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愛、即、死。――恋した瞬間、君は死ぬ。  作者: 墻寧
第一部「即死能力発覚編」
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第7話 雑魚寝は、ときめきの密着地獄

 「チーム雑草」。

 それが俺たちのパーティ名であり、俺の社会的地位を表す言葉だ。

 しかし、現実は残酷である。


「ここが……師匠のアジトですか」


 ボロ宿『ドブネズミ亭』の、さらに最奥にある一番安い部屋。

 広さは四畳半。

 壁には謎のシミ。天井には蜘蛛の巣。床は歩くたびに悲鳴を上げる。

 そこに、王都のトップ美女三人がひしめき合っていた。


 人口密度が限界だ。

 酸素が薄い。代わりに、フローラルと柑橘系と獣の匂いが充満している。

 これは「パラダイス」ではない。「毒ガスフェロモン・チェンバー」だ。


「おい、話が違うぞ!」


 俺は部屋の隅、壁にへばりつきながら叫んだ。


「なんで全員ついてくるんだ! 解散だろ!? お前らは高級ホテル『グランド・ロイヤル』に泊まれよ! 俺の全財産(ルミナから巻き上げた金)をやるから!」


 俺は金貨袋を投げつけた。

 だが、ルミナはそれを空中でキャッチし、静かに首を横に振った。


「師匠。私たちを試すのはやめてください」

「試してない! 本気で追い出そうとしてるんだ!」


「貴方は言いました。『チーム雑草』と。雑草は温室ホテルでは育ちません。この劣悪な環境でこそ、真の絆が育まれる……そうおっしゃりたいのですね?」


「言ってない! 一言も!」


 ルミナが感動した目で俺を見る。

 ダメだ、この聖女、脳内に「超解釈フィルター」が実装されている。


「それに」

 セラフィナが眼鏡を光らせて続く。


「この部屋の湿度、カビの分布、ダニの生息数。すべてが人体実験には最適な過酷環境よ。貴方の生存能力を測定するには、ここ以外ありえないわ」

「お前は俺を実験動物か何かだと思ってるのか!」


「んー、あたしはどっちでもいいけどー」

 ミルミルがベッド(煎餅布団)の上でゴロゴロと転がる。


「狭いほうが、くっつけるし! ここ、ユウリの匂いでいっぱいだもん。落ち着くー!」


 彼女はすでに俺の枕に顔を埋め、スーハースーハーと深呼吸していた。やめろ、加齢臭を嗅ぐな。


 結論。

 脱出不可能。

 今夜、この四畳半で、男女四人の「雑魚寝」が確定した。


          ◇


 夜が更けた。

 消灯の時間だ。

 だが、俺の心臓はエマージェンシー・モードで高速回転している。


 配置はこうだ。

 中央に敷かれた唯一の布団。

 そこに「川の字」ならぬ、「団子」状態で三人の女が寝ている。

 そして俺は――


「……なぜだ」


 俺は、部屋の隅にある柱に、ロープで自分の体を縛り付けていた。

 直立不動。

 ミノムシスタイルだ。


「師匠? なぜ布団に入らないのですか?」

 ルミナが不思議そうに聞いてくる。


「修行だ」

 俺は歯を食いしばって答えた。


「これは『立禅りつぜん』という高等な修行だ。俺は立ったまま眠ることで、三半規管を鍛えている。決して、お前らと肌が触れ合って即死判定が出るのを防ぐためではない」


「立ったまま……! やはり常人ではない……」

「感心してないで寝ろ!」


 とりあえず、物理的な距離は確保した。

 これで安眠できるはず――


 ガサッ。


 暗闇の中で、誰かが動いた気配がした。


「……寒い」

 ミルミルの声だ。


「ユウリ、寒いよぉ……湯たんぽ欲しい……」


 ぺた、ぺた、と足音が近づいてくる。

 獣人の夜目は効く。彼女は正確に俺の位置を把握し、柱に縛られた俺に抱きついた。


「あったかーい……」


 ぎゃああああ!

 密着! 全身の密着!

 薄着の獣人娘の体温が、服越しにダイレクトに伝わってくる!


