やすしくん
なんか思いついた気持ち悪い話です。
高校生のやすしくんがいた。
やすしくんの顔は決してイケメンとは言えず、どちらかと言えばブサメンと呼ばれる分類に入るだろう。そのことを彼は熟知している。毎朝毎晩、彼は鏡を見ては何とかして、この顔が格好良く見える方法はないかと考えている。彼は、自分には彼女が出来ないであろうとこの若さにしてすでに悟っていた。好んで自分に話しかけてくれる女性ともいない。学校に居ても話すのは男ばかりである。
ある日のことであった。彼のクラスに転校生がやってきた。一般的にみても可愛い部類に入る、あんりという少女であった。やすしくんはかわいいと思ったがこの学校生活でこれ以上彼女と近づくことはないなと考えていた。
「俺、あの子に一目ぼれしちゃったよ」
やすしくんの親友と言ってもおかしくないみつるくんである。みつるくんは特徴がなく、その辺にいるような極々普通の男の子である。あまりにも普通すぎて、仲間内ではモブキャラと呼ばれている。ちなみにやすしくんは一時クラスで流行った漫画から抜き出され、クロコダインと呼ばれている。いつもすぐにやられるからきているようだ。
あんりが転校してきて最初の2日間は彼女の周りは珍しい転校生と話したい野次馬で溢れかえっていた。その野次馬も収まった頃、やすしくんの人生に転機が訪れた。
「やすしくんでいいのかな。・・・それともクロコダインって呼んだ方がいい?」
なんと、あんりが話しかけてきたのだ。
このときやすしくんの脳内で生息する100人のやすしくんが一斉に緊急会議を開いた。女の子が話しかけてきた。このスクランブルにどのような返事を返せば良いのかを議題に1秒間話し合った。そして出た答えが
「あああっあの・・・そのうんぐ・・・どっちでも好きな方でいい」
であった。緊張のためかうまく口が回らないようだ。
「くすっ、それじゃあやすしくんって呼ぶね」
「うっうん」
その後2人はたわいない会話をした。この一時はやすしくんの生きてきた17年間で起こった朝昼晩すべてカレーだった事件を抜き堂々のベスト1になった。
「おいおいクロコダインなんだよおまえすげえじゃん。あんりちゃんと話したじゃん」
モブキャラもといみつるくんがあんりと話し終わったやすしくんの元に興奮しながら近づいてきた。彼もやすしくん同様、女の子と話す機会は少なく、やすしくんの緊張と興奮が分かるのだ。
「いいなぁ、俺もあんりちゃんと話してみたいなぁ」
妄言を吐いているみつるくんをよそにやすしくんは先ほどの会話を脳内で何度も反芻していた。
家に帰り、やすしくんはベッドに潜りこんだ。
「だめだ。完全に好きになっちゃった」
この気持ちに驚きを隠せないでいた。
それから1ヶ月、あんりは結構な割合でやすしくんに話しかけてきていた。あんりと話さない日がないくらいだ。また、やすしくんと大体一緒にいることが多いので、みつるくんと話すことも多くなってきていた。そのせいで益々2人ともあんりちゃんにホの字になっていったのだ。
ある日のことだった。
「あのやすしくん放課後時間ある?」
あんりからお誘いがきたのだ。放課後校舎裏に来てほしいとのことだった。
「いいなぁ。でもお前が付き合うんなら俺は嫌じゃないよ。よかったなクロコダイン」
本当にいい友達をもったとやすしくんは泣きそうになった。みつるくんに幸あれと願いやすしくんは放課後の校舎裏に向かった。
「あの・・・」
もちろん、やすしくんは告白されると思ってこの現場に来ている。ここに来るまでどのような返事をしようか一生懸命考えてきている。
「・・・やすしくん、これをみつるくんに渡してほしいの」
あんりが出してきたのは1枚の手紙だった。
「へっ・・・?」
「あの・・・その私、みつるくんが好きなんだ。それで・・・直接渡すのも直接言うのも恥ずかしいの、お願いやすしくんこの手紙をみつるくんに渡して、お願い」
あんりが恋する乙女の瞳でこちらに頭を下げてきた。やすしくんは泣きそうになったがなんとかこらえた。
「・・・なんでみつるくんが好きなの?」
「わかんない、一目惚れだもん」
普通ならここでみつるくんに彼女がいるなどの嘘をついて2人を付き合わせないようにするところだが、みつるくんである。先ほど泣かせるセリフをくれたみつるくんである。やすしくんはあきらめて手紙を素直に受け取った。
やすしくんの頭の線はどこかで切れていたようだ。振られたにもかかわらず何故か彼は興奮していた。なんせあんなに好きだったあんりが思いをこめて書いた手紙を手に入れたのだ。きっと彼女の匂いや汗がしみ込んでいるだろう。それを考えるとやすしくんは興奮を抑えることができなかった。家に帰りさっそくやすしくんは行動を起こす。
まず文房具屋に行き、手紙と同じ紙と封筒を探し購入。そして、家に帰り躊躇なく手紙を開けた。そして、何度も手紙を読むそして、匂う、それだけでやすしくんの性的興奮は最大にまで高まっていた。しかし、まだ早い。自分を抑制し、買ってきた紙に手紙を模写し始めた。慎重に丁寧に、筆跡もできる限り似せた。1時間後2つのそっくりな手紙が完成した。偽物の方をかばんに入れ、やすしくんは家を出た。
向かう先はみつるくんの家である事前に電話をし、アポイントメントをとる。やすしくんの告白の件が気になっていたみつるくんであるすぐに会うことを了承した。
「はいこれ」
みつるくんにあんりの手紙の摸写を渡した。
「なにこれ?」
「モブキャラに渡せって」
「うおー!付き合ってくれだって、やったやったよクロコダイン」
声がかれるくらい声を上げみつるくんは喜んだ。
「よかったなモブキャラ」
「うんうんありがとうありがとう」
大事そうにみつるくんは手紙を抱きしめていた。やすしくんが書いたとも知らずに。
後日あんりとみつるくんはつき合った。いつも仲が良かった。2人は付き合ったのだが普段と変わらず、やすしくんとも話してくれた。それがやすしくんは嬉しかった。毎日あんりの顔が間近で見られるのだ。家に帰ってから手紙を欲求解消に使うのが楽しみで仕方がないのだ。何とか匂いが消えないように今手紙はジップロックの中に大切に保管されている。