表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大逆転、関ヶ原! ~小早川秀秋、難波の夢を露と落とさず~  作者: 浦賀やまみち
第四章 風雲、大阪城

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

40/54

第32話 碁盤にハート




「よしっ……。」



 冬は陽が沈むのが早い。

 さっきまであんなに青かった空が、気づけばもう赤みを帯び始めている。


 少し早いが、屋敷に明かりを灯そうと、俺は腰を上げた。


 戦国時代にも、時を知る方法はあった。

 日の出と日没を基準に六つの刻に分けられ、寺では日時計や水時計を頼りに、刻の時になると鐘をゴーンゴーンと鳴らす役目を果たしていた。


 つまり、戦国時代の時間の感覚は、大雑把なものだった。


 現代では、誰もが時計を手軽に持ち、秒単位まで時間を知ることができる。

 だからこそ、時折その大雑把さが、俺には少し苦痛に思えることもある。


 特に、約束の時間を待つときには、その大雑把さをひしひしと感じる。



「ねえっ!」

「おわっ!? いつから、そこにっ!?」



 不意に目の前で呼びかけられ、心臓が跳ねるように、俺は飛び退いた。


 俺が座っていた縁側の廊下。

 打っていた碁盤を挟んだ向こう側に、古満が正座し、こちらを見上げていた。



「ずっと前から、ここにいたわよ。

 何度も声をかけてるのに、全然気づかないんだから」

「えっ……。そうだったの?」



 古満は両手を腰に当て、唇を尖らせた。

 今の今まで、その存在に全く気づいていなかった。


 ある考えに没頭するあまり、妙なことを口走ってはいなかっただろうか。

 背筋に冷や汗が流れ、俺は思わず右手で口を塞いだ。



「ええ、そうなの。

 それより、さっきから何をそわそわしているの?」

「えっ!?」

「見てみなさいよ。これ……。

 珍しく、碁なんかやってると思ったら、全然駄目じゃない。何なの、これ?」

「あっ……。」



 だが、古満の指先が示す碁盤の上を見た瞬間、心臓が止まるかと思った。

 そこに広がる光景に、俺は愕然と目を見開き、言葉も出なかった。


 碁盤の上には、白石で大きなハートが描かれていた。


 古満の目には、ただの意味不明な置き石にしか見えないだろう。

 戦国時代にハートの概念が無くて、本当に良かった。


 一応、碁盤の端の方には、詰碁を解いていた跡がうっすらと残っている。

 落ち着かない気分を紛らわそうと、慣れない碁を始めてみたが、結局、気づけばその落ち着かない気分の方に引きずられていたらしい。



「ただいま、帰りましたー」



 どう言い訳しようかと考えていたところに、雪の声が聞こえた。



「あっ!? 見てください。立派なブリが手に入ったんですよ?」

「わっ!? すごいじゃない! 今夜はお刺身ね!」

「大阪の街って、信じられないですよね。毎日、新鮮な海の魚が手に入るんですもの」

「私、ここと広島しか知らないから普通なんだけど……。岐阜は違うの?」

「川魚が主でした。海の魚は、その……。我が家には高くて……。」



 雪は、俺と古満に気づくと、中庭をとことこと小走りで駆けてきた。

 その後ろから、雪の幼馴染である侍女と、俺が侍大将に大抜擢した城井朝末もやって来た。


 城井朝末が両手に抱えた木箱の中には、見事なブリが笹の上に美しく横たわっていた。


 こいつは脂が乗っていそうで美味そうだ。

 間違いなく、酒と合う。今夜だけは、禁酒を解禁したくなる気分だ。



「あーー……。ごめん、もう少ししたら出かけるんだ」



 しかし、俺には大事な先約があった。

 とても残念だが、食べることはできそうにない。



「こんな時間に?」

「お夕飯は?」



 古満と雪は顔を見合わせ、互いに目を合わせたあと、不思議そうな目をこちらに向けた。


 当然の疑問だ。

 もう日が暮れようとしているのに、いきなり出かけるなんて、不自然でしかない。


 だから、俺は不自然でない理由を説明した。



「あーー……。二人とも、聞いてよ。

 三成のやつがさ、急に宴を開くっていうんだ。俺も昼過ぎに聞かされて、困っちゃったんだよね」


「あーー……。二人は知ってるかな?

 上杉殿の家臣、直江兼続。そいつが会津に帰るから、送別会をどうしても開きたいんだってさ」


「あーー……。だから、今夜は先に寝てていいよ?

 多分、三成のあの調子だと、朝まで盛り上がろうって腹積もりだろうからさ。困っちゃうよね」



 ところが、古満と雪の反応がいまいちだった。

 二人のまっすぐな目に見つめられて、つい俺は饒舌になってしまった。



「あなた、変よ?」

「秀秋様、変です」

「へ、変じゃないよ! ふ、普通だよ……。

 さ、さぁ~て、出かける用意をしないとな! こ、困るよな! み、三成のやつ!」



 その結果、古満と雪は一歩前に出た。

 俺は二人の視線から逃れるように背を向け、自室へと足早に向かった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