【警告。ミルミル・テイルスナッチ、接触による快楽値上昇】

【「安心感」が「依存」へ変化中】

【即死カウントダウン、開始。5……4……】


「離れろ! 俺は熱々の鉄柱だぞ! 火傷するぞ!」


「んぅ……? でも、ドキドキしてるよ? ユウリもあたしとくっついて嬉しい?」


 違う! 死のカウントダウンだ!

 ミルミルが顔を上げて、潤んだ瞳で俺を見上げる。

 月明かりに照らされたその表情は、無邪気ゆえに破壊力抜群だった。


 ――やばい。

 これは「落ちる」顔だ。


 俺は必死にロープの中で身をよじり、とっさに叫んだ。


「ノミだ!!」


「え?」


「俺の体には、新種の巨大吸血ノミが住んでいる! 一噛みで血を1リットル吸う化け物だ! 今、お前の尻尾の方に移動したぞ!」


「にゃっ!?」


 ミルミルが飛び退いた。

 彼女は自分の尻尾を追いかけ回してグルグル回り始めた。


「とって! とってー!」

「自分で取れ! あとそのまま運動して体温上げとけ!」


 ふぅ……危なかった。

 だが、安心したのも束の間。


「……騒がしいわね」


 セラフィナが起き上がった。

 彼女は眼鏡の位置を直し、冷静な声で言った。


「ユウリ。貴方の心拍変動データ、異常値を示しているわ。睡眠時無呼吸症候群の疑いがある。……人工呼吸の準備が必要かしら?」


「必要ない! 息はしてる! 過呼吸なだけだ!」


「いいえ、リスクは排除すべきよ」


 セラフィナが近づいてくる。

 その手には、なぜか怪しげな「ピンク色のポーション」が握られていた。


「私の特製『安眠薬』よ。これを口移しで摂取すれば、朝まで泥のように眠れるわ」

「口移しの必要性を論理的に説明しろ!!」

「粘膜吸収の方が効率が良いからよ」


 嘘つけ! 絶対楽しんでるだろ!

 彼女の目が、獲物を甚振る時のサディスティックな光を帯びている。

 あるいは、それが彼女なりの「愛情表現」なのかもしれないが、どちらにせよ致死性だ。


「やめろ! 来週まで寝ないって決めてるんだ!」


 俺は柱に縛られたまま、芋虫のようにジャンプして逃げようとした。

 だが、ロープが解けない。


 絶体絶命。

 ピンク色のポーションを持った魔女が迫る。

 尻尾を追いかける獣人が暴れ回る。

 カオスだ。


「――静粛に」


 その時、凛とした声が響いた。

 ルミナだ。

 彼女は立ち上がり、聖剣を鞘のまま構えた。


「師匠の『立禅』を妨げる者は、私が許しません。セラフィナ殿、その怪しい薬をしまいなさい。ミルミル、座りなさい」


 聖女の威圧感プレッシャー

 場が静まり返る。

 ああ、助かった……さすが聖騎士様だ。


「師匠。安心して修行に励んでください」


 ルミナは俺の目の前に正座した。

 そして、両手を組み、祈りを捧げ始めた。


「私が一晩中、貴方を見守り続けます。瞬き一つせず、貴方の寝顔(苦悶の表情)を目に焼き付けます……」


 怖いよ!

 目の前で聖女に見つめられながら寝れるわけないだろ!

 しかもなんか背景に後光が見える!


【警告。ルミナの視線による「信仰心」の高まりを検知】

【崇拝が行き過ぎると、「神」として昇華され、人間としてのユウリの存在が消滅(死)する可能性があります】


 愛されて死ぬか、崇められて死ぬか。

 どっちも嫌だ。


「……寝る」


 俺は諦めて目を閉じた。

 気絶するしかなかった。

 柱に縛られたまま、意識を強制シャットダウンする。


 翌朝。

 全身の関節が悲鳴を上げている俺の周りで、三人の美女がスッキリした顔で「おはようございます、師匠(サンプル、ご主人様)」と挨拶してきた。


 これが、俺たちの冒険の始まり。

 魔物を倒す前に、俺の精神メンタルが魔王に倒されそうだ。


(第7話 完)

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