十個、存在している。


 つまりは、スラム街はかなり危険ということだ。まして、一人でスラム街へ行くなど自殺志願者か馬鹿か余程腕に自信のある猛者ぐらいだ。だから、男は護衛を二人つける様に言った。言ったのだが、

「兄様、先程からこちらに敵意を向けている集団がいます。いかがしますか?」

「兄ちゃん、あたしに任せてよ。あんな奴ら、やっつけちゃうよ!!」

 男の周りで存在感を放ちまくる2人の少女は目立ち過ぎていた。


 その少女達は瓜二つで、双子である。

 男を兄様と呼んだ少女は姉のソラ。身長は150cmあるか無いかぐらいの小柄でまだ、第二次性徴を迎えていない体は子供らしい。顔は小顔でブルーな眼はクリッとしている。桜色の唇はプルンとしており、鼻も整っている。くすんだ金髪をゴムで右に纏めたサイドテールと少女の笑顔があわされば、一輪の可憐な花が満開となるようだ。


 一方、男を兄ちゃんと呼んだのは妹のウミ。容姿は姉のソラとほとんど同じで、唯一、髪を左側で纏めたサイドテールになっていることぐらいしか違いは無い。ニコニコと男に向ける笑顔は明るい向日葵のようだ。

 二人は共に悠莉お手製のメイド服に身を包んでいる。そして、2人の右手の甲にはあせびを模した『奴隷の刻印』が刻んである。


 見た目は酷似している二人だが、内面は全くと言っていいほど違う。姉のソラはおしとやか、対して妹のウミは活発、元気というものだ。警備部に属する彼女らは頭脳派のソラ、実践派のウミといったところだろうか。


 そんな相反する二人には共通の好意を抱く対象がいる。目の前の男だ。ソラとウミが男に好意を向けているのは、とある出来事がきっかけなのだが、それは別の機会に話そう。ただ、その好意は重過ぎる。

 男の通る道に水たまりがあれば、布を敷き靴が汚れないようにする。男の服に埃が付いているのを見つければ、隅々までチェックし服を綺麗にする。男に肩をぶつける者がいれば、そいつの肩を切り落とすんじゃないだろうかというほどの殺気を向ける。先ほども双子を引き連れているため目立って仕方がない男に敵意を向けている集団の目をくり抜きに行こうとするソラとウミを慌てて男が引き留めたぐらいだ。それほど少女たちは男を過保護と呼べるほど愛している。屋敷では悠莉がいるので二人は大人しくしているが、悠莉がいなければ男を監禁して食事から排泄に至るまで全て管理したいと思うほど男を溺愛し、その独占欲は日に日に悪化しているのではないかと男は感じている。


「なぁ、兄ちゃん。どうしてあたしたちを止めるんだ?」

「そうですよ、兄様。あんなやつら兄様の害にしかなりません」

 不満の声を上げる二人の様子は周囲に目立ちすぎている。苛立っているため大きくなった声が新たな野次馬を呼び寄せている。


「あのな、お前ら。俺たちはここに戦争を吹っ掛けに来たわけじゃないんだぞ。悠莉を探しに来たんだ。ここはただでさえ治安が悪いのに、あいつの能力がさらに影響して取り返しのつかないことになってもおかしくない状況だってのに」

 男は周囲に目を配れば案の定、男を取り囲むように武装した人間たちが侮蔑と好奇の視線を向けていた。侮蔑は男、好奇はソラとウミに向けられたものだろう。


「……中級組織『シザー』ってとこか。まあ、表立った不良組織(アウトロー)って言うのが救いだろうな」

 男は取り囲み周囲の人間を見て言う。彼らの肩や腕には、カニのハサミを模した『奴隷の刻印』がついている。それはつまり、彼らの身分は奴隷だと言うことを物語っていた。


「ソラ、ウミ。身から出た錆だ。お前たちで何とかしろ」

 男の気怠げな一声で、二人は臨戦体制に入る。ソラの手には鉄製の丸棒が、ウミの手には棍棒が握られている。


「分かりました、兄様」

「最初からそう言ってくれたら言いのに、兄ちゃん」

 ニコリと男に二人は微笑んだ。その表情は頑張るぞ、とばかりにやる気に満ち溢れている。そして、周囲に目を配るその瞳には殺気が宿っていた。


「警備部隊長、ソラ」

「同じく警備部隊長、ウミ」

「「兄様(兄ちゃん)の為に、推して参る!!」」


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