夏
「ねぇ、キミどうしたの?」
日が照る中自転車に向かう少女へと話し掛けた。
背中から見た感じ可愛いイメージを持ったので話し掛けてみる。
「あ、えっとですね。」
振り向いた彼女を見るとどうやら正解だったようで密かにテンションが上がる。
「自転車のチェーンが外れたみたいなんですけども、直し方が分からなくてですね……」
あははと恥ずかしそうに笑う。
ふと手を見ると白磁の肌の指が真っ黒になっていた。
「直せるか分かんないですけど、見せて下さい」
そういって自転車に近付くと、治りますかねぇ、と心細そうに言ってくる。
自転車をみて大丈夫、そう伝えておく。
……まではよかったんだが……どうしてこうなった。
「アハハっ、あっあとですねっーーー」
ちょっと幸せな気分でも味わってから本屋巡りでもしようと思っていたら
「でも、ホントにこんなことがあったらなーって憧れた時期とかもありましたしねー。いや、ありますよね、普通。」
若かったなぁ的な感じで勝手に納得された。
単純な話、自転車を直してる間に手持ちぶさたにしてる彼女にこのあとどこか行くんですか、って聞いただけ。
そしたら、本屋に行こうかなとは思うんですよね、。ここ一応地元何ですけども、普段は電車で別のとこにいるので、何処に何があるか分からないまま走ってたらこんなことに、といったことを言われ、
じゃあ、このあと本屋に行くつもりなので一緒に行きませんか
と言ってしまったのだ。
やり直せるというなら、あの時にそんなことを言わずに関わるのをやめておけばよかったと思う。
まぁ、幾度やり直してもこれだけ可愛い子だったら声を掛けていたかもしれない。かもっていうのは後は勇気だけだってことさ。
「でも、ホントによかったー。このまま迷子になって一日終わるんじゃないかなって思ってたんだ。」
「そんな大袈裟な。」
「大袈裟じゃないよ。一度知らない駅で自転車レンタルして迷ってみると分かるんじゃないかな。」
思わずイメージしてみて、納得する。
「確かに怖いかも知れないな。」
でしょう、と彼女は笑う。
個人的に色々あって女性には近付きがたいイメージを持ってる自分である。
けど、この実にいい笑顔のこの人とは気楽に笑えるなぁと思う。
「んでさ、君はここによくくるの?」
「ここってこの喫茶?」
「そう、この喫茶店。君みたいな若い人がこういうお店知ってるって珍しいかなーって思って、さ」
「いや、実は初めてなんだ。一度行ってみたいなーって思ってたんだけどね、機会がなくてさ。」
せっかくの女の子と行くんだから子洒落た所にいっておきたいと思っていたころはむねのうちに秘めておく。
「ってことは、いいところ見せたいって思ったとか、かね。」
と、実にいい笑顔でニヤニヤされる。
どきっとしたが、続いてまぁいいけどねって言われてほっとする。
んじゃまぁ、
次はどんなところに連れていってくれるのかな?
と言われて悩んでおく。やっぱり断ることは出来なさそうです。
お店から出る。
ふと見ると警察が通っていった。
今日は警察をよく見るなーっと思っていると横から声が来た。
「どうせなら、大通りに面しているところはなしっていう縛りもつけよう。」
うん、と頷きながらそんなことをいってのける。
よく行くビリヤード場がこれでアウトっと。
「じゃあ、何も言わずに着いてきてよ。」
そういって自転車に乗る。自信ありげだね、といって自転車に跨がってくれる。
さて、どこに行こうかな。というか候補がないんだよなぁ。と自転車に乗りながら思う。
「今日も暑いねー。」
そういって着いてくる彼女の為にも何処かを考えないと、走りながら考えるしかないよなぁと思う。
「ぅっわああああ!ナニコレ凄いっ!」
悩んだ結果来たのがココ中学校。
中学校時代、屋上に行く道を見つけていたこの場所へ連れてきてみた。
その道すがら、彼女の腕を引っ張りあげる時にどきっとしたのは内緒。女性の手って凄い華奢なんだって、当たり前だけど驚いた。
「いやー、どこ行くか迷った結果通りかかった中学校にいくとはびっくりしたよ。」
「いっいや、最初から此処に来るつもりダッタンデスヨ。」
「嘘つき。」
惚れ惚れするぐらいいい笑顔で言われてびっくりする。いやまぁ惚れそうなんだけどね。
「まぁこんないいところ連れてきてくれたから良いんだけどねぇ。」
今の時間は17時、この時間の此処は階段前がちょうど日陰になっていて涼しいのだ。
あーっもうっ。
横から声が聞こえる。
「最後にこんないいところ来れるなんてサイコーだね。」
にへらって笑っていう。
ここのいいところというのは涼しいだけじゃなくて、景色も実にいいのだ。
ちょうどここから見える景色には高い建物がない。
さらに肩車でもしようものならギリギリ海まで見えるのだ。
もともと、高速道路が出来るという話があったため、3階以上の建物を作ったらダメというのがあって、それの影響で実にいい景色が見れるのだ。
といったことを伝えたら、
え?ホント?じゃあやって……
といったあとふと自身のスカートを抑え、
セクハラ君だね、君は。
そう半目で言われてしまった。
「それにしても、いいところだねぇ」
「でしょう」
予想以上にゆっくりな時間が流れる。
「そうだねー。また来るときは脚立用意してね?あと、ズボンの時に言ってね。」
りょーかい、そう声を返しながら、自転車に乗るときにスカート状のものを穿いてる方がおかしい気はするんだけどなぁ、とは思っても言わない。
あくまでも思うだけなのだ。
「それにしても、君ってお人好しだよねー。」
そういって笑う彼女。
日が落ち、駅まで連れていってという彼女を連れてきたらそう言われた。
「そう、かな。」
「そうだよ。」
だって、自転車治してくれた時から一日潰して付き合ってくれるなんてね、と笑いながらいう。
白磁のように白い肌、可愛らしい笑顔を作る彼女。
ふと、気付く彼女の名前を知らないことを。
「そういえば名前聞いてなかったや、良ければ教えてくれない?」
そう聞いた時、このお話は終わりを告げた。
やっぱり、僕は、思っていても口に出せなかった。