表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
愛、即、死。――恋した瞬間、君は死ぬ。  作者: 墻寧
第一部「即死能力発覚編」
2/16

第2話 ギルド登録は、死亡フラグの味がする

 王都『グランド・ロイヤル』。

 この国で最も栄える冒険者の聖地であり、人口密度もトップクラス。

 ここなら俺なんて、砂浜に落ちた一粒の砂利に過ぎない。


「よし……完璧な変装だ」


 俺はギルドの扉の前で、ショーウィンドウに映る自分を確認した。

 目深に被ったフード。

 道端で拾った泥を塗りたくった頬。

 そして、猫背。


 どこからどう見ても「怪しい不審者」か「明日をも知れぬ最底辺冒険者」。

 これなら誰も寄ってこない。

 ましてや、恋なんてハイレベルな感情が芽生えるはずもない。


「頼むぞ、俺の『モブ人生』……!」


 意を決して、重厚な扉を押し開けた。


 ガヤガヤガヤ……。

 喧騒と酒の匂い、汗臭さが入り混じるギルド内。

 荒くれ者たちがジョッキを片手に騒いでいる。

 俺が入っても、誰も見向きもしない。


(勝った……! この無関心こそが俺の求めていた安息!)


 俺は心の中でガッツポーズを決め、受付カウンターへと忍び寄った。

 受付嬢は事務的な顔をした眼鏡の女性。

 好感度判定、今のところ「無」。安全圏だ。


「新規登録を頼みたいんだが……」

「はい。ではこちらの水晶に手を」


 俺は恐る恐る手をかざした。

 この世界では、ステータスの一部がギルドカードに刻まれる。

 もちろん、俺のユニークスキル『愛、即、死。』なんてバレたら隔離病棟行きだ。

 事前に泥で手の平を汚し、読み取りエラーを誘発させてごまかす作戦――


『ピコン!』

『測定完了。稀代の英雄候補(Sランク判定)を確認』


 水晶が七色に発光し、ギルド中にファンファーレが鳴り響いた。


「は?」


 一瞬で静まり返るギルド。

 数百人の視線が、薄汚れた俺に突き刺さる。


「おい見ろ、水晶が『虹色』だぞ……?」

「勇者クラスの魔力反応だ!」

「あんなボロボロの格好なのに……まさか、能ある鷹は爪を隠すってやつか!?」


 ざわざわと広がる称賛の声。

 違う! ただのエラーだ! あるいはこの呪い(スキル)のせいで無駄に魔力が高まっているだけだ!


「す、すごい……貴方はいったい……?」


 受付嬢が眼鏡をずり上げ、頬を紅潮させて身を乗り出してきた。

 おい待て。その瞳の潤み方はまずい。


『警告。受付嬢Aの好感度上昇中。「ミステリアスな実力者」に弱いタイプです』

『致死率:30%』


「やめろ見るな!」


 俺はカウンターをバンッと叩いた。


「機械の故障だ! 俺はただの……そう、ゴミ拾いだ! 趣味は路地裏の生ゴミあさり! 特技は鼻提灯を膨らませること! どうだ、幻滅したか!?」


 受付嬢がポカンとする。

 よし、引いたな。このまま逃げ――


「見つけました!!」


 その時、ギルドの扉が蹴破られた。

 逆光を背負って現れたのは、白銀の鎧に身を包んだ赤髪の聖女。

 ルミナ・フレアハートである。


(なんで俺の居場所がわかったんだよ!?)

(答え:無駄に目立つファンファーレのせいです)


 ルミナは俺を見つけるなり、カツカツと早足で寄ってきた。

 ギルド内の冒険者たちがどよめく。


「おい、あれ『炎槍の聖女』様じゃないか?」

「王都最強の聖騎士が、なんであんな小汚い男に?」


 ルミナは俺の目の前まで来ると、その綺麗な顔を至近距離まで近づけてきた。

 近い。香水のいい匂いがする。死の匂いもする。


「やっと追いつきました。どうして名乗らずに行ってしまわれたのですか」

「人違いだ。俺はゴミ拾いの田中だ」

「嘘です。その背中の寂しげなライン……私が忘れるはずありません」


 なんで背中で語ってんだよ俺は!


