ねいろとけしごむ
「絶望の色って白いんだって」
「白?黒じゃないのか?」
突然な話題の転換に、机にうなだれながら黒板の方に向かっていた僕の視線は、横に立つ少し不思議な女友達(ここでは「音色」と呼ぶ事にしよう)に向いた。
「うん。絶望と言えば黒って感じがするけど、絶望した人は周りの人が輝いて見えるから、白色なんだって。」
「へえ。なるほどな」
はたして輝いている色が白なのかどうかは分からないが、確かにその通りかもしれない、と同時に、絶望した人間は周りが見えないから結局は黒なのではないか、とも思った。
音色は僕とは違う雰囲気ではあるが深い話をする。
いつも面白い話題をふってくれるのだが、ここで反論すると討論が始まってしまい——もちろんそれは有意義で楽しいものではあるのだが——授業と授業の合間では何分時間がない。
「反論は授業後に受け付けるね」
そんな僕の気持ちを察したのか、それとも彼女も反論を望んでいるのか、そう言い残して自分の席に戻る。
□□□
私は消しゴム。
そこら辺に落ちていても不思議ではない、どこにでもある消しゴムだ。
私は日々人間にこき使われ、身を削り、体を黒く染められている。
しかし、それに対して悔しい思いをした事は無い。
私がいるおかげで、人間共の失敗を無かった事にしてやれるのだ。
そんな人間にこき使われながらも人間を見下している私にだって気に入らない奴らはいる。
練り消しと呼ばれるあいつら。
消しゴムの仲間を名乗っていながら消しゴムとしての役割は全く出来ないクセして小学生や芸術家に人気があるという気に食わない奴らだ。
気に入らない奴らはまだいる。
シャーペンの後ろについているあいつら。
私達に比べれば大きさも消せる量もこちらが勝っていると言うのに、あいつを使う事を人間は嫌い、大切にしている。
何より気に食わないのが、あの高さだ。
シャーペンを使っている時にあいつらはお高い所からこちらを見下しているのは気に食わないと言ったらありゃしない。
それでも私は今日も身を削る。
それが私の生きる意味であり使命なのだから。
□□□
とか考えている間に授業は終わる。
反論する気持ちも何故か収まってしまい、隣に座っている人物に申し訳ない眼差しを送る。
「その目は授業中消しゴムの気持ちとかくだらない事考えていたら反論する気持ちも収まってしまい楽しみだったはずの反論が出来なくて申し訳ないっていう眼差しだね」
「流石音色ちゃん話が早いどころか心が早い」
「特に上手い事は言えてないけど南音くんの言いたい事は大体分かるよ」
「では僕が今言いたい事を当ててみよ」
「おっぱい」
「思ってねえよ!」
「言うと思った」
「それぐらい誰でも分かるわ!」
「でも、本当に他人の輝きか白かは分からないし、絶望したら周りなんて見えるのかな?」
音色は少し誇らしげな顔で僕の顔を覗き込む。
本当に不思議な奴だ。
ちなみに、僕は彼女に討論で勝利した事は無い。