「貴方はあの時、私の命だけでなく、誇りまで救ってくれました。なのに、どうしてそんなに自分を卑下するのですか!?」


 ルミナが俺の手(泥まみれ)を、両手でぎゅっと包み込んだ。

 その瞬間。


『ドクンッ!!』


 心臓が跳ねる音が、俺にだけ聞こえた。

 視界が赤く染まる。


『緊急警報。ルミナ・フレアハート、感情の昂ぶりMAX』

『「この手を離したくない」という独占欲を検知』

『即死カウントダウン開始。3……2……』


 やばい。今度はマジで死ぬ。

 彼女の顔が、熱っぽく蕩け始めている。

 あれは恋する乙女の顔だ。つまり死神の顔だ。


 振り払え!

 嫌われろ!

 最低最悪の行動を取れ!!


「――金だ」


 俺はあえて、ドスの利いた声を出した。


「は……?」


「金だよ金! 俺がお前を助けたのは、お前の装備が高そうだったからだ! 恩を売りつけて、身ぐるみ剥いでやろうと思ったんだよ! けっ、見つかっちまったなら仕方ねえ、有り金全部置いていきな!」


 どうだ。

 聖職者である彼女にとって、最も軽蔑すべき「強欲」。

 しかも命の恩人を装った詐欺師発言。

 これで幻滅間違いなし――


 ジャラララララッ!!


 ルミナは無言で腰の袋をひっくり返した。

 大量の金貨がカウンターにばら撒かれる。


「足りますか?」


「……はい?」


 ルミナは真剣な眼差しで、さらに指輪、ネックレス、予備の短剣まで外し始めた。


「貴方は……私のために、そこまで……」

「は? いや、だからカツアゲなんだけど」


「違います! 貴方は気づいているのでしょう? 私が『聖女』という立場に縛られ、清貧を強いられ、本当の自分を見失っていたことに!」


 え、何その超解釈。


「『金を出せ』という言葉は、『地位や名誉、そんな飾りを捨てて、一人の人間として向き合え』というメッセージ……!」

「違う! 物理的に金が欲しいだけだ!」

「わかります。わざと悪役を演じて、私に『執着』を捨てさせようとしているのですね……ああ、なんて深く、厳しい優しさ……!」


『ピピピ。好感度、さらに上昇』

『「師匠」への崇拝に近い感情へ変化。即死判定、ギリギリ回避』


 回避した!?

 いや、回避したのはいいけど、方向性がおかしい!


 ルミナは涙ぐみながら、金貨の山を俺に押し付けた。


「受け取ってください! これは私が、私らしく生きるための手切れ金(しがらみとの決別)です!」


 周囲の冒険者たちが、感動の拍手を送り始めた。

 「すげえ……聖女様にそこまで言わせるなんて」「あいつ、ただの不審者じゃなかったのか」「深いな……」


 空気読めお前ら!

 俺はただのカツアゲ野郎だぞ!?


師匠マスター。これからは貴方の背中を追わせていただきます」

「師匠って呼ぶな! ついてくるな!」


 俺は金貨の山を放置して(本当は欲しいけど命が惜しい)、出口へと走った。

 だが、出口付近の暗がりで、誰かが俺を見ていた。


 銀色の長い髪。

 眼鏡の奥で光る、冷徹な青い瞳。

 氷の杖を持った女魔法使いが、手元のメモ帳に何かを書き殴っている。


「……興味深い」


 彼女はボソリと呟いた。


「感情による心拍数の異常上昇。対して、対象者(彼)の『拒絶』による生存反応。……あの男、ただの人間ではないわね」


 眼鏡がキラリと光る。

 

 ――最悪だ。

 聖女チョロいを撒いたと思ったら、今度は魔女ヤバいにロックオンされた。


 俺の「愛、即、死。」ライフは、まだ始まったばかりだ。

 誰か……誰か俺を、普通に軽蔑してくれ……!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